~同室~
「叢雲が旗艦、弥生が随伴。わちきはどうするの?」
疲れからか車とかあったら激突しそうだなあ。寝惚けてるから発言がおかしくなるのは勘弁して欲しいとかなんとか思っていると弥生が口を開いた。
「…………司令官、夜だけど頑張って。」
弥生に元気付けられた。
「何も出来ないけど、頑張ってきて!」
眠気を振り切り言葉で応援した。
彼女らは決意で満たされた…とか何とかなってくれたらなぁなどと内心思った。
これから戦地へ赴いてもらう二人を応援するつもりでさらに頭を撫でる。弥生、叢雲の順に撫でる。弥生の髪はさらさらしてた。
『女子の髪は良いのぉ』などと供述したくなった。弁解しておくと僕はアリスコンプレックスではない。
叢雲の髪はと感触を少ない楽しみとして期待し触れた途端に体が光に包まれた。
白い極光が晴れていくと目の前には大きな黒い何かがあった。顔を上げると大きい叢雲の顔と体があった。左を見る弥生がいた。二人ともスカートらしき布を押さえてこちらを見ている。
「あれ?大きくなったね。」
開口一番がこうなるのも仕方ないと思う。
叢雲が赤面しながら数フレームおいて一言。
「アンタが小さくなったんでしょ?!」
「………司令官、えっち」
小さくなったのだろうとは思った。変態呼ばわりとは心外だが。まあ小さくなったのだろうか。不思議の国の少女はこのような視界でドアを潜っていたのかと思った。
自分の足なり腕なり見るとちゃんと調整されてピッタリの軍服を着ていた。
軍服?何で?
「えーっと……何これ?」すっとんきょうな声が出た。
叢雲による説明だと、軍服に関しては簡素な物で作られていてこの島に上陸した頃にはすでに着ていたとのことだ。ポケットに入った貴重品は全てこの軍服に移し変えたそうだ。
その説明を受けてポケットをまさぐると、無い。ポケットをがさがさまさぐるってもない。もしや、体と服は縮んでもスマホ等は縮小しないのでは。
そう思って、左右を見ると左にスマホにイヤホン右に財布がある。
自分が縮んだのが衝撃的だがこんなのに驚いていたら恐らくこの仕事はやっていけないと思い、深呼吸を繰り返し落ち着く。
「弥生、叢雲。見えてないから大丈夫」
「そんな訳無いでしょ!?」
「………えっち」
どうしよう。
無限ループは避けたい。
しかも、ロリコンやらアリコンという汚名まで付けられてしまうのはこの先困る。
妙案ではなく下策だが無理矢理話を変えれば良いのか。普通はやらないが、やった方が安牌だろう。
「とにかく、叢雲。乗せて。」
万歳してみる。小さい子が抱っこをねだってるイメージが頭に浮かぶ。
「どこに乗るのよ?!」
羞恥からくるものなのか少しボリュームが大きいなぁと思った。このタイミング弥生が妙案を思い付く。
「…………あっ、二人とも頭はどうでしょう。」
静まり返る。弥生を除く二人の思考がフリーズした。リスタートが早かったのは叢雲の方。
「あっ…………それもそうね!そうしましょう!」
首を縦にブンブン振って肯定している。何故赤面しているのかは分からない。変なことを考えていたのはむしろ叢雲の方ではと思いながらも早く寝たいから話を続ける流れにもっていく。
「ゴメン、それ以外無いと思う。」
「う、うるさいわね!」
ふんっ、と無愛想にそっぽを向く。イライラしてきた。
「…………司令官、早く」
弥生は無表情だった。
口調からの推察は今の僕には難しい。
「うん。」
流石に大人しい娘を怒鳴りつけたくはないし、そもそも怒鳴るような神経を使いたくない。気力も使いたくない。だから流れのまま叢雲の頭に乗ってドアを出て、海辺に出た。叢雲が少し憂鬱そうに呟いた一言が妙に僕の心に刺さった。
「夜、夜はあまり好きではないわ」
お化けが怖いなんて可愛いねと皮肉ろうとしたが、あまりにも神妙な面持ちであったため冗談を飛ばすことなんて出来なかった。
「………叢雲さん、どうかしました?」
何か呟いたのを聞こえたのか弥生が叢雲を心配した。しかし、叢雲は平常心を顔につけて答えた。
「何でもないわ。ただ、どうしてかしらね」
弥生は意図が分かったのか何も問うまいとした。
