クラス丸ごと異世界漂流記~神と勇者と禁断の果実~ 作:レイブラスト
あの後王宮に来た俺とセシルは、ディオナさんに案内されるまま玉座がある滅茶苦茶広い場所に着いていた。
そこにはエリック王らしき人物と、先ほど懲らしめた3人含むクラスメイト達全員がいた。しかも俺の方をじっと見ている。
「アイツが柏木を倒した男……」
「一体何者なんだ……」
「でも凄いイケメンね。新しいセフレに欲しいくらい」
「あら、私のにするに決まってるでしょ」
おい女子共、下品すぎるぞ。紫音は顔真っ赤にしてるしディオナさんは呆れてるし、セシルは……首傾げている。何も知らないのが功を奏したか……。
「あ、お帰り。丁度今から集会を始めようと……ってその人達誰?」
「お父様。この方達は―――」
ディオナさんが近寄ってひそひそと耳打ちすると、エリック王は「ふむ」と顎に手をやって話し始めた。
「いいかいみんな? 今日の集会は大事なものとなった。静かに、心して聞くように」
と、先ほどまでざわざわしていたクラスメイト達が静かになった。先生の言うことはちゃんと聞く奴らだから、エリック王の言うことも聞くんだろう。……目の届いてないところで暴れていたが。
「今から言うことは本来ならまだ先のことだったんだけど、友好関係にあるノルトマルク国からの人材派遣が思いの外早く来たから繰り上げて話すことにする」
この前置きに、ひそひそ声で「人材派遣ですって? 私達が居るのに?」、「最初は2人程召喚する予定だったから頼んでおいて、今更断れないんじゃないか?」とクラスメイト達が推論を述べる。割と正しい意見かもしれないな。
「君達が所属している特殊部隊に、待ちに待った任務を与えようと思う。内容は、ここから東へ向かったところに存在する魔族達の国、シュタリウスである調査を行って欲しいんだ」
魔族達の国へだって!? しかも推測だと任務はみんな初めてなんじゃないか? ほら、動揺が走ってるし。どういう神経しているんだ?
「みんなが困惑するのもわかるけど、これにはちゃんと理由があるんだ。……君達を召喚する以前に、先代の王から膠着状態にあったシュタリウスの王から、和平の言伝があったんだ」
『『『和平!!??』』』
うおっ!? みんなが驚く声にびっくりした……でも実際驚くよな、戦うと思ってた相手から和平が持ち出されているだなんて。
「う、うん。と言っても簡易的なもので、詳細は向こうにこちら側からの使者を送った際に話すと言われたんだ。ただ召喚した時に言ったようにこの国は人材不足で、隣国からの派遣の届け出と勇者召喚をしたんだ。勇者と魔王が和解すれば、平和の象徴にもなるからね。……こんなに来るとは予想外だったけど」
そりゃ39人も召喚されるだなんて誰も思わないよ。でも勇者と魔王が手を取り合うのか……いいなそれって。
「後、ノルトマルクから派遣された人達もこの任務には参加してもらうことになるけど……大丈夫かな?」
俺とセシルを見てエリック王はそう言ってきた。
「俺は特に異論はありません。魔族との和平は、俺達の種族と人間との確執を払える切っ掛けになるかもしれませんから。……一真は?」
「俺もセシルと同じく、異論はありません。戦わないに越したことはありませんから」
「そうか…ありがとう、感謝するよ。あっ、そう言えばまだ自己紹介をして貰ってなかったね。良かったら僕達に名前と腕前を教えてくれるかな?」
っと、この時が来たか。俺の名前を言ったら、みんなどんな顔になるのやら……見物っちゃあ見物だが。
考えているとセシルが先に自己紹介を始めた。
「俺はセシル・フェイスフル。種族はダークエルフだ。腕前は、S級ハンターって言えばわかるか?」
クラスメイト達が顔を見合わせる。大方自分達と同じ実力を持ってるとか思ってるんだろう。確かに見かけのデータは大差ないかもしれないが、真実を知ったらどうなることか。
……さて、考えはここまでにして次は俺の番だ。
「自己紹介する前に聞きたい。みんなは俺のことを知っているか? どっかで見たとか、アイツに雰囲気が似てるとか」
全員が頭を振った。完全に気づいてないみたいだな……俺の存在は彼らにとってそこまでのものということか。
