闇影の軌跡   作: 黒兎

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今回は内容としては薄いです。
そして、次回は大分重くなる予定です。



束の間の休息

キンキンッ–––

 

 

 朝靄が今も残る街道に鳴り響く剣戟の音。

 片や黒髪の少年。もう片や青髪の少女。互いに身の丈よりも大振りな大剣を振るい、剣戟を織り成していた。

 

「やるな、ラウラっ」

「まだまだ、そなたに追い付ける気がしないがな、ゼダス」

 

 互いの大剣が鍔迫り合いを起こし、身体の距離は殆ど密着状態。たが、そこには色恋めいた雰囲気は無く、緊迫と言っても差し支えない程だった。

 ゼダスとしては、ラウラの急激な成長に驚かされていた。

 人の技術を吸収し、利用。人の癖を分析、対策を講じる。

 その行動を無意識に行っているのだから、ラウラの戦闘能力はどれだけの高さを誇っているかが、よく分かる。

 最近、ようやくラウラはゼダスの懐に安定して、潜り込む事が出来る様になっており、正直なところゼダスは焦っている。だが、こんな所でボロを出す訳が無く、平静を保ちながら、減らず口を叩く。

 

「いやぁ〜流石だな。そろそろ抜かれるんじゃね」

「戦闘中にそう言ってられる程の余裕があるとは………まだ“本気”ではないのだろう?」

「そりゃ、勿論さっ‼︎」

 

 ゼダスの語尾が若干上擦ったのは、ラウラの大剣を力技で跳ねあげたからだ。だが、この下りは日常茶飯事。ラウラは跳ね上げられた大剣を打ち戻すのでは無く、跳ね上げられた方向に抗わずに引き戻す手を選ぶ。その訳は–––

 

 

–––ガンっ‼︎‼︎

 

 

 ゼダスの大剣の素早い切り返しからの一突きをラウラは大剣の刀身で防御する。

 ここを突いてくるのも、ラウラにとっては学んで来たゼダスの癖の一つだ。だが、ゼダスとしては防ぐのは分かりきっていた為、不敵な笑みを浮かべる。

 

「………っ⁉︎」

 

 ラウラは声にならない叫びを上げ、尻餅をついた。

 

「ゼダス、今のは卑怯だろっ⁉︎」

「フッ………戦場に卑怯もクソもあるかよ」

 

 と、勝利後の台詞を吐くゼダスの左手には真紅の大剣、魔剣レーヴァティン。そして、ラウラが『卑怯』と言ったのは、右手に持った拳銃型戦術オーブメント、アンチ・ゴスペル。

 ゼダスは大剣による一突きを防がれたのを察知した瞬間にアンチ・ゴスペルを抜き撃ちして、ラウラを転ばせたのだ。正確に言えば自己製魔法(ハンドメイドマジック)であるファントム・レイズを使ったのだ。

幻属性の導力を主として、幻影を設置しておく。それを定位置に来た瞬間、アンチ・ゴスペルの引き鉄を引くことにより、作動。意識に直接、揺さ振りを掛けて、足元を一気に掬ったと言う訳だ。

 

「ま、さっきも言った通り、順調に強くなってきたじゃねぇかよ」

 

 そう言いながら、ゼダスは手を伸ばす。それにラウラは、

 

「それなら、こちらからも言うが、そなたに本気を引き出せていない時点でまだまだ未熟さを痛感させられているよ」

 

 と言い、ゼダスの手を掴んで立ち上がる。

 そして、その後武器を互いに収めた後、第三学生寮に向かって歩き始める。

 

「にしても、よく強くなったよ。《特別実習》当日にここまで時間が掛かるとは思わなかったしなぁ〜。今まで通りなら、絶対に全員分の昼飯とか間に合って無いぜ」

 

 ゼダスの言う通り、今から飯を仕上げ始めても間に合わないだろう。が、今は違うのだ。

 

 

「ゼダス様、ラウラ様、お疲れ様でございます」

 

 

 シャロンは微笑みながら言い、二人にハンドタオルを差し出す。

 そう、新しく第三学生寮の管理人になったシャロンがいる。

 シャロンがいるだけで、大抵の事は任せる事が出来る。料理の腕だけを見てもゼダスと何ら遜色無い………というか、超えている。

 二人は、ハンドタオルを受け取り、汗を拭く。

 

「それにしても、ラウラ様は優秀でございますね。あのゼダス様に汗を掻かせるなんて、並大抵の腕では無理ですよ」

「何故か、この頃良く賞賛される度合いが多い気がするのだが………」

「それだけゼダス様の実力が凄いという事ですよ」

 

