瓶の中身が空になる頃には心の落ち着きもそれなりに戻ってきていた。
机の上に瓶を置いて、浴室に向かって足を動かす。開けっ放しの扉からシャワールームへと入り、濡れた床を踏んで湯船の栓を抜いた。静かに下がり始める水位。この速さなら一分も有れば無くなるだろう。
昨日の臨死体験もその程度の時間の出来事だったんだろうか。短いと見るか長いと見るかは分からない。それくらいだったかも知れないし、二分くらいだったような気もする。だけど三分じゃないのは確かだ。カップラーメンを作るより少ない時間で人は死を感じられるんだと知った。
湯船が空になっても暫くそのままの体勢で居た。動く気力が無いというよりは、どう動けばいいのかが全く見えてこない。当たり前だ。水が気持ち悪いから何とかしてくれなんて言われたらヤブじゃない医者だって困惑する。精々、精神的なものだとでも返すしかない。
じゃあ本当にトラウマになったとでもいうのか。何も無いから平気だって分かった筈なのに。
誰かに教えて欲しかった。自分の身に何が起こっているのかを。
だけど、ここは一人部屋だ。助けてくれる人は何処にも居ない。
ならどうするか。
どうすればいいんだ。
分からない。
誰も居ない。
助けてくれない。
――いや、違う。
思い出した。一人だけ居た。助けてくれそうなものが一つだけ有った。
『メニュー』を使えばいいじゃないか。
馬鹿な事を考えているという自覚は有った。
いくらなんでも、無茶苦茶だ。〇と一だけの存在に医師の代わりなんて勤まる訳が無い。そう思っていても僅かな望みを捨てられずにいる。もしかしたらという思いに縋らずにはいられなかった。
発想の転換だ。身体を診察してもらうんじゃなくて、病気の症状について調べものをすると考えてやればいい。
調べものをする時には何を使うか。人に聞くか、それとも図書館に行って本を読むか。色々有るだろうけど、一番手軽なのはパソコンを使って調べる事だと思う。
そしてここに有るのは『メニュー』とかいうSFの産物。パソコンにもできる事なら、そのパソコンよりも全体的に高性能な代物にだってできるだろう。実際、昨日の夜はそれらしい事を何度もやっていた。
だから、必ずできる筈だ。
私の体調について教えて欲しい――浴室から出て部屋に戻り、強く念じて『メニュー』を呼んだ。
現れるのは実体の有る光。下を向いたまま、視界の外で『メニュー』が呼び出されたのが分かった。実際には一晩しか経っていないのに、随分長い事見ていなかったような気がしている。
顔を上げるのが少し怖い。私の思いは通じたんだろうか。何も無かったらどうしよう。いや、後ろ向きな事は考えたら駄目だ。『メニュー』が反応してしまうかも知れない。今は余計な雑念は撥ね退けて『メニュー』の事だけに集中しないと。
さあ。
私の目の前に現れたのは人体模型だった。
反射的に『メニュー』を閉じる。なんというグロテスクな光景。見間違いだろうか。いや違う、あれは現実だ。でも一瞬だったからもしかしたら見間違いかも知れない。
もう一度呼び出す。
人体模型。
見間違いじゃなかった。
衝撃的なものを目にしてしまった。
深呼吸を挿んで心を落ち着ける。不必要に思える程にゆっくりと肺に空気を取り込み、同じく時間を掛けて身体の不純物を吐き出していく。それが終わったら息を止める。苦しくはない。ただじっと待ち続ける。
息苦しさを感じてきたところで呼吸を再開した。酸素と共に冷静さが戻ってくるのが分かる。もう大丈夫なんだろうか。それを確かめる為に人体模型を召喚する。
直視しても戸惑いを感じる事は無い。とは言うものの、取り敢えず食後に見るようなものじゃないなとは思う。じゃあいつなら見ていいかと言うと、そういうものでもないだろうけれども。
一体これは何なのか。
状況から考えて、この人体模型は恐らく私の事を表しているのだと思われる。自分の体調について知りたいという私の願いに対する『メニュー』の返答がどうして人体模型なのかという事はやや気に掛かるけれども、返答が有ったからには全く関係が無いという事も無い筈だ。少なくとも今までは大体そんな感じだったし。
