彼女は苛立ちを募らせていた。
日が高く昇る昼。授業中だというのに教室の窓からボンヤリと景色を眺める青髪の彼女。
形容し難い気持ちに彼女は朝っぱらから追い立てられていた。理由は–––多分、普段から特訓に付き合ってくれる彼が忽然と姿を眩ませたからだろう。
確か、前回の特別実習で相見えた強者相手に武器を壊してしまったらしく、何時か武器を作り直してもらうとは言っていたが、何の断りも無く消えるのはどうかと思う。
だが、それで強くなって帰ってきてくれるのなら有難いし、嬉しい。特訓相手が強過ぎるのは、何のデメリットも無いのだから。
そして何時の間にか、彼女は彼の実力から彼自身に論点が変わっていた。
彼–––入学式に出会ってから、その卓越した剣才に惹かれ追い掛ける事にした。しかし、それ以外はどうだ?
異性として見た事もある。少ししたトラブルで触れられた時は鼓動が加速した事もある。でも、それを“恋”とカテゴライズしてもいいのだろうか?
純真無垢な彼女には未経験の感情故、どう表現していいかが分からない。その答えが明確に現れるのは、もう少し先の話だった。
―――*―――*―――
「………これが」
「うん、魔剣の残骸から出来たインゴット」
ルナの手に置かれるは、巨大なインゴット。
紅く光り、その輝きは滅却の焔にも見えるそれがゼダスの前の武器、魔剣レーヴァティンの核心という訳だ。
「いやぁ〜にしても《外の理》製の武器って異常だよね〜。滅茶苦茶硬いわ溶けないわで、インゴットにするまでが大変だったよ」
疲れた様に言うルナ。それもそうだ。何故なら、この会話は–––
「お疲れさん。でも、その《外の理》をインゴットにするのに一晩分で済むとは思わなかったよ」
ゼダスとルナが出会って一晩過ぎてからの物だったのだ。ゼダスも付き合ったが一晩中、ルナはハンマーで残骸を叩き、形状を正していたが、ハンマーの方が砕けたシーンも少なくとも一、二回では無い。
それだけ《外の理》はチート級の技術だと改めて実感させられる。
「ふぅ………でも、これで次の段階に進めるよ。それじゃあ、ゼダス。準備よろしく♪」
「分かったよ」
ゼダスは短く答え、“準備”を開始する。
まず、ネクタイを緩めて外す。
次に、ワイシャツのボタンに手を掛け、一つ一つ外していく。
全く躊躇う事無く、上半身の衣服を脱いでいくゼダスを他人が見たら、確実に露出狂の二つ名が付いてしまうだろうが、今は帝都郊外の森林部。しかも、最深部付近。そんな所にわざわざ来る様な奇特な奴らはゼダス達だけで充分だ。
そして、露わになるゼダスの身体。
無駄を削がれ、細く引き締まっていて、厳しい鍛錬を積んできたのが手に取るように分かる。
そんな身体にルナは手を伸ばす。
ゼダスの胸部付近に手を翳し、目を瞑る。
「ゼダス。それじゃあ、イメージを想起して」
「了解」
これがルナの儀式。
使用者の身体に直接触れ、イメージを汲み取り、具現化させる。
それがどれだけ難しいかは分かるだろう。だが、それが可能かつイメージをも超える性能を作り出す事が出来るからこそ、ゼダスはルナを選んだのだ。
ルナの言われた通り、ゼダスは自分の武器のイメージを想起する。
意識の中、現れるは真紅の大剣。今は亡き魔剣レーヴァティンだ。
それに手を翳す。そして、無数の感情が渦巻き入り乱れる流れが意識に流れ込む。
憎悪、無念、嫉妬、憤怒、罪悪、空虚………
その全ては折れた魔剣の後悔が詰まっていた。そんな負の感情の中に光り輝く感情を見付ける。
それは、羨望。
砕かれた時の力に対する羨望。
壊された事による後悔よりもその力をも取り込もうとする羨望。
流石は《外の理》。
自分に足らない物は何が何でも喰らおうとする感じ。
–––この感じに惹かれた、と。
–––だからこそ、使い続けれた、と。
だが、その魔剣はもう死んだ。
それが理解出来ると魔剣のイメージは薄っすらと滲み、消えてゆく。
そして、虚空になる意識。空白のイメージのみが存在する。
でも、そこで立ち止まる訳にはいかない。
–––それは魔剣に対する冒涜だ。
歩み始める必要がある。
–––なら、如何する?
止まらない力を手に入れる。
–––その為には?
