「遅えぞ、クレア。」
クレアと呼ばれた女性は透き通る様な薄氷色の髪をサイドテールにまとめており、灰色の軍服を見に纏っていた。美人の分類される彼女は、帝国正規軍の中でも精鋭が集まると言われている《鉄道憲兵隊》の統率を任されている女性将校だ。
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そんな組織を24歳という若さで統括しているクレアにはとある異名が付いていた。
可憐な容姿に加え、常に冷静沈着で適切かつ的確な指示を飛ばす事を可能としている導力演算器顔負けの頭脳を持つ事から
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クレアは部下に指示を飛ばし、領邦軍への警戒と盗賊の身柄の確保を行うと、
「この場は私たち、鉄道憲兵隊に任せていただきます。領邦軍の皆様は下がってもらって構いませんよ。」
「………どういうつもりだ?」
一触間髪のこの状況。正直面倒だが、ここはクレアを信じる。そうじゃなきゃ、俺がクレアを呼んだ意味が無いからだ。そんな中、領邦軍を取りまとめている隊長格の男が、怒気を含んだ声で、
「ここはアルバレア公爵家の治めるクロイツェン州の一角だ。貴様らなどに指図される言われなどない。」
「お言葉を返させて頂きますがここ、ケルディックは帝国鉄道網の拠点の一つです。その為、私たちには捜査介入権が有ります。その上、情報によると、学生である彼らが犯行に及ぶ可能性は極めて低いのに加え………私たち、鉄道憲兵隊を此処まで呼んでくれてのは紛れも無く、ゼダス君ですから。それで意義はお有りですか?」
息を吐く暇さえも与えない正論による反撃の嵐。隊長格の男は言い返せない様子で、論理でクレアが捻じ伏せたのは明確だった。隊長格の男は悔しそうに、
「………ふん、特に無い。」
許可を得た憲兵隊は迅速な行動で事態の収束を図った。盗賊たちも素早く連行し、盗難品を商人たちに返却する為に品物の確認を始めた。
そんな中、領邦軍が撤退を始めた。小隊の殿を務めていた隊長格の男は俺とクレアの横を通り過ぎ去る寸前でボソリとつぶやいた。
「鉄血の狗どもめが………今に痛い目に遭うと覚悟しておけ」
その言葉にクレアは無言を貫くが、俺は困った様な素振りを見せて、
「俺も狗扱いか?おいおい冗談も止してくれよ、公爵家の狗」
と皮肉を言い放った。領邦軍が居なくなったからか、ピリピリとする緊迫感は霧散していた。俺はクレアに一応、敬礼をして言う。
「クレア大尉殿、急な要請を汲んで頂きありがとうございます。お陰で………醜い惨劇を見せる事は無かったよ。」
「妙に堅苦しいですね。別に気楽で良いんですよ。」
「あ、そう。つーか、やっぱり速いな。正直、此処まで速いとは思ってなかった」
リィン達はゼダスが気軽に帝国軍のお偉いさんに話しているこの状況に疑問を抱いた。俺は、リィン達の目線を見兼ねて、
「あー………説明しなきゃ駄目か?」
と問うと、即座に全員、首を縦に振る。
「こいつは誰か知ってるよな。クレア・リーヴェルト。鉄道憲兵隊の美人将校さん。さっき、リィンは俺に『誰と連絡してるんだ?』って聞いただろ。相手はこいつだよ。最悪の状況を考えて保険としてな」
ゼダスがⅦ組A班と和気藹々としている、その光景にクレアは微笑みを隠し切れず、
「ゼダスさんにも、ようやく心を許せる友人が出来たんですね。」
「クレアー‼︎んな、生暖かい目で見るんじゃ無ぇー‼︎」
リィン達は、一つ確信した事が有る。流石のゼダスはこのクレア大尉には敵わないということを。クレアは、
「トールズ士官学院の皆様、初めまして。帝国正規軍鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルトです。早速で悪いのですが、お付き合い願えますか?調書を取らせて頂きたいので………」
―――*―――*―――