「……俺の名前は夕凪一真だ。みんな知ってるでしょ? ちなみに実力は…エンペラースコルピオンをぶっ倒した」
名前を聞いた瞬間、「えええええええええっ!?」とクラスメイト達の驚愕の合唱が起き、エンペラースコルピオンの辺りでエリック王が椅子からずり落ち、ディオナさんが一歩退いた。え、そんな影響力あるの? あの巨大サソリ。ノルトマルクだけの話かと思ってた。
「う、疑う訳じゃないけど、それが本当なら君はとんでもない実力の持ち主だね……! ていうか、みんなと知り合いなのかい?」
「はい。ただ、あんまり良い思い出はありませんけど」
「虐められてたのか?」
「ええ、まあ……多分これからもやられるんじゃないかな?」
ちょっと冗談っぽく言うと、クラスメイト達から弁解の声が上がった。「そ、そんなことする訳ないだろ!」や「そうよ! イケメンになったんだからしないって!」、「後で一発ヤらしてあげるから許して!」だの…………正直、呆れて物が言えない。
「なるほど……勇者として召喚された割には、どいつもこいつも性根の腐った奴ばかりだな。…あ、お前達は違うからな」
同じく呆れたセシルがため息をつきながら言い、すぐに竜也と紫音に訂正する。2人も同じ気持ちなのか、気にしないでと呟いてた。
「何はともあれ、彼らと協力して任務に臨んでくれ。いきなり大仕事で不安もあるだろうけど、特に心配することもないよ。今代の魔王は非戦派の考えの持ち主だと聞いてるからね」
非戦派だって? 魔王が? そりゃ確かに珍しいって言うか、掟破りだな。最近のラノベとかにはそういったものも幾つかあるけど。むしろ勇者と魔王がくっつくのもあるし。
……ん? またクラスメイト達がひそひそ話している。
「おいおい、非戦派魔王とかマジかよ。萎えてきたわ」
「敵の下等生物共をぶっ殺せると思ってたのに、マジねーっての」
「いっそ魔王を暗殺しようかしら?」
「いい考えだなそれ。理由とかも向こうが先に襲ってきたと言えばいいし、俺達も英雄扱いで毎日が天国だ」
バカだ。バカすぎる。なんでこうも好戦的なんだコイツ等は……日本人だろ? 平和主義者だろ? 争いの火種作ろうとするなよ。
「予め言っておくが、勝手なことをするような者が居たら、私が遠慮無く相手になるからそのつもりで」
今のを聞いてたのか聞いてなかったのか定かではないが、ディオナさんが釘を刺した。これで大人しくなってくれるといいんだけどなぁ。
「ところでお父様。出発時刻はいつ頃ですか?」
「そうだなぁ。馬車の準備もあるし、一時間後でいいかな?」
「わかりました。皆もそれでいいか?」
確認を取ると、揃って頷く。
「よし。ではこれから準備にかかる。皆は各グループ毎に纏まって、荷物のチェックを行うように」
グループか。今思い出したけど、この世界に来る前に5人一組のチームを作ったんだっけ(俺だけハブられたが)。となると―――
「俺もどこかのグループに入った方がいいかな?」
「でもどこに入るんだよ?」
「うーん…「俺達のグループはどうだ?」竜也? いいのか」
「俺と紫音の居るグループは人数不足で4人しか居ないんだ。だから是非とも入って欲しい」
「なら俺は入るけど、セシルも一緒で大丈夫?」
「カズ兄の恋人だもの。むしろ歓迎するわよ!」
「お、おう。ありがと」
照れるセシルに笑みを浮かべながら、残り2人のメンバーは誰なのか周りを見る。すると見覚えのある2人が近づいてきた。
「柏木に深田? 何で…まさか竜也と紫音のメンバーって、この2人?」
「その通りだ。だから色々注意してるんだが、聞いてくれなくてな」
「まあまあ、細かいことは良いじゃないの」
「あれのどこが細かいって言うのよ……」
「…………おい」
何故か柏木が俺を睨みながら近づいてきた。さっきのことを恨むのならお門違いだと思うんだが……。
「あの時お前が勝ったのはただのまぐれだ。この世界で最強なのはこの俺だ。この世界で一番イケメンなのもな。お前なんかが俺よりイケメンになる筈がない。魔族の女共も、きっと俺の方に寄りつくさ」
それだけ言うと、1人でさっさと行ってしまった。……一言だけ言わせてくれ。アイツ、あんな痛い奴だったっけ?
