「こっちの方が伸びるかなあ?」と思いSSサイズです。
それでは、どうぞ。
ひとくちのんかん~1~
食事、というのは生きとし生けるものの宿痾である。いや、本能を病気呼ばわりはなかなか酷いか。宿命の方が障りが幾分良い。また、物事というのは視点となる人間にとっては悲劇にも喜劇にもなり得る。食事の話を踏まえるなら、食らう肉食獣にとっては日常であるが食らわれる草食獣にとっては惨劇である。
唐突ではあるが、実のところ大食漢な僕は目の前の惨状に思わず舌なめずりをしそうになる。右手側には手で顔を覆う鳳翔がいた。他に誰もいないのは幸か不幸か……。
「鳳翔?どうしてこうなったの?」
「分かりません!分かりません!」
頭をふる鳳翔の手の端から覗く赤い顔面。
ちょっと、スイッチ入っちゃった。
「聞かせてよ?」
声をオとす時並みに変えて、耳元でゾワゾワするレベルでささやく。気色悪いのは自明なのだが、自覚したのは一件が片付いてからだった。
「ねぇ……、こっちみてよ。」
鳳翔の顎を優しく、でも少し強引にこちらを向かせる。
「もうこんなになってる。」
「…………!」
「責任、取れる?」
手を力無く下ろした鳳翔の瞳は涙で潤んでいた。
「ねえ」
そして、そのまま唇へ……………………。
というのは、まあ言葉のあやである。
上の話は目の前のトンチキな寿司に対しての言及である。どのくらいトンチキかというと、通常の二倍くらいの太さと五倍くらいの長さをもつシャリとネタ。
うーん、細長いシャリに細長いネタ。そして、漂う寿の匂い。
「なんで見た目こんなんなのに美味しそうなの?」
「『こんなん』言わないで下さい!」
「なら、説明してよ。こうなった理由。」
「それは……」
断片的に情報が出てくる。聞いている内に聞こえてきたが、どうにも素面ではないようだ。
「つまり……」
話の要点を絞っておうむ返し。
「酒の勢いで柵のまんま寿司を作ったってことだよね?」
「……」
「……」
なんというか、鳳翔と話して気まずい沈黙が流れたのは久々な気がする。まあ、その話は後々に。
「………………とりあえず、醤油もらえる?」
「アッハイ。」
思案する、如何にしてこの異形を食すか。
懸念する、食す方法について。
苦慮する、この些末事の顛末について。
目には目を、歯には歯を、ネタにはネタを。ということで、手洗いを済ませて素手で頂くことにした。SNSに投稿したら炎上請け合いである、たぶん。
唐突だが食レポをすると、だ。酒の勢いで作ったという料理人としての如何を問う前評判は見た目で吹っ飛んだ。いや、インパクトの話ではなく…。ネタは瑞々しくも脂が乗っているマグロ、恐らくは中トロだ。シャリは規格外の大きさにも関わらず、日本人の遺伝子がこれで良いと太鼓判を押すフォルム。空気を含んだ米の甘みが酢のアクセントで引き立ち、目利きによって選ばれたトロは口の中でほろほろとほどけていく。
喉を過ぎたのは何時だろうか、いつしか腹に落ちたのは確かな充足感であった。
「ごちそうさまでした。」
「お、お粗末様でした。」
「なんで引くのさ……。」
「いえ、箸が進んでおられていたので……」
「うん、おいしかったから。」
「……。」
鳳翔が顔をこちらからそらした。そして、生まれる間。
「……。」
好意の返報性という言葉を何かの本で読んだ気がするが、この場合は何の返報性なのだろうか?
結局のところ、異形は完食。
そんなものは無かったと言わんばかりに清掃された食卓。
鳳翔も僕も沈黙してから数分。
静穏を破ったのは、僕の腹の虫の音とお互いの破顔だった。
「はい、普通のです。」
「はい、普通のどうも。」
いつも通りの寿司がいつも通りのクオリティで届いた。
つまるところ、平穏が一番である。
後日談として、このキングサイズの料理はクリスマスやら正月やら七夕やらの季節のイベントで出てくるようになった。
クオリティもあるし、作ってる面子が楽しそうだったので特に言及しない。現に何度も食べているし、それで文句をつけるのも変だ。
このような情景を見ていると食事、というのは生きとし生けるものの宿痾であるというのは当たらずとも遠からずなのかもしれない。
寿司下駄に収まらないキングサイズの寿司をいつか食べてみたいと思いつつ、近くのお得なラーメン屋に駆け込む作者です。
ネタはいくつかひねり出しているので、ちまちま上げていきたいと思います。
小ネタの連発なので前回の話の投稿ほどお待たせすることはないと思われます。(そのぶん、ほんわか出来るのんびりを出せたらなあと思います。)
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海原でした。
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