「ッ」
ドォンッ、ズドンッ!と音を立てて投球練習している。非番なのだが、俺にとっては一番落ち着くかもしれない。
「っ」
俺の球種はストレート、フォーク、チェンジアップ、シュートの4つ。自分が投げてて面白そうな奴をチョイスしたんだが、シュートは失敗だった。
「休みの日まで野球なんて精が出るわね」
バカにしたように声を掛けられた。若干、不機嫌混じりに振り返ると、大井が立っていた。
「あれ、お前北上姉ちゃんと出撃じゃなかったか?」
「そうだったんだけど、阿武隈ちゃんが先制雷撃撃てることを知って急に変えられちゃって……絶対に許さないわあのクソ提督」
うわあ……相変わらず怖いなこの女。
「で、なんか用か?俺、投球練習してたいんだけど」
「ああ、そうだったわ。それであなたにお願いがあるの」
「あ?なんだよ。言っとくけど提督に言うこと聞かせろとか無理だぞ悪いけど」
言うと大井は首を横に振った。
「違うわよ。北上さんの代わりに、私とデートしなさい」
「…………は?」
○
バッティングセンター。
「ハァ……ハァ……オイ、デートってこういうことかよ……」
「頑張ってー!貴方にしか無理なんだから!」
ここでネタバラし。このバッティングセンターのホームランゾーンに打球を当てると、北上が前に大井と出掛けてる時に何気なく言った「この鞄可愛いね〜」と、言った鞄が貰えるらしい。ちなみに3万円するそうだ。
「それをプレゼントするためだけに俺は………」
しかもバッティングの金自腹だからね。
「ほら早く当てちゃいなさいよー」
「テメッ……誰のために……うおっ!」
とうとう空振りした。ちなみに今のがちょうど150球目。
「ほらほらスウィングの速度落ちてるわよー」
「黙ってろ!」
クソッ!なんで、休日に、こんな事……!
「っラァ!この野郎ッ‼︎」
もう一度振り回す。それがたまたま芯を捉えたが、ピッチャー返しになってしまった。
「大井、姉ちゃ……ちょっ、きゅうけっ……」
「仕方ないわねー。5分、休憩してもいいわよ」
この野郎……何様だよ……。だがせっかくのお許しだ。文句を言う時間があるならその間に休もう。そう思いつくと俺はベンチに座り込んだ。
「ぁぁああああーっ‼︎疲れたァッ‼︎」
「女の子がそんな下品な声上げないの。飲み物、何がいい?」
「あ?いいよ、自分で買うから」
「これくらいいいわよ。何がいいの?」
「………スプライト」
「了解」
ニコッと微笑んで自販機でスプライトを買いに行ってくれる大井。………疲れたな。こんなにバット振ったのは久しぶりだ。
「はぁ………投げれば届くんだけどなぁ……」
一応、あのマークの正面の打席を使ってはいる。それでも当たらない。というか、高さが足りない。あれ本当にホームランコースなのか?どちらかというとセンターフライにしか見えねんだが……。
「ひゃっ!」
ピトッと急に冷たいのが俺の頬に当たって、変な声が出てしまった。
「はい」
振り返ると、スプライトの缶を持ってる大井の姿があった。
「お前なぁ……。まぁいいか」
「で、どうなの?当たりそう?」
「どうだか、な。ただあんな高い位置にあるんならホームランよりセンターフライを狙うつもりで打たないと無理だ」
「てことは、出来るんだ?」
「その辺は俺の腕次第」
「じゃあ当たるわね」
「なんでだよ。俺バッティングはピッチングに比べてそうでもないぞ」
「大丈夫よ。当たる」
あまりにも真っ向から信じられ、俺は少し引いてしまった。いや大井を引いたんじゃなくて、なんていうの、なんか、こう……引いた。まぁ、そうやって信じられるのは悪い気はしない。
「もう少し、頑張ってみるか……」
「うん、頑張れ」
俺はそう言うとバットを握って打席に立った。狙うはあの看板。バットをそこに向け、しばらく睨んだ後、ピッチングマシンを睨んで構えた。
「……………」
「お金入れないと飛んでこないわよ」
金を入れた。
○△
「〜♪〜♪」
「良かったな」
なんとか当てて、今は大井との帰り道。鞄を持ったまま嬉しそうに鼻歌なんて歌ってる大井に俺は言った。
「うん。これで北上さんとお揃いだわ♪」
「おい待て、お前今なんつった?」
聞き捨てならねぇぞコノヤロウ。
「え?だから北上さんとお揃いって」
「…………北上のために取ろうって話じゃなかったの?」
「誰もそんなと言ってないわよ?この前、北上さんが可愛いって言って買ったから私も買おうと思ったんだけど、一つしかなかったのよ。それでどっかで買おうと思ってたんだけど、そしたらバッティングセンターで見つけたってわけ」
「……………」
マジかよ……俺は、こんな事の為に……いや、まぁよく考えたら誰かのために俺は頑張ったんだから結果的には大して変わらんのだけど……。
「マジかよ………」
思わず声が漏れた。俺の努力は一体……明日、全身筋肉痛で動けねえぞ……。大井は「北上さんとお揃い♪」とか言って浮かれてるし……なんだこのオチ……と、思った時だ。
「それに、あなたにプレゼントしてもらったものを誰かにあげるわけないじゃない」
「……………あ?」
「なんでもない。帰るわよ。そろそろ北上さんも帰ってくるし」
「お、おう」
……ま、なんだ。こういうのもたまには悪くないかもしれない。思わず微笑んで俺は大井の背中を追いかけた。
翌日、やっぱり筋肉痛で動けなかった。