演習場。ドォンッ、ボォンッと砲撃の音が聞こえる中、ビシュッと一つだけ異質な音がする。
「………なんで演習で投球練習してんだ俺」
「そりゃ、あんたはこれからそれで行くからよ」
思わず呟きを漏らした俺の後ろから声がした。
「誰?」
「失礼ね!瑞鶴よ!」
「………誰?」
「野球に出てたじゃない!」
「台詞一つもなかったから分かんなかったわ」
「黙りなさい!」
で、その瑞鶴さんは一息つくと続けた。
「次の出撃、あんたと私一緒の艦隊だから」
「あん?」
「あんた明日、初出撃なんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「足、引っ張んないでよね」
「アッハイ」
なんだあいつ。まぁいいや、今日は絶好調。フォークも上手く落ちるし。………深海棲艦に変化球の練習してどうすんだよ。
○
「瑞鶴が?」
間宮アイスのところ。翔鶴さんと二人でオヤツタイム。
「ああ、なんか戦線布告でもしに来たのか?ってレベルでなんか言われなんだが」
「ああ、それは多分嫉妬ね」
「はぁ?」
なんで女に女が嫉妬すんだよ。なに、レズなの?シスコンかあいつは。
「この前の野球の打ち上げの時、私酔っ払ってあなたにキスしたじゃない?」
「いっ……⁉︎」
そういやそうだ。俺のファーストキスは目の前の白髪に奪われたのだ。
「あの時の話はやめろ!」
「ふふふ、あの時の木曾ちゃん可愛かったわよ」
「嬉しくねんだよ!いいから話を進めろ!」
「そうね。それでね、その時の様子を瑞鶴に見られてたみたいで」
「それで嫉妬だ?俺完全に被害者じゃねぇか。いい迷惑だ」
「まぁあの子は我儘なところがあるから。仕方ないのかもしれないわね」
「仕方ないですませんなよ。どういう教育したんですかあなた」
「甘やかしすぎたのかもしれないわね」
「かもしれないんじゃなくて、純度100%でその通りだよ」
言いながら俺はアイスを一口。うまっ。
「まぁ、そういうことなら私からも言っておくわ。ごめんねうちの妹が」
「いえ。気にしないでください。翔鶴さんは悪くありません。翔鶴さんの教育が悪かったんです」
「結局、私が悪かったのね……。じゃ、私はもう行くわね。このあと、瑞鶴と約束があるの」
「うーっす」
そのまま翔鶴さんは立ち去った。……あの野郎、アイスの金置いてってねぇ。
○△
夜。風呂上がり。すっかり自分だけで風呂に入るのはなれた。と、いうよりも、「所詮自分の身体」という潜在意識があるのか、自分の全裸を見ても何も感じない。おそらく妹の全裸を見ても何も感じないのと同じ原理だろう。
で、球磨型の部屋。
「ただいま〜」
「お、木曾!帰ってきたにゃー!」
ダキッと抱き着かれる。
「なんだよ。また膝枕か?」
「今日は耳掃除にゃ!」
「結局膝枕じゃねぇか……」
そのまま座布団を出して敷いて、正座すると膝の上に多摩が頭を置いてきた。
「あっ、北上姉ちゃん。耳糞取るやつ取って」
「はーい」
そのまま耳掃除。
「そういえばさー。明日、木曾っち出撃でしょ?初の」
「ああ、そうだけど?」
「大丈夫?緊張とか。もしアレならスーパー北上様が……」
「問題ない」
「ああ、そう……」
何を言おうとしたのか分からんが、過剰反応した俺をからかう気だったんだろ?なら最後までは言わせない。
「ちょっと木曾ちゃん?北上さんの言葉を途中で遮るなんていい身分ね」
シスコン軍曹大井さんが口を挟んできた。
「はいはいごめんなさい。で、明日の出撃メンバーって誰なんだ?」
「あなたねぇ……そのくらい自分で把握しときなさいよ」
「いやそんな暇ないんだよこれが……。毎日投球練習しないと腕は鈍るし、ちゃんとマッサージもしないと肘壊すし」
「ふーん……そっか、あなたはの武器は腕だったわね……」
骨折とかした暁には今度こそ解体処分だ。撃てないし俺。
「おら多摩姉ちゃん。反対向け反対」
「にゃ〜……」
言うと、可愛く返事をしてひっくり返る多摩。はぁ、出撃メンバーは俺と瑞鶴は分かってる。後は誰なんだろうな。