接戦に接戦を重ねた結果、最終回。点数は11対9の2点負けてはいるものの、こちらの次の打順は1番からだ,この回をせめて2点いないくらいに収めれば逆転は可能だ。
「しまっていきましょう」
扶桑さんの落ち着いた声に、全員が「おーっ!」と答える。さて、使うならこの辺だろう。天龍に教えた隠し球。キチンと前もっていってあるし、あいつが覚えてれば大丈夫なはずだ。
相手のバッターボックスには三番の加賀さん立っている。天龍は無駄にロージンバックをポンポンとやったあと、キャッチャーミットを睨んだ。扶桑さんにはちゃんと教えてあるし、問題ない。いいな、それを使うのは2ストライク取ってからだぞ。
「オラァッ‼︎」
天龍は威勢良く球を投げた。が、あのアホタレは1球目から隠し球を使ってくれた。
『おーっと、これは!………衣笠分かります?』
『待って、今調べ……チェンジアップね』
『チェ、チェンジ?』
『アップ』
『チェンジアップです!』
『それよりなんか木属性攻撃回復とか言われたんだけど。どうしようバステトパで来ちゃったよ……』
もうあいつらの実況は無視だ無視。ていうかさ、1球目からストレートも投げずにチェンジアップを投げるかね普通。バカなの?死ぬの?しかも連投。
案の定、ストレートが無ければ大した変化球になるわけではないチェンジアップをバカスカ打たれ、ライトに飛んだ打球以外はアウトにし、ワンアウト満塁。追加点も取られて14対9。俺を恨みがましい目で見る天龍。
アホか、お前が言うこと聞かねえからだろ。仕方ねえな。俺は扶桑さんをチラッと見て眼帯を直した。これはタイム取れのサインだ。
「鳳翔さん、たいむ」
「わかりました」
で、マウンドに集まる内野と俺。本来なら内野手しか集まらないのだが、まぁ俺は特例。一応監督ですし。
「おい木曾!テメエ全然あの球使えねえじゃねぇか!」
「使えねーのはテメーだよハゲ。お前あれストレートと一緒に使わないと無理だっつったろ」
「そんなんわかんねーだろ!」
「分かってたことだろ。俺が言っといたんだから」
で、俺はため息をついた。仕方ない、最終手段だ。
「おい天龍、三振は取らなくていい」
「はぁ?」
「打たせて取ることも投手には必要だ。この回はこれ以上の失点はダメだ。俺たち野手にとってもな」
「………分かったよ」
「なるべく外野には飛ばすなよ。俺以外ヒットになりやすいからな」
「ああ、分かったよ」
俺の言いつけを守ってか、これ以上の追加点はなし。チェンジだ。
「いいか天龍。飛んでくるボールが提督の顔面だと思って打つんだ」
「おう!」
「木曾?後で覚えてなさいよ?」
提督の声が聞こえたが、こっちは聞こえないフリ。しかもこのアドバイズが上手くいってか、提督の顔面目掛けたライナーで、センターまで飛ばした。
「響、いいか?このバットは特別製でな?芯に当たると絶対に宇宙まで……」
「そういうのいい。響、出撃する」
とててとバッターボックスに向かう響。ちょっと死にたくなりました。で、響も小さな体から出るとは思えないほどの強烈な当たりで、サードのグローブをぶっ飛ばして内野安打。3番バッターの俺だ。ノーアウト1、2塁。
ここはしっかり決めねえとな。
「木曾ー!打てー!」
「てめっ打たねーとあれ……なんか、なんかするぞ!」
ベンチや2塁ベースから声が聞こえた。てかなんかってなんだよ。それに、言われなくても分かってんだよ。ここで決めねーと、男じゃない。…………あ、俺今女か。
「ッ!」
1球目を思いっきり振り抜く、バギャッ‼︎と鋭い音を立てて思いっきり振った。
『おーっ!これは……!』
だが、その打球はギリギリファール。
