《神器の創生者》と呼ばれし少女
少女は夢を見た。
今まで生きてきた大半の記憶はモノクロと化し、ボヤけているとはいえ、その記憶だけは鮮明に覚えている。
吹き荒む荒野に立つ凛とした存在感を放つ一人の黒衣の騎士。手には烈火を思わせる業炎の大剣を。
そして、周りには–––少女の同胞が全員、地に倒れていた。とは言っても、死んでいる訳では無く、一人残らず気を失っているだけ。
でも、幼かった少女から見れば、それは戦慄してしまう光景なのは間違いなかった。恐れるのが、世間の一般的な考えだ。だが、少女は戦慄に加え、ある感情を抱いていた。
–––それは恋慕
全くおかしな話だ。仲間が全員、倒されているというのに、恋を抱くというのは………
だが、少女は彼の雰囲気に惹かれた。
絶対的強者の風格を持っているのに、それであって何処か悲しげな雰囲気。それであって、その雰囲気を埋めようと力をもぎ取ろうとする姿勢。
そこに惹かれたのだと、今も理解出来ている。
仲間に対しての“家族愛”を抱いた事は有っても、異性としての“恋心”を抱いた事は無い。でも、その“恋心”を抱いたらきっと、こんな感じなのだろう、と理解する事は出来る。
そして、少女の意識が覚醒する。
ベットから這い上がる銀髪。まだ生育途中の慎ましい胸。
少女は起き上がり、寝惚けた脳が命令を下し、カーテンを開ける。鋭い音を立てて、カーテンが開き、朝日が差す。
それに目を細め、光から逃げようと目線を地に向ける。
そこにいたのは黒髪の少年。圧倒的強者の風格は無くとも、凛とした雰囲気は今も存在している。だからこそ、嬉しい。今までは並び立つ事さえ許されなかった彼が、今はこんなにも近くにいてくれるのだから。そして、思うのだ。
–––やっぱり、私は彼が好きなのだ、と。
―――*―――*―――
第三回特別実習から、約一週間が経った。
主武器を失ったゼダスにとっては、ラウラとリィンと行う朝練は苦行極まりなかった。しかも、時々他のメンバーが乱入してくる事が有り、その時は本当に苦戦気味。流石に《アンチ・ゴスペル》を使用して戦えば、簡単に終わるのだが、それでは訓練の意味が無い。だからと言って、素手で戦うのも大変。力の調節をしなければならないのは、本当に難儀である。
しかし、そんな苦労も今日で
シャロンに頼んでいた《神器の創生者》居場所を探してくれたのだ。
《神器の創生者》。
ゼダスが知る中で、一番の腕を持つ鍛冶屋である。しかし、問題点が一つあった。
それは–––性格である。
自由気まま過ぎるその性格故、何処にいるかは、ほとんど不明。しかも、行動範囲が広過ぎて、国外にいる可能性もあるのだ。
だが、シャロンの言う通りなら、奴は今現在、帝国–––しかも、帝都近郊にいるそうなのだ。それだけ近いのなら、向かうだろ。手間より武器が欲しいし。という訳で、ゼダスは学院に一週間休む事にした。
何で武器を作るだけで、一週間も休むのかと言うと、奴は自由奔放に加え、完璧主義者だから、自分が満足しなければ授けてくれないのだ。
「それにしても–––今回はサッサと終わるかね?」
「さぁ?彼女の気分次第ではありませんか?」
朝早くに寮の外で会話しているゼダスとシャロン。
今から出発というゼダスをお見送りに来たシャロンという構図だ。
「あいつの気分次第なら、どれだけ軽く見積もっても五日はかかりそうだよな………」
「でしょうね。しかも、今回は–––………」
「ああ。コレを使って、作って貰うんだもんな」
そう言ってゼダスは背後にまとめた荷物から、ある塊を抜き出す。
烈火の輝きを放つ大剣–––レーヴァティンの残骸だ。
今回は《神器の創生者》にコレを使って、新たな武器を作って貰うつもりなのだ。
多分、一から作った方が手間は掛からないし、完成度の高い物が出来る。だが、それでも………自分の傍に居続けた剣の魂を引き継いでやりたいのだ。それがどれだけ無駄だと思っても、未練厚がましいと言われようとも構わない。この選択だけは譲る気は無い。
「しかし………《外の理》を用いて作られし神器を作り変える………神に対する冒涜みたいですね」
「別にそれでも良いさ。一緒に戦ってきた魂を絶えさせる方がよっぽど怖い」
今後の武器方針について、決まっていく中、そろそろ出発時刻を迎える。
「それじゃあ、寮の方を頼むな。一人で大変–––でも無いか」
「ええ、こちらは大丈夫なので、存分に頑張って来て下さい。そして–––無事に帰って来て下さいね」
元々、美人なシャロンが表裏無い笑顔を浮かべ、心臓がドキッとする。だが、そこで止まる。
–––やっぱり、“そういう感情”は分からない。
ゼダスはそう結論付け、寮を後にする。
―――*―――*―――
帝都行きの列車に乗りながら、ゼダスはARCUSでとある奴に連絡を入れる。
「もしもし、クレアか?」
『ええ、そうですけど………って、ゼダスさんっ⁉︎朝っぱらから何ですか?』
とある奴とは《鉄道憲兵隊》のクレアだ。
帝都まで列車で行くのは良いが、《神器の創生者》がいるのはあくまで帝都近郊。だから、帝都について、サッサと郊外に出て探し始めたいのだ。
「えーとさ。今から帝都行くから車を手配してくれね?ちょっと用がある」
『用っ⁉︎え、いきなり何ですかっ⁉︎こちらにも準備というものが………』
「準備?ああ、もう直ぐ帝都では夏至祭があるんだよなぁ〜。アレって、憲兵隊が用意するの?ご苦労さんです」
『い、いや………そういう訳じゃ………』
何故か噛み合わない二人の会話。他人に漏れれば、鈍感の一言で一蹴りされてしまいそうだ。
「でも、頼むわ。それじゃ」
『ちょ、ちょっとっ⁉︎』
クレアの言葉を最後まで聞かずにゼダスは連絡を切る。
こんな強引な方法を選んでも、クレアは来る。今までの経験則によると、だが。
ゼダスが困り、助けを求めれば、クレアは持てる全てを賭けて助けてくれる。それがどれだけ幸せな事かは理解している。だが、クレアの心中に秘めたる気持ちに矢面を立たされ、ゼダスはしっかりと応えれるのだろうか?
