タブレットの新機能も出します。
妙ちくりんなモノになるかもしれない。(今に始まったことじゃない。)
─翌朝─
~執務室~
夏に差し掛かる時期に似合わない非常に心地の良い温かさが体を包んでいる。しかし、夢の時間は首筋の鋭い痛みで消え去った。
「つっ?!」
思わず声が出る。
上半身を飛ぶ勢いで起こすと目の前には朝日が差し込んでいた。
自分のポケットをまさぐり携帯を取り出すと午前6時30分といういつも通りの時間に起きていた。
つくづく嫌になる。
もっと寝ていたい。
ふと、叢雲を見る。
楽しい夢でも見てるのか笑っていた。
弥生は寝ていた。
子日も若葉もスヤスヤと寝ていた。大淀さんは枕元に眼鏡を置いて壁の方を向いて寝ていた。でも大淀さんの隣に一人誰かが寝ていたような布団がもう一つ。誰なのだろう。大淀さんみたくこの府の専属の人がもう一人いるかな。
僕の悲鳴に誰も起きなかったのは幸いだが、こっちはどうしろというのか。いつもなら五度寝上等なのに二度寝すら出来る気がしない。
何とか二度寝する方法を模索してみた。スマホをいじっても枕に顔を埋めても布団にくるまって小さくなっても先程までの心地の良い眠気は遠く彼方へ行ってしまった。一時間位眠気を呼ぼうとしたがそんなことは意味のない時間の流れと一緒に終わってしまった。物音が余程立っていたのかは分からない。けど、何かが原因で熟睡していた叢雲が起きた。ヨダレを垂らしているところから余程心地よかったのかが伺える。
「うるさいわねぇ。」
目をこすって不満げにこちらを見てくる。どことなく申し訳のない気がしてくる。
「ごめんごめん。」
叢雲はむくれてる。
でも、しょうがないと思って欲しいところだ。なぜなら、本格的に私が寝たのはテッペン超して三十分のことだ。定時に起きても寝たくなるのは摂理だという都度を話すと
「知らないわよ。んー…あふぅ。」
知らないと一蹴される。伸びをした叢雲はむっくりと立ち上がると僕の手を掴んで
「艦隊総員起こしするわよ。」
何だそれは。
「ほら、皆起こすの」
意味は早く言ってくれ。
寝起きは厳しい。
"起こす"ということはつまりそういうことなのだろう。
小さい頃によく親にやられたことをそのままやってみる。人としてやるべきではないが手っ取り早い。早さ優先でやることにした。
「そおれ。」
全員の布団を引き剥がす。
「………おはよう司令官。」
「眩しいぞ、だが悪くない」
「おはよー。」
「ハッ?!眼鏡眼鏡。」
どうやら大淀さんは布団を剥がした時に眼鏡が吹っ飛んだようだ。枕元を見やると無い。ふと枕元に近い壁を見ると角に転がっていた。眼鏡のツルを持ち、手渡す。
「はい、眼鏡。」
「あっ、有り難うございます。」
「どういたしまして。」
全員起きたと思って見回す。叢雲が若干むくれていた。嫉妬かな。朝から論理的に考えるなんて出来ない。直感でしか考えられない。
流石に年頃の女の子の着替えをダイレクトに見ると変態扱いされるだろうと思って執務室から出る。朝から気を使うことに疲れを感じ溜め息を一つ。
昨日は見ている余裕も無く観察できなかった廊下。踏めばギイギイ軋み、所々床が抜けそうな所もある。こういうところを改修しないのは政府の体たらくということにしよう、そうしよう。
十分後に叢雲が出てきて、皆の着替えが終わったことを話してきた。心遣い感謝するとも言っていた。保身のためという言葉は喉で止めた。心に一物があると思われるとこちらも面倒だからだ。それにしても女子だらけの部屋に男の自分一人というなんともいかがわしいアトモスフィアが漂うが、それを自覚したのは執務室の戸口を開いた時だった。
部屋に戻るとキチンと全員分の布団が畳んであって部屋の隅に置かれていた。それを僕がドアの開閉と通行の邪魔にならないように布団を廊下に置いた。まあ、特に何をしてもらう訳でもないから奥の方には特段用はない。だから塞がるところに布団を置いてもどうにもならないだろう。
死活問題が一つ出てきてしまった。
朝食をどうしようかということだ。
「腹減った」
「はいはい。私たちもよ」
パジャマよりも制服の方が見慣れた光景に思える。それはそうだろう。叢雲は少し怒っていた。空腹によるモノだろう。
「叢雲達皆の食事は?」
「ああ!『補給』ですね!先日お渡ししたタブレットで艦娘の状態を一人一人モニタリングする事ができますよ!ついでに補給する資材も適量で資材庫から転送されます。」
「つまり?」
「その端末で提督業に必要なこと全てができます!」
