実習を終えた俺たちⅦ組A班は宿「風見亭」に帰ってきた。外はすっかり暗くなっていて町の活気も随分と収まっていた。
「風見亭」は一階が酒場みたいな感じで二階が宿屋になっている。一階にある丸テーブルを囲んでいるⅦ組A班。夕飯後のティータイムになだれ込んでいた。夕飯は勿論、宿屋の方で提供してくれたが、流石交易が盛んなだけあり、素材のグレードが高かった。それに女将さんの料理の腕の良さも合わさり、とんでもなく美味かった。ゼダスは、
「(明日、トリスタに帰る前に素材の買い溜めしとくかな。料理にも使えるし、薬にも活用できるかもしれないしなぁ。)」
と考えていた。飯を美味いと感じたのは誰もが同じだったらしく、アリサが、
「うーん、こんな楽しみがあるなら《特別実習》も悪くないけど。」
と満足そうに言う。さらに、
「今ごろB班のエマたちはどうしているのかしら………?」
と心配気にも言っていた。それに対し
「そうだな………。こんな風に一緒にテーブルを囲んではいなさそうだけど。」
とリィンが。
「そうだねぇ………」
と呆れ半分にエリオットが。
「んなの考えるまでもねぇだろ」
とゼダスが。と、いきなり、全員が考え始めた。思いつくであろう至極真っ当な疑問について。エリオットが、
「……本当に、僕たち《Ⅶ組》って何で集められたんだろうね?」
実習内容を考えれば、単純なARCUSの適性だけでは無いのは、自明の理。思い当たる節は無いことは無いが、ゼダスは、
「確信は無いが、予想は付いてるぞ。」
と言った。すると、全員が驚いたようにこちらを向く。夜だし眠そうにゼダスが、
「まぁ、その前にお前らが考えそうな事を話し合ってから、俺の考えついた“答え”を発表してやるから、適当に話し合えよ。」
と言うと、ぎこちなく話し始めた。
そして、Ⅶ組が選ばれた理由の一つの可能性として挙げられたのは、士官学院を志願した理由だった。あながちありえない話ではないだろう。と、考えていると、何故か志願理由の発表会みたいになっていた。一番手はラウラ。
「私の場合は単純だ。目標にしている人物に近付くためといったところだ。」
と。
目標にしている人物はこの場では言わなかったが、予測は付く。こいつの生まれ故郷であるレグラムに引き継がれている伝説。そこに登場する《槍の聖女》という二つ名が付いているリアンヌ・サンドロットだと思われる。二番手はアリサ。
「ー色々あるけど“自立”したかったからかな。ちょっと実家と上手く行ってないのもあるし。」
というと、ゼダスは嫌な笑みを浮かべ、若干声を大きくして、
「そうだよなぁ〜。だって、お前の実家ってラインfー………」
「わぁーーー‼︎喋らないでよ、ゼダス‼︎」
「そろそろ、明かしても問題ないんじゃね?」
「そういう問題じゃ無いのよ‼︎」
そのやりとりに他の三人はついて来れなかった。次は、エリオット。
「僕は元々、士官学院とは全然違う進路を希望していたんだよね。」
「確か、音楽関係の進路だったか」
とリィンが言う。それに対してエリオットは笑いながら、
「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけど……」
と答えた。そして、次はリィンだ。リィンは少し考えた後、
「“自分”を見つけるためかもしれない」
その言葉に全員が色々な意味で驚く。リィンはその光景に慌てて、
「いや、その。別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じというか………」
と訂正するが、
「いいじゃない、カッコよくて。」
「ふふ、貴方がそんなにロマンチストだったなんて。ちょっと意外だったわね。」
とエリオットとアリサからコメントを入れられた。そんな中ゼダスが、
「それじゃあ、そろそろ場も温まってきたし、俺の思いついた予想を発表してやるよ。」