未だに分からない感情。それに関しては嫌ほどゼダスは実感している。
時には最恐の暗殺者兼凄腕メイドさんから好意を持たれたり、時には冷静沈着な有能な美人さんから好意を持たれたり、時にはゼダスをも凌駕する剣才を持つ武人から告白されたり………
思い出そうとすれば、幾らでも思い出せる記憶にゼダスは毎度毎度申し訳なく思っている。何故なら、ゼダスはその都度–––
–––『ごめん、俺にそういう感情は分からない』
と
でも、その言葉に嘘は無い。
だって、本当に分からないのだ。
人と触れ合う愛おしさ。それが分からない。
結局は自分と相手は他人同士。どれだけ近付き、踏み込み合っても、その本質を理解する事は出来ない。なのに、その感情を人は求める。本当に謎だ。
だが、その事を外部に漏らせば、その大半はこう答えるのだ。
–––『
そんな言葉は今までも聞き続けてきたし、別に苦にはならない。多分、この言葉を聞いても何とも思わない事を考慮しても、『人の感情を理解出来ない』という事なのだろう。
しかし、ゼダスは別の疑問に最近はぶち当たる。それは–––
–––『
―――*―――*―――
帝都駅に到着したゼダスは荷物を担いで、駅を出る。すると、そこには–––
「本当に来たんですね」
クレアが居た。だいぶ急いでくれたらしく、消耗している様にも見えた。
「随分、急いでくれた様で」
「………ゼダスさんが急に呼ぶからでしょう。こっちは日々、業務に追われているっていうのに………」
「悪い悪い。俺の方も時間を押しててな」
ゼダスは急かす様にクレアが用意した軍用車両に乗り込む。それに溜息を吐きながらクレアは、
「今回は一体、何の用なんですか?」
「俺の新武器を作ってもらいに。流石にアンチ・ゴスペル一個じゃ、心許ないというか………ま、そんな感じの用だ」
「………薄々察せてきた気がしますが、なんで私を?」
「腕の良い鍛冶屋が今、帝都郊外にいる。帝都から最速で郊外に直行出来る手段がある。そういう事」
「………決して、ゼダスさんの為の憲兵隊じゃ無いですよ」
つまり、ゼダスが言いたいのは、帝都郊外に出るに一番速い手段が『鉄道憲兵隊を利用する』という事だ。
確かに速い。だが、憲兵隊は国軍である。そう簡単には人員を割けないはずだが–––
「でも、クレアは断らないだろ?だからこそ、安心して頼れる。お前みたいな奴が傍らに居てくれればありがたいんだがなぁ」
「………っ⁉︎」
ゼダスの言葉を聞いたクレアは瞬時に顔を赤くする。だが、そんな事を気にするゼダスでは無く、
「と言う訳で、帝都郊外まで車を回してくれ。そこからは徒歩で行く」
「………?なんで、郊外以降は徒歩なんですか?」
「うーん………勘?」
意味の分からない答えにクレアは怪訝な表情を見せかけたが、いつも通りの表情に戻し車を走らせる事にした。
―――*―――*―――
「ここで良いんですか?」
そうゼダスが降ろされたのは、帝都に隣接する森林部。
「ああ、朝早くから勤務お疲れさんです」
「正規の任務じゃないですけどね」
「それについては悪かったな。礼は近い内にするから、予定空けとけよ」
「えっ………それって–––………」
クレアの言葉を結局、最後まで聞かずにゼダスは森林部を駆け始めた。クレアの声が聞こえなくなる位の距離を置くと駆けるのを止め、歩く事にする。それにしても不思議な事もあるもんだ。
あれだけ近代化が進んでいる帝都から少し離れただけというのに、恵まれた自然。近代化が進むにつれ、自然を蝕む世界の法則あるまじき現象に改めて感心する。だが、その関心も数瞬しか感じなかった。何故なら–––それに限り無く近い“異物”が紛れ込んでいる事に。
「………居るんだろ。サッサと出て来い、“ルナ”」
「あはは、バレてた〜?お久しぶり〜ゼダス♪」
突如、虚空から周りの色彩を吸収したかの様に現れる少女。
白みがかった紫髪が木漏れ日に照らされ輝いてる上、琥珀色の瞳が光る。
