のんびり艦これ   作:海原翻車魚

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前回の粗筋:『丸』は叢雲がツンデレとは知らずに選んでしまった為に、対応に困っている。ついでにげんなり気味。


柱島泊地~着任~

~柱島泊地執務室~

 

 だらっとした夕陽も落ちかけ、木漏れ日も少なくなった夏を感じさせる湿った夏の夜の時間帯。

 海辺だからか湿気ている。そのせいで少し暑く感じる。除湿しようと思い、この建物にいるもう一人に訪ねてみる。

 『ねぇ、エアコン無いの?』

二人してキョロキョロする。しかし、古びた木で出来たこの部屋には段ボール二個しかなかった。少しがっかりして叢雲の方を見る。同じタイミングに口を開くと

 『無い(わ)ね』

 シンクロした。向こうも暑かったのだろう。

 というか色々分からない事が多すぎる。

 黒服が言っていた存在、もとい目の前にいる艦娘という存在。

 深海棲艦と呼称される謎の艦隊。

 艦隊というよりも班で襲撃してくるらしいが事実かどうかは出撃と呼ばれる行為をしていないため、僕には分からない。

 まあ、向こうは黒服に配布というかなんというか任命されたのだから僕の任務について知っているだろうと高をくくった。

 「具体的に、僕はこれからどうすれば良いんだい?」

 「知らないわ、謝罪文書か委任状に書いてあるんじゃない?」

 不馴れな異性に話しかけられたこの少女はこの建物に入った時と同じ様にぶっきらぼうに言った。

 異性が不慣れなのはこちらもなのだが置いておこう。

 まあ、政府の方も対策に追われて必死なのだろう。説明はやってみれば端折ることが出来るくらい容易いということなのだろう。

 そういうことにしておこう。民間人を拉致して就役させるぐらいの仕事だろうから。何故、拉致されたのかは追々考えていこう。今はしなければならない仕事があるようだ。

 

 白状すると話すという行動のモチベーションが下がりかけている。

 というのも、クールに淡々と仕事をこなすタイプだと先入観から期待したこちらがツンツンしているだけの娘なのを判断出来なかったのが悪いのだから仕方のないことなのだが。とにかく冷たすぎるのではないだろうかもっと愛想が良くても良くはないだろうか?そして、あの中途半端な格好はなんだろうか?セーラー服の上の服とインナーに黒の何か、それと黒のタイツという出で立ち…何処から突っ込めば良いのか皆目見当がつかない…。

 心が擦りきれるような長い文句を言っても解決策になるわけではないから早々に切り上げよう。。

 

 つんけんする同僚はさておいてもやっぱり仕事内容は気になる。

 卒業証書でも入りそうな筒の中には何重にも巻かれた紙があった。

 さぞ仰々しいモノが書いてあるのだろうと思い紙の端を左手で持ち右手で紙を引いて広げていくと何も書かれてない。

 巻かれていた時の見た目のボリュームと同じくらい紙はとんでもなく長かった。

 紙を送った手の方には紙の山が出来ていた。

 紙を完全に広げ終わると端の方に小さな文字でこう書かれていた。

 【どうもすいませんね。】

 「は!?」

 あまりにも訳が分からなくてただただ驚くだけだった。そのリアクションに疑問を抱いた叢雲が背伸びをして文書を覗きこむ。

 「どうしたの?……ああ成る程ね。首相殿はテキトーなのね。」

 流石にこれは無いと思ったのか首を横に振った叢雲。

 しかし、がっかりした僕は彼女の反応を見ていなかった。

 「ううん…どうすれば良いんだ」

 軽い首相の返信と勝手の分からない職場に困惑を隠せなくなってきた。もう、放心して能面のような顔をしてることだろう。

 

 「はいはい、そんなこともあろうかと私が指導されたことを手解きしてあげる。まずは新しい艦の『建造』ね。所謂召集だけど。工廠の案内は執務室に張っておくから追々参照にして。発注書に使用資材の内容を書いて渡して頂戴。今は紙だけど追々機材が来るから良い?」

 説明するのが面倒なのは分かるが知っているならやはり説明してくれても良いのではないかと思った。

 