家電量販店で聞いて用途が一般的ならバカ売れしそうだなとか思いながらもこちらも兵糧がなければ戦は出来ないと現実的な考えにもどる。
「僕の食事は?」
「それは、政府から支給されるみたいですね。冷蔵庫が搬入されているでしょう?」
言われてみて初めて気づく真新しい冷蔵庫。ホテルとかに備え付けてあるくらいの大きさだ。
部屋の窓側から見ると左端ぴったりと壁に接しているに冷蔵庫がこちらに扉を向けている。逆側にはマンホールくらいの穴があった。
さて、タブレットはどうしたものか。大淀さんのワクワクしている様子を見て若干引きつつタブレットの電源ボタンを探す。こういうのは音量調節のボタンの真逆にあるのが通例であり、この端末も例に漏れず音量調節ボタンの反対側にあった。電源ボタンを軽く押すと、新品を感じさせるロック画面の立ち上がりの早さが見てとれた。自分の使っている端末に比べたらとか思うところで止めておこう。このスマホは何故かこちらが不快となるように動くことが多く、それは大体が僕がこのスマホに心中で毒づいた後に起こるからだ。腹立たしいことこの上無いが今は業務用の端末の操作をしよう。
「あっ、ロック番号がありまして」
──ピピッ!
「ん?何?」
「あっ、いえ。もう解除してらしたので説明は必要ないかと」
「何かゴメンね?」
オーソドックスに0000と入力したら案の定解けてしまったパスワードロック。
説明しようとしていた大淀さんには申し訳ないことをした。
しかし、ここから先は全く分からない。
説明をお願いしよう。
なんせこの業務に特化した端末だ。
素人には分かるはずがない。
「では、改めて説明させて頂きます。」
「宜しくね。」
「まず、ホーム画面の左上にある艦隊運用のタイトルのアイコンをタップして下さい。」
「はいはい」
タップすると画面は暗転。
直ぐに青色を貴重とした背景が立ち上がる。
画面左側に丸く区切られたところがある。観察していると女性、女の子達が武器を構えている画像が丸の中から少しはみ出している。
少し違和感がある。
集合写真にしては構図が明らかにおかしい。
何故そっぽを向いたり真正面を半身で見据えたりしているのだろう。
きっと、個人写真をいじって合成した結果がこうなっていたのだろう。
まあ、左側なんて気にしてはいられない。
右側のがおかしいと思う。なぜ艦隊運用のタイトルのアイコンと同じ『艦これ』のロゴが使われているのか。
我ながら突っ込むのが遅すぎたとおもう。
いつも、タイトルしか見ずにアプリを起動してしまう癖があってアイコンのイラストを見ていなかったからだ。
「大淀さん?」
「何でしょう?」
「『艦これ』とは?」
「『艦隊これくしょん』の略称です。」
「そうじゃなくて、何て言うんだろう」
言葉が出ない。この人命を軽んじたネーミングが許せないがそれをどうも短い熟語で済ませるにはどのような言葉が適切なのか……。
「これは政府の考案したものです。」
「うむぅ。まあ、艦隊の方は分かるよ。これくしょんの方は何なの?」
「それは…」
「それは?」
「……」
「……」
「トップシークレットなんでしょう」
「あ、突っ込んじゃいけないとこなのね」
まあ、政府にカチ込みかけられるなら早い内にシめとこう。問いたださねばならない事案が多い。ついつい要らない正義感に燃える自分にどうも嫌悪感がする。兎に角、目先の事案を済まさねば今は何も始まらない。どうしてこうも脳内での話の筋がめちゃくちゃなのだろう。ノイローゼなのだろうか。まあ、昔のことを振り返って憂鬱な雰囲気を作るのは駄目だ。飯だ飯。
艦これのロゴの下にある『GAME START』のアイコンに目をやる。
政府は人命を何と思っているのだろう。
しかし、言及しても何も始まらない。一般人に見られたときのカモフラージュと考えておこう。
「そのアイコンをタップして下さい。タップすると位置と現在所属している艦娘と時空座標から政府のサーバと同期が始まるので少々お待ちください。」
「大淀さん?」
「何でしょう」
「時空座標って言った?」
「ええ」
「えーっと。」
「難しく説明します?簡単に説明します?」
「吐き気を催すほど簡単に」
「かしこまりました。この鎮守府に来てから同業の方とこの泊地内で会ったことはないですよね?」
「うん」
「それは、提督全員が僅かながらに違う時空座標に所属しているからです。」
「つまりは、パラレルワールドで各個部隊で深海棲艦を絶滅させなければならないということかな?」
口走っている妄言に思わず手が震える。非現実的なのもそうだが、誰一人提督側としての味方がいないのは寂しいとかの言葉では収まりがつかない。
