目的地に着いた列車は律儀に止まり、流れに従って降りたゼダスは一旦、身体を伸ばす。随分長いこと、列車に乗っていた気がするので、身体の至る部分が固まりかけている。だから、伸ばす。
駅の構造自体は随分と簡単なもので、出口も近い。
「……早く出よう」
……学院に入る理由なんて、どうでもいい。
どうせ、余裕でこなせるヌルゲーなのに変わりはない。
ゼダスは思い、駅を出る。
―――*―――*―――
青空だった。
雲の欠片もなく、晴々とした青空は、新たな門出を祝うには相応しい。
普通なら、この天気を見て、清々しい気持ちになるのだろう。ただ、ゼダスにとっては、
「…………」
––––酷く、嫌味を孕んでいる様に思えた。
コッチとしては、何の訳も分からず終いで入学させられ、心の中はモヤモヤするというのに、晴れやかな天気とか……正直、苛つく。今近くに小石の一つでもあれば、思いっきり蹴飛ばしてやろうと思う位に。
そう思っていると––––勝手にキックモーションを起こしていた。すると––––
「ゲフッ‼︎」
……前方にいた人を思いっ切り蹴ってしまっていた。
「あ、悪い」
こういう場合は兎に角、謝っておくに越した事はない。
まぁ、蹴ってしまった相手とゼダスには、大して体格差は無いし––––何より共通点があった。
「こちらこそ、止まって悪かったな。ちょっと、花に見とれてて––––って、君も赤い制服か」
「ああ、アンタも………」
言われてみて、ゼダスも蹴ってしまった黒髪の少年が同じ赤い制服を着ていた事に気付く。
確か、数分前の記憶を掘り返せば、列車内にいた学徒たちの大半が緑。そして、その緑の生徒の総数の半分位の少数に白制服だった。
ゼダスと同じ赤制服だったのは………居たのかも知れないが、一人も覚えてない。そんな瑣末な問題は考慮する価値も無いと割り切っていたのだろう。
「(全く気にしてなかった………赤制服の絶対数が少ないのだけは、何となく分かるぞ、うん)」
話し振りから、赤制服が少ないのは自明の理。
という事は、ゼダスが蹴ってしまったこの眼前の少年は色んな意味でレアで––––トールズ士官学院の新規入学生の中で、何らかの共通点があるという事だ。
すなわち、学院生活を送る上で、必要不可欠となる“知り合い”という
ならば………取る手は自ずと開けると言う事。
「………まぁ、少ない赤制服同士だ。これからも関わりがあるかも知れないし………よろしくな」
––––ここは友好的に行こう。例え、出会い方が歪でも。
「ああ、よろしく」
と、黒髪の少年は微笑みと一緒に手を出してくる。
握手しよう。そういう事だろう。
何、拒む理由は無い。だから、応える。
手を握り、ゼダスも微笑み返す。
すると––––
「俺はリィン・シュバルツァー。君は?」
––––黒髪の少年、リィンは名乗ってきた。
流れ的には、ゼダスも名乗り返さねばならない。………最低限の情報だけで。
「ゼダス・アインフェイト。まぁ………適当に呼んでくれて良い」
「ゼダス、か………うん、覚えた」
どうやら、リィンは覚えた様子。
ゼダスも記憶に刻むのは要領が良い方なので、直ぐに脳内に刷り込ませれた。
「じゃあ、俺は行くけど………リィンはどうするよ?」
「俺はもう少しここに居るよ。ちょっと………見ておきたい花があるしね」
そう言いながら、リィンが視線を上げる。
それに吊られ、ゼダスも同じ所を見詰めると––––そこには白い花のなる樹があった。
確か、あの花の名前は––––
「––––ライノの花、か」
「うん。故郷じゃ咲いてないからね………珍しいんだ」
「そーかい。んじゃ、俺は先に行っとく」
と、言い残し、ゼダスは駅前を後にする。
―――*―――*―――
「ライノの花、か………」
街中を歩き、目的地の士官学院に向けて、歩くゼダスは、ボソッと呟く。
