学院までの旅路
「……………理不尽だ」
もう何度目だろう。少なくとも、片手の指の本数は超えた回数は一言一句同じ言葉を口にしている気がする。
ガタンゴトンと列車に揺られるゼダスははぁっと溜息を吐く他無かった。
今、ゼダスが乗っているのはエレボニア帝国の帝都近郊都市トリスタ行きの列車だ。
そして––––
「今更、学院か………ホント、何でだ?」
––––丁寧に纏められた封筒から覗く入学届け。
それは向かう先––––トリスタにある学院。トールズ士官学院の物だ。
しかも、今のゼダスが纏っているのは普段の執行者着である漆黒のコートでは無く、真紅のブレザーと制服一式。違和感だらけで鏡見た時の不自然さが凄かった。
「思い出すだけで笑えねぇ………なんでこうなったんだっけ」
遠い目をしたゼダスは数日前の状況に想いを馳せる事にした………
―――*―――*―――
無い。何も無い。
敢えて言葉にするならば、そういうのだろうと思しき、暗黒の空間にゼダスはいた。
通称、
そう呼ばれる空間は本来、結社の幹部である使徒たちの会合の場として使用されるのだが、今回は異例中の異例でただの執行者のゼダスが呼び出されていた。
相手は––––
『一対一で話すのは久しぶりですね』
––––姿は見えない。その上、聞こえる声はまるで脳内に直接語りかけてくるのを錯覚させる。
こんな事が出来るのは………世界でも数少ない。
しかし、呼び出した張本人ならば、それ位は余裕綽々でなし得るだろう。
「ええ、お久しぶりです、《盟主》」
付き従う事を表すようにゼダスは片膝を付き、首を垂れる。
《盟主》。
それは結社の創設者にして、全能の御方だ。
ただ………あらゆる点で不明な相手、とも言える。
姿は勿論、どういった存在なのかも分からない。まず………人なのかも。
しかし、結社において《盟主》は絶対的な存在。高々、執行者風情が逆らえる相手では無い。
「それで、この様な場所に何の御用でしょう? 俺、お咎め受ける様な事はしてない気がするんですが」
『別に怒る訳では無いですよ。ちょっと、“お願い”したい事があるだけです』
《盟主》の敷いた規則で、執行者はある一定の自由が認められている。
つまり、この場においての“お願い”も断ろうと思えば、断れるのだ。––––ゼダスで無ければ。
こと、このゼダスだけは《盟主》の命を逆らう事が出来ない。………色々な事情が絡んだ結果、そうなったのだ。
昔––––まぁ、記憶の残っている最近二年の最初の時、ゼダスは命ガラガラで死線を彷徨っていた。
そこを《盟主》の右腕とも言える執行者であるNo.0《道化師》カンパネルラに助けられ、そのままの流れで結社に編入。記憶喪失で行き場所の無いゼダスにとって、《盟主》は命の恩人とも言えるのだ。
だからこそ、叛けない。少なくとも、叛く気がない。
「お願い、ですか………何でしょう?」
『貴方には計画の為にエレボニア帝国にあるトールズ士官学院に入学して下さい』
エレボニア帝国。それはゼムリア大陸と呼ばれる所の西部にある軍事大国だ。
『黄金の軍馬』を紋章に掲げており、歴史は約1,000年前から続くと言われていて、貴族と平民の格差が明確に現れている国でもある。
そんな所の士官学院だ。きっと、ロクな事にならない………………というか––––
「––––違あぁぁぁうッ!」
普段じゃ、あげないであろう大音量の叫びは虚しく、反響していく。
そして、その残響が無くなりし頃、《盟主》が、
『? どうかしました?』
「何で今更、俺が普通の学校に入らねばならないんですか!?」
執行者ともなれば、教育は必要無い。
その座に居れるだけの実力は保証されているのだし、裏社会においての需要もある。食うには困らない。故に勉学など時間の無駄。
加え、ゼダスは頭は悪くない。更に無駄だ。
『だから、計画の為です。貴方が無駄だと思っても、きっと、この経験は
「それはどういう………」
『まぁ、行ってください』
結局、納得の行かない答えしか寄こさずに《盟主》の気配は消えていた………。
―――*―――*―――
「––––で、入学手続きも終わってて、用意は万全だった。断れないって知ってるからって、用意周到過ぎるだろ」
溜息も終えなく、数えたくない。
疑惑と疑念が渦巻く心の中、車内アナウンスは告げる。
『もうすぐ、トリスタ。お降りの方はお忘れ物無きよう注意を––––』
どうやら、もう着くようだ。
まぁ、どうでも良い。学校なんて、最悪はサボれば良い。停学になろうと知った事ではない。
《盟主》が求めたのは、ゼダスの入学。その後は規定されてない。
なら、自由にやるだけだ。
そう思ったゼダスは––––新たな生活の門出を迎えた。