クラス丸ごと異世界漂流記~神と勇者と禁断の果実~ 作:レイブラスト
一真達がノルトマルクを発ったのと同時刻。次元の狭間にて意識だけの存在になっていたゼウス神に、青年の声が聞こえてきた。
『おいゼウス。少しいいか?』
『構わんぞ』
『貴様が目を掛けた夕凪という男だが、果実を手に入れたのか?』
『ああ、無事にな』
『ではその後の経過はどうなっている』
『私の予想してた通り、果実の力を正しきことに使っているぞ』
『フンッ、どうだか。いずれ力に飲まれて暴走するんじゃないのか?』
笑みを浮かべるゼウスに対し、青年は腕組みをした状態で鼻で笑った。
『気になるなら、自分の目で確かめてみるといい』
『……まさか貴様がそんなことを言うとはな。だが、ここはそれに甘えさせて貰うとしよう』
サクラハリケーンを走らせる一真の姿を映像で見ながら、青年は誰かと見比べるかのような目になっていた。
「……お。何か見えて来たな」
バイクを走らせ続けてしばらく経った頃。ジェルローナと思われる建物群が目に映った。
門の近くでバイクを止めると、セシルが降りて門番の人に向かって行って事情を説明する。サクラハリケーンを仕舞いながら近づくと、門番の人は一礼してどうぞを手を差し伸べた。
「入ってもいいってことか?」
「ああ。ほら、行くぞ」
セシルの後に続いていく。
「そういや、セシルはここの地理とか知ってるのか?」
「前にレオンさんと来たことがあるんだ。その時、もし1人になっても迷わないようにと教えられたんだ」
説明を聞いてなるほどと思っていると、丁度お腹から「グゥ~」と音がなった。……考えてみれば、昨日の夜から何も食ってなかったっけ。
「王宮に行く前に、腹拵えが必要だな。よし、とびきり美味い店を紹介するぜ」
「本当? ありがとう」
礼を言うと、セシルは照れたように顔を逸らし、「こっちだ」と俺を引っ張って行った。何か笑みが零れる。けど……周りからの視線に奇異のものを感じる。ダークエルフが人間と仲良くしているのは、そんなに信じられないことなのか?
「えっと確かここに……あ、あった」
(ま、いいか。俺はセシルを心から好きになったんだ。誰が何と言おうと、それを貫くのみだ)
店(レストランのような内装をしている)に入った後、俺は手近な椅子にテーブルを挟んで座り、注文して出てきた料理を食べている。
「あむ……むしゃむしゃ……これ凄い美味いな」
「ファイヤートードの肉だからな。そりゃ美味いさ……はむ」
「セシルは何食べてるの?」
「これか? シードレイってのの肉だ」
「ふうん」
何の肉かはさっぱりだが、美味けりゃ何でもいいやと思い、夢中になって食う。どことなく鶏肉のような味がするが、ファイヤートードって取りなのかな?
「…おい、少しいいか」
「ん?」
突然聞こえた男の声に顔を上げると、セシルはおらず代わりにある人物が腰掛けていた。
「っ!? あ、アンタは……!!」
黒と赤のジャケットを着込んだ20歳前後程の容姿の青年。俺が地球に居た頃に見てたドラマに登場した、主人公のライバル。
「駆紋、戒斗!?」
「落ち着け。そんなに驚くことでもないだろ?」
呆れるように言うが、そんな訳あるか! ドラマの登場人物が目の前に現れたんだぞ!? 演者じゃなくて、れっきとした個人として。これに驚かなかったら何に驚けと言うんだ!!
「……確かに貴様にとっては現実味が無いかもしれんが、今は無理にでも受け入れて貰うぞ。少々聞きたいことがあるのでな」
「き、聞きたいこと?」
「ああ。貴様が手に入れた黄金の果実の使い道を、な」
彼の、駆紋戒斗の言葉に息を呑んだ。何故俺が果実を手に入れたことを知っている?
「どうするつもりだ? 葛葉のように今の世界を守るのか、俺がしようとしたように今の世界を滅ぼすのか」
「え…えっと……俺は……」
有無を言わさず問いかけてくる彼に、戸惑いながらも考える。
黄金の果実……その強力な力で俺や、分け与えたセシルまでも神の領域へと至らしめた。世界を滅ぼすことは簡単にできる。でも……。
「……わからない。そもそも今居る世界をよく知らないし、何が敵なのかすらもわかってないのに……」
「それもそうか……ではこれならどうだ。お前を除け者とした連中が、この国で好き放題悪事を働いているとしたら―――ソイツ等を貴様は殺すか?」
「っ!?」
今なんて言った? 俺のクラスメイトが、ここで好き放題しているだって? ……あり得なくはない。ただ大事なのはそこではなく、俺の手で彼らを殺すかと問われたことだ。確かに俺は、クラスメイトに執拗に虐められてきた。竜也と紫音の支えがあったとは言え、生きてるのが辛いと思う程に。憎んでいると言っても過言ではない。
「俺は……そんなことはできない。散々酷い目に遭ってきたけど、だからって殺したら、誰かが悲しむから…………もう悪いことができないように懲らしめるとかじゃ、だめなのか?」
「いや…別に構わん。ただその場合、奴らを言い負かせるだけの話術が貴様にあるかが懸念だが」
「っ…………」
「その様子だと無理なようだな。だが心配するな。俺が貴様の代わりに、奴らに声を届けてやる。勿論戦闘は任せるが」
「え?」
意味がよくわからない。代わりに声を届けるって……俺の身体を、声だけ借りるつもりなのか?