 工廠への簡略化された地図を貼っている叢雲を見つつ新しい艦娘の来訪について考える。

 新しい職員が増えるのは嬉しくもあるし、不安でもある。

 楽しい現場になればモチベーションが上がるというものだし、何より無愛想に会話を切られて感情が動くことが無くなるのは良いと思った。

 わざとらしくおうむ返しで聞く。

「え?新しい艦?」

 真面目半分、ふざけ半分のトーンだと変な声が出る。芝居の演技の練習でもしとくかな。

 なんて思った所で何も始まらないから話を聞こう。

 「そう、アンタと私の仕事仲間が増えるの。私だけだと負担大きいしね」

 やれやれと言わんばかりの顔。

 解せない所もあるが新しいメンバーが増えるのはとても嬉しいことだ。

 新しいということは無愛想な子もいるけど性格が逆な娘も来るんだということがはっきりとした直感がおりてきた。

 そう思うと飛んでいった心が戻ってきた。

 「うん、分かった。それと発注書は言いにくいからオーダーいいかな?」

 「アンタの好きにしなさい」

紙の下の方に(MIN:30)とあった。何で下限が?

 「叢雲、資材の最小値が30なのは?」

 「最低でもそこまで消費しないと新しい娘は来ないのよ」

 そういうことなら早く言って欲しい。

 せかせかしても意味がないのは分かるが気分が気分なだけに少し早口になっている自分がいるのを自覚した。

 「ふぅむ…………じゃあ、All30で」

 「全部最低値ね、了解」

 叢雲が壁にかけてある古びた無線機を操作して、業者に問い合わせているのだろうか。

 何か問答してるのが伺えた。

 後ろを向くと綺麗な夕日は無く夜だった。

 都会の様な喧騒も田舎の様な虫の鳴き声も無く漣が寄せては返す音だけが鼓膜を揺らす。

 

 

 

 壁のホルダーに無線機をかける音を聞き、向き直る。

 「結果は?」

 「待って、専用の端末が届いて無いから分からないわ。30分くらい待って頂戴。」

 慌てるのはいけない。落ち着け、落ち着け僕。

 「30分か。かかるなぁ」

 しかし、口に出るのは不満の声だった。落ち着いても意味があるのか疑問に思えた自分。

 そもそも、自我形成は去年辺りに終わってしまって適齢期というには老けている。

 それなりに、落ち着きを持ちたいところだが現状が現状だけに無理かもしれない。

 

 そんな問答は意味が無いのに気付き、下らない思考を止め現実に戻る。

「そんなに待ちたくないなら向こうの係に高速建造材(バーナー)使わせる?」

 こちらの苛つきに気付いたのかはたまたこちらの物言いに不満を感じたのか分からないが少し顔をしかめて新しい道具の名前を出す叢雲。

 「そんな、便利なモノがあるなら早く言ってよ。」

 こっちまでぶっきらぼうに言ってしまう始末。

 この先大丈夫だろうか。否と答える自分がいた。自重しよう。

 叢雲は壁にかけられている無線機を取って業者らしい所に指示を促す。

 「ハァ、使用許可下りたわ。やって頂戴。」

 溜め息一つで無愛想に指示を出す。

 業者に気を悪くされなければせめてもの幸いだが。

 というか人を作る業者?派遣する業者?そこが引っ掛かった。

 無線機を壁に打ち付けられたフックに戻した叢雲は水色の髪をなびかせこちらにくるりと向き直る。

 「誰が来たの?」

 新しいメンバーの顔を見るのに年甲斐も無くわくわくが止まらなかった。

 ついでに現状の打破にもわくわくしてるということもある。

「来た子達は毎回ここに来て自己紹介をしていくから十数秒待って頂戴。」

 やれやれと言わんばかりに叢雲は言う。

 すぐに新しいメンバーが来ることがが確定された今ならわくわくも少し落ち着かせられる。

 

 深呼吸一つして落ち着く。

 叢雲は小声で「しゃっきりしなさい。司令官」と言ってきた。

 椅子も机もない現状で上の者と認識してもらうにはどうすれば良いのか分からないので、腕組みして足を肩幅に開くポーズで立った。

 叢雲は僕の隣にきて、ドアの方に向き自身の手と手を重ね合わせて足の付け根の間に置いた。

 叢雲の偏見か否か秘書のポーズをとっているらしい。

 コンコンという音。

 その後に「……失礼します。」の声。

 お決まりの「どうぞ。」という僕。

 会社やら入試の面接のように感じた。

 