「そういうことです。」
しかもあっさりと肯定されると困る。
「ええー?!!!」
オーバーに驚いたその実、僕は結構げんなりしてる。まあ、弥生と叢雲にご飯食べさせたらこっちも食べようと思う。レディファースト、というやつだ。語源こそアレだが今は女子を優先して動かねば。飯の前にさっさとタブレットの機能を覚えなければ。
<認証終了>
<コードネームの設定>
電子音が文字の出現するタイミングと合わせて鳴る。ゲームでよくあるアレと同じだ。
コードネームはまあ、『資本論』の筆者の名前をもじろう。最近のスマホと同じで少し押してスライドすれば文字を入力出来るので手間がかからなくて良い。いわゆる、フリック入力。パソコンとかのキーボード配列だと少し苦手としている僕には有り難かった。
<コードネーム・設定完了>
<以後、変更は出来ません>
まともな名前にしておいて良かった。
そして、軍艦だか漁船だかがプカプカ浮いている画面に写る。左下を見ると『NOW LOADING』の文字。起動中らしい。船が消えると既視感がある水色の髪の少女が画面にいた。あの小生意気な艦娘に酷似していたのでタブレットから視線を外して見ると不思議そうな目でこちらを見ていた。僕と目が合うとつっけんどんに「何よ」と言ってきた。もうスルーで良いかな。現実の叢雲は無愛想に振る舞った。タブレットの中の叢雲の方は片足で立っていてどこか高圧的な雰囲気を醸し出している風に見えた。こちらも生意気そうだ。
「あら、秘書艦は叢雲さんでしたか。」
「そうだよ。それがどうかした?」
「現実の秘書艦を変えるとタブレットのアプリ上の秘書艦も変わりますよ。」
「へー」
「人によりますけど面白いことをタブレットの方で喋ってくれる人もいますよ」
「そうなんだ。じゃあ、試しにこっちの叢雲で。」
「でしたら彼女の立ち絵のどこかをタップして下さい。」
「OK」
肩の部分に触れてみる。
《アンタ……酸素魚雷を食らわせるわよ!》
全くもって無愛想だなあこの娘。少しため息をつく。
「て、提督。皆最初の内は距離を置くものじゃないですか!」
大淀さんが慌ててフォローに入る。
「そういうものかねぇ」
「そ、そうですよ!ねえ!叢雲さん!」
大淀さんが叢雲の方を見る。話を振られずに突っ立っていた叢雲はビクッとした。だが、直ぐ様平静を取り繕った。
「そ、そうよ!」
大体急に話を振られるとyesと言いたくなるのが常だろうとか勝手に思っておく。
叢雲の小生意気な立ち絵の横に梅鉢の様な形で六つのアイコンがあった。梅鉢と違うのは真ん中の円が他よりも二回りくらい大きいことくらい。それぞれの円には歯車をモチーフにしているのかそれの歯をあしらってある。外周にあたる五つの円はそれぞれ左回りから編成、補給、入渠、工廠、改装と書かれていた。真ん中の大きい円には出撃と書いてある。恐らく、主な行動がこの六つなのだろう。上の方にはなにやら小さい文字で書かれている。よく見ると、戦績表示、薄く友軍艦隊、図鑑表示、アイテム、模様替え、任務(クエスト)と書かれていた。こちらも六。ただ、入力の判定が無いのが一つあったので実質五。タブレットにも新しい職場にも慣れなければならないのでいろいろ観察しておくに越したことはない。
先程の説明の中で出てきた補給のボタンをタップすると、横に長いバーが表示されていて、一番上には小生意気な奴の小生意気な立ち絵の切り抜き。
その下には凛とした出で立ちの弥生の切り抜きがあった。
切り抜きの方から右に視線をずらすと弾薬みたいなアイコンがついたケータイの電波の強度ゲージみたいなのがあった。
もう少し右にずらすと緑色のドラム缶のアイコンがついたそれがあった。1と書かれた旗のマークが水色になっている。
横には2、3、4と並んでいた。
後々理解すればいいと思ったのでスルー。
1の脇にあるチェックボックスをタップすると叢雲と弥生の脇にあるチェックボックスにチェックが入った。
弾3燃4と表示された。そのまま、右下にある『補給』ボタンを押す。
<搬入しています>の表示。
勝手にやってくれる訳ではないようだ。
「大淀さん?」
「えーっと、労うなら直接という事でしょう!」
スゴく胡散臭かった。
述べるなら述べるなりの根拠が欲しい。
中途半端に最新設備なのは困る。
中途半端な親切設計も要らない。
せめてもう少し寄せて欲しい。
古くても新しくてもどっちでもいいから寄せて欲しい。
そんなことを思っていると
_ガシャン!