「……そろそろ時間だ。では貴様が奴らと対峙する時まで、俺は『向こう』で待っているぞ」
彼が席を立ち、背を向けて歩き出す。
「あ、ちょっと―――」
それに思わず手を伸ばしかけた、その瞬間。
「どうした一真? ボーッとして」
先ほどまで彼が座っていた場所に、セシルがいた。
「え? いや、だって……」
再び目を向けるが、既に彼の姿は店のどこにもなく、外へ出た様子もなかった。
「知り合いでもいたか?」
「……いや、俺の見間違いだったようだ」
「そっか」
(今のは何だったんだ? 俺にしか見えてなかったようだが……幻覚か? それとも…………)
ついさっきまで俺に語りかけていた『駆紋戒斗』のことを考えながら食事を続けたが、そのせいでよく味わうことができなかった。
食事を済ませた後、俺は再びセシルに連れられて王宮へと向かっていた。この国の王様とも挨拶しなくてはいけないのか……緊張する。
「そう気張る必要はないって。エリック王は親しみやすい人だって、レオンさんから聞いてるし」
「え、そうなの? でも最低限の礼儀は弁えないと」
「そりゃ確かに…………ん?」
急に目の前に人集りが見えた。喧嘩でもあったんだろうか? 何となく気になって2人で最前列へと歩いていくと……。
「あ、あの、もうやめて下さい……」
「えー? 連れないなぁ。じゃあ別の店はどうかな? 他にも良いとこ知ってるんだよね」
「い、いい加減にしろ! 嫌がってるじゃんか!」
「あ゛ぁ゛? テメェまだ俺達に逆らう気かぁ!?」
「ぐはっ!!」
男子1人が女の子を強引にナンパしており、止めに入った男の子をもう1人の男子が殴り飛ばしていた。
(………………………………………………………………え、何これ? アイツ等何してんの?)
隣で目を丸くしているセシルとは(多分)違う意味で驚いてしまった。だってあの2人―――俺のクラスメイトだもん。
1人は
「一真、どうやらあの2人は召喚された勇者らしい。好き放題しまくって治安悪化させてるって話だけど…………勇者って何だっけか?」
周りの人に話を聞いたセシルが呆れながら言う。うん、俺も全く同じこと考えてた。やってることが勇者じゃなくて、完全に悪人側だもの。
セシルはともかく、俺にとっては一応顔見知りの行いなのでどうしようか考えていると、そこに2人の人物が割って入った。
「やめろお前等!」
「君達、大丈夫か!?」
(っ、竜也……!!)
その内片方は俺の親友である竜也だった。もう1人は金髪で甲冑を纏った綺麗な女性だが……。
「誰、あの人?」
「彼女はディオナ・エンゲルス。エリック王の娘で、姫であり騎士をやっている人だ」
つまるところ姫騎士と。初めて見るな……と、いつの間にか別の方向から人が現れたぞ。あれは……紫音と、
「チッ、またお前等か……何度俺達の邪魔をすれば気が済むんだ?」
「お前等が何度も同じことするからだろ! 周りの人達に迷惑かけやがって!」
「一々ウゼェったらありゃしない……てか絵美理。お前何紫音の奴に捕まってる訳?」
「それがさ、そこの店で男漁りまくってたら、いきなり怒鳴られて。マジウゼーって感じ?」
「何が男漁りよ。ほとんど年端もいかない子供だったじゃない!」
「いいじゃん別に。私、可愛い男の子が大好きなんだもん」
嘘!? そういう噂が耳に入ったことはあったけど……マジでショタコンだったのかよアイツ!?
「巫山戯ないで! なんの権利があってこんなことを!」
「は? そんなの、俺達勇者だから何したっていいに決まってるじゃん。なんせ、特殊部隊を結成する為に呼ばれたんだし」
「だとしても、君達のやっていることは常軌を逸している。これ以上言うことが聞けないのなら、私にも考えがあるぞ」
「ほう? だったらどうするって言うんですか? 俺達とレベルが10以上も離れている、ディオナた・い・ちょ・う・さ・ん?」
「まあ別に俺は構いませんけどね? 強気な女を屈服させて、身体の隅から隅まで犯し「やめろ!!」」
ディオナさんという女性に手を伸ばした大山の手を、竜也が間に立って払いのけた。
「この人に手を出したら……ただじゃ済まないぞ」
互いに睨み合い、周囲がシンと静まり返る。やがて、柏木が降参したかのように舌打ちをした。
「興が削がれた。行こうぜ、卓。絵美理」
「……俺達も行こう、紫音。ディオナさん」
そう言うと竜也達は王宮へ、柏木達はどこかへ行こうとした。が、大山が立ち止まると竜也達を「あ、ちょっと待った」と呼び止めて言った。
「ずっと疑問に思ってたんだがよ……何でお前等は俺達が間違ってるって言うんだ? 弱者は強者に従うもんだろ? 俺達強者は、その特権を自由に使ってるだけだってのに」
瞬間―――俺の中で何かがキレた。
強者だと? その言葉をお前等が使うな。真の強者とは、誰かを思いやったり弱者が虐げられないようにするものだろ!
「…悪い一真。俺、もう我慢の限界だ。あの野郎共をぶちのめして「いや、それは俺の役目だ」え?」
小声で言うセシルを制止し、一歩前へ進むと急いで言葉を用意し、話そうとする。が―――
「フン、何が強者だ。己の力に酔っているだけのクズが、調子に乗るなよ?」
―――口から出たのは、俺の意志とは全く関係のない言葉だった。