 ゼダス自身は、そこまで凄い剣才を持っているという自覚は無いのだが、シャロンが言うにはそうなのだろう。

 客観的に見たら、ゼダスの戦闘能力は常軌を逸している。

 あらゆる物を凌駕する剣術。それを使いこなす才能。それだけで近接戦闘の大半は大丈夫だと言うのに、卓越した魔法適性。更には、自分で魔法を作るという発想性と使える物は何でも使う意外性と応用力。それに加え、執行者として養った事情判断能力に処理能力の高さ。

 と、何処の切り口から見てもそれは、通常スペックの全てを凌駕しているのだ。

 

「そうか?」

「ああ」

「えぇ」

 

 ラウラとシャロンは互いに違う言葉を–––それであって、同じ意味の言葉を同時に発した。それには、ゼダスも苦笑せざるを得なかった。

 

「俺の実力なんて、今は如何でも良いだろうし、さっさと支度しに行こうぜ。ラウラ」

「ゼダス、そなた実習の支度をしていなかったのか?」

「ああ、してない。というか、忘れてたって方が近いかもな」

「忘れてたって………そなた、最近気が抜け過ぎでは無いか?」

 

 ラウラの言う通り、実は最近ゼダスの気が抜けている。

 学院での授業でも忘れ物が増えていたり、調理する時の作業のキレも僅かながら落ちている。

 そんな小さな変化に気付けたのも、ほとんどゼダスと一緒に行動しているラウラだからであろう。

 その光景をシャロンはにこやかに見守っているが、その意味はゼダスとラウラは理解するには至らなかった。

 

「言われてみれば、そうかもな。ったく、何でだろうなぁ〜。そんなに疲れて無いはずなんだけど」

 

 とゼダスは、頭を掻きながら答える。

 しかし、その答えにラウラは内心で尋ねる。

 

 

–––ゼダス。そなたは見えない所での疲労が溜まっている事に気付かないのか?

 

 

 勿論、内心で尋ねた事なので、答えが返ってくるはずも無い。

 ラウラの思う『見えない所での疲労』というのは、Ⅶ組に関する事だった。

 ゼダスは、シャロンが来るまでは寮の仕事を全て担っていたのだ。それは、この寮に住んでいる全員が周知の事実だった。

 全員分の料理3食分に加え、洗濯、掃除などをこなしながら、全員と同じように学生生活を送る。これがどれだけ大変な事かも、全員が分かっていて、一度手伝おうとしたのだが………結果は、邪魔になっていた。

 それだけ、ゼダスの家事スキルは、凄まじい物だったという事だ。

 だが、シャロンが来てからはその事実は一変した。

 シャロンの家事スキルは、ゼダスのとほぼ同格………というよりか、超えていたのだ。

 おかげで、ゼダスの負担は単純計算で二分の一。負担の軽減により、ゼダスは無意識の内に気が抜けているのだろう。

 今までの仕事量を考えれば、多少の息抜きは許されるべきなのだろうが、流石に実習当日まで引き摺るのは如何なる物だろうか?

 

「そなた、その調子で実習に参加すれば、痛い目を見るぞ」

 

 そのラウラの忠告をゼダスは適当に聞き流す事にした。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 ゼダスを含むノルド高原行きのA班、ブリオニア島行きのB班ともに駅に集まっていた。

 列車の運行時間上の関係でB班が先の出発となるのだが、その直前にB班の男子勢に言う事があるのか、リィンとゼダスは近付いていく。

 

「エリオットにユーシス、マキアスも大変だろうが頑張ってくれ」

「はぁ………リィン。変わってよ。空気が重い」

「エリオット、弱音を吐くな。あの二人は今はああだろうが、戦闘に関しては大丈夫のはずだ」

「それに関しては最悪の事態は避けれるはずだ。少なくともマキアス&ユーシス(僕達)みたいになる心配は無いだろう」

「それを自分で言えるお前らは色々と凄いよ」

 

 ゼダスは呆れながら言うが、マキアスの言う通り、そこまで厄介な事になる事は無い。これだけは確信出来る。互いに折り合いを付ければ良いのだろうから。

 

「ま、頑張れや。応援しとくからさ」

 

 とゼダスが締め、B班を見送る事にした。

 ゼダスとリィンは、A班に合流する。

 

「なぁ、ガイウス。因みにノルド高原ってお前から見て、どんな所なの?」

 

