ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~ 作:TRcrant
第17話になります。
今回はもとの話から少しばかり書き換えております。
ちなみに、最初の場面は原作のテキストをそのまま使っているだけだったので、かっとしていたりします。
それでは、どうぞっ
夜、高台の広場に集まっていたアゼル、バイラス、パスタ、ソルティアの四人は、今後の活動について話し合いを行っていたが、その中でシンを筆頭としたクルセイダースの動向がソルティアからあげられた。
話し合いの結果、様子見と言う結論になったのだが、ソルティアはそれを鼻で軽く笑うと無表情である映像を流し始めた。
「なんだ、これは?」
「人間の時間単位で、1時間前に行われた戦闘記録よ」
突然流された映像に目を細めるバイラスの疑問の声に、ソルティアは表情を変えずに答える。
そこに映し出されていたのは、浩介と猫魔族たちとの戦闘の様子だった。
映像からは猫魔族の連携された攻撃を距離をとることでかわしながら一気に距離を詰めて攻撃し、また距離をとるというのを繰り返している様子がうかがえた。
「こ、こいつはただの人間にゃ。それに最後は尻尾を撒いて逃げたのにゃ!」
「そうかしら? 私には、戦略的撤退にも見えるわ」
パスタの言葉に、ソルティアの冷たい疑問の声が投げかけられる。
「俺にもそう見えるな」
「ば、バイラスにゃま」
目を閉じながらソルティアの意見に賛同するバイラスに、パスタはすがるような声色で彼の名前を呼ぶ。
「確かに、彼は逃げている。だが、それは自分の力量を弁えての行動。しかも手短にあるものを武器にして隠れる判断能力は、称賛に値する」
「あら、やけにこの男の肩を持つのね」
バイラスの口から出た称賛の言葉に、ソルティアが意外だと言わんばかりの表情でバイラスに言う。
「客観的分析だ。クルセイダースへの対処は、パスタ。君に任せるよ」
「任されたのにゃ!」
バイラスの言葉に対してされたパスタの元気な返事で、その集会はお開きとなった。
「バイラス」
「なんだ、ソルティア」
各々が去って行く中、ソルティアはバイラスを引き留めていた。
「死神について知っていることがあったら教えなさい」
「なぜおまえがそれを知りたがる?」
「興味があるのよ。その死神にね」
バイラスの問い掛けに、ソルティアは不気味に微笑みながら答える。
それを見たバイラスは表情を崩すことなく静かに口を開き始めた。
「死神と呼ばれたそいつは、目の前に立ちはだかる数十、数百の魔族を軽くいなし、その一撃で国を一つ滅ぼすこ
とができ、挙句の果てには神をも殺した伝説の魔族だ。今もまだ奴を見たというものの話は後を絶たない。その情報が出た時は必ずと言っていいほどリ・クリエが起こり、さらに魔王が現れたと言われている。そして奴はこう呼ばれている――――」
「なるほど。もういいわ」
バイラスから語られた”死神”についての情報を遮るようにソルティアは興味をなくしたように言葉を放つと、バイラスに背を向けてその場を後にした。
そんな彼女に対して怒るでもなく、バイラスもまた静かにその場を離れるのであった。
しばらく歩いたところで、ソルティアはふとその足を止める。
無表情のまま目を閉じると、
「死神。魔族から天使になった者……我が一族の悲願のを遂げた者」
静かに呟く。
そのつぶやきは、時より吹き付ける風によってかき消される。
その時の彼女の表情は、ただただ妖しく笑っていた。
★ ★ ★ ★ ★ ★
「なるほど。未知の敵に監視……ね」
何とか無事に九条邸へと戻ってこれた僕は、先ほど起こった一連の出来事を説明し終えると、神楽は険しい表情のまま顎に手を当てて考え込むポーズをとる。
「目的はどうであれ、私達も迂闊に動けなくなったというわね」
考えた末に分かったことを口にする神楽に、僕は頷きながら
「ああ。魔法陣に対して干渉をしていないとはいえ、相殺用の魔法陣を描いた。もし僕たちのことが知られなおかつ、それが僕たちの仕業であることを知られたら、一味に対処されるのは確実だ」
と相槌を打つ。
僕が恐れているのはそれだった。
敵の数や規模が分からない以上、下手に動くべきではないのは言うまでも無い。
「魔法陣には印は結んであるのよね?」