ケルディックの街に帰って行われたのは、簡単に言うと取調べ。と言っても、そんなに大袈裟な事では無く、事件が発生した経緯と俺らの行動に付いて説明しただけだった。緊張する事は無かったし、無事に終わった。
夕飯を食べ終わった後、列車が到着するまで自由時間が設けられた。俺は迷わず大市に向かう。食材などを少しでも多く買い溜めしておきたいからだ。そして、みるみるうちに荷物が増えていく。持ち切れなくなる寸前で俺はベンチに腰掛けて荷物を降ろした。
夕焼けの日が空を赤く染めている中、背後からクレアが近寄って来た。
「何か用か、クレア。」
「いや、特に用は無いですよ。ゼダスさんはまた何で学院に?」
「さぁな。
と答える俺の側にクレアは腰掛けて来た。肩と肩が触れ合う寸前の所に。お互いの体温が感じれるほどの近さで俺は、
「何でそんなに近いんだよ?」
「ゼダスさん………まさか、照れてるんですか?」
「んな訳ねぇだろ。確かにお前は美人だけどさ………」
苦し紛れの言い訳をする俺にクレアはまた微笑んでいた。多分、俺は何時になってもクレアに頭が上がる気がしない。
「ゼダスさんが連絡して来た時、色々と驚いたんですよ。そこから準備して駆けつけたんですからね。」
「あー、それは悪かった。でも、改めて言っとくけどありがとな」
俺が笑顔で礼を言うと、クレアはカァっと顔を赤くした。そして、プイッと顔を別の方向に向けて、
「どういたしまして。と言うか、ゼダスさん。何なんですか、この荷物の量は?」
「備蓄用の食材。クラス全員分の食事を賄っているからな。そうだ。クレアも何時か食べに来いよ。連絡寄越せば、作っといてやるからさ」
「それじゃあ、何時かお願いしますね。それであのー………ゼダスさん?」
「ん?何だ?」
「えーとですね………」
あのクレアが言いはぐらかしている。俺はその光景に怪訝な顔を浮かべながら、
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言え。しっかりと聞いてやるから」
「………分かりました。ゼダスさん。次回の自由行動日って空いてますか?」
「んー。多分、空いてると思う。何かあったっけ?」
「いや、あのー………ちょっと一緒に出掛けたいなぁ〜と思いまして」
「何だ、そんな事かよ。良いぜ。空けといてやるよ」
湾曲にデートのお誘い。しかし、鈍感なゼダスには気付くはずも無かった。すると、アリサが呼びに来た。
「ゼダスー‼︎そろそろ、列車が来ちゃうわよー‼︎」
と。俺は荷物を持ち上げて、
「んじゃあ、行くわ。元気でな。えーと、次の自由行動日だよな。予定が分かったら伝えるな」
「分かりました。では、ゼダスさんもお元気で」
そして、俺たちⅦ組A班の初めての特別実習は幕を閉じた。
―――*―――*―――
ゼダス達が列車に乗って言ってからクレアは、
「何時まで隠れているつもりですか、サラさん?」
その声に建物の陰から出てくるサラ。
「ったく、何時から気づいてたのよ。」
「ゼダスさんと別れた頃ですよ。」
ワインレッドの髪とアイスブルーの髪の女性が正面に向かい合って立っている。サラは、
「あんたの事は気に食わないけど、今回は感謝するわ。ありがとね。私たちの教え子を助けてくれて」
「別にこの程度は。初恋の相手からの要請でしたから。」
クレアは笑みを浮かべながらそう言っており、サラは訝しげに、
「ほんっと、あんたの好みって分かんないわー………。あんな年下の若僧でいい訳?」
「そう言うサラさんだって、年上好きじゃないですか。人には人の感性があるって事でしょう」
サラとクレア。こう気軽に話している様に見えるが、この二人には色々な確執が存在していた。
しかし、その話はまた別の機会と言う事で………
てな訳でケルディック編が終了致しました‼︎
いやぁー長かったっすね。
クレアさんも出てきたし、面白くなってきたよ‼︎
次回は閑話。完全オリジナルな展開になります。実はこの小説を書く前から想像していた展開で上手く書けるか心配デスww
あとで活動報告に個人的ケルディック編の総括をまとめておきますんで、是非ともご覧下さいませ。