誰が想像出来たであろうか?
自宅とも言える所に帰ってきた瞬間に怒鳴られるとは。
否、想像出来る筈も無い。
何故なら、怒られる様な事はしてないから。
強いて言うなら、ほとんど人に断らずに武器を製作を頼みに行った事くらいか。
「えーっと………何で怒ってらっしゃるんです?」
帰ってきた直後の黒髪少年にとっては意味が分からない。
青髪の少女に帰ってくるや否や、胸倉を掴み挙げられ、怒鳴られている光景に。
「そなたが勝手に消えるからだろうっ‼︎」
そこに関しては少年に非がある。確かに、スーパーメイドさん以外には、何も言わず出てきたのだから。だが–––目尻に涙を溜めてまで怒られる理由が分からない。
そもそも、今の時刻に起きている方もおかしい。だって、もう日付変わってる時間だぜ。年頃の少女が起きてて良い時間では無いはずだ。
「だからって………そこまで鬼気迫る勢いで–––………」
「そなたがどれだけ強いかは十二分に理解している‼︎それでも心配するだろう‼︎前の実習時に死に際を味わったのでは無かったのかっ⁉︎」
これ以上、反論してもややこしくなりそうな上、正直なところ眠たい。少年は素直に早く終わる手を選択する。
「ああ、分かったよ………ゴメン。心配させて」
「フンッ………分かればいい」
青髪の少女に胸倉を乱暴に離され、少年は少し体勢を崩し掛ける。
自室に戻ろうと足取りを進める少女の後ろ姿を見て、少年。
「………本当、女心はよく分からん………」
―――*―――*―――
ゼダスが新たな武器、ミストルティンを手に入れ、今の居住街であるトリスタに戻ってきてから、一晩過ぎた。
朝から、クラスメイトであるⅦ組メンバーからは出て行ってた理由やミストルティンについてなどの質問対応に追われていて疲れていた。
それに加え、休んでた分の授業の補習に、多数の教官からのお咎め。こっちから見たら、武器無しは死活問題だったというのに………それでも説教って鬼かっ⁉︎と言いたくなる。
そして、放課後。また怒られそうな人から呼び出しをくらった。
指定された場所は学生会館二階の最深部。つまりは生徒会室。と言う事は–––
「ゼダス君っ‼︎何で一週間も学院を無断欠席したのよ‼︎心配しちゃったじゃない」
「………俺が居なかった事を怒るのは、そこ位にしてくれね?正直、昨晩–––いや、早過ぎる早朝からずっと怒られっぱなしなんですけど………機嫌直してくれよ、トワ」
案の定、トワに怒られた。
そして、迫られているのだが、体格差故に大して怖くない。どころか、妙に和む。だが、禁句をわざわざ口にする必要は無い。
「うう………本当、心配したんだからねっ‼︎」
「分かったよ。心配させた悪かった。これでいいか?」
「何かやっつけ臭が凄いけど………」
「ずっと謝ってきたんだから、そうやって片付けたくなるもんだよ、全く………」
こめかみを押さえながら言うゼダス。それをトワは微笑むが、
「せめて、休学届け位出していっても良かったのに………」
「まぁ、それは俺の落ち度っすよね………はぁ………この一件で失ったであろう信頼をどうやって取り戻そうかな?」
「うーん………アイデアが無い訳じゃないんだけど………」
「何ですか?信頼を簡単に取り戻す方法があるんなら、したい」
「それじゃあ、ゼダス君。これ」
トワの手から渡されたのは、紙束。ペラペラ捲りながらゼダスは、
「白紙の紙が大量。これって一体………」
「教官達から頼まれた各部活のレポート用紙だよ」
「それの何処が俺の信頼を取り戻すのと関係するんだよ」
「だって、ゼダス君はまず教官からの信頼を取り戻す必要があるでしょ?それはレポートの出来で私が直談判すればいいし、生徒の方は部活を手伝えば、信頼を取り戻せるんじゃないかな〜と思って。だから–––よろしくね♪」
