注意して、お読みください。
〜NOside〜
5月29日。今日、第二回特別実習が執り行われる。
そんな日の早朝、ゼダスは制服を正して、リィンの部屋を訪れていた。同じく、制服を正したリィンに対し、ゼダスは言う。
「リィン。今回で絶対何とかするぞ」
その明確な要件が含まれていない言葉にリィンは頷く。
要件は言わずもがな、ユーシスとマキアスの確執の事だ。ある種のⅦ組恒例行事となってきている、この関係をどうにかする必要がある。
「この一件だけでも、時が解決してくれないのはこの一ヶ月ぐらいで重々自覚している。その上、お前とマキアスの関係も改善しろとか、どれだけ大変なんだよ」
愚痴を垂れるゼダスにリィンは手を合わせて謝っている。
リィンは確かに特別オリエンテーリング時にマキアスに身分を聞かれている。そして、答えた。
『………少なくとも、高貴な血は流れていない。そういう意味でなら、みんなと同じと言えるかな』
と、あやふやな答え方をしたと言えど。
こういう言い方をしたリィンも悪いが、勝手に『平民』と解釈したマキアスにも責がある。純粋な『貴族』じゃなければ、『平民』と取るのは行き過ぎた考え方だ。
「お前とマキアスの関係なら、面を合わせてれば解決すると思うんだけどな。前回の教室で話し合わせた時には埋まりそうに無かった亀裂でも、今回は特別実習だ。不幸中の幸いと言うべきか、顔を合わせる機会はバッチリとある。何とかフォローを入れてみるが、最終的にはお前が頑張れ。その代償と言ってはなんだが………ユーシスは任せろ。出来る限りの事はしてみるからよ」
「………よろしく頼む」
Ⅶ組の重心と成り得る素質–––人徳のあるリィンとの早朝階段で役割分担出来たゼダスは若干、希望の持てた顔をしていた。
―――*―――*―――
〜ゼダスside〜
ユーシスとマキアスの所為で、ギスギスした列車内で俺は悠々と読書していた。
内容としては、実習先のバリアハートの観光ガイド。内容を掻い摘んでまとめてみる。
《翡翠の公都》バリアハート。
帝国東部クロイツェン州の州都であり、四大名門が一角、『アルバレア公爵家』が直々に治めている総本山でもある。
帝都から特急列車で約5時間半の距離にある。
かつて、皇帝が住んでいた事があり、由緒ある都市である。
人口は約30万人。大貴族である公爵家の総本山である為、住民の多くが貴族階級であると印象を受けるが、割合的にはそんな事もなかったりする。それでも、やはり貴族階級の住民が多いのも事実なのだが。しかし、平民は貴族の使用人として、出稼ぎに来ている事が多い事からは目をそらす事は出来ない。
平民を使用人として働かせているという事が貴族の間で需要の高い宝石類や毛皮などが特産品として取り上げられている背景には存在する。
広大な敷地内に鉱山なども多く存在するみたいだし、それで産業を回しているのだろう。個人的には、七耀石をちょびっとネコババしたい気分だが、そんな事をしている暇もないんだろうなぁ〜と思案を張り巡らされている中、横からの柔らかな圧力の元凶に目を向ける。フィーだ。
右手にしがみつき、スゥスゥと寝息を立てている。慎ましい胸を押し付けられ、全員がこちらに白い目を向けていたが、気にせずに読書を続けた。
―――*―――*―――
〜NOside〜
バリアハート駅に到着すると、直ぐに駅員に囲まれた。まるで、この中に重要人物でもいるかの様な扱いだ。というか、居るんだった。
全員がキョロキョロと挙動不審になっている中、ゼダスは平静を取り戻す。駅員集団が割れると、その裂目から入って来た御人にユーシスは目を見開き叫ぶ。
「過度な出迎えは不要だと伝えておいた筈だ………って兄上っ⁉︎」
「親愛なる弟よ。三ヶ月ぶりくらいかな?いささか早すぎる再開の様な気もするが、よく戻ってきたと言っておこう」
「………はい。兄上も壮健そうで何よりです」
いつもは傲慢不遜な態度を取っているユーシスから出た言葉と認識するには若干のラグが有った。
ユーシスにも目上の人に敬語を使う事が分かったのは良かったかもしれない。というか、この兄上相手では相性が悪いのだろうか?どちらにせよ、ユーシスの弱みが分かったので良しとしよう。
「そして、そちらがⅦ組の諸君と言う訳か」