画面を良く見ると端の方に細かい項目が幾つも並んでいて、人体模型の持つ機能がこれだけじゃないという事が分かる。試しに一つ選んでみると瞬時に画面が切り替わり、そこに私の全身像が大きく映った。
絶妙な気まずさを味わいながら『メニュー』を閉じる。
なんで、服を着ていないんだ。
誰も居ないのが分かっているのに周りを見渡す。そんな筈は無いと理解しているにもかかわらず、部屋の隙間から見られていたような気がしてどうにも落ち着かない。学校の休み時間に読んでいる小説が危ないシーンに突入している時に感じる焦燥交じりの羞恥心に似たようなものが有った。
特に、大画面というのが良くない。携帯電話くらいの大きさならまだ我慢もできたけど、これは駄目だ。インパクトが強すぎる。ある意味で自分が裸になるより恥ずかしい。こんなんじゃ、おちおち使っていられないじゃないか。
できるだけ見ないようにしながらもう一度『メニュー』を起動する。こうなると人体模型もむしろ変に意識しなくて済む分ありがたい。
恥ずかしがっていても仕方が無いので先程の項目をもう一度選んだ。すると画面の中の人体模型がヌード写真に切り替わる。やっぱり、物凄く居心地が悪い。何が悲しくて自分の裸体を見せられないといけないのか。あまりの気まずさに必要以上に人の目を気にせずにはいられない。
……見られてないよね? 本当に誰にも見られてないよね?
きょろきょろと首を動かして部屋の様子を探る。誰も居ない。大丈夫だ。いや、大丈夫なのか。大丈夫だろう。多分。
あまり気にしていてもどうにもならないのでさっさと画面に視線をやる。中央に陣取る肌色の物体を柳の心で受け流し、その横に見える細かい項目に意識を向ける。
項目の名称は何やら専門用語的な雰囲気を放つ言葉ばかり。と言うか、人体模型の時と変わっていない。メニューバーみたいな感じのものなんだろうか。横長の項目が縦にずらりと積み上がっている。例によって上下にスライドするタイプのようだった。終わりが見えない。取り敢えずその中の一つを選んでみる事にする。
三人目の私はぼかし処理が入っていた。
一見するとサーモグラフィーに似ている。黒い背景に、ぼんやりと浮かぶ人型のシルエット。全体的に緑色で、ところどころ色が薄くなっている。これは何を表しているんだろうか。体温ならもう少し赤みが差している筈だから、そうじゃないだろうけれども。
それから一〇分程掛けて項目を巡回して、人体模型について分かった事が一つ有る。簡単に出てきた割に、意外と奥の深い機能だったという事だ。
なんか、使いこなせる気がしない。と言うか、正直何が起きてるのかも分からない。
骨格標本を見ながらそんな事を考える。これは、なんだ。この骸骨は私に何を伝えたいんだ。
そうやって睨んでいたのが良くなかったんだろう。いや、別に何も良くなくはなかったけど、さておき、画面に変化が起こった。ぬっと近付くように骨格が拡大し、補足のような枠が幾つも現れる。思わず変な悲鳴を上げてしまった。あっという間の出来事。一体何が起こったのか。
見てみると、やっぱりそこは素人には厳しい世界だった。色々と小難しい事が書いてあるだけで具体的にどういう事なのかはさっぱり分からない。文字だけじゃなくて数字も一緒にくっ付いている。何かのデータなんだろうか。これはもう説明書が云々とかいう次元の話じゃないような感じがする。
何だか時間の無駄に思えてきた。いくらなんでもややこしすぎる。見る人が見ればどういう事なのか分かるのかも知れないけれども、そうでなければどうしようもない。
そもそも、人体の異常について調べる為に呼び出したような代物を、何の知識も無く使いこなせる訳が無いじゃないか。ああ、時間を無駄にした。他の方法を探さないと。今度はもう少し具体的で分かりやすい条件で絞り込んで――