その意味ありげな沈黙は何を語るのだろうか。
「………」
沈黙により人の声がなくなった。ただ潮が寄せては返す音だけが耳を通っていく。
叢雲と弥生の二人は海に向かって歩いた。そして水に入るのかと思って下を見ると、直立していた。水の上に直立していた。驚くばかりだがこの先もずっと驚いていたら始まらない。このフレーズを繰り返しては使っているあたりこの職業は未知に満ちている。しかし、案外こちらが無知なのかもしれない。現に国内の近海を哨戒させていることから将来的な危険性は高いことが容易に推測出来る。
~鎮守府正面海域~
夜の海。先程の夕日が照らしていた鮮やかな海とは打って変わってどす黒い液体が不気味に波を立てている。月だけが頼りだ。この辺りの海は淀んでいるようだ。
「提督、捕まってる?」
「…………大丈夫?」
夜の海を見ていて恐怖を少し覚えた。静かな僕が心配になったのか叢雲と弥生の二人が心配した。
「うん、大丈夫。快適」
大丈夫だと聞くと二人は速度そのままに沖へ沖へと行く。すでに大陸棚は過ぎたのかもしれない。こんな海を見ていると深淵に吸い込まれそうになる。
「乗り物には強いみたいね。」
叢雲の声に我に返る。乗り物に強いというか酔いにくいのかもしれない。真夜中の雪道の車内でゲームを楽しんでいた幼い頃を思い出す。
「このまま百科事典も読破できるよ」
「それは…………凄いわね」
「…………うん、凄いのです?」
微妙な例に返答に困る二人。申し訳ない気がした。暗がりの中で顔はよく見えないが困ったような顔をしてるのだろう。
「あ、うん、なんかゴメン。で?パトロールなんだよね。敵がいたらどうするの?」
何かを警戒するためにパトロール、哨戒はするものだ。つまり、警戒しなければならない敵がいるということ。
「その時は腕についてる12㎝単装砲で吹き飛ばすわ」
「…………脚部についてる魚雷も忘れないで」
自慢気に話す二人が可愛いと思った。
こういう態度を見ると年頃の可愛さがあるのだと思いどこか心が安らいだ。今のところ静かな水面に写る僕の姿は水上靴のモーターに掻き消された。
何もなければ良い、そう考えていた。
突然バチャ、と水面を何かが跳ねる音がした。
例の敵"深海棲艦"だろうか。それを考えた途端に心臓の鼓動が速くなる。
「あ、うん。分かった。それと何か来るよ」
「あっ…」
叢雲がバッとそちらに振り向いて手甲の様な物を水面に向けた。いたのはただの魚だった。思い過ごしで良かった。
前言撤回しないといけない。魚が住む程度には水は淀んでいなかったようだ。
三人全員が硬直していた。全員が例の勢力の一端も目にしていないので何が何なのかが分からずに腰が引けてしまっているのだ。
一番最初に硬直を解いたのは叢雲だった。冷や汗が額に浮かんでいるのが見てとれた。からかって和ませようとも思ったが自分も冷や汗まみれだった。
「ふう、今の所は異常《ビイィィィ!》反応あり!距離400!」
叢雲のウサギの耳みたいな装備からけたたましいアラームが響く。鼓膜を裂くようなアラームに衝撃と同時に緊張を覚えた。正直、耳が痛い。サイレント状態を貫通してくる緊急時のスマホのようだ。
「…………雷撃戦、用意!」
弥生も緊張した面持ちになる。少なくとも穏やかではないのが伺える。敵というのは追い払うべき敵なのか、それとも絶命させなければならない敵なのか。少し、観察してみよう。
敵は鯨のような形をしているがやたらヘドロを含んだ口をがっぽりとあけ全てを飲み込まんとしている。歯もあるようだ。月明かりのせいでよく見えない。逆に粘着質な緑白色のヘドロが月光に映えていた。敵としてのビジュアルが嫌に馴染む。
大学に行って帰って行ってと繰り返してる間に、こんなに禍々しいのが浜辺の近くにいると思うと随分平和だったのが
思い知らされる。しかし、ここに来た以上腹を括るしかない。
「装填完了、牽制行けるわ!」
「…………提督、指揮を!」
指揮って言われても何を言えば良いのだろう。言葉が出てこない。確か、XYZで表すアレがあった筈……そうだ、座標だ!