急に話を振られ、Ⅶ組の面々は焦りを隠せない様子だったので、ゼダスが気丈を振る舞い答える。
「お初にお目にかかり光栄です。どうやら、俺たちの事を知られていたご様子で。一体何者ですか?」
「挨拶がまだだったね。私はルーファス・アルバレアだ。この弟の事だから、私という兄がいた事は知らなかったのだろう」
「仰る通りで。でも、ユーシスは大事な仲間ですよ」
「そう言ってくれると兄である私も鼻が高い」
そのやり取りに続く二人の笑い声。
その光景を怪訝そうに見つめるⅦ組の面々。エマは微かな声で–––と言っても、ゼダスには聞こえたのだが––––リィンに呟く。
「あの、リィンさん。ゼダスさんの言動が変じゃないですか?」
「委員長も感じたんだな。確かにゼダスは悪い奴じゃないが………こんな感じに評価する奴では無いはずだ」
「うん、私もそう思う」
フィーも入ってきた。
その後、ルーファスに導かれ、今回のⅦ組の宿舎になるホテルへと連れて行かれた。
―――*―――*―――
〜ゼダスside〜
流石、大貴族と言うべきか、豪華なリムジンでホテルへと連れて行かれた。
世間話やユーシスの話で盛り上がっている中、特別実習の課題が記されている封筒を受け取った。という事は–––
「この封筒を持っているって事は、ルーファスさんは学院関係者だったりするんですかね?」
「洞察力は大した物だな。そうだよ、私は学院の関係者だ」
「それだけですか?」
「ゼダス君は中々踏み込んでくる人なんだな」
「よく言われます」
「そうか………。隠してても仕方無いし言わせてもらうと、常任理事だ」
突然のルーファスの告白に俺を除いた全員が目を見開く。その様子を見ると、弟であるはずのユーシスも知らされていなかった様だ。
学院に通ってる身としては、目の前にいる人が–––ユーシスから見たら身内が––––学院の高位関係者なのだから、この反応は仕方無いと言える。
その衝撃の告白から直ぐに、宿舎となるホテルに着いた。大貴族が裏でリードしてくれているからか、平民が泊まるのが難しそうな雰囲気のホテルだ。
荷物をまとめて、ホテル内に入ろうとする中、ルーファスが言う。
「Ⅶ組の諸君。ちょっと、ゼダス君を借りても良いかな?ちょっと、二人きりで話をしたい」
「おや、奇遇ですね。俺も、面倒な課題さえ無かったら、そうしたかったですよ。でも、それで
やんわりとした否定。
「ほんの少しで良い。話している間に課題を進ませて貰えば良いのではないかな?」
でも、この一手さえも潜り抜けてくる。内心、悔しかった気もするが、平常心を心掛け、
「ま、それなら問題ないでしょう。理事なら、この程度の裏合わせぐらいは余裕でしね。と言う訳で、お前ら。後、頼むわ」
と手を振り、言った。
―――*―――*―――
〜NOside〜
ゼダスが連れてこられた場所は、バリアハート内の高い場所に
その風貌から、ある種の要塞か?と疑いたくなるが、先に進むルーファスを見ると、三歩後ろに付いて行く。大きな門を潜り、広大な庭を越え、館の扉を開いた先は、豪華絢爛と言う言葉を体現化したかの様な感じだった。
「一面大理石の床に、レッドカーペットに、シャンデリア。何処の大貴族だ………」
口を開けて、そう言漏らすゼダスに、ルーファスは口元を
「ここはその“大貴族”の本館なのだが」
「ああ、そうか。ルーファスさんが“妙に”人に好かれそうな感じの人だから、大貴族って事を忘れてましたよ」
アハハ、と一人虚しく笑うゼダスをよそに進むルーファス。遅れずに付いて行くと、着いた場所は広いスペースがある個室。
中には初老の男性がいた。多分、執事だろう。執事はルーファスに一礼。
それを確認したルーファスは、
「ガレスさん、お茶を二つ頼めるかな?」
「かしこまりました」
ガレスと呼ばれた執事は再び礼をし、この部屋を離れる。
ゼダスはその姿をボーッと眺めている。すると、
「そんなところに立っておらず、座ったらどうかね?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
ルーファスの対面に位置する椅子を引く。長机だから、距離は中々あるが、会話する分には特に問題ないはずだ。