そこまで考えて、止まる。『メニュー』を閉じようとしたところで、画面の左上端に一つ気になるものが見えた。視線の先に有るのはターン型の矢印。如何にも怪しい。何なんだろう、これは。
試しに選んでみよう。
画面が切り替わる。
視界の大部分を占めていた骨格標本が消え去り、代わりに現れる何だか良く分からない項目の群れ。なんか、いきなりレイアウトが無味乾燥になった。一体どういう事なのか。訳が分からない。
左上を見ると、件の矢印はまだその姿を残している。反対に、さっきまでは画面の横に有ったメニューバーの姿は消えて無くなっていた。人体模型専用のメニューバーだったんだろうか。とするとまだ残っている矢印はもう少し広い範囲の機能なのかも知れない。
大量に並んだ項目の内、一つを覗いてみる。するとそこに有ったのは心電図みたいな感じのグラフ。しかも大量に。種類の異なる無数のグラフが形を変えながら常に反応し続けている。人体模型とは別の方向で理解できない。何なんだ一体。
矢印を押すイメージを『メニュー』に送ると、画面が無味乾燥な一覧に戻る。やっぱり戻るボタンだったのか。つまりこれは……どういう事なんだろう。
頭がこんがらがってきた。これ以上考えると知恵熱が出そうだ。と言うかもう無理。考えられない。
やけくそになって戻るボタンを連打する。頭を使わなくてもできる運動。こうしているだけで上手い具合に頭がすっきりしてくるような気がする。それは気のせいにしても、こうやって上に戻り続けていればその内トップページ的なところにだって辿り着く事ができるだろう。辿り着いてどうするのかは知らないけれども。
暫くそうして頭の体操をしていたらいつの間にか矢印が灰色になっていて、画面の様子も何だかそれらしいものに変わっていた。
「『ステート・システム』……?」
画面に大きく表示された見出しをぼんやりと読み上げる。
『ステート・システム』。これはどういった言葉なんだろうか。ステートというのは確か『状態』とかそういう感じの意味を持つ英単語だった筈。じゃあこれは状態の機能? さっきまでの光景を思い返すとそれで正しいような気もする。
まあ、言葉の意味はどうでもいい。取り敢えずこれをどうするのかを考えないと。と言うか、そもそも必要なんだろうか、これ。勢いでトップページまで戻ったはいいけど、よくよく考えたらこの『ステート・システム』とかいうものを調べても水が気持ち悪くなった理由が分かるとは思えないし。
そう思いながら『メニュー』を閉じて、開く。水が気持ち悪くなった理由を知りたい。知りたい。かなり知りたい――胸の前で手を組んだまま真摯に祈りを捧げていく。
そして現れる『ステート・システム』の文字。なんでだ。
何度か繰り返しても結果は変わらず仕舞いだった。何が何でもこれを使えという事か。
もしかしたら、これ以外には体調を調べる方法が無いという事なのかも知れない。さっきはパソコンよりも高性能だから大丈夫だと思ったけど、エアコンが白黒テレビの代わりになるかと言われれば、そういう訳でもないだろう。それでなくとも現状『メニュー』を上手く使いこなせているとは言えないから、そういう意味でもやっぱり偶然出せたこれを使うしかない。
ぼうっとしていても仕方が無いので取り敢えずトップページから先に進んでみる事にする。すると何やら項目が現れるけれども、数は多くない。ただ、意味はあまり良く分からなかった。『スキル』やら『ステータス』やら『コンディション』やら、そこはかとなくコンピュータチックな単語が並んでいる。
いや、コンピュータチックというよりはゲームチックという方が近いのか。子供の頃にこんな感じのものを何処かで見たような覚えが有る。ロールプレイングゲームとか、昔は良く遊んでいたと思うんだけど、そう言えば最近手を出していない。いつの間にやらなくなっていたんだろう。
尤も、遊ぶといってもただ漠然と遊ぶだけで、クリアしたゲームは一つも無いんだけれども。
過去を振り返るのは止めにして今に目を向ける。兎にも角にも、自分の身体に起きた異変というものを突き止めないといけない。もしくは、何も異常が無いという事を確信する為の証拠になるものが必要だった。正直な話、何かしらの答えを得ないと夜も眠れなくなりそうだ。