あらゆる物を凌駕する力を手に入れる。だから、ルナの下まで来たんだ。
突如、現れる光の
それはゼダスの腕に絡み付く。棘が刺さり、悲鳴を上げたくなるが、何とか叫び止まる。腕が締め付けられ、刺さって、意識が削がれていく中、ゼダスは先にある物を見付ける。
茨が一段と集まる所に見える柄。その柄からも茨は生えていて、掴もうものなら手を穿たれるだろう。しかし、それでも手を伸ばす。掴めれば答えに辿り着く–––まではいかなくても、近付ける気がする。そして–––
「–––ス………………ゼダス⁉︎」
肩を揺らされ、ゼダスの意識が戻される。
「………悪い。ちょっと考え過ぎた。で、如何だった?」
「確かにゼダス君のイメージする“力”の象徴たる武器は読み取れた。でも………ゼダス、考え直すつもりは無いの?こんな力は–––」
「ああ、全くもって全世界の命を賭した奴らに対する冒涜だ。だが、それでも俺が導き出した“力”だ。今更、曲げる気は無い」
「分かった………でもね。最低限の殺傷能力は付けるからね。………ったく、“人を殺し切らない力”を提示されるとはね。今までのゼダスなら考えられないよ〜」
「そうだと思う。でも–––これからは殺さない事が重要になるかもしれないし」
ゼダスの言葉にルナは疑問符を隠せない。
「殺さない事が重要になる?一体、如何いう事?」
「さぁ………勘?」
「勘だけで武器の性能を決めるとか………普通じゃねぇよね♪」
「なんでそこだけ嬉しそうなんだよ………」
嬉しそうにつぶやくルナにゼダスは頭を抱えたくなる。
「ま、武器性能の指向性だけは分かったし、早速素材集めと行きますか?」
「そうだな………まぁどうせ、魔獣の素材とかが大量にいるんでしょうけど」
「うん、そうだよ。でもね、今回のは魔獣のは少ないと思うんだ〜」
「何で?」
「それはゼダス君が考えれば自ずと分かるよ♪」
そう言われれば、考えてみたくなるだろう。そして、数瞬考えた後、理解には遠い予測が出来上がる。
ゼダスのイメージで現れた茨。まさか、アレが関係しているのか?
尋ねようとするゼダス。だが、ルナは居ない。
「ほら、早く行こうよ♪」
にこやかに言うルナにゼダスは黙って付いて行く事にした。
―――*―――*―――
「………–––で、何でこうなるんだよ⁉︎」
アンチ・ゴスペル片手にゼダスは森林を駆け抜ける。背後からはバキバキと木が折れる音がする。その音を作っているのは、何処からどう見ても巨大な植物。
体長約三メートル。胴体から生える無数の蔦は気をも壊す程の力を誇り、何よりも目立つのは頭部。周囲の虫たちを寄せ付ける魅惑を醸し出している薔薇が頭部に咲いており、正直なところ気持ち悪い。
しかも、移動速度が速過ぎてまともに走っても逃げきれない。
だから、そこら辺に生える木々を障害物にしながら距離を取るのだが–––それでも、戦闘といえる物にはならない。何故なら–––
「この化け物がっ‼︎どんだけ魔法耐性が高いんだよ‼︎」
ゼダスの言葉通り、異常なまでの魔法耐性を持っているのだ。植物系統の魔獣に対する最大の弱点たる火属性の
「その魔獣–––
ルナは安全圏から話しかけてくる。戦闘中だと言うのに呑気に話しかけてくるのは、イラッとするが、ちょっと聞き逃せない言葉がある。
「………って、『都市開発による悪影響を全てを吸収』?それって………」
「流石に勘がいいね。そう………この魔獣が今の自然を保全している存在とも言える訳」
「それを勝手に討伐しても良いのか?討伐直後に中に溜まった悪影響が漏れ出たら、俺死んじゃうよ?」
「《
「それもそうだけど………いや、使いたくないわ」
そう言い切り、ゼダスはアンチ・ゴスペルの引き鉄を引く。放たれた魔法は表面に当たっても吸収される。だが、当たった感触だけは感じたのか、ゲームで言うヘイト値のみが稼がれていく(どちらにせよ、ゼダス一人しか眼中にないのだからヘイト値を稼ごうが稼がまいが関係無いが)。
その反撃に放たれる蔦。鋭さを纏い、ゼダスを襲うが、障害物である木を利用し避ける。
正直、イタチごっこだ。
こちらが攻撃、相手意味無し、相手攻撃、こっち避ける。これの繰り返しだ。その所為で、戦況は膠着している様にも見える。だが、戦況が一時も膠着するなんて事はありえない。どれだけ僅かだろうが刻一刻と動き続けるのが世の常。そして、膠着に入った亀裂が目に見えて表れるのは、突然だった。
「グガアァァァァァァァァッ‼︎」
怒り狂った咆哮を上げる死徒の寄生木。それにゼダスは、してやったりの表情を隠せない。
死徒の寄生木の攻撃をただただ避けるだけでは無く、ゼダスは計算しながら回避する事で、あらゆる障害物に蔦を絡ませる。確かに蔦の火力は脅威だ。なら、使用不能にしてしまえばいい。そうする事で一定時間に限り、相手からの攻撃を考えずに済む。
だが、死徒の寄生木自体の力を考えると、時間的にはチャンスは一度きり。
なら、どの手段で攻撃する?