二人の中に気不味さを感じさせる沈黙が続く中、先ほどの執事、ガレスが再び部屋を訪れた。手にあるのは、紅茶の入ったポットとカップ、それに茶菓子。随分と気の効いたことだ。
互いの前に出された紅茶は確かめる必要が無いぐらいの高級度を醸し出していた。流石、四大名門。
ルーファスは紅茶を少し口に含んでから、
「ガレスさん、悪いが少し外して頂けないかな?彼と二人で話をしたくて、ここに招いたのだから」
「受け賜わりました」
そう言い残し、ガレスはまたもや退室する。そして–––
「改めて、はじめまして、ゼダス君」
「こちらこそ、ルーファス卿?一応、貴方のホームグラウンドだし、そう言った方が適切だと判断したんですけど」
「そんなに堅くならなくていいよ、“天帝”」
ゼダスはその言葉に驚いたかと思われたが、案外そんな素振りを見せずに、
「………気付いてたか。何処で気付いた?」
が、確かな敵意だけは備えていた。いつの間にか、無駄に組み上げていた敬意も失せていた。
「先月の特別実習の報告書を目に通した時かな。内容が、何処か“かの事件”に似ていてね」
ルーファスの言う“かの事件”というのは、約1年と半年前に起きた通称『天帝事件』の事だろう。
『天帝事件』は、帝国内の辺境の村で起こった大量虐殺事件だ。
虐殺の起こった村で生き残った人は殆どおらず、帝国正規軍が到着した頃には、無数の死体が横たわっていたという。
酷いまでの切り傷に火傷痕を身にしていた死体を前にに帝国正規軍は捜査に乗り出した。しかし、その事件は大規模だったのに、誰もその惨状を見た人が居なかった。辺境の村と言う事もあったのだろう。
その為、直ぐに捜査は行き詰まったと言われている。
–––ルーファスは、その事件を知っている?
この事がゼダスの頭を駆け抜けていた。
―――*―――*―――
〜ゼダスside〜
実のところ、この事件の首謀者は
執行者として、課せられた最初の命令。
『
その時は、“純粋”な盟主の手足だった俺は口答え一つ無く、適当に選んだ村を壊滅させた。悪魔の様な剣技に、神の威光ともとれる異能を手に。
だが、その事実を知っているのは、結社関係者–––それも高位幹部のみ。
この事は、『力を見せつける』ことが主目的であり、『正体を探らせる』のとは訳が違う。
その為、鉄道憲兵隊で色々とお世話になっているクレア大尉ですら知らないのだ。言ったら多分、嫌われる。というか、しばらく監獄行き確定。
別に他人からどう思われようが気にしないが、捕まるのだけは勘弁したい。抜け出すのは簡単とはいえ、上からお咎めを受ける気がするし。
「ああ、あの不可解な虐殺事件の事か。知ってるとはな………何?俺を投獄でもする?」
「いや、君は“あっち側”の人間である前に、私が理事をする学院の一生徒だ。そんな真似をするつもりは毛頭無いつもりだが」
「んじゃあ、今だけはその言葉を信じるとします。こっちも厄介ごとに巻き込まれたく無いですし」
ルーファスの何かを含んだ言葉に俺は嫌な何かと感じ取り、めんどくせぇーと言いたかったが、気にせずに了承する。投獄しないという申し出は個人的にもありがたいからな。
しかし、ルーファスがこのまま終わらせる訳も無く、
「君の素性については秘匿してもいいのだが………取り引きだ」
「内容は?内容によったら、断らせてもらうぞ。素性がばれた方がマシかもしれないしな」
「君にとっては悪くない話なのだがな。つい最近に配属された、シア・ヴァレンの事について、知っている限りの事を教えてくれないかな?」
「………まさか、ああいう人が好みなんですかね、ルーファスさんは。あの人は、確かに綺麗だけどよ」
こんな冗談を吐いているが、内心では真意を探っている。
俺がボロを出す事はあるかもしれないが、絶対に第零柱であるシーナが手掛かりを残す訳が無い。結社のデータベースでさえ、調べるのは困難なぐらいに隠された存在なのだ。たかが、毛の少し生えた程度の独自の情報網に引っかかる訳が無い。なら何故––––
「確かに彼女は魅力的だが、私の好みでは無い。ただ–––この時期は不自然過ぎる」
「軍からの刺客かもしれないぞ?見たところ、
「君はそう解釈するのか。まぁ、そういう事にしておこう。それではもう行きたまえ。これ以上、級友達を待たせるのは良くないだろう」
「ご配慮痛み入ります」