そして、その少女の気の抜けた声にゼダスは、
「久しぶり。………つーか、何時から尾けてたんだよ?」
「尾けられてた事には気付いてたんだ〜♪まだまだ改良の余地有りっと♪」
ウザくなるまでに天真爛漫なコイツが、ゼダスの今回の御目当ての凄腕鍛冶屋、ルナ・ヘパイストスだ。ルナは、んーと、ワザとらしく頬に指を当てながら答える。
「あの美人の大尉さんとつるんでた頃くらいかな。でも、やっぱりゼダスの感知能力は凄いねぇ〜。最近、開発した完全特殊光学迷彩を看破するなんてねぇ」
「おい、てめぇ、何サラッと新技術の開発を始めてるんだよ。どっかの軍に売ってねぇよな?」
「ゼダスったら酷いっ‼︎そんな意地悪な事言ってると、せっかくのイケメン顏が台無しだぞ☆」
このルナは確かに凄腕鍛冶屋なのだが、それと同時に兵器関連の技術なども作ったりしているのだ。しかも、ルナの作る兵器・技術は戦場に出ると例外無く、バランスブレイカーに成る。
そんな物を備えた軍は何の経験が無くても百戦錬磨の猛者となり、あらゆる経験則を踏み躙る事が出来るのだ。
「まーだ、売ってないよ。前も言った–––と言うか、知ってるだろうけど、私は完璧主義者なんだぁ〜。欠陥品なんて売れないよぉ〜」
「その欠陥品も厄介なんですけどねっ‼︎」
こんなやり取りをしていては全く埒があかない事に気付いたゼダスは本題を切り出す。
「さてと………いきなりで悪いけど、武器を鍛えてくれ」
「武器?別に良いよ〜って言いたいけど何で?魔剣があるでしょ?アレってチート級に高性能じゃない。まさか、大剣二刀流⁉︎さっすがゼダス♪そこにシビれる‼︎あこがれるぅー‼︎」
「勝手に話を脱線させるな。ほらよ」
ゼダスは魔剣の残骸を差し出す。それにルナは琥珀色の瞳で覗く。そこには驚愕と羨望が混ざり合っていた。
「これ………折れたの?」
「ああ、そうだよ。帝国に侵入してた守護騎士にな」
「ほへぇ〜………それは中々、興味深い話で」
「しかも、聞いた事無い二つ名で、《天帝事件》の生き残りだ。俺って祟られてんのかな?」
「さぁ?で、その二つ名は?」
「確か………《黒の銃弾》って名乗ってたな」
「あ………そいつ、私見覚えあるわ」
ルナの衝撃のカミングアウトにゼダスは、
「はぁっ⁉︎何処で⁉︎」
と叫ぶ。
人目が無いとはいえ、大きすぎる声にルナは耳を塞ぎながら答えた。
「いやぁ〜正体不明の所から依頼が来てさぁ………その時に名乗ったのが《黒の銃弾》だったんだよね。そして、その時に頼まれた物が義肢。戦闘用の義肢って作った事無かったけど、設計中は楽しかったよ〜。中に爆発力と推進力を増すカートリッジを組み込む事で、数発限定で人智を凌駕する力を発生させる。まさか、《外の理》をも貫くとは思ってなかったから、個人的には嬉しい限りだよ」
「うん、合点がいった。てめぇ、何てもんを作り出してるんだ、おいっ⁉︎あの時は《
「そんなゼダス君に悲報+朗報です」
「………嫌な予感が」
「なんとっ‼︎その《黒の銃弾》が追加注文くれました‼︎しかも、今回の要望はガチ鬼。なんとっ‼︎総ゼムリアストーン製の義肢をご所望なのです‼︎」
「強くなるのは嬉しいけど素直に喜べねぇっ⁉︎」
ゼダスの嬉しくも悲痛な叫びにルナはニコニコしたまま。本当にイラついてきた。
「まぁ、それならコッチも対抗策を打つだけだ。ルナ、ゼムリアストーンに負けない武器をこの魔剣を転生させて鍛えてくれ。出来るな?」
「もっちろん♪」
そして、差し伸べられるルナの手。ゼダスはそれをしっかりと握る。
この瞬間、新たな
はい、次回。新武器完成でございます。それに辺り、アンケートを締め切らせていただきます。結果は次話に発表という事で………
今回登場したルナ・ヘパイストスはまた、設定にまとめますが、イメージとしてはディバインゲートの神才マクスウェルで、口調は若干、学戦都市アスタリスクのエルネスタ・キューネをモチーフにしてます。