街灯が足元をぼんやりと照らしている。そんな闇夜に包まれたケルディックの街を歩く赤い制服の二人。片方は長い青髪を後ろにまとめて作ったポニーテールを揺らしている少女。もう片方はその少女を追いかけるかの様に歩いている黒髪の少年。青髪の少女、ラウラはこちらに振り向き言った。
「……何故ついてきたのだ?」
若干の怒気が含まれたその声を何処吹く風か、飄々と受け流し、
「お前がアルゼイド流を継いでるとはいえ、夜分遅くに女子一人で出歩くのはあんまり感心しないからなぁ〜。というのは建前で、俺も素振り……というか、動きたい。今日、あんだけ動いてもまだ動き足んないし。」
と黒髪の少年、ゼダスは言い返す。
共に剣を携えて歩く二人。そのまま歩きを緩める事無く、街道に向かって行った。
―――*―――*―――
「トリスタの時の朝練と同じ様に、模擬戦闘してみるか?」
日課であった模擬戦闘。今朝はお互い実習の準備をしていた為、今日は戦うまでに致していなかったのだ。だからと言うべきか、ラウラは、
「ああ、頼む」
と答えた。
そして、互いに剣を抜く。聳え立つ二対の大剣は各々の迫力感を持っていた。ラウラの蒼天の輝きを持つ大剣は、如何にも正統派という感じで真っ直ぐな強さを感じさせる。それに対して、ゼダスの深紅の大剣は至極単純に強さの一点だけを追い求めた故の………言うなれば、色々な物が混ざった不純物の雰囲気を纏っている。
「それじゃあ……」
「いざ、参る‼︎」
ラウラは躊躇無く突っ込んでくる。上段からの振り下ろし。それを体捌きでゼダスは避ける。
「なんでリィンにあんな聞き方をしたんだ?」
戦闘中に呑気に話しかけてくるゼダスをラウラは無視しながら攻撃を打ち続ける。最初の頃に比べれば格段に冷静さが増え、命中率に関しても上がってきている様に感じる。だが、それでもゼダスに決定打を入れるには及ばない。そんな中ゼダスは、
「(話ながらじゃあ、回避仕切れるか怪しくなってきたな。相手の技術を見て自分の物にする………それがラウラの“強さ”なんだな)」
と思う様になっている事に気付く。
教え子が成長する。教える立場から見ると実に微笑ましい限りだ。だがー
ーまだ負ける訳にはいかない
ラウラは目を見開く。ゼダスが………初めて気を纏ったのだ。
その気はまるで神の怒りと錯覚させるレベルだった。眼前に立つだけで感じる気迫。全てを喰らい、全てを引き裂く。そう評しても何も問題なかった。
そんな気を纏った状態から繰り出される神速の一撃。正直言うと、目で追うので精一杯だったが、ほとんど直感で大剣の刀身で防御する。が、ゼダスの深紅の大剣はフッと消えた。何処へ行った?と考えたラウラは後悔する。ゼダスの攻撃は考えてから動くのでは確実に対応しきれないということに。
何時そこへ移動したかは分からないが、思いっきり大剣を振り被るゼダス。ラウラは咄嗟の判断で転けた。そのおかげと言うべきか、ゼダスの大剣を間一髪で避ける事に成功。が、ゼダスは、
「咄嗟の判断にしては上出来だな。だが、もっと良い立ち回り方を考えろ。戦闘面に限らず、社交性って面でも。」
と言い、深紅の大剣の切っ先をラウラの頬に突きつけた。皮膚が捲れる寸前で止めてるとはいえ、この状況では中々な痛みがあるだろう。しかし、ラウラはその痛みすら感じていないのか、ゼダスに問う。
「……今のがそなたの本気か?」
ラウラの言葉にゼダスは恐怖を感じさせる雰囲気を醸し出して、
「んな訳ないだろ。ほんの数%だよ。」
と言った。さらに続けて、
「本気を見せて欲しいって言うなら見せてやらん事もないが………見たいか?」
というゼダスは、圧倒的な威圧感を放っていた。それに怯えたかはわからないが、
「いや………今は遠慮しておこう」
とラウラは言っていた。すると、ゼダスの威圧感が一気に消えた。その代わりに、ゼダスはケルディックの街の方を向き、目を閉じた。
「大市………四人………」
謎の単語をぶつぶつとつぶやいた。そして、ゼダスは神から天啓を授かったかのように目を開き、ラウラの腕を掴んで人離れした距離を跳躍した。
「ゼダス、一体何なのだ⁉︎」
とラウラの問う声より速く、ゼダスの手はラウラの口を塞いでいた。そして、小声で
「喋んな。気づかれる」
と短くゼダスは言っていた。ゼダスが跳躍した先は街道の傍にある普通の木の陰だ。木陰から顔を少し出してゼダスは外を観察しているが、ラウラは今現在の自分の置かれた状況に焦りを覚えている。
「(何故、こんな状況なのだっ⁉︎)」
今、ゼダスとラウラの体はこれ以上はないぐらいに密着している。別に空間が無い訳じゃ無い。だが、ゼダスが後ろからラウラを抱いている状況の所為で身動きが取れ無いのだ。ゼダスの春の陽気のような体温がラウラの体内に流れて行くたびに心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。だが、ゼダスはそんな事に気付く素振りも全くと言っていいほどに見せず、外にだけ神経を尖らしていた。
「(あいつら……何を持ってやがる?くそっ、暗くて判別できん。暗視ゴーグルとか用意すべきだったか。)」
と悔しそうに唇を噛む。
闇夜の中に蠢く影。多分、四人。何かを持っている……というよりは運んでいるように見えるが、肝心な中身が分からん。その複数の影が通り過ぎたのを確認すると、ゼダスはラウラの拘束?を解いて立ち上がる。
「ふう……。ひとまず安心だ。いやぁ、見つからなくて良かった良かった。ってどうした?顔が赤いぞ」
と問うゼダスにラウラは、
「ふぇ……⁉︎」
とらしからぬ声を出していた。それにゼダスは腹を抱えて笑いながら、
「お、お前もそんな声出るんだ……。やべえ、今のツボに入った……。」
と言っていて、ラウラはカァっと顔を赤くして、
「仕方ないだろうっ‼︎」
と言う。さらに言葉を続けていたが、段々声が小さくなっていき聞こえなくなっていた。ゼダスは、
「そろそろ宿に戻ろうぜ。眠くなってきた」
と言うが、未だあの行動の説明が無かったことに気付いたが、ラウラは敢えて聞かなかった。理由は何故か分からない。
さっきから心の中で渦巻く感じてことの無い感情。それがなんの根拠もないと言うのに『大丈夫』と告げている気がしたのだ。そんな心の機敏に気付く事無く、ゼダスは宿へと歩いて行った。
んー。何か納得いってない。別にね……ラウラだって可能性が無いわけじゃあ無いんだよ。でも、ねぇ………
悔いは無いけどね。
本当にヒロインどうしよう………真面目に考えねえと