俺は緊迫間満載のお茶会のお開きの言葉を聞き、立ち上がり扉に手を掛ける。すると–––
「今回の手間の代わりだ。受け取りたまえ」
ルーファスの手から放られ、空中に弧を描き、飛んできた物を片手でキャッチする。
50ミラコイン。何故、この金額かは敢えて聞かずに俺はアルバレア公爵家の館を後にした。
―――*―――*―――
〜NOside〜
ゼダスが戻ると、Ⅶ組は街道に向かおうとしていた。手配魔獣の討伐に向かうところだろう。そこに合流し、街道を歩く。そんな中、先程まで起きた事についてゼダスは聞いた。
「そりゃ、災難だったな」
そう呟かずには居れなかった。
どうやら、結婚指輪用のドリアード・ティアと呼ばれる樹液の結晶体を採取する依頼が入ってたそうだ。
色々な樹木を探し、苦労の末、ようやく見つけて届けに行ったのは良いのだが、貴族が金に物を言わせて平民から買い取ったらしい。
その上、受け取ったその場で噛み砕き、胃の中へGOという暴挙にも出たそうだ。
確か、ドリアード・ティアは漢方薬として重宝されているが、しっかりと支度をした上で服用した場合だったはず。
勝手に飲み込んで、腹壊してくれねぇかな、とゼダスは思った。だが–––
–––––
古い固定概念だ。たかが、この世界に入れられる時に、偶々いい血を含んでただけで下の者を差別する。自分がどんな血を持って、どんな外見で、どんな性格かを決めるのは神の悪戯だというのに。
そんな事を考えながら、手配魔獣のいるとされる丘へと足を運んだ。
―――*―――*―――
丘を登り切ったところに“奴”はいた。
禍々しい緋の甲殻を全身にまとい、ところどころ棘が生えている。それに加え、鋭い鉤爪もある。この魔獣が手配魔獣、『フェイトスピナー』だ。
こちらが視認出来たと同時に、相手も視認出来た様だ。二足歩行で地を駆け、襲ってくる。
Ⅶ組全員がその行動を確認してから、本能的にバックステップをとる中、ゼダスだけはその場を離れない。
真紅の軌跡を描き抜刀された魔剣が、魔獣の鉤爪と拮抗を繰り広げる。
苦もなく魔獣の攻撃を抑え込むゼダスは叫ぶ。
「お前ら‼︎さっさと戦闘準備しろっ‼︎」
その号令を聞き入れ、最初に行動を始めたのはフィーだった。
獲物である双銃剣を咄嗟に構え、踏み込む。まるで低空高速飛行をしているかの様に飛び掛かるフィーは文字通り《
支援にエマの導力魔法がある為、何があっても負ける訳がない。リィンを始めとする男性陣の出る幕は無いだろう。
でも、これは特別実習だ。しかも、今回は関係の修復を図る必要がある。だからこそ、マキアスとユーシスにトドメを任せる。今の戦闘でどれだけ、戦術リンクを使えるかは確認しておく必要がある。
ゼダスは今まで、実技テストでしかこの二人の戦闘を見た事が無いし、流石に実戦なら少しは噛み合うだろう、と考えていた。ほんの少し後に、こんな事を思った事を撤回する事になるとは知らずに。
「ユーシスとマキアス。後は片付けろっ‼︎」
魔獣の鉤爪を腕力だけで跳ね上げる。魔獣はその慣性に逆らう事が出来ずに、少し宙に浮かぶ。
そのタイミングに合わせるかの様に、ユーシスとマキアスは切り込む。二人の間に淡い光のラインが浮かび上がる。
戦術リンクの光だ。
そして、互いに攻撃を打ち込もうとした瞬間、バンッ‼︎と物凄い音を鳴らして、戦術リンクの光が無慈悲に壊れた。
その為、攻撃は魔獣に当たらなかった。
「貴様………‼︎」
「貴様の方こそ‼︎」
当たらなかった事を相手の所為にする二人。胸倉を互いに掴み合い、今直ぐにでも殴り合いが始まってしまいそうな様子だった。
「馬鹿かっ‼︎」
ゼダスは戦闘が終わってないのに、喧嘩を開始しようとしている二人にそう叱責を掛け、一気に駆け出した。
魔剣を背後に構え、捻りながら慣性を増大させた突きを放つ。
聖扉戦術 武の型 虚突。
二人に魔獣の鉤爪が襲う。
ゼダスの突きがその間に割り込もうとするが、数瞬分足りない。ゼダスは守り切れなかった事に悔しかったが、次の一コマには驚かざるを得なかった。
今までのどの速さよりも速い速度でリィンが庇ったのだ。
「ぐっ………‼︎」
鉤爪が腕を掠める。致命傷とはいかなくても、戦線離脱レベルの負傷っぽい感じだ。
