ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~ 作:TRcrant
第14話になります。
今回、一部の登場人物の名前の部分の表記が明らかに間違っていますが、これは仕様ですので予めご了承のほうをお願いします。
11月1日
早いもので、この世界……流星町に来て2週間ぐらいは経った。
朝は旦那様たちの朝食を作り、学園のプリエでは料理を作ったりする。
昼休みの地獄はなんとか慣れてきたので最初の頃よりは余裕にこなせるようになっていた。
ようは慣れというものだろう。
「うぅ、なんで私がこんなことを……あ、いらっしゃいませ。こちらのお席へどうぞ」
フロアでは神楽も何だかんだ言いつつ、ウエイトレスをそつなくこなしていた。
そして今日も、いつも通りの一日が幕を開ける。
「あぁ、大森君」
「はい、何でしょうか?」
朝の連絡が終わり、各自準備に取り掛かっている中、僕は紅林主任に呼び止められた。
「今日の10時から13時まではオフシフトで構わないよ」
「え? いいんですか?」
突然の休憩の連絡に、僕は嬉しさ半分不安が半分という微妙な心境で主任に尋ねた。
「構わないよ。いつも頑張っているご褒美だよ」
「ありがとうございます」
紅林主任の言葉に、僕は頭を下げてお礼を言うと『さあ、早く支度をなさい』と促しながら去って行った。
その言葉に従うように、僕も準備に取り掛かるのであった。
「それじゃ、休憩入ります」
「ゆっくりしてってね」
「ごゆっくりどうぞ」
主任に言われたオフシフトでもある10時、僕の声掛けに厨房にいたおばさんたちが口々に返してくれた。
「むぅ、浩ちゃんだけずるい」
「西田さん! てきぱきと動きなさい!」
神楽の恨み言と紅林主任の喝を入れる声を背中に受けながら、僕はプリエを後にするのであった。
「この辺りに来ると、静かになるんだな」
今いるのは旧校舎の二階の廊下。
僕は休憩を取るべく静かな場所を探し求めていたらそこにたどり着いた。
そこは僕の記憶が間違っていなければ、ちょうど生徒会室などがある校舎だ。
本当は図書館に行こうとしたのだが、あそこは逆に危険だ。
主に司書の人に怒られるという意味でだが。
まあ、言葉で注意されるのであればまだましな方かもしれないが。
そんなこんなで手あたり次第ドアを開けようとしているのだが、どうやら鍵がかかっているらしくなかなか開かない。
空いたとしてもトイレだったりもする。
「お、ここは鍵がかかってないな」
幾つめなのかはわからないが、ドアに手を掛けるとすんなり開いたため、小さな声で”お邪魔します”と言いながら僕は中に入った。
そして、静かにドアを閉めると中を見渡す。
その部屋は奥の窓のそばにホワイトボードが置かれ、その左側には色々なファイルが敷き詰められている棚に、反対側にはポットの置かれたテーブル、その手前にはノートパソコンが置かれたテーブルがありさらに手前側にはソファーが置いてあった。
(どっかで見たような構図の部屋だけど、まあいいか)
ごく最近に、同じ構図の部屋を見たような気がするが、今は眠気の方が勝っていたため、僕は深く考えずにソファーへ横になると、魔法で取り出した黒いマントを体に掛けて目を閉じた。
それから間もなくして僕の意識は、闇へと飲みこまれるのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
浩介が眠りについた場所は、生徒会室。
言わずもがな、生徒会の活動拠点の場所だ。
もしそのことを知っていれば、浩介はそこで仮眠をとるなどの事はしなかっただろう。
無断で部屋に侵入したことが知られれば面倒なことになるのは浩介でもわかり切っているからだ。
もっとも、知っていても浩介ならば平然と仮眠を取っていただろうが。
そして案の定、生徒会室を訪れる人物が現れた。
その人物は、金色の髪を黒いリボンでツインテールに結び、厳格そうでいてどこか乙女を思わせる雰囲気を纏う女子学生だった。
腕につけられている生徒会の腕章は自分自身への戒めなのか、それとも生徒会であることを大切に思っているのかは定かではないが、より一層引き締まった雰囲気を醸し出すのに一役買っていた。。
もっとも、右手に持っている野菜スティック入りの容器を除けばだが。
その女子学生の名は、聖沙・B・クリステレスだった。
「鍵開けっ放しじゃない。これだから咲良クンは……って、あら? この人は……」
鍵が開いていることに小言を言いながら生徒会室に入ってきた聖沙は、ソファーに横になっている浩介の方に近づく。
ちなみに、鍵をかけ忘れたのは生徒会の書記でもあるロロットだったりもする。
「って、ここは生徒会室なのに、よく寝れるわよね」
まるで自分の部屋だと言わんばかりに堂々と寝ている浩介に、聖沙は怒りを通り越して、呆れた表情でつぶやく。