「こっちに来てからあんな調子さ。増長してるんだよ」
「増長ねぇ。彼らしいと言うかなんと言うか。てか今、心読んだ?」
「顔に出てた」
「嘘っ」
ちょっとした事実に驚きながら、俺は竜也達の準備を手伝った。
一真達が準備に取りかかっている頃、魔族達が済むシュタリウスの城の玉座では、魔王であるマントを羽織った人物が水晶玉を通して誰かと会話していた。
「そうか、ついに動き出したか……で、いつこちらに着く?」
『馬車の準備などもあり、三時間程かと』
「わかった。引き続き内偵を続けてくれ」
『了解しました』
水晶に映ったものが消えると、彼は一息ついて椅子にもたれかかった。
「お疲れですか、ソウジ様?」
彼の傍に控える4人の人物の内、長身の男性「ディクドース」が尋ねる。
「少しな。だが心配するほどではないぞ、ディクドース」
「そうそう。アンタは心配性なのよ」
「しかしフィロナス。一月前の勇者召喚が行われてから、総治様はお疲れになられている」
「仕方ないわ。召喚された勇者の人数と性格を知ったら、誰だって疲れるわよ」
「あー……エルフィティル、一時期混乱しまくってたもんね」
長髪でスタイルの良い女性「エルティフィル」がため息をつき、ピンクの髪の小柄な少女「フィロナス」が苦笑しながら頬を掻く。
「なんせ39人も召喚された上に、内2人を除く全員がかつての魔王軍も真っ青な程に好き勝手やっているのだからな……」
腕を組んだ大柄な男性「ヴェルク」が呆れた様子で言った。
「何だっていい。例え相手がどんな奴だろうと、俺は俺を召喚してくれた先代の想いに応える。だからこの対談は、何としても成功させる」
強い決意を秘めて宣言する魔王。実は彼もこの世界の住人ではない。
かつて先代魔王率いる魔王軍が先代国王率いるジェルローナ軍と休戦してしばらく。先代魔王はこれ以上犠牲を増やすのを嫌い、ジェルローナとの和平を目指すことを決めた。しかしその時には既に先代魔王は年老いており、とても成し遂げられそうではなかった。誰かに跡を継がせようにも、彼には子供が居なかった。そこで先代魔王は、別世界から新たな魔王となるのに相応しい人物を召喚魔法で呼び出すことを決めた。
そして召喚されたのが現魔王「ソウジ・ミナモト」。一真達同様の日本人だ。
召喚されたことに総治は戸惑っていたが、先代魔王の信念を聞き即座に魔王を継ぐことを決めた。先代に仕えてきた四天王達から魔王として必要な知識や武術を学び、やがて先代魔王から先祖代々受け継がれている魔王の力を受け渡され、彼は新たな魔王として君臨。ジェルローナとの和平に向けて身を乗り出したのだ。
(思えば一番驚いたのは、力を受け継いだ時だな。どう使うのかディクドースに聞いたら、「貴方自身の思い描く悪魔を強くイメージするのです。そうすることで、その者の力を使うことができます」って言うから思わず『アレ』イメージしたら、本当になったもんな)
変化させ、黒い鋼鉄となった右腕で傍に立て掛けられた大きな銀色の剣の柄を掴む。
(俺を殺すつもりならやってみろ、偽勇者共。増長しきったお前等の心を粉々に打ち砕いてくれる)
心労の原因である勇者達のことを考え、ソウジは拳を強く握り締めた。