「ふ、ふぁうるぼうる!」
ラフプレーの多いボーリング場の名前のような発音で鳳翔さんは言った。なんでこの人、カタカナは発音できないんだろう……。そして、2球目。
「っ!」
もう一度フルスイング。今度こそ真正面に飛び、打球はグングンと飛んでいく、が、風が吹いた。
「マジ……?」
勢いは殺され、センターの島風の頭を越えたあたりでバウンドし、転がっていった。
「っにゃろッ‼︎」
ギリギリ、ズザザッとスライディングし、スリーベース。ちっ、ホームランの予定だったんだが……まぁいいか。
続くのは4番扶桑さん。
「…………」
頼みますよ……。ここでデカイの……!デッドボールね。ていうかいい加減かわいそうになってきたな……。まぁこれで1、3塁。5番翔鶴さん。だが、その後の翔鶴さんは三振し、大鳳の綺麗なレフト前で俺は帰ってきて、再び1、3塁。暁の三振で2アウト1、3塁。点数差は14対12。
続くバッターは電。これまでの電の打席にヒットはない。
「は、はわわわわわ………」
見るだけでもテンパってるのが分かる。
「電」
俺が声をかけると、ビクビクンッと飛び上がる電。
「な、なんですか……」
「気楽に行け。負けたら負けただ」
「…………り、了解なのです」
………了解してねえよそれ。俺は電の頭をワシワシと撫でた。
「は、はわっ⁉︎」
「大丈夫だ。落ち着いていけ」
「…………」
おっ、落ち着いた。ていうか、落ち着き過ぎかな?ポワポワした笑顔になってますよ?
「もっと撫でて欲しいのです〜………」
「打ってきたらな。ほら行け」
「なのです!」
そのまま元気に打席に向かう電。ビヨンドを持って。オイオイ、お前そんなもん振れんのかよと思いながらその背中を眺めてると、膝の上に響が乗ってきた。
「あ?」
「撫で撫でを要求する」
「なんでだよ」
「電だけ、ズルい」
俺はため息をついて響の頭を撫で始めた。なんとなくピッチャーマウンドを見ると、提督はすでに勝気な笑顔を浮かべていた。あの野郎、すでに勝った気でいやがる。そうやって余裕ぶっこいてると痛い目みるぜ。そのまま提督はスローボールをなげた。完全に遊ぶつもりだ。その時だ、
「なのです!」
1球目、フルスイング、芯に直撃、打球はセンターの頭を遥かに超え、ホームランラインのネットを越えた。
「……………は?」
誰かが、もしかしたら俺だったかもしれない。とにかく誰かが声を漏らした。しばらくシンッとする。
『ホームラン!逆転ホームランです!』
青葉がその静寂を破り、残りの全員がうわあああっと声を上げる。全員がダイヤを周り、ホームベースを踏んだ瞬間、全員で電の元へ向かった。
『電ァァァアアアアッッ‼︎』
「ひゃあぁぁぁぁっっ‼︎」
そのまま電を胴上げ。
「勝った!焼肉!やった!」
「よくやったわ電!」
「さすが私の妹ね!」
「はらしょー」
「お、降ろしてください〜!」
そうは言いつつも嬉しそうな電。ザマーミロと思い提督を見ると、正座していて、目の前には加賀さんが仁王立ちしている。
「何?最後の球は」
「ごめんなさい……」
「謝って欲しいんじゃないの。何って聞いているの」
「遊んでました……」
「分かっていたの?これ、罰ゲームあるのよ?あなたはお金で済むかもしれないけれど、私達はこれから4倍よ?」
「すいませんでした……」
「………とにかく、後で覚えてなさい」
加賀さんこえーな。
「さて、焼肉!焼肉行こうぜ!打ち上げだ!」
天龍が言う。
「そうね。提督の奢りみたいだし」
翔鶴さんが言いながらその提督を見て微笑んだ。
「電は特等席な!俺の肩車だ!」
「は、はわわわ〜!」
そのままの勢いで俺たちは提督からお金もらって焼肉に行った。