闇影の軌跡   作: 黒兎

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新作の「学戦都市アスタリスク 〜空間支配の支配者〜」を書いていると、こっちが疎かになってました。
追々とバランスを取る為に精進しますm(__)m
これからもよろしくお願いします。



《死線》×《天帝》×《第零柱》

「な、何でシャロンが居るのよっ⁉︎」

 

 Ⅶ組用の第三学生寮の一階エントランスで、そう叫ぶのはアリサ。その光景を眺めていたゼダスは、そう叫ぶのも当然か、と思った。

 アリサは–––まだ家名を明かしていないが–––大企業『ラインフォルト社』の代表令嬢である。そんな高い位なら、別にメイドぐらい居てもおかしくないのだが、問題は別にある。

 このメイド、シャロンは本来はアリサの母親であるイリーナ・ラインフォルトに仕える存在なのである。現に雇っているのもイリーナなのだから。

 だからこそアリサも、そしてゼダスも思うのだ。

 

 

––––何で来た?と。

 

 

「会長に申し付けられまして」

「ああっ‼︎もう、母様ったら………」

「今日から第三学生寮の管理人を務めさせて頂きます」

「えっ、マジ?」

 

 このやり取りに横槍を放ったのは、ゼダスだった。

 

「ええ。ですから、もうゼダス様は家事を成さらなくても宜しいのです」

「えっと………何で俺が家事してると思うんです?」

「ふふっ、長い間の癖が抜けてないのでしょうかね?早速気付きました」

「あ、そ」

 

 このやり取りを聞いて、全員が疑問符を浮かべるが、それを代表してリィンがゼダスに問う。

 

「ゼダスはシャロンさんの事を知っていたのか?」

「古くからの………って訳でも無いけど知り合いだ。だからこそ言っとくが、シャロンの家事スキルはカンストを超して、オーバーフローレベルに高いからな。俺なんかより、凄い手練だ。で、シャロン。俺からももうちょい質問したいんだが」

「はい、何でしょう?」

「お前さ………俺たちが試験で寮を外していた間にどれだけ仕事した?」

 

 その端的な問いに全員が寮内を見渡す。

 普段と変わりなく見える内装だが、何時もより若干輝きを増している風に見え、屋上には全員分の布団が干されている。さらに、厨房からは良い匂いが………。

 

「想像にお任せします」

「んじゃあ、遠慮無く想像させてもらった上でコメントなんだが、やっぱり凄いな」

 

 ゼダスは厨房の方に足を向ける。

 

「この匂いの原因は、料理の下ごしらえ。これだけでも大分の手間をかける物を作るつもりだったのが、手に取るようにわかるのに加え、全員分の部屋内+廊下も全て清掃済み。それに追い打ちをかけるかの様に丁寧に布団まで干されている。どう考えても、午前中だけで終わったとは思えないんだが」

「お褒め頂き恐縮です」

 

 ゼダスの指摘に、何も隠す素振りを見せずに肯定するシャロンに、全員が開いた口がふさがらなかった。

 ゼダスの言う通り、そんな量の仕事をこなすのは無理に近い。でも今、目の前に起きている変化は明らかに試験から帰ってきた後に起きている事だ。それだけを取ってみても、どれだけの手練かは言うまでも無かった。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 その後、Ⅶ組全員に事情を説明し、晩飯を食べ終えた後、せめて皿洗いぐらいはしておくか、と思ったゼダスは厨房に向かった。

 すると、ゼダスの思考を先読みしたのか、そこにはシャロンが皿洗いしていた。

 

「相変わらずの仕事っぷりだな」

「あら、ゼダス様。何時からいらっしゃったのです?」

 

 その問いには答えずに、使用済みの皿がある流しに向かう。

 

「休んでいても宜しいのですよ?」

「俺がしたいから来たんだが。だから、気にするな」

 