まず確認するのは身体の調子を調べるのに一番関係が有りそうな『コンディション』の項目。直訳するとずばり『体調』という意味だけど、果たしてどうなるか。
効果音と共に画面が切り替わる。幾つか有ったシンプルな項目が消え、代わりに何やら細かい項目が現れた。枠の大きさはまちまちで、ぱっと見た感じでは大きな項目の方が初心者向けのような感じがする。
どうにも手が出しにくい。というより、目が滑って仕方が無い。初めて自分の携帯電話を持った時もこんな感じだった。何処に何が有るのかさっぱりで、取り敢えず真ん中の丸いボタンを押してみたりしていたと思う。
という訳で、一年前に倣って真ん中の『状態異常』とかいう項目を押してみる事にした。
切り替わる画面。現れる項目。どちらも予想していた事だ。
だけど、妙に数が少ない。と言うか、なんか二つくらいしかなかった。さっきまでは大量の項目で画面がごちゃごちゃしていたのに、それが全部無くなってやたらとすっきりしてしまっている。一体どういう事なんだろうか。
項目名を見る限りでは、何かしらの機能の名称というよりは単なる名詞のように思われる。もう少しはっきり言うなら、まさしく体調不良とも呼ぶべき症状そのものを指す単語に見える。状態異常とはつまりそういう感じのものなんだろうか。ここまで来てこの異常というのが私に関わっていないなんて事も無いだろうから、この二つの症状は今まさに私の身体に起こっている『状態異常』という事なんだと思う。
二つ有る項目の内、一つは『髪の傷み(微)』だった。
髪の毛先を触ってみると、少し乾いているような感じがする。ぱさついているという訳じゃないけれども、極めて滑らかという訳でもない。あんなに塩気の多いところで丸一日過ごした上に野晒しで眠って、しかも碌にケアもしていないというんじゃそれも当然か。
面倒な事になった。詳しくは知らないけど、こういうのって確かもう元には戻らないんじゃなかったのか。肌は多少好い加減な手入れでも何とかなるような気がするけど、髪の手入れは……どうしよう。想像以上にショックだ。何と言うか、小学生の頃に作った湯呑みを落として割ってしまった時みたいな。
せめて悪化しないようにちゃんとケアはしておきたい。だけど髪のケアなんて乾かし方に気を付けるくらいしか知らないし、よく考えたら日本に帰った時につやつやの髪だったら流石に不自然すぎるような気もする。かと言ってこのまま放置するというのも嫌だから、何か上手く誤魔化せるような方法を考えておかないと。
さて。
そろそろ見ない振りをするという訳にもいかなくなってきた。敢えて考えないようにしていたけど、それも限界だろう。二つ有る内の一つについて考えたら、もう片方についてだって考えないといけない。
『状態異常』の残りの一つは『カナヅチ』とかいうようなものだった。
カナヅチ。
なんか、釘とかを打つ時に使う奴。木の棒に黒い金属がくっ付いていて、その部分を釘にぶつけて打ち込むんだけど、釘を押さえる指を間違って打ってしまうのが怖くて軽く叩くようにしか打てないっていう感じのものだった気がする。あとはそう、上手く泳げない人をそういう風に呼ぶ事も有るんだったっけ。
なんじゃそりゃ、とは思う。見間違いじゃないかと目を擦っても『カナヅチ』の四文字は変わらない。どういう事だ。体調の話がなんでいきなりウィークポイントの話になるんだろう。しかも私はカナヅチって訳でもなかったんだけど。
と言うか、泳げないのは別に悪い事じゃないじゃないか。それが駄目なんだったら『料理下手』とか『英語苦手』とかも状態異常という事になってしまう。なんでそんなぼろくそ言われなきゃいけないんだ。
「…………」
大体の予想は付いている。
思考を打ち切って画面に目をやり、『カナヅチ』という項目に意識を向ける。すると今までと同じように『メニュー』はその表情を別のものへと変化させた。現れる活字と図解の混合物。機能的な項目には見えない。やっぱり、説明欄のようなものなんだろうか。