ゼダスはその姿への驚きが別の感情に変わっていくのが感じられた。
–––––驚きは怒りへ
–––––怒りの矛先は
無言のまま、ゼダスは魔獣を見る。眼差しは絶対零度の物へと変貌し、見る物全てを凍り付かせる雰囲気を醸し出していた。
全員が固唾を呑んで見守る中、ゼダスは一歩一歩ゆっくりと歩く。
魔獣も身動きを取らなかった。否、取ることが出来なかった。
絶対的な恐怖。圧政の狂王を連想させる力。その後、魔獣の四肢がバラバラに斬り落ちていた。
大量に吹き出た血糊はベッタリとゼダスの制服に付いた。しかし、そんなことを意に介さず、魔剣を突き立てる。そして、ユーシスとマキアスを掴み上げ、吠える。
「お前ら‼︎自分が何したか分かってんのかっ⁉︎お前らの勝手な気持ちを先行させたから、戦術リンクも繋がんないんだし、自分の気持ちを棚に上げて、よくも相手だけの所為に出来るなっ⁉︎その所為でリィンは負傷したんだぞっ‼︎今回は掠り傷で済んだとはいえ、今回の傷が一生治らなかったら–––剣の道が閉ざされたら、お前らは責任を取るのか?取れるのか?答えてみろよ‼︎」
初めて見せた激昂した姿。リィンに加え、女性陣も怖がっているので、その逆鱗に触れた二人の恐怖は計り知れない物だった。
エマは何とかその恐怖の中、動いてリィンの傷の手当をする。
「教官に教わった応急手当が役に立ちました………。リィンさん、しばらくは戦闘を避けて下さいね。ゼダスさんも、そろそろ落ち着いて下さい」
「………ちっ。悪かったな、急に怒って」
「いや、僕たちは別に––––––」
「
ユーシスとマキアスを離し、負傷したリィンに向かう。ゼダスは負傷した腕をじっくりと観察すると、
「………これなら確かに大丈夫だな。委員長」
「何ですか?」
「この“応急手当”さ。後で教えてくれないか?」
何かを確信した風に言うゼダスに冷や汗が流れて止まらないエマだった。
―――*―――*―――
冷や汗を浮かべながら、目線を反らすエマに、怖いほどの笑みを浮かべているゼダス。Ⅶ組の隊列の殿を務めている二人には、気まずそうな雰囲気が流れていた。他のメンバーは、その雰囲気が障壁にでもなっているのか、近寄る事さえも出来なかった。
「で、あの“応急手当”は一体何だ?」
「えーと、ただの応急手当なんですが………」
「違うだろ?」
「え、いや。そんな事は–––」
「違うだろ?」
「………はい」
渋々だが、エマが先に折れた。それを追随する様に、
「予想は付いているが、一体どういう原理なのかなぁ〜」
「………予想のままにして頂けませんか?」
「別に俺は良いんだけどさ。勝手にあんな物を使ってたら、いつかボロが出るぞ」
「………正体、バレちゃいましたか?」
「知り合いに似た奴がいたからな。無意識のうちに照らし合せてた」
「そうですか………」
お互いの妄想補完だけでやり取りを行っているが、ゼダスには目星が付いていた。
––––普通の“応急手当”で完治寸前までに治せる訳が無い
––––学院でそんなオーバースペックの手段を教えられる訳が無い
––––なら、奥の手と解釈する
––––人知を超える力。それは––––
結社の第二使徒、《蒼の深淵》ヴィータ・クロチルダと同じ魔女。それも同じ《
だが、今触れる訳にはいかない、とゼダスは自分を自制する。そう心構えをした時、エマがゼダスの前に出た。エマは眼鏡を外し、青い瞳でゼダスの薄紫がかった瞳を覗き込む。
「………言い忘れてたが、俺には“おまじない”の類いは効かないぞ」
「………っ⁉︎」
驚くエマの表情を前にゼダスは、エマの手から眼鏡を取り上げ、付け直させる。
「だが、美人の誘惑とかなら効くかもな」
そんな馬鹿みたいにクサい言葉を平然と吐くゼダスにエマは認識を改める事にした。
『自分の正体に気付いてしまった唯一の危険分子』と。
ルーファスさんに気付かれました。完全にゼダス君の落ち度ですがね。
『天帝事件』は本当に入れるかを悩んだんですけど、有っても問題無いかな、と言う事でぶっこみました。
そして、遂にゼダス君がキレました。ガチでキレました。
さらに、エマの正体も感づいて、一体どうなるか?
今回はフィーが無駄に空気な気がする。こんなはずじゃなかったのに………
感想、疑問諸々があれば、感想欄によろしくお願いします、です