「座標合わせて!」
「分かったわ!」
「………了解」
えーっと……なんだっけ。砲で攻撃、魚雷で攻撃…
「砲撃、雷撃開始!」
指示を出し砲と魚雷を使ってもらう。指示が適切で良かった、のだろうか。
それを含めた確認事項として彼女達の装備の概要は追々説明してもらおう。今聞いても頭に入らない。ほぼパニック状態の脳内で装備の説明を聞いても意味ないし。
──シュボアッ!
──スダアァン!
闇夜に舞う火花が花火を連想させた。何故なのかは分からないが童心に帰った僕は目の前の光景が綺麗だから笑って見ていた。
少し遠くに水柱が立っていたようだが暗くて見えなかった。
「にやけてるの?アンタ、気持ち悪いわね。」
「………弥生、怖いとは思ってませんよ。」
大変申し訳ない。童心帰りから帰ってきました。
「なんかゴメンよ。」
謝って気分が沈んだ。
下げた目線には現在進行形で物理的に沈んでいく敵は全く見えなかった。
損害は皆無。
どうせキリが良いのならこのまま進むことにした僕たち。
目印が無いのに迷いなく進路を採っているところを見ているとどこへ行き、引き返すのかが分かっているように見える。
しばらく進むとさっきのサイレンが鳴り響く。
「レーダーに感あり!計三隻!」
どうもこちらよりも数が多いようだ。
「…………どうするの、数の利では不利。」
不利と言われるとどうしても挑みたくなる天の邪鬼な自分がいた。同時にそんな自分にも嫌気がさすが、これも世のため人のため、自分のため、彼女達のためだから一匹でも多くこの世からご退場してもらおうと思い続行の指示を出す。
軽巡クラス一隻と駆逐クラス二隻という部隊だったらしいが砲雷撃戦の末にこちらの損害無し。敵全滅という快挙を成し遂げた。
「艦隊、帰投したわ。」
疲れたと言わんばかりに腕を回す叢雲。彼女の回した腕の風圧が直にくるので少々肝を冷やす。
相変わらず無表情で立つ弥生。
「…………提督、お疲れ様です。」
労いの言葉にはお礼が当たり前。
「ありがとう、弥生」
そうやって言うと、鎮守府のドアの前に下ろしてもらう。ドアを弥生に開けてもらう。府内に入った瞬間、光に包まれ元の大きさに戻った。
つまり出撃時には艦娘の頭部に触れて小さくなってから搭乗し、帰還時には鎮守府のドアを通ることで体の大きさが戻るらしい。
その程度しか考えられない自分が嫌になるが仕方ないとスルーした。
正直に言うと最初の内は叢雲をそこまでよく思っていませんでした。口が悪いからです。改二にしたときようやくデレを垣間見て解体しなくて良かったなぁと思いました。でもレベル75はキツいです。
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