と言うと、先ほどと同じように視線が集まった。
「まず分かっていることは、ARCUSの適性値は確実に環境に左右されないってことだ。」
とゼダスは言い切るそれに対してラウラは、
「何故、そう言い切れる?」
と問うてくる。その答えを発する前に、俺は制服の中に何故か入っていたチェスの駒、ポーンを10個取り出す。
「理由はな………、簡単に言えば、Ⅶ組の全員が身分と自分に置かれた状況が綺麗に分かれてるって言えばいいのかな?」
10個のポーンを3、3、4個と分けて置いた。まず、一つ目の3つのポーンの集団を指差す。
「このグループを貴族とする。つまり、ラウラとユーシス、リィンだな。」
「ちょっと待て」
「何だよ、リィン。普通、質問ってのは解説後にまとめてする物だろうが。まぁ、んな堅苦しい物じゃないからいいけどさ。で、何?」
「何で俺が貴族枠なんだ?」
リィンは確か、オリエンテーリングの時に「少なくとも高貴な血は流れていない」と明言していた筈、と思う全員の考えをよそにゼダスは、
「高貴な血は流れていないからって貴族じゃない、か。お前ら、頭堅ぇな。考え方がそのまま過ぎるだろ。まぁ、俺がその程度の理由でお前を貴族って考えないと思うのは大間違いだぞ。温泉郷ユミルの地方貴族『シュバルツァー家』の養子さん」
と捲し立てた。
温泉郷ユミル。シュバルツァー男爵家が治める温泉郷だ。エレボニア帝国北部の山間部にあるらしく奥にはアイゼンガルド連峰がそびえ立っている。そこで湧き出る温泉は万病に効くと言われていて、学院から近いんなら通いたいところだけど、滅茶苦茶遠い。個人的にはエレボニア帝国で一度は行ってみたいランキングの上位にランクインするだろう。唖然としているリィンを放っておいて、話を進める。
「てな訳で、リィンは身分こそ貴族だが養子だ。ラウラは親が帝国最強って呼ばれている地方貴族の実子だろ。ユーシスは言わずと知れた『四大名門』の一角の後継ぎじゃないか。まず、この三人は状況が一切、被っていない。」
そして、次の3つのポーンを指差す。
「これが平民だ。アリサ、エリオット、マキアスが対象だな。アリサはまぁ、親が某大手企業の会長だから普通の平民とは言い難い。エリオットは家名で考えて、帝国軍の中将さんの息子だろ。これも、普通の平民とは言い難い。マキアスは親が帝都知事で……言わずもがな、だな。」
最後に4つのポーンを指差す。
「これが各事情で身分制度に囚われていない者だ。今まで挙げた奴ら以外だから、俺とフィー、ガイウスにエマか。俺もガイウスも出身国が帝国じゃないから身分制度に囚われていないし、フィーは色々あるしな……。エマは、唯一謎だな。」
とまとめると、アリサは、
「そういえば、ゼダスってどこから来たの?」
と問う。それにゼダスは、顔を逸らしながら答える。
「んなの、今は関係ないだろ。」
まだゼダスは、自分が幼い頃……というより、最近二年分の記憶しかないことを告げていない。さらに言うとゼダスは、自分のことについて自ら話そうとしないのだ。アリサは、ゼダスの答えに、
「ごめん。何か気不味い事聞いちゃって………」
「時期が来たら、話す。だから、それまで待ってろ。」
一気に重くなった空気を切り替えるかの様にゼダスは自論を続ける。
「話が逸れちまったが、ARCUSの適性値が環境に左右させられる可能性はない事が証明できる。これだけ環境が綺麗にばらけてたら分かる話だよな。だが、これは答えになってない。まぁ、夜はまだまだ長いとはいえ、明日の実習に響くと面倒だし、さっさとまとめるぞ。」
と言うと、全員がゼダスに視線を集める。
「俺は、このⅦ組はARCUSに搭載されている機能の一つ、『戦術リンク』の限界点を引き延ばす為に生まれたんじゃないかと予想するんだ。」
ゼダスは話しながら、ポーンの駒を一つ一つ摘み上げて制服の中に直していく。