 と、ゼダスは問う。

 ゼダスはノルド高原に関して、本で読んだ程度の知識しかない。まとめてみると、こんな感じ。

 帝国北東部にある国境線を超えた先にある–––つまり、外国の大草原地帯だ。

 店や金銭なんていう概念さえも普及していない辺境の地。

 行き方としては、トリスタから帝都へ。そこで乗り換えして、ルーレ行きの列車に乗る。そこまでは民間の旅路なのだが、その先にある国境線、ゼンダー門には普通列車を使う事が出来ない。だから、軍の貨物列車に便乗するという手を学院側が取ったそうだ。

 ゼダスが知り得ることはこれぐらいの物。

 実際住んでいた人に聞いて、さらなる情報を聞き出しておきたかったのが本音だ。

 

「ノルド高原–––俺の故郷は、多分知っているだろうが、遊牧民が多く住んでいる所だ。そして、馬や羊などを放牧して、生計を立てている。高原と言われているだけあって、広大な広さを誇る。移動手段として、馬を使わないと日が暮れるだろう」

「マジかよ。ンなに広いとか、大変だなぁ」

 

 ガイウスからの情報にゼダスはゲンナリと言うが、

 

「でも、ロマンチックじゃないですか?馬で移動出来るなんて」

「それは、妄想よ。実際に乗ると、筋肉痛で痛いし」

 

 エマの言葉を乗馬経験アリ風のアリサが一刀両断。

 その光景を見つめていたかったが、列車が到着したのを確認するとリィンは、

 

「列車も到着した事だし、そろそろ行くとしますか」

 

 と全員を鼓舞した。

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 列車内でA班は、ブレードといきたかったが、メンバーの人数が奇数なので、トランプを講じていた。行っているゲームは、ババ抜き。

 今現在の状況は、エマが一抜け。ガイウスが二抜け。リィンが三抜けとゼダスとアリサが残っていた。手札がゼダスは二枚、アリサが一枚で、今はアリサのターン。すなわち、アリサがジョーカーを引かなければ上がる事が出来、外せばゼダスが上がるというクライマックスに突入していた。

 互いの間に緊迫した気配が流れる。そんな中、ゼダスは開口した。

 

「そういえばアリサ。今回の旅路で、ルーレ–––お前の故郷による事になるんだけど、それに関してはどう考えている訳?」

「いきなり過ぎて、疑問を抱くわよ」

 

 と怪訝な顔をしているが、ゼダスは微笑みで応戦した。

 それに折れたアリサは答える。

 

「別に何とも思って無いわよ。別に母様に会いに行く訳じゃないんだから」

 

 アリサが、大手企業『ラインフォルト社』の令嬢だというのは、シャロンが来てから公にされた事実だった。

 面倒な事になる、という理由で明かさなかったが、アリサの母親であるイリーナからの差し金のシャロンが来たからには明かさずにはいれなかった。

 ただ、Ⅶ組的には別に問題無いらしい。

 

「ま、でも勝手に飛び出して来た身としては居辛いんじゃねぇかなぁ〜と思ったんだが」

「貴方、本当に良い性格してるわね」

「よく言われる」

 

 半眼で言うアリサに微笑みを苦笑に変えたゼダス。

 戦闘とは違う緊迫感が流れるが、それを断ち切ったのはリィン。

 

「……まぁ、故郷に帰り辛いって理由があるのは、何となく分かる。それが原因で、アリサが居辛いって言うなら早めにルーレは出立しよう。それでいいか?」

 

 アリサはリィンの言葉を肯定すると、ゼダスの手札に手を伸ばす。

 

「覚悟しなさい。ここでゼダスに勝ってみせるわ‼︎」

「ほらよ。二分の一なんだからさっさと選べよ」

 

 ゼダスが見せる裏側が向けられた手札をアリサは凝視する。そして、恐る恐る手を出し、手札を引いた。そして、それに書かれた役は–––

 

 

–––『ジョーカー』

 

 

「はい、俺の勝ちな」

 

 ジョーカーを引いて放心状態のアリサを意に介さず、ゼダスは即座にもう片方の手札を引き取る。

 

 

 

「何でこういう場面でミスるのよ‼︎もう一回。もう一回勝負よーーー‼︎」

 

 アリサが車内だというのを気にせずに、そう叫ぶと全員が笑いながら新たに勝負を始める。

 だが、A班は知らなかった。このノルド行きの旅路で自分達の“非力さ”を実感させられる事になるとは………




さてと、次回は面白くなりますよぉ〜。

大晦日短編の主人公達への質問、メッセージや作品に対しての質問、メッセージなどもまだ募集中なので、感想欄、または活動報告のコメント欄か俺自身にメッセージを送ってくれれば幸いです。
よろしくお願いします
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