古い機械を無理矢理動かしたのだろうか。
壊れてもおかしくない挙動を見せた。
しかも、油がさされてないのがよく分かるくらいに軋む音がうるさく聞くにたえない。
マンホール位の穴が開いたと思ったら帰ってきて穴が塞がった。開いた時と帰ってきた時の違いは小さな弾薬みたいなものと小さい小さい小さい緑色のドラム缶が乗っているくらい。
手に取った。床の木目と合うようになっているのは面白いと同時に関心する。ただ、動作音がたまらなく五月蝿い。ダメ元でお願いしてみよう。
「大淀さん」
「はい。」
「もう少し良くなる様に改造頼めない?」
「承知しました。」
ニコニコとこちらを見ている大淀さん。任せておけと言わんばかりの自信が彼女の視線を通して伝わる。その笑顔をもう少し見て心を探ろうとしようとした。
「アンタ!早く寄越しなさい。」
「ん?ああ今渡す。」
しかし、小娘の催促に阻まれた。
瞬間、直視するのがしんどい光が手から出る。目を逸らして光が収まった。恐る恐る手を見ると、ドラム缶が缶ジュースに弾がクロワッサンになっていた。物理的にアリ?
「大淀さん、何回も悪いんだけどこれはどういうこと?」
「提督が艦娘に補給するときに資材量に応じて見合った料理に変換できる能力です。提督がここにいる限りは使えますよ。」
不思議というかなんというか。この服が高性能端末という解釈の方が今のところ分かりやすい。
「でも、僕は食べられない。」
そうなのだ。元が燃料や弾薬なら人間である僕が食べられる訳が無いのだ。しかし、彼女達も人間なのだから食べられない筈だと思った。そんなことを考えるのは無駄だった。
叢雲に手渡しする。と、頬を赤らめて。
「貰っておくわ」
おおっと?!!!ツンデレさんかな?!デレたとこもお兄さんみたいん!小癪な小娘めしごいたる。
脳内が一瞬パニックを起こしたがクールダウン、クールダウン。弥生にも同じように資材を渡す。湯飲みの緑茶と三色団子だった。
「…………もらっちゃって、いいの?」
嬉しそうにはむはむと小さな口で頬張る二人をみて心が和む。政府は何故出撃させるのだろう。させなきゃいいのに。自分が提督業を放棄するのもアリかもしれない。でも、提督だからこそ保護する義務から逃げる訳にもいかないし…………。逃げるという単語が出てくる時点で現実を飲み込めきれてない自分と弱い自分にそれぞれ嫌悪感がした。
微妙な自己嫌悪に襲われ項垂れていると、大淀さんの声。
「あっ、提督お伝えするのを忘れていました。ご自身の携帯端末持ってますか?」
「これ?」
朝方いじっていてタスクを切らずに放っておいて温かくなっている自分のスマホをとりだす。
「実は、このタブレット。同期させればお知り合いの提督にタブレットを介して情報共有ができますよ!」
「電話とかそういうの?」
「はい!ついでにマルチ機能で三人の方と同時に通話可能です!」
気のせいなのだろうか、大淀さんは機械の事になると微妙にイキイキしているかもしれない。
好きな物の話になると人は興奮する。
僕もそーなる。
「そうなのか。でも、暫くはゆっくりしたいから情報は後でお願いするよ。」
「わかりました。」
微妙にトーンが下がった。試して欲しかったのだろうか。
タブレットに視線を移すと上の方に何か書いてあった、というより映っていた。
【艦隊司令部level5 Maruks】
丁寧に入力されている。
司令部レベルとは何だろう。
今の僕には知るべき事なのか否か。
まあ、良いだろう。
1900/2010/1980/1800といった数字が表記されていた。
資材と表記されているが、そもそもこの資材はなんだ。
何を表現しているのか見当もついていなければ話すら聞いていないではないか。
追々まとめて聞いていくとしよう。
他のマークに気を留める前に執務室のドアを開き散歩にでかけた。
タブレットを持ち逃げするような不届き者はいるまいと思いつつ、パスワードをどうしたら良いのだろうと考えながら部屋を出た。
うp主の提督名そのままです。
(叢雲ファンの皆様に今更ながら一言。最初こそ私の中での印象は最悪でした。最初は。今は好きです。likeじゃなくてloveです。変態化しましたw)
対象年齢上げたバージョンいりますか?
-
いらない
-
いる(R-15まで引き上げ)
-
いる(R-18まで引き上げ)