 そのやり取り後、黙々と作業を進めた。単純計算で、一人でやるより、二人でやる方が、半分の時間で済むはずなのだが、相方がシャロンだとそこまで総作業時間が変わらない様な気がしないでもなかった。そんな中、ゼダスは作業から目を離さずに、器用に話しかけた。

 

「なぁ、今厨房に俺らしか居ないから遠慮無く聞くんだが………本当に何で来た?」

「会長に申し付けられたのです」

「さっきと同じだな」

「まだ、続きますよ。それは–––『Ⅶ組の寮の管理人になれ、と、《天帝》の監視』だそうです」

「………まさかと思うが、“あの”契約ってまだ効力を持ってんの?」

 

 ここで備考。

 シャロンは、ゼダスと同じ結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》の執行者である。今は、ラインフォルト家に雇われてメイドとして働いているのだが。

 だから、ラインフォルト家のメイドである前からの知り合い。執行者休業中でも思いの外、連絡し合っていたが、ここに来るとは誤算だった。

 

「会長曰く『こっちも“提供”しているのだから、それぐらいの制動力(リミッター)をかけても文句は無いでしょう』だそうですよ」

「やっぱり続いてるんですね、はい」

 

 契約。半年ぐらい前に、ラインフォルト社の会長であるイリーナと結んだ契約は、ゼダスにとっては、ありがたくもあり、煩わしい物だった。その内容は、

 

『ラインフォルト側はゼダスに資材を提供するから、ゼダスはラインフォルト側に必要な時に力を貸す』

 

という物。

 イリーナは、これに加え、自分の愛娘であるアリサをゼダスに娶らせて、膨大な戦力を持ったゼダスとラインフォルト社を繋いでおこうとしたが、丁重に断った。ちなみに、この契約をアリサは–––不幸中の幸いと言うべきか–––知らなかった。

 やはりと言うべきか、当然かと言うべきか、とんでもなく早い速度で洗い終わった食器。それが積み上げられている中から、シャロンは何故か、ティーポットとティーカップを出してくる。

 

「紅茶、淹れましょうか?」

「ここで、何故洗い終わった後にそう言ったのかは敢えて聞かないとして、うん。貰おうかな」

 

 ゼダスが肯定の意を表すとシャロンはお湯を沸かし始めた。紅茶を淹れるのに掛かる時間の合間に、ゼダスはアンチ・ゴスペルのメンテナンスを始めた。

 先月の特別実習で使った『迦楼羅』の様な高等自己製魔法を使わねばならない場面もこれからは少なからず出てくるのだろう。その為に、改良を加えているが、これがまた大変で………

 

「これが例の新型オーブメントですか」

「ああ。だが、初期スペックだけじゃ、この先は無理な気がするからなぁ。ちょいと改良してるんだが、これを使おうと思ってね」

 

 そう言いながら、ゼダスは9ミリ弾を取り出す。

 

「それは銃弾ですよね?オーブメントに組み込めるのですか?………と聞くのがテンプレですか?」

「シャロン相手だとペースの取り方が分からなくなってくるな………。このオーブメントは、拳銃型だからな。マガジン部分に銃弾を装填すれば、撃てない事は無い。まぁ、そんなに単純(シンプル)な事はしないんだけどなっ」

 

 語尾が若干、強くなったのは、シャロンに9ミリ弾を投げたからだ。

 作業中にも関わらず、危な気なくキャッチしたシャロンは9ミリ弾を見つめる。ところどころに透明な線が入っていて、普通の弾丸では無い事は一目瞭然だ。

 

「これは………魔法を刻印した銃弾ですか」

「ご明察」

 

 シャロンから投げ返された9ミリ弾をキャッチしながらゼダスは短く肯定する。

 

「厳密に言えば、魔法干渉率を高めた銃弾だけどな。これで、もうちょっと多くの魔法を使える」

 

 あくまで原理上だがな、と言外に言うゼダスに苦笑しながらシャロンは紅茶を差し出す。

 