あの場においては口を出さなかったが………正直、ゼダスはライノの花は因縁に近い。
執行者として、活動を開始した際に最初に執り行った大量虐殺事件。ただ、力を見せる為に行ったそれは、結局、結社が事実を揉み消したからこそ、表社会に漏れ出る事は無かったものも、今でも思い出そうと思えば、思い出せる。
充満する死の匂い。斃れる無数の屍。
あの時は心が欠けて––––いや、今も欠けているのだろうが––––いたから、別に無罪の人を斬り殺し、焼き殺しても、何も思わなかった。
ただ、あの場所に咲いていたのが––––ライノの花だったのだ。
真紅に染まった世界において、あの花だけは白く綺麗に咲き誇っていた。
だからこそ………嫌いだ。
「あーあ。あんな花………何処は良いんだろうか?」
思えば思う程、悪態しか吐けない。
はぁ………
一度、溜息を吐き、ゼダスは意識を現実により戻すと––––何かが可笑しい。
道を歩く、同じく入学生たる生徒が………妙に端を歩いている。まるで、何かを避ける様に。
もしかすると––––
「(俺………何か殺気放ってたか?)」
––––嫌な思い出を想起していたからか、その予測に辿り着いたのだが………どうやら、少し違っていた。
どうやら、後ろから大層豪華気なリムジンが来ていたらしい。
「………俺、邪魔だな」
そう思い至ったゼダスは、横に避ける。
そして、そのリムジンはちょっと先––––厳密に言えば、士官学院の校門手前で止まり、ドアが開く。
そこから出て来たのは––––青髪の美少女だった。
傍に持つ長いバック………多分、アレに武器が入っているのだろう。確か、申請書類やらに書く欄があった(適当に埋めれられていた)。
「おい、そなた」
と、青髪の美少女はゼダスが声を掛ける。
「少なくとも、車の前に立ったままは危ないぞ。気を付けろ」
「あ………」
いきなりの注意にどう返して良いか分からない中、青髪の美少女は歩みを進めていった。
「何だったんだ、あいつ………」
確かに不注意はゼダスに非がある。ただ、言いたい放題は解せない。
「まぁ、俺も行きますか………」
そうボヤき、ゼダスも歩き進める。
―――*―――*―――
トールズ士官学院 身分制度の強いエレボニア帝国の士官学校の一つだ。貴族と平民でクラスが分けられている。かの、≪獅子戦役≫を終わらせたと言われる≪獅子心皇帝≫ドライケルス・ライゼ・アルノールが創設した由緒正しき学院と言える。
ゼダスはトリスタの街を縦断して士官学院に向かった。そして門の所で止められた。小柄な少女と作務衣を着た大柄な男に。小柄な少女は、
「ゼダス・アインフェイト君だね」
と、声を掛けてくる。
「はい、そうですけど………ここで申請物を渡せば良いんですかね」
多分、自分の得物を渡せば良いんだろう。赤い魔剣を大柄の男性の方に差し出す。流石に小柄な少女に渡す訳には行かない位に重いし。
「重いんで注意して下さい」
そう言い添えて渡すと、大柄の男性はおおっとちょっと驚いてた。うん、あれは重い。
そして、小柄な少女は、
「入学式はあっちの講堂で行われるのでどうぞ………あと、トールズ士官学院ご入学おめでとうございます!」
その笑顔は………可愛いと思えた気がした。
―――*―――*―――
その後、執り行われた入学式は正直、覚えてない。
ただ、その後に来た深いワインレッドの髪色の女性が––––
「はいはい、赤制服のみんなちゅうも〜く」
––––って、あいつ知ってるぞ。
確か、遊撃士と呼ばれる職業者を取り纏める遊撃士協会の元帝国支部に組していて、最年少で最高位のA級になったとされる奴だ。
渾名は《紫電》で………名前はサラ・バレスタイン。
「今から、君たちには特別オリエンテーリングを受けてもらいます。てな訳でついて来なさい」
………初っ端から、嫌な予感しかしません。