神楽の問いに僕は頷くことで答えた。
「確かに、天使の……それも上位の者が絡んでいることが知られるのはまずいわよね」
そんな僕に続くように、神楽はそう呟いく。
上位の者が魔法陣に天使の封印を結んだ⇒天界から誰かが来ている⇒僕が天使の類いであることを知られる⇒なにがしらかの対応策を取られる。
その図式だけは避けたい。
特に僕の事を知られることから先は絶対に。
「しかも、監視されている可能性がある以上、敵が襲撃したときに迎撃することもできない」
「そうだな。あくまで僕は”一般人”。もしくは、ちょっと力の強い”一般人”だと、相手に思わせておかなければいけない。情報戦はすでに始まってる」
僕たちの情報は出来る限り与えず、相手から情報を得る。
そういう観点では、こっちの方が一歩リードしている。
この状態をしばらくは保ちたい。
「だから、対策を考えておくから、それが出来るまで魔族退治はしないで、もし魔族と遭遇したら素早く逃げる方向で行こう」
「分かった」
今後の方針を決めた僕たちは、そのまま九条邸に入ると寝ることにした。
11月6日
翌日の早朝、僕は九条邸の裏側の庭と思われる場所を訪れていた。
「よし、始めるか」
一言つぶやいた僕は静かに息を整える。
そこにやってきた目的は鍛錬だ。
鍛錬と言っても霊術でも魔法でもなく、ただ剣を振ること。
「ふっ、せいっ! はぁ!」
剣をただ振っているだけでは、意味はないと思うかもしれないが剣を振れば振るほど、剣技は高まっていくと僕は信じている。
剣を振る速さ、剣を相手に当てることができる正確さ、そして相手を的確に追い詰める技。
それらを高めて行くのが僕の目的だ。
目標は”一振り三閃の舞”だ。
これは剣を一回振り下ろしただけで相手には三回振り下ろした分切りつけるというシンプルな技だ。
こことは別の世界にある暗殺者が使用していた技を参考にしている。
これを行うには剣技を高める必要があるので、今こうして練習しているのだ。
ちなみに、剣を一回振り下ろしただけで二回切りつけるという”一振り二閃の舞”を習得したのは少し昔の話だ。
「よし、そろそろ終わりにするか」
何度剣を振ったかは定かではないが、そろそろ料理人としての仕事を始めなければいけない時間帯だったため、剣を格納庫(この世界と切り離された異空間のようなもの)にしまうと、その場を後にする。
「………」
それを今まで見ていた者がいることも知らずに
鍛錬で掻いた汗をシャワーで軽く流した後、いつものようにリアさんや旦那様たちに朝食を用意した後、プリエで仕事をしていた。
パスタへのの教育係の就任期間は先日で終わった。
思い返すと過酷な日々だった。
主にパスタに対するクレームの対応で。
今日はからはいつものように厨房で料理人だ。
(なんだか敗北したような気分)
「あ、大森君」
「はい。何でしょうか?」
そんなどうでもいいことを思いながら、昼休みの大きな波に向けて料理の下準備を進める僕に声を掛けてきたのは、紅林主任だった。
どことなく表情がこわばっているようにも見えた。
「来週の初め……11日から放課後のシフトを外すことになった」
「放課後のシフト……ですか?」
放課後のシフトというのは、16時以降の事を指している。
僕にとってはシフトから外れることはある意味嬉しいことだ。
なにせその分市街地に設置された魔法陣に対する対処の下準備をする時間が増えるのだから。
だが、いきなりのシフトの変更は紅林主任にとっては不本意であることが何となくわかる。
今だって紅林主任はため息をつきたいのを我慢しているのだから。
「何でも理事長命令とのことだ」
「あー」
理由を知りたいという僕の気持ちが伝わったのか、それともただ愚痴をこぼしたかっただけなのかは定かではないが、紅林主任の一言でシフト変更の理由が分かってしまった。
……いや、納得がいってしまった。
「そう言えば、シフト変更の連絡と一緒に理事長室に向かうようにと言う伝言をいただいたんだが……大森君、何かやったのかい?」
「いえ。特にこれと言って何も思い当たることはないんですが……ちょっと行ってきます」
主任からの疑いの眼差しを受けながら応えた僕は、主任に断りを入れて厨房とフロントの出入り口へと向かい、プリエを後にしようとする。
「あ、待ちなさい」