「どうぞ」

「ああ、ありがとな」

 

 礼を言いながら、ゼダスは何処からともなく取り出した四角いキャラメルをティーカップに落としていく。

 

「その飲み方も変わっておられませんのね」

「まぁ、そこは人それぞれの感性じゃねぇの。お偉いさんの前とかなら、こんな事はしないけど、堅苦しい状況じゃないんなら問題無いだろ」

「ええ、そうですね。ですが、その癖が治っていない事を思うと、結社で初めて会った頃を思い出しますね」

「あの時の紅茶は甘かったが、思い出としては苦かったがな」

 

 その言葉にシャロンはクスッと笑みを浮かべる。ゼダスとしても、この飲み方には色々と思う事があるが、ここでは割愛という事で。

 

「そういえば–––ゼダス様はⅦ組の誰かに好意を寄せた事はありますか?」

 

 唐突過ぎるその問いに、ゼダスは口から紅茶を吹き出すのがテンプレなのだろう、と頭を一瞬だけ過ぎったが、平静をとり繕い答える事にした。

 

「俺にとって、“好意”なんて理解出来ないし、意味のある物にも思えないしなぁ」

「ゼダス様に好意を寄せた人を全否定する物言いですね」

「否定はしてないんだけど。俺から寄せる意味が無いだけで、寄せられたら誠心誠意で応えるが」

「それなら、私の“好意”を受け取ってくれなかったのは何故でしょう?」

「人の理論を真っ向から潰してくるな、お前は」

 

 こんなやり取りをしている時点で、読者の皆様は気付いてらっしゃると思うが、シャロンはゼダスに好意を寄せている。しかも、並々ならぬ程に。

 その根拠に、ラインフォルト家に仕える事になった後もゼダスとの距離を縮めようと会長であるイリーナに“戦力保持”を名目に手を回してきたのだ。その事実を知ったゼダスは、しばらく雲隠れする事になったのだが………

 とにかく、シャロンのゼダス愛は重過ぎる。それだけは、確実な事実だった。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 翌朝、すなわち自由行動日。ゼダスは朝っぱらから学院にいた。

 今日に限っては、ラウラやリィンとの朝練をすっぽかしてでも来なければならない理由があった。

 

「よう来たなぁ。ウチを待たせるとは良い度胸しとるなぁ、おい」

「師匠、これでも早く来たんだけど。もしかして、徹夜だったのか?」

「愛する愛弟子の為や。それぐらいの事は遠慮なくしてやるわ」

 

 師匠–––シーナ(学院内とはいえ二人っきりの為、教師姿では無い)は、手で髪の毛をボサボサにしながら、紙束を差し出す。それを受け取ったゼダスは、

 

「ありがとな。おかげで計画を立てれるよ」

「くれぐれも外部に漏れる様な事はすんなや。特にサラには」

「分かってるって」

 

 ゼダスは、紙束の中身を確認し始めた。

 内容は大まかに分けて二種類。片方は、今月の特別実習の行き先とメンバー振り。そのリーク情報は–––

 

 

A班:リィン、ゼダス、アリサ、エマ、ガイウス(実習地:ノルド高原)

 

 

B班:ユーシス、マキアス、フィー、ラウラ、エリオット(実習地:ブリオニア島)

 

 

「またリィンと同じ行き先か。ここまで来ると問い質してみたくなるなぁ」

 

 などとゼダスは不満を言漏らす。

 前までの実習は、他のメンバーの問題などを解決する効率を上げる為にゼダスとリィンを一緒にしていたと予測していた。

 だが、もう実習は3回目。この予測では、わざわざ一緒にする必要が無い。強いて一緒にするのなら、今絶賛すれ違い中のラウラ&フィーも一緒にするべきのはず。

 そんな事を考えながら、次のページを捲る。

 

「………大勢だな。ここまでの集団を隠し通せていた方が驚きだ」

 