既存の導力魔法………駄目だ。火力が無さ過ぎる。
素手攻撃………論外。議題に挙げる余地無し。推測するだけ虚しい。
この中なら、自己製魔法しかない。
そう判断したゼダスは、制服の内ポケットから弾倉を取り出し、アンチ・ゴスペルに差し込む。多分、火属性の自己製魔法を撃ち込んでも削り切れない。だから–––
「本当、ラインフォルトの技術力には度肝を抜かれるな‼︎」
アンチ・ゴスペル用に用意されたロングバレルを装着する。さしずめ、
「風速、射角、条件オールグリーン。魔弾選択『バレッド・ムスプルヘイム』、装填。よし、準備完了」
多数の魔法式が重なり、多大な魔力が運用されているのは誰の目から見ても確かだった。
「
それを起句に発動した自己製魔法。
発射された魔弾は烈火の焔を纏い、空間を裂いていく。神速の速度で飛ぶ弾丸は死徒の寄生木の頭部をバスッと撃ち抜く。そして、ゴウッと膨大な熱量を含んだ大爆発を起こす。これだけ大規模な爆発を起こせば、帝都から《鉄道憲兵隊》辺りが飛んできそうな気がする。
焔が自然と消えていき、そこには焼かれて真っ黒な死徒の寄生木が居た。
「ありゃりゃ。こりゃあ凄い♪丸焦げだ♪」
ルナは走って駆け寄り、ゼダスに声を掛けた。
「そうだな。………ってさ、何でこんな魔獣を討伐する必要が有ったんだ?」
至極当然な質問にルナは、
「そりゃ勿論、武器に使うんだよ〜。それじゃあ、パパッと片付けますか♪」
―――*―――*―――
ゼダスは一人で死徒の寄生木の必要な部分だけを切り取り、運んでいた。
表面の魔法耐性は確かに高かったが、物理耐性は反比例して低かった。そこら辺の市販のナイフで解体出来たのだから。
それにしても、何でこんな魔獣の素材が要るにだろうか?
所々から棘の生えた蔦に薔薇の頭部。絶対に武器は必要無い様に見える。
だが、ルナが要ると言うのだ。必要なのだろう。
「ほら、ゼダス。ここに素材を並べて」
ルナの言葉にゼダスは目的地に到着した事を感じる。
そこは、森林部の何処かに設置された移動式仮設テントがあった。これがルナの住居兼職場だ。
ゼダスは鍛治用の台座に素材を並べる。
さっきの死徒の寄生木の腕部に頭部。そして、魔剣の残骸から出来たインゴット。それに加え、様々な添加剤。
「こんな物で良いでしょ。それじゃあ、作るから少し待っててね〜」
鍛治用のハンマーを振り回しながら、ルナは言う。それにゼダスは無言の肯定を返す。
―――*―――*―――
武器が出来上がるまでの間、ゼダスは一人、森林部の中で瞑想していた。
–––ようやく、新しい力を得る事が出来る
出来る事なら、今直ぐ駆け出したい
–––今までとは違う“力”
それは“殺す”為では無く、“生かす”為の。
–––ここから自分と相対するんだ
隠された過去と。分かりし今と。
–––これ以上、足踏みする訳にはいかない
これ以上、時間を浪費する訳にはいかない。
澄んだ–––尖った–––磨かれた心を確認し、ゼダスは目を開く。
新たな力の流れ。
それを感じ取ったゼダスは瞑想を崩し、ルナの下へと引き返す。
―――*―――*―――
作業場にいたルナは倒れていた。満面の笑みを浮かべて。
「お前らしく無いな。武器打って疲れたか?」
「あ、あははーー………ちょっと死ぬかと思った………文字通りの“化け物”だよ、コレ」
倒れているルナは作業台の上に置かれた剣を指差す。
そこにあったのは長剣だった。
高純度の鉱石を磨いた時に見られる光沢を纏った白銀の刀身。とても魔剣の残骸から出来た真紅のインゴットを使用したとは思えない。
そんな壮麗な刀身よりも目を惹いたのは、鍔の部分。幾重にも巻き付けられた茨によって形成されたそれは、生半可な覚悟で触れる事を拒んでいる様にも見える。
「これが–––………」
「うん。それがゼダスの新武器–––死徒の寄生木という魔獣の性質に魔剣のインゴットが絡まる事により完成した神器。寄生木と書いてヤドリギと呼ぶんだし《ミストルティン》が良いんじゃない?」
「《ミストルティン》か………」