「あの、起きてください。ここは生徒会室ですよ」
「すぅ……すぅ」
どうしてここで寝ているのかを尋ねようと、聖沙は寝ている浩介に呼びかける。
だが、聖沙の呼びかけに浩介は起きるそぶりを見せなかった。
「………」
起きない浩介に呆れるでもなく、怒るでもなく聖沙は心の中でため息を一つついた。
(きっと疲れてるのね。お姉さまの所で料理人をやってプリエの厨房で働いているんですものね)
彼女の尊敬するリアから、浩介の仕事の内容を聞かされていたミサは無理矢理起こすのはかわいそうだと思い、いつも自分が座る椅子に、浩介を起こさないように静かに腰かける。
そして過去の生徒会資料を引っ張り出すと、それに目を通しながら、野菜スティックを頬張る。
時々視線をソファーで規則正しい寝息を立てている浩介の方に向ける。
(本当に起きないわね)
そう心の中でつぶやく聖沙だが、次の瞬間浩介の様子が変化した。
「んぅ………」
どうやら眠りが浅くなっていたようで、紙の捲れる音が浩介の意識を覚醒させたようだ。
そして浩介は上半身を起こすのであった。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「んぅ………」
何かが捲れるような物音に誘われるように、僕は目を覚ました。
(……人はいなかったはずだけど)
無人ではたつことのない物音に、僕は心の中で首をかしげながら、上半身を起こすと時間を確認するべく時計を探していると
「起きたんですね」
「へ?」
突然かけられた声に、僕はその声のした方……ちょうど机のところへと顔を向けた。
そこには椅子に腰かけて野菜スティックのようなものを手にしている、金色の髪の女子学生だった。
「ここは生徒会室ですけど、何か用事でもあったんですか?」
「………生徒会室?」
女子学生の言葉に、僕の中にあった疑問がすべて解けた。
確かに、僕は一度ここを訪れていた。
それは、理事長に言われて差し入れを持って行ったときだ。
なんだか遠い昔のことに思えるのは、ここでの生活がいろいろと密度が高かったからだろう。
「あの」
「あぁ、悪い。ここに用はない。ただ仮眠を取ろうと思って来ただけだ」
いつまでも応えない僕を不審に思ったのか、おずおずと女子学生が声をかけてきたので、僕は隠すことなく素直に答えた。
そんな僕の応えに女子学生は目を瞬かせていたが
「でも、プリエにも仮眠室はありますよね?」
「勿論あるんだが………」
一旦そこで区切った僕は顎に手を当てながら彼女を観察する。
「な、なんですか?」
「僕には敬語は不要。こっちだってさっきからため口を使っているんだし、僕なんて敬語を使うほどでもないから、いつも話している風に話してもいいんだけど」
見られていることに、顔をゆがめながら訊ねてくる彼女に、僕はそう告げる。
敬語を使われると、なんとなく居心地が悪くなるからだ。
これは昔からの癖でなかなか治る気配がないのだが……それはどうでもいいことだろう。
「分かりました……じゃなくて、わかったわ」
とはいえ、女子学生は僕の頼みを素直に聞いてくれたようで、敬語をやめて普段親しい人に接しているであろう言葉遣いで相槌を打つ。
「それで、話を戻すんだけど、仮眠室にいても外が賑やかすぎて眠れない」
「な、なるほど……」
僕の告げた理由に、女子学生は困ったような表情で相槌を打つ。
「ここなら近くに理事長室があるから、相当な馬鹿ではない限り騒ぐような人は来ないかと思ったんだが、まさか生徒会室だったとは」
「あなたは、二回もここに来たことがあるはずよ」
女子学生に言われて、僕は記憶をたどってみた。
一回目は差し入れを持っていった時だと分かる。
だが後の一回がわからない。
「女の人と追いかけっこみたいなことをして、最終的には窓を破って行ったんだけど……まさか忘れてるわけじゃないわよね?」
女子学生の言葉で、ようやっと思い出した。
確かに、ここに入ったような気がする。
「ああ、確かにそうだった」
「……忘れてたのね」
「忘れてはいない。ただ思い出せなかっただけだ」
ジト目でこちらを見ながら口を開く女子学生に、僕は反論する。
「人はそれを忘れていたというのよ」
「確かに」
「ふふふ」
あまりにも正論な女子学生の言葉に頷いた僕に、クスクスと女子学生は笑みをうかべる。
「ところで、一つ聞いていいか?」
「何かしら?」
僕は一旦話を区切り、今まで気になっていたことを女子学生に聞くことにした。
「昼食は、野菜スティックだけか?」
「ええ、 そうよ」
僕の質問が予想外だったのか、一瞬呆けた女子学生は頷くことで答えた。
「老婆心ながら忠告するけど、極端な食事制限ダイエットは、体に悪いぞ」
「んなッ!?」
僕の指摘に、女子学生が驚きなのかそれとも呆気にとられたのか、顔を引きつらせる。
「ダイエットで一番重要なのは量ではなく質。バランスのいい食事制限の方が無理のない効率的なダイエットが出来る」