 礼儀正しくノックをして入ってきた紫色の髪をした幼い見た目の女の子。僕と彼女の距離が丁度良い塩梅の所で紫の髪の女の子は立ち止まりペコリと一礼した。

 「………弥生です…気を使わなくていいです。」

 「ああ、宜しく。ん?どうした叢雲?」

 

 僕が笑顔で挨拶をした後、横目で叢雲を見るとびっくりしてるのか固まっていた。どこか、驚きのような戸惑いのような複雑な顔をしていた。

 「なあ、叢雲?この子はどういう娘?」

 「……。」

 「おーい!」

 「アンタ…どんな引きしてんのよ!?レアな子よ!」

 そんなことも知らないのかと言わんばかりの面と向かって言われた。解せない。確認になるか分からないが弥生にも聞いてみる。

 「そうなの?」

 少女は目をつむって首を横に降った。

 「…………知らない」

 「そうだよね、自分の事はよく分からないよね」

 少し珍妙な答えをした自分が恥ずかしくなった。しかし、紫の髪の女の子、もとい弥生は少しだけ目の中に輝きを見せた。

 「…………分かってくれるの?」

 艦娘というのも案外こちらと同じなのかもしれない。何も知られずに何をすれば良いのかも分からない所に放り投げられる。そんなところに共感というか親近感に近いものを感じた。

 「うん。じゃあ叢雲、この子の住む部屋の確保とか諸々任せるよ。」

 部屋というか、物件と言えば良かったかもしれないと内心思った。

 「何を言ってるの、まだ休むには早いし部屋の準備なんてろくにされてないわよ。まあ、府内の整備も中途半端みたいだから職場というには最悪かもね。それにこの島にはこの鎮守府しか建物という建物は無いわよ。」

 ブラック企業というかなんというか……自宅兼職場兼住宅地兼…etcみたいな大雑把な所らしい。

 「もう休ませて、一日にしては色々起きすぎて疲れた。」

 疲労のせいで隠しておくのが限界を迎えて本音がだだ漏れになってしまう。

 「全く、私の話を聞いてた?今度の仕事は編成と哨戒よ。」

 疲れとスタンガンの痛みが合わさって入力と出力が出来ずに首を傾げる。

 「?」

 分からないのを素直に態度に出すとそんなことも分からないのかという目を叢雲にされる。

 こちらの心情を今すぐにでも吐露したいところだがもたつくだけなのが分かっているので自重する。

「イチイチ直すのは面倒だけどカタカナ…………もとい外来語にすればいいのね。『パーティー作成とパトロール』よ。」

 分かり易い。

 最初からそういう風に言ってくれれば良いのにと思った。

 「OK」

 「じゃあ、私か弥生さんを旗艦に指名してちょうだい。あっ、言われる前に言っておくとリーダーを決めて頂戴。」

 キカンと聞いてぽかんとしたがリーダーと言われて何となく分かった。

 「じゃあ、先輩の叢雲が旗艦で弥生は随伴で。」

 安直だが簡単に先輩後輩で決める。背の高さで呼び捨てにしてみたもののいかがなものだろうか?追々考えていけば良いだろうか。

 ヘトヘトな僕の思考は四方八方に散る。

 『了解。』

 手の平を顔の方に向けて腕を顔の輪郭の接線となるようにポーズを取る二人。敬礼なのだろうか。その辺は分からない。

 「…………司令官、質問良い?」

 「どうしたの弥生?質問、良いよ。」

 おずおずと手を上げた弥生に出来るだけ柔和な態度で接しようと思い笑顔を作り目線を合わせるためにしゃがむ。

 「…………その、旗艦という事は提督も行かなきゃいけない。提督の乗る娘が旗艦だし…どうやって提督は彼女に乗るの?」

 「あっ………」

 叢雲がまた固まった。それが災いして場は暫く凍りついた。




筆者ね、知り合いに『チュートリアルで弥生って子が出た』と言ったら『はあ!?』って言われましたよ( ´∀`)

さて、こちら側の事情ですが1話からのUVの伸びが悪い!!
 追々追加の記述をしていくので見捨てないでええええええ!!!!

対象年齢上げたバージョンいりますか?

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