ルナの名付けた言葉をゼダスはブツブツと復唱し、口に馴染んだのを確認するとミストルティンの柄に手を伸ばす。だが–––
「………ッ⁉︎」
見えない力に跳ね返された。意味が分からず、ゼダスは唖然の表情を隠せない。それにルナは笑いながら、
「ミストルティンはどうやら、使用者を選ぶらしいよ。しかも、認めさせるにはそれ相応の苦労が要るって」
「それでも良い………というか、認めさせる。そうすれば何の問題も無いだろ。で、どうやって認めさせるんだ?」
「《輝く環》の魔力を少量流し込んでみたら?剣の精霊が現れるかもよ」
「何か不確定な話だなぁ………でも、立ち止まってても仕方無いか」
腹を括ったゼダスはミストルティンに目掛けて手を翳す。といっても、触れる寸前で止めて、だが。
そして、《輝く環》を起動させる。
先程の自己製魔法顔負けの魔力量が運用され、空間自体が悲鳴を上げている。
左肩に埋まっている《輝く環》は輝きを増し、周囲を光で包んだ。
眩い光はまるでゼダスとルナ、そしてミストルティンを別次元に隔離したかの様だった。
ゼダスはミストルティンを真っ直ぐ見据え、ルナは周囲の変化に興味深そうに観察している中、ミストルティンは《輝く環》の放った光とは別色の光で輝き始める。
その光が空間内で編まれ、姿を形成されていく。そして、形成されたのは、人型を取り繕った“何か”だった。
薄若葉色の髪は幼女体系の肩よりも長く生えていて、虚ろな緑眼がこちらをジッと見つめている。
「汝、我の身に触れようとは何事じゃ?」
「我が身って事は、ミストルティンの魂って解釈で良いのかな?」
「合っておる。それで一体、何の用じゃ?」
「お前には俺の武器になってもらう」
「何を言っておる。我はもう誰にも付く気は無い。分かったらサッサと回れ右して帰れ」
ミストルティンの魂は、ゼダスを面倒くさそうに追い払う素振りを見せる。普通なら、ここは頼み込んででも手に入れるべきなのだろうが、ゼダスとしては「何か、こいつに頭下げるのが嫌」という感じがして、頼む気力が失せていた。だからと言って、丸腰で帰る訳にもいかない。そして、導き出した結論は–––
「–––そうか、お前は一度の敗北で勝負が怖くなったんだな」
–––挑発だった。
「何………」
ゼダスの挑発にミストルティンの魂は苛つきを表情に写しながら、こちらを向く。
「だってそうだろ?武器として魂を持ってるのに誰にも使ってもらわない………逃げてるって事じゃないか。それを臆病の腰抜け野郎って言わずに何て言うんだ?そんな便利な言葉があるんなら、教えて欲しいもんだよ」
内心、計画通りと呟きたくなるが、ここでボロが出ると作戦が破綻する。何とか表情に出さずに耐えていると–––
「汝………その不敬、死ぬ前に言い残す事はないか?」
「死ぬ前?何言ってんの。俺はまだ死なないよ」
「死ななくても良い。我が殺すのだから」
ミストルティンの魂は、虚空を掴み、何かを作り出す。
幼女体系の身体の約一,五倍のリーチを持つ長槍だ。それを器用に振り回し、切っ先をゼダスに向ける。
「ほれ、その剣を我が槍を超えて届かせてみろ。そうすれば–––認めてやらんでも無い」
「言ったな。その言葉、よく覚えとけよっ‼︎」
投げられた長剣–––ミストルティンをキャッチし、ゼダスは叫んだ。
この瞬間、試練は始まったのだった。
えーと、ゼダス君の新武器には《ミストルティン》に決まりました。他案も魅力的だったのですが、これが一番心に響きましたね。有難うございます。
あと、ミストルティンの魂は一応キャライメージは有ります。ディバインゲートの(またかww)–––風神ヘズですね。ミストルティン繋がりで。
設定に加えるかは分かりませんが。
ディバインゲートで思い出しましたが、アニメ始まりましたよ。
声優陣の豪華さに驚かされた上、絵も好きだったので見ますね(ゲームやってるし、嫌いな絵でも見ますけどww)。でも、今季はそれ以外見ないかなぁって気もしますね。読者の皆様はどんなのを見てらっしゃるのでしょう?