 ゼダスの視界に入ったのは、大量の戸籍だった。

 

「ウチもこれには驚きや。先月に先々月の実習でアンタ達の妨害をしてきた領邦軍を裏で操ってた奴ら………暫定的な俗称を決めとく必要があるなぁ」

「行動パターン的に、帝国に動乱を起こそうとしてたんだよな。その動乱の方向性を示唆するに………《帝国解放戦線》が妥当だろ」

 

 ゼダスはそう言いながら、目線を書類に落とす。記された戸籍の数はざっと百を超えている。この規模の組織を隠し通せていた事には驚きを隠せない。

 最初–––ケルディックでの特別実習ではクレアに、前回のバリアハート実習ではルーファスに助けられたから、領邦軍の手を払い事が出来たが、二人とも裏で操られていたと考えなかったはずだ。少なくとも、ゼダス自身はその状況で、そんな事を考えないと思う。

 言い忘れたかの様にシーナはある事を付け足した。

 

「ああ、伝え忘れや。四月の実習で大型魔獣に襲われたやろ」

「あの狒々型の。確か固有名は………グルノージャだっけか」

「そうそう。アレが来る前に微かながら笛の音がしたろ?」

「綺麗ながら黒かった音色で俺は好かないんだけどな」

「戦線側の方にあの笛がある様なんや」

「それは分かってたけどな。そんな事を報告したかったのか?」

「いや、違う。あの魔獣呼びの能力を持った笛はどうやら《降魔の笛》と呼ばれる古代遺物(アーティファクト)らしいんよ」

 

 古代遺物。

 その不穏な響きにゼダスは若干、身構える。

 古代遺物は、大崩壊と呼ばれる太古に起きた文明崩壊以前の古代ゼムリア文明の時代に作られた道具であり、この古代遺物の研究から導力器が生まれてた物だ。字義どおりに古代の遺物であるため、多くはその力を失った状態で遺跡などから発掘されるが、力を失わずにいるものも存在し、その中には強大な力を持つ物もある。そして、ゼダスが身体の中に留めている《輝く環(オーリオール)》を始めとする《七の司法(セプト=テリオン)》もこれに含まれる。

 そして、その暴力的な力を手に入れようとする勢力も存在するのだ。

 その代表格が、ゼダスの所属する結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》と七耀教会だ。

 《身喰らう蛇》は今回置いとくとして、問題は七耀教会の方にある。

 

「まさか………七耀教会直属の星杯騎士団(グラールリッター)が帝国に入ってきたのか?」

「そうなんや。だが、数は少ない。守護騎士(ドミニオン)が一人と従騎士が一人やと」

 

 星杯騎士団は、七耀教会が擁する騎士団の事だ。

 教会組織の中では封聖省と呼ばれる組織の隷下にあり、本部はアルテリア法国にある。12人の守護騎士を筆頭として、その下に正騎士・従騎士の称号を持つ者達が属している。主な任務はアーティファクトの捜索及び回収だ。

 そして、守護騎士というのは、それぞれが二つ名を持つ第一位から第十二位の12人の騎士の事だ。守護騎士となるためには星杯騎士としての武術、法術の技量や問題解決能力といった実力のみならず、「聖痕(スティグマ)」と呼ばれるものが顕現することが条件の1つとなっており、時代によっては必ずしも全ての席が埋まるわけではないと耳に挟んだ事がある。

 

「だから、ゼダスも気ぃ付けときぃや。奴らは《降魔の笛》に《輝く環》ごと回収しようとしとるみたいだしね」

「了解。ま、何があっても俺が負けるなんて、そうそう無いんだけどな」

 

 とのゼダスの台詞が、フラグとなるのが分かるのは、もう少し先の話だ。




さてと、今回は若干グダグダで書いてました。
次回からはちゃんとしたいっすね。
そろそろ、序盤の方をリメイクしたくなってきたです………
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