「ちょっと! 勝手にダイエットって決めつけないでッ!」
僕のアドバイスに、正気に戻ったのか女子学生が強い口調で反論してきた。
「だったら……趣味か? 食事を制限して自分を虐げる」
「違うわよ!」
さっきよりも強い否定の声が返ってきた。
―本当は体重を落としたいからなんて言えないじゃない―
そんな時、頭の中に言葉が浮かんできた。
「減量したいって何キロを目標にしてるんだ?」
「えっ!?」
口に出した言葉に固まる女子学生を見て、僕は『しまった』と心の中で後悔した。
一瞬頭の中に入ってきた言葉は、彼女の心の声だ。
僕……というより神楽のような最高神には人の心を読む能力が標準装備されている。
これを利用すれば悪人をあぶりだすことができるのだが、ここに来た際に神楽にその能力を使えないようにしろと告げていた。
目に入った数多の人の声が一気に自分の頭の中に流れ込んでくるというのは、苦痛でしかなく頭がパンクする危険性があるというのが理由だが、どちらかというと人の心を読むというのはあまりしてはいけないことだとだからというのが理由としては最も大きかった。
もっとも、僕の場合は僕の神としての著しい問題があるようでこの能力自体がうまく動いていないので、関係ないと思っていたのだが、こういう時に限って正常に動いてしまったようだ。
「あ、いや。ダイエットっていうもんだから聞いてみたわけだけど。ダイエットじゃないんなら関係なかったね」
「そ、そうよ」
とっさに誤魔化すように言った僕に、女子学生は少しばかり怒っているような顔を浮かべながら相槌を打った。
どうやらギリギリのところで怪しまれずに済んだみたいだ。
(とりあえず、今のうちに能力を切っておこう)
この能力はあまり使用していいものではない(そもそも多用すること事態が問題)為だ。
「ところで、今何時かわかるか?」
「えっと……13時10分前よ」
どうやら話し込んでいたら、戻り始めるのにちょうど良いの時間になったようだ。
「それじゃ、休憩時間が終わるから僕はお暇するよ」
僕は女子学生にそう告げると、ソファーから立ち上がって、出入り口のドアまで歩いていく。
「あ、そうだ」
「何かしら?」
出る間際であることを思い出した僕の呟きに、女子学生が首を傾げて先を促す。
「バランスのいい昼食を今度持っていく」
「……はい?」
「だから、バランスのいい昼食を持っていくと言ったんだ」
予想だにしない僕の提案に固まっている女子学生に、僕はもう一度言い直す。
「別に、恩を着せようという物じゃない。ただここを勝手に使ったお詫び……ペナルティーのようなものだ」
「い、いいわよ。あなたに悪いし」
気が強いと思えば変なところで謙虚だなと思いつつ、僕はさらに食い下がる。
「そんなことよりも、今のままの食生活を続けたら確実に体調を崩すぞ。バランスのとれた食事がどういったものか、実例を見た方が分かりやすいだろ。まあ、結局は僕のエゴだが」
「………分かったわ。お願いするわね」
このまま拒否し続けては絶対に終わらないと判断したのか、女子学生のほうがが折れてくれた。
食い下がってみるものだなと思いつつ、僕は話を先に進めることにした。
「了解。次に昼休みに休憩が取れる日程は、分かり次第リアさんに伝言を頼む」
「お、お姉さまに!?」
僕の言葉に、女子学生は先ほどとは別の意味で固まる。
その理由は能力を使わなくても明白だった。
「大丈夫だ。リアさんには事の仔細は話さない。ただ単に、休憩が合う日だけを伝えるようにするから」
「そ、それならいいのだけど」
どうやら、ダイエットをしているということはあまり人には知られたくないようだ。
まあ、知られたい人の方が珍しいのだろうけど。
「それじゃ」
「ちょっと待って」
今度は僕が呼び止められる番だった。
僕は女子学生のいる方へと振り返ると、話を促す。
「名前を」
「へ?」
女子学生の口から出た言葉の意図が分からず生返事をすると、女子学生は顔を少しばかり赤くさせた。
「だから、名前よ! あなたの名前、聞かせてくれるかしら? 私は聖沙・B・クリステレスよ」
「僕の名前は、浩介。大森浩介。それじゃ」
恥ずかしさから七日、それとも焦っているからなのかはわからないが顔を赤くさせた女子学生……クリストさんの言葉で、ようやく糸を知ることができた。
時間がないことから、僕はクリキントンさんに一礼すると生徒会室を後にする。
(さて、午後もしっかり頑張りますか)
僕はそう気合を入れながら、プリエに向かって駆けていく。
(それにしても、どうして読心術が使えるようになったんだろう?)
今までは全く使うことができるような兆しすら見られなかったのだが、さっきはちゃんと機能していたのだから不思議なものだ。
そんなことを考えながら、僕はプリエへと向かうのであった。
次回、ついに魔将が登場します