早朝、ゼダスは寮の厨房で腕を振るっていた。全員の朝食、昼食の弁当を作る為に。今日は《特別実習》である。皆が緊張しているであろう中、ゼダスは鼻歌まじりに気楽そーにしていた。
「うん。我ながら上々の出来だ。これなら文句は無いだろ。」
と自身の作った物を評価していた。
全員分のを作り終えたので、一階の広間に出ようと扉に手を掛けたその瞬間、ゼダスは力を入れるのを躊躇った。力が入らない訳じゃ無い。その外に感じる二人の雰囲気が無意識のうちに力を入れることを拒んでいた。それはー
「お、おはよう、アリサ」
「……お、おはよう」
この同班のリィンとアリサだった。入学式のオリエンテーリングで色々あったお二人がた。
特別実習中はずっと顔を合わせるのだし、この場で仲直りして貰いたいものだ。あの二人にずっと気を使わなきゃならないのは正味、大変……。なので、ゼダスは扉の向こうに耳を立て状況を把握していた。至って普通の会話は特に問題なさそうだ。普通に喋れてるし。すると、
「「ごめん(なさい)!」」
おい、こいつらお互い同じタイミングで謝りやがったよ。ハモったよ。つーか、リィンは悪く無いからね!更に、
「「ど、どうして謝るんだ(の)?」」
どうして二回もハモっちゃうの?と思ったのは俺だけでは無いと思いたい。その後、お互いに弁解し合って、無事和解。特別実習にまで縺れ無くて良かった良かった。それじゃー
「いやぁー、いい光景が見れたなー。今日はついてるなー(棒)」
とわざとらしくゼダスが出てきた。リィンとアリサは、
「「なっ⁉︎」」
と驚く中、ゼダスは更に、
「ま、実習にまで引きずらなくて良かったよ。」
と安心しきった笑みを浮かべていた。その後、直ぐに同班のエリオット、ラウラが一階にやって来た。
「おはよう、三人とも」
「おはよう、良い朝だな。」
と挨拶されたので、
「おう、おはよう」
と答えた。エリオットとラウラは仲直りした二人を見て安心していた。そして、Ⅶ組A班は駅に向かった。
―――*―――*―――
駅のホームに遅れて着いたⅦ組A班が目にしたのは、先に到着していたⅦ組B班だった。そして、
「……」
「……」
「こいつら、朝からこの調子なのかよ…」
とソリの合わないユーシスとマキアスを見て、ゼダスが一言加えた。ユーシスとマキアス以外からは挨拶を受けたのでしっかりと返しておいた。ゼダスは
「エマ、フィー、ガイウス、その…まぁ、何だ、頑張ってくれ。」
「なんとかフォローして見ます。」
「……めんどくさい」
「頑張ってみよう」
とやり取りした。それはそうと、とエマが
「アリサさん、リィンさんと仲直り出来たんですね?」
「べ、別にそんなに仲が悪かった訳じゃ……」
とアリサは慌てて答える。更に、
「そもそも仲直りって、最近知り合ったばかりだし!」
と言い訳をまくしたてる。だが、
「よかったな、リィン」
「やったね。」
と、ガイウスとフィーからのダブルアタックにリィンは、
「はは……ありがとう」
と答えた。それに対してアリサは、
「だ、だからそういう大げさな話じゃないってば!」
と顔を赤くして反論していたその時、
「間も無く2番ホームに帝都行き乗客列車が到着します。御利用の方は、連絡通路を渡ったホームにてお待ち下さい。」
と放送が入った。B班の乗る列車だ。A班はB班の見送りをしてから列車へと乗り込んだ。
―――*―――*―――
ほかの奴らが話をしている間、ゼダスは車窓から心ここに在らずという感じに景色を眺めていた。リィン達はケルディックについてお浚いしていた。ゼダスは
「(ケルディックは交易が盛んな町で、『大市』が有るんだよなぁ。あそこなら普段手に入りにくい食材に素材が手に入るから買い込んどくか。)」
と思っていると、アリサが、
「実習前のおさらいとして一応、確認しておきましょうか。」
と交易地ケルディックについて語り始めた。
帝国東部、クロイツェン州にある昔から交易が盛んな町である。クロイツェン州といえば、Ⅶ組所属の大貴族、ユーシス・アルバレアの一族、アルバレア公爵家が治めている土地だ。帝都とアルバレア公爵家の総本山とも言える翡翠の都市バリアハート、更に貿易都市クロスベルを結ぶ中継地点でもある。そして、付近は大穀倉地帯としても有名だ。『大市』には、農作物は勿論、バリアハート産の宝石や毛皮、大陸諸国の輸入品などが流れてくるため、町の目玉である。アリサの
「と、旅行として楽しむなら気が楽なんだけど、サラ教官のことを考えると、全然安心出来ないのよね……」
その一言に一同は共感し、頷いた。全く何を行うか聞かされてないが、大変に違いない。リィンは、
「町に到着したら、一度宿に寄ろう。そこで実習内容を記した封筒を受け取る手筈の筈だ。」
と言う。
この班のリーダーはリィンだ、とゼダスは思う。戦闘能力だけを取るのなら、ゼダスは勿論、ラウラの方が適している。だが、全員とのコミュニケーションがしっかりと取れ、且つ今のⅦ組の“中心”とまでは行かなくても“重心”となりつつあるリィンが最適だろう、と考えたのだ。アリサは、
「しかし、さっきの駅といい、妙に準備が良すぎるというか……」
と警戒していると、横から、
「ーそれだけ士官学院も君達に期待しているってこと」
と声がかかった。その声の主はサラ教官だった。ゼダスを除くⅦ組A班全員が驚く中、ゼダスは外の景色から視線を外さず、
「最初の特別実習とはいえ、説明しに来たのか?俺もいるし、大丈夫だと思ってくれて良かったのにな。こっちは仲直りしたから蟠りは無いけど、B班の方がヤバいぞ。エマ、フィー、ガイウスの負担が酷いことになっちまう。」
「えー、だってどう考えてもメンドクサそうだしー。あの二人が険悪になってどうしようもなくなったらフォローに行くつもりだけど♡」
「「「「「(狙ってあの班分けとか、確信犯だな)」」」」」
と全員呆れていた。サラ教官は、
「ま、手伝うのはチェックインまでだけどね。そこからは何とか頑張りなさい。あたしのことは気にせず話を続けてちょうだい。この頃徹夜続きでね〜。悪いけど寝させてもらうわ。」
と言い残すと、瞬間芸の如く眠りに落ちてしまった。ゼダスは、
「あんな、駄目教官でも俺らのために無茶してるんだ。この実習、失敗し無いようにし無いとな。」
と意気込んだ。その後、世間話が弾んで行く中、エリオットが
「そういえばさ……この間、こんな物を手に入れたんだよね。」
と言いカードの束、デッキを取り出す。リィンは、
「それって、『ブレード』か……エリオットも持ってたんだな。俺もこの間、質屋で手に入れたばかりなんだが。」
「なら、丁度良かった。時間ありそうだし、みんなでやらない?難しく無いし、アリサ達も遊べると思うよ。」
と言って、駅に着くまでの暇つぶしとして、延々とブレードをしていた。ルール説明を受けた瞬間、ゼダスは考えを張り巡らせて、コツを掴んだ。その為か、全員ゼダスにフルボッコされていたのだった……