―――*―――*―――
良い感じに言いくるめられた気がしてならないが、ゼダスはどうしようか悩んでいた。
トワの言った案なら、確かに多少の修復は可能だろう。だが、どう見ても仕事を押し付けられた気がする。
確かに二ヶ月前くらいにトワには無茶するな、とは言ったが、こんな面倒極まりない仕事を押し付けられるとは思わんかった。
生徒会室の扉を背中に途方にくれるゼダス。こんな形でも、引き受けた仕事だ。降りる訳にはいかないし、それによる対価も悪い物では無い。なら–––
–––やるだけやるか………
最初、手を付けたのは、生徒会室と同じ生徒会館にあるチェス部。
確か、貴族と平民で部活として内部分裂した所で、しょっちゅう部対抗の試合を行っているらしい。
そして、その情報通り、部室の扉を開くと緑色の制服と白色の制服が対局していた。つまり、平民生徒と貴族生徒が。
対局出来るって事は、それなりに気が合うのではないか?とも思わんでもないが、わざわざ口出しする必要は無いだろう。
サッサとレポートを書いて、次の部活に移ろうとすると見知った顔を見付ける。
「あ、秀才メガネ」
「僕の名前は秀才メガネでは無いっ‼︎」
秀才メガネことマキアス・レーグニッツ。
Ⅶ組の中では頭が良い方の奴。
「お前って、チェス部だったんだなぁ。初めて知ったよ」
「僕としてはクラスメイトに知られていなかった事が驚きだよ………」
「あー………んじゃあ、これ書くの手伝え」
そう言って、ゼダスは白紙のレポートを見せる。それにマキアスは、
「それって………」
「生徒会の部活報告書だとよ。任されたから手伝え」
「それは君が受けた仕事だろう。僕が手伝ったら、意味が無いじゃないか」
こうやって否定的な意見を述べてくるのはハナから想定済み。対抗策を出す。
「でもさ………コレの出来によれば、チェス部が貴族優先の部活ってのを、貴族平民平等の部活にする事も可能なんだけどなぁ〜。それでも引き受けてくれないか〜。あーあ、残念だなぁ〜。折角のチャンスだって言うのに」
貴族に虐げられる事に憤りを感じる平民マキアスにとっては魅力的過ぎる提案。
たった一つのレポートを最高の出来にすれば、この状況が覆せる。そう思うと–––
「………分かった。引き受けよう」
―――*―――*―――
チェス部の扉を背にゼダスは一息吐く。
報告書一枚で状況が覆る?
実の所、そんな美味い話は無い。だが、多少はマシにはなるだろう。
それを多少、盛っただけの話だ。商談などでも、話を盛るのは定石だ。別に罪悪感なんて感じない。
それより厄介なのは残りだ。こんな感じに一部ずつ訪問して、書いていくのなら、途轍も無い時間がかかる。だからと言って、別の手段がある訳でも無い。完全に八方塞がりだが、止まっていても仕方無いし、次の部活に向かうとしよう。
次は–––同じ生徒会館にある文学部。
この部活については、全くと言っていい程、情報が無い。知るには持って来いかもしれない、と思ったゼダスは、部室の扉を叩く。
「失礼します」
模式の挨拶がてら、扉を開ける。
そして、見た中は至って普通の部室だった。
部員用の机と席が置かれ、壁には無数の本が。図書館に似ている雰囲気がする。
「えーと、生徒会の用で来たんですけど………」
「ゼゼゼダスさんっ⁉︎」
挙動不審に答える同じクラスのエマ。咄嗟に何かを隠した様子だが、別に気にせずに要件を述べる。
「部活報告書を書きに来たんだけど………まず、ここって何をしている部活なんだ?頭良い委員長が入ってる位だし、文学について研究でもしてるのか?」
「えーと………その………まぁ、そんな感じです」
歯切れの悪い返事を受け、ゼダスは首を傾げる。
何でここまで動揺しているかは分からないが、兎に角「百聞は一見に如かず」。とりあえず、観察する事にした。