悪魔の実。超人系。精神体侵食現象。汚染度安全域。霊素と魔素の結合云々が何々反応。色々な事が書いてある中で、『海に嫌われて泳げなくなる』というシンプルな一文が妙に心に残った。
これが原因だったんだろうか。私が水を気持ち悪いと感じてしまったのは。
呆けたように説明文を見つめる。頭が真っ白になるというよりは、何だかぼうっとするというような感じだった。思考が続かない。何時間も勉強した後にシャワーを浴びて、更にその後机に向かった時に感じるふわふわとしたものに少し似ている。
そこでもういいやってなるかまだいけるってなるかでテストの点数が大体決まってしまうんだ。なら、今はどっちなんだろう。
疲労を振り切ってどうにか頭を働かせる。
そうして時間を掛けて説明文を読み込んでいくと、私にはその内容を殆ど理解できないという事が分かった。
問題なのは知能か知識か。どっちにしろどうしようもない事に変わりは無い。私は『カナヅチ』という病名の病気に罹って、何らかの要因により泳ぐ事ができなくなってしまったんだ。
そしてそうなった理由ももう分かっている。私が『悪魔の実』を口にしたからだ。
記憶がフラッシュバックする。
波打ち際で静かに揺られていた、渦巻き模様の奇妙な果実。朦朧とした意識の中、飢えた獣のように皮ごと噛り付いた微かな記憶。それ等全てを塗り潰す、想像を絶する凶悪なまでの不味さ。
思い出した。ちゃんと覚えている。今ならはっきり思い出せる。
私はあの時、確かにそれを食べたんだ。
後悔していない、なんて口が裂けても言えない。
言える訳が無い。だって、泳げなくなっただけじゃないんだ。そうじゃなくて、『カナヅチ』とかいう病気に罹っていて、それで泳げなくなってしまうくらいに身体がおかしくなったんだ。
水に触れると、力が抜ける。一体何故? どんな理由が有ってそんな訳の分からない事が起こるのか。どう考えてもまともじゃない。力が抜けるってどういう事だ。筋肉が弛緩してるだけなのか。もしかしたら神経にも異常が出てるのかも知れない。長期的な影響はどうだ。身体が動かせなくなったまま、元に戻らなくなったら。
それは、とても怖い事だった。説明文を見れば分かる。意味は分からなくても不穏さが伝わらない訳じゃない。私の身体に何か大変な事が起こっているんじゃないか。そんな風に考えて、不安で胸が締め付けられる。
――だけど、そのお陰で『メニュー』を使えるようになったというのも事実だった。『カナヅチ』になるだけで命が助かったなら儲けもの、なんだろうか。多分そうだとは思う。いや、絶対にそうだ。ちょっと水に弱くなったくらい、身一つで無人島を彷徨うのに比べたら全然怖くない。
何だか冷静になって考えたら意外と大した事無いような気がしてきた。そのせいでまた死に掛けたというのも有るけど、それとこれとは話が別だ。結果的に私が今生きているのは泳げなくなったからで間違いない。しかも、あそこで悪魔の実を口にしていなければあれ以上に酷い目に遭った末に苦しんで死んでいただろう。想像するだけでぞっとする。
ついでに言うと、水に弱くなったとは言っても完全に触れられなくなるという訳でもないようだった。それはさっき普通にシャワーを浴びられていた事からも分かるけど、身体の大半が隙間無く覆われない限りは無視できる程度の影響しか受けないらしい。
ただやっぱり後遺症とかが残ると怖いから、あまり過信するのも良くないとは思う。それでも、その事実が私に与えてくれる安心の気持ちは大きかった。具体的には、この体質を受け入れて生きていこうと思える程度には。
実はもう一つだけ理由が有る。
何だかんだと騒いでいるけど、『メニュー』を使えば案外あっさり治せちゃうかも知れないじゃないか――
これで書きたい事は大体書けました。次でまとめに入ります。丁度最終推敲も済んだところなので、このまま一晩寝かせて、何事も無ければ投稿しようかと。