「唐突だけど、問題だ、エリオット。ユーシスとマキアスの関係の悪さ。あれを仮に乗り越えられたとして、戦術リンクを繋いだら、どれほどの力を発揮すると思う?」
突然当てられたエリオットはしどろもどろに答える。
「え、えっと……。戦術リンクが繋がってもまともに機能しないんじゃないかな。」
「ああ、その通りだ。俺から見てもまともに動く気がしない。だがー」
その後に続いたゼダスの言葉に全員が驚愕した。
「ーそれを乗り越えれば、今現在のどの戦術リンクの組み合わせをも凌駕するえげつない境地に達することのできる可能性が残ってるんだなぁ。」
そんな馬鹿な。
全員が心の中に抱いた答えの主はそれだった。そんな光景を面白そうに微笑みながら、ゼダスは続ける。
「お前ら、驚きすぎだろ。でも、勿論お前らも努力次第では、その境地に辿り着ける筈だ。手っ取り早くその境地に達したいんなら、単純な馴れ合い程度の絆を超えた“何か”。それを互いに感じあって理解し合えば、良いんだけどな。そういう点で考えれば、俺は絶対にその境地に辿り着けない。俺自身についてこれる奴がこのⅦ組にまだ存在していないからな。その素質持ちはいるんだけど。」
リィンは引っかかったかの様に、
「その“何か”って何なんだ?」
と聞く。ゼダスは、
「それは組む奴らにとって、千差万別だろ。例えで挙げるとすると、あれだ。恋心とか。互いに意識し合う感覚が戦術リンクの共鳴率を加速させるだろうしな。」
と答えた。
「コレで、俺の予想は終わり。納得したかは知らないけど………」
―――*―――*―――
その解説後、Ⅶ組A班は部屋に戻ろうとしていた。この疲れた身体で今日のレポートを書かなければならないと思うと嫌になる。そのおかげと言うべきか、男女共同部屋というのも気になっていない様子だった。そんな中、一人異様に静かだったラウラが、
「ーリィン」
と呼び止める。その声に
「?どうしたんだ?」
とリィンは、疑問符を浮かべていた。が、
「そなた。どうして本気を出さない?」
と言われ、
「え。」
と間抜けな答えしか出来なかった。それでも意に介さずラウラは続ける。
「そなたの剣、そして太刀筋……《八葉一刀流》に間違いないな?」
八葉一刀流。《剣仙》ユン・カーファイが興したとされる東方剣術の集大成とも言える流派。その中でも最高位の皆伝に至った者は“理”に通ずる達人として《剣聖》と呼ばれている。有名な《剣聖》と言えば、元S級
「よく知っているな。帝国では殆ど知られていない流派のはずなのに……」
と今日何度目か分からないくらい驚くリィンにゼダスは、
「武に精通している奴なら案外知ってるもんだと思うぞ」
と口を挟む。さらにラウラは続ける。
「我がアルゼイド流は古流ながら他の流派の研究も欠かしておらぬ。それに父に言われていたのだ。『そなたが剣の道を志すならば、いずれ八葉の者と出会うだろう』と。」
「《光の剣匠》が?光栄というか、恐れ多いというか………」
とリィンは言い、ラウラに言い返す。
「俺は……ただの“初伝”止まりさ。剣の道に頓挫してユン老師から修行を打ち切られた身だ。」
そのリィンの言葉にラウラは、
「……え……」
とさっきのリィンと同じ間抜けな声を出していた。
「だから別に手を抜いているわけじゃないんだ。これが俺の“限界”だ。……誤解させてのならすまない。」
という言葉を聞くとラウラは振り返り、
「そなた自身の問題だ。私に謝る必要はない。」
とぶっきら棒に言った後、残念そうに
「……いい稽古相手が見付かったと思ったのだがな。」
と言い、剣を素振りをしに外へと出て行った。ゼダスはリィンの肩をポンと叩き、
「ラウラの事は任しとけ。あと、リィン。お前の限界はもっと先だろうが。さっさと肚括れよ。じゃなきゃ……“無理矢理”引き出すぞ」
と意味深な言葉を掛けて、ラウラの後を追いかけた。