どうやらこの部は、本を綴る、読むのに特化しているらしく、ひたすら本を読んでいた。
コレって部活として意味あるのか?と思い、おもむろに一冊抜いてみた。そして、即座に直した。ゼダスの背筋には冷たい物が–––
「なぁ………この部活ってさ………」
「ゼダスさんっ⁉︎見たんですかっ⁉︎」
詳しく綴る気は無い。ただ–––世界には色々な趣味の人がいる。それを学べたよ………
―――*―――*―――
文学部で見た物の所為かは分からないが、若干疲れ気味のゼダスはサッサとレポートを纏めていった。
色々な部活を巡り、色々な手伝いをさせられ、残るは二つ。
気不味さ故に行かなかった水泳部と、忘れていた園芸部。
この二択なら、園芸部から済ませよう。
「あ、ゼダス」
残っている数少ない白紙のレポートを手の平で弄んでいると、前方から声が掛かる。
「フィーか。良いところに来たな。ちょっと部活風景を見学させろ。生徒会の用でな」
「うん、良いよ」
肯定の意を示したフィーは、ゼダスの手を掴んで、部活を行う場所である花壇へと導く。
サラっと、手を繋いでいる状態だが、特段とゼダスは気にしなかった。
「はい。ここが部活場所」
そう言うフィーにゼダスは観察する。
色取り取りの花が咲いて–––いなくもないが、ポツポツと咲いていた。花ごとに咲く季節が分かれているのだから、当然とは言える。
そんな中、一つ地味な色だが、存在感を放つ花があった。
「おい、フィー。コレって………」
「気付いた?」
その花は、ゼダスが一年と数ヶ月前、幼子に上げた花だ。その時期の記憶はあってもあやふやだったが、この花の存在はハッキリと覚えている。
「私は昔、ゼダスに会ってた。そして–––この花を貰った」
「そうか………あの時の子がフィーだったのか………ったく、別人になり過ぎて気付かなかったよ」
「それで種になったから、ここで育てようと思って園芸部に入った」
「でも、その花さ………大して珍しい物じゃないよな。そこまで大切にしなくても、どこかしらから入手出来るだろう?最悪、街の花屋にもあると思うぜ」
「ゼダスから貰った………それ以上に大切にする意味は無い」
穏やかな微笑みと共にフィーは恥ずかしい台詞を言う。
端から見れば、色々と誤解を招きそうな雰囲気を出しているが、色恋沙汰になる訳が無い。ゼダスとしてはフィーに“そういった”感情を持っている訳じゃないし、フィーから見てもそうだろう。
色々と考えてそうなゼダスの横顔にフィーは微笑む。だが、さっきの様な穏やかさでは無く、打算している冷徹な物だった。
流石のゼダスも、思い出の花との遭遇で気が紛れているのだろう。だから–––花壇の一角に咲く危険な花があるのに気付かなかったのかもしれない………
―――*―――*―――
「はぁ………」
最後の白紙のレポートを手に、ゼダスは溜息を吐く。
昨日の今日で、気不味さが抜けてないのに、わざわざ部活中に訪ねるのは、余計に拗れそうだが、ウジウジしてても始まらない。
肚を括ったゼダスは水泳部の領域であるプールへと入る。
一気に襲ってくる湿気に一瞬、クラッとなるが、意に介さず進む。こんな湿気の中でレポートを書けとは中々な鬼畜度だろう。
兎に角、書く事を書いて、サッサと消えようと思い、ペンを手にするが、硬直した。目の前に凄い奴が居たから。
青髪を後ろで纏めて、競泳用の水着を着ているラウラ。
だが、衣装の違いか、普段の雰囲気とは違っていた。
普段は剣を奮う“
いつも見ている顔だが、着ているものだけでここまで違うとは思わなかった。
口をアングリと開け、呆然としているゼダスにラウラは、
「ゼダス、何をしに来たのだ?」
と如何にも不機嫌そうな声で返す。