そんな僕を呼び止めるように、紅林主任が声をかけてきた。
「明日の昼の時間帯はオフシフトだから、しっかりと休んでおくように」
「ありがとうございますっ」
僕は主任にお礼を言いながら一例をするとプリエを後にして理事長室へと向かう。
(昼休みは仕事はお休みか……だったら、いけるな)
ひょんなことから明日の昼食時に、この間クトミントさんと交わした約束を果たすことができるようになった。
理事長室に到着するまで、僕はバランスのいいダイエット料理のメニューを考えるのであった。
「失礼します。大森です」
「どうぞー」
理事長室前までたどり着いた僕がドアをノックすると、中に入るように返事がきたため、僕はドアを開けた。
理事長室内にいたのは、大きな窓際の理事長席に腰かけているヘレナさんだけだった。
僕はゆっくりした足取りで理事長席の前まで歩いていく。
「いらっしゃい、浩介ちゃん」
「呼び出しのご用件は何ですか?」
歓迎の言葉を述べるヘレナさんに、僕はさっそく本題を切り出す。
「ぶーぶー。ちょっとは構ってくれてもいいじゃないー」
「すみません。仕事があるので」
口を尖らせながらのヘレナさんの文句の声にも、僕は毅然とした態度で対応する。
”僕はあなたの思うようには絶対に動かない”という意思をはっきりと示すためだ。
それがヘレナさんに通じたのかはわからないが、一度咳ばらいをすると彼女はいつになく真剣な面持ちで口を開き始める。
「もう知ってると思うけど、11日から放課後のシフトが無くなるわ」
「ええ。それはあなたの差し金であることも存じ上げております。理事長」
「その言い方だと、まるで私が悪の代官みたいに聞こえるんだけど」
僕の言い方に苦笑を浮かべながら相づちを打つヘレナさんに、僕は一回深呼吸をする。
「どうしてそのような事を?」
「そうね……浩介ちゃんは変な生き物を見たことはない?」
「ええ。何度か見かけましたが」
ヘレナさんの突然の問いかけに、僕は魔族の事だと思いながらも出来る限り表情を変えずに答える。
「その生き物はね魔族って言うんだけど、そいつらが悪さをしないようにする対魔族専門機関があるのよ。その名も『流星クルセイダース』」
「はぁ……」
ヘレナさんの説明に、僕はどうしても生返事になってしまった。
その説明と今回のシフトの話がどのように結びつくのかがわからないのだ。
いや、分からないのではない。
分かりたくないだけだ。
(何か、いやな予感がする)
僕は何となくだが、そんな気を感じていた。
「最近は未確認の魔族まで出てきたりしてもう大変大変。そこで、浩介ちゃんには『流星クルセイダース』と生徒会のサポートの任を命ずる!」
「ちょっと待ってください!」
僕の予感は見事的中(というよりは斜め上を行っていたけど)したようで、ヘレナさんの指示に僕は慌てて待ったをかけた。
「僕はただの料理人です! 魔族とかと戦うなんて絶対に無理です!」
「知ってるわ。でも浩介ちゃんはすごい体術とか剣術とかがあるじゃない」
「っ!?」
僕がどのように反論してくるのかが予想できていたようで、ヘレナさんの言葉に、僕は表情を変えないというのを忘れて息をのんだ。
毎朝、誰にも気づかれないようにやっているはずの鍛錬を見られていたからだ。
あれを見られたということは、もはやただの人間であるということを彼女たちに主張することは不可能となってしまったのだ。
「あの様子を見れば、十分浩介ちゃんも戦力になるわ」
「………分かりました。足手纏いにならないよう、精一杯頑張ります」
僕はそう答えることしかできなかった。
もはや僕に逃げ道などなかった。
あの鍛錬の様子を見られている時点で、すでに僕の敗北は決まっていたのだ。
「助かるわ。それと、生徒会へは11日に伝えておくわね」
「分かりました。それでは」
僕は何とも言えない気持ちを抱きながらヘレナさんに一礼すると、彼女に背を向けて理事長室を後にした。
こうして僕は、半ば強引に『流星クルセイダース』の一員となることが決まったのであった。
(神楽になんて説明しよう)
誰にも気づかれずに鍛錬していたつもりが誰かに見られて、それをネタにされたなどと言ってどのような反応が返ってくるのかを考えるだけで、さらにブルーな気分になる僕なのであった。
感想やアドバイスなどお待ちしております。