その言葉に我に返ったゼダスは、意識が飛ばない内に要件を述べる。
「生徒会の手伝いで、部活に関してのレポート。最後に残ったのが
「そうか………」
気不味さの抜けない二人。正直、居辛くて逃げ出したい。
こんな事ならミストルティンを振るって特訓してた方が有意義だ。
しかも、水泳部に関しては捏造で書けるはずだ。大抵の知識はあるし。
耐え切れなくなったゼダスは回れ右して、水泳部を後にしようとする。が、急に制服の襟を掴まれ、首が締まりそうになり、足が止まる。
「ま、待てっ‼︎」
「何で止めるんだよ………書く事に関しては困らないから、もう居る必要は無いんだが」
正論を突き付けるゼダスにラウラは若干、言い淀みながらに言の葉を紡ぐ。
「………少しぐらいは見学していかないのか?」
「いや、だってあんな一幕があった後だぞ。どう考えても居辛くて帰りたくなるだろうが」
「でも、帰ったところでレポートは書き終わらないだろう?」
「それはさっきも言った通り、書く事には困ってないし………」
「一人でやるより二人でやる方が速いと思うが?」
何故か、押され気味のこの現状に、ゼダスは頭を抱えたくなりながら思考を回す。
何でゼダスを水泳部に居させる必要がある?
互いの関係上、離れた方が両者得するはずだ。なのに、止める。本当に分からない。
だが、ここで無駄に断ると後々に響きかねないと判断して、ゼダスは答えを出す。
「………分かったよ。各部活の手伝いも兼ねてるしな。で、何を御所望で?」
「それじゃあ、タイムを計ってくれないか?」
そう言って差し出されるストップウォッチ。泳ぐタイムを計れという事なのだろう。その程度は造作も無い事だし、
「了解」
と短く返した。
「それじゃあ、始めるぞ………On your make,set,go!」
開始の合図を出すとラウラは飛込み台を蹴る。
流石、水泳部という事もあり、普段から筋肉の使い方が上手い事が合わさり、中々の速さだった。
ゼダスが感心していると、ラウラが到着。水に濡れた青髪が輝きを帯びている様に見える。
プールに浸かったままのラウラにゼダスは、
「お疲れさん。中々、速かったじゃねぇか」
と労いの言葉を掛けながら、手を差し出す。
ラウラはその手に若干、躊躇った後しっかりと握り返した。
そして、プールサイドに置かれてあるベンチでレポートをまとめていた。
書く文には困らないのは確かだったが、各部活ごとに整理しておかなければならないのは、少々面倒。だが、ラウラが手伝ってくれたから早く終わった。
「理由を聞き忘れてたんだけど、何でいきなりタイムを計るのを頼んだんだ?もうちょっと、力仕事を寄越してくるかと思ったのに………」
早過ぎる早朝の出来事で険悪ムードだったのだし、腹癒せに厄介な仕事を回してくるのはテンプレのはず。
そんなゼダスの問いにラウラは、
「そなたに“力仕事”と言わせる仕事があると思うか?」
「ああ、納得」
つまり、ゼダスにとっては苦になる仕事の一つも無いと。
「話は変わるんだけどさ………お前って綺麗だよなぁ」
「………っ⁉︎い、いきなり何を言うっ⁉︎」
「いやぁ〜、アレだけ綺麗なフォームで泳げるんなら速いのも合点が行くよ」
「………………は?」
何かが食い違う二人の会話。
それに終止符を打ったのは、ラウラの拳だった………
はい、また微妙なところで切った上、冒頭で述べた通り、何を書きたかったのか分からないのです〜
Ⅶ組全員分の部活を回るつもりだったのですが、エマの文学部を書いてる最中に、
「これ、全員分は面倒くさいよな………」
と思い、一気にカット。
四章のメインであろう二人を最後にねじ込んで終了。
個人的には、文学部をもうちょっと書きたかったんですけどねww
あと、プールの全長って一体何メートルなんでしょうね?