「妹からの手紙だぁ?」
ラウラとの朝練を終えて、汗だくにまま朝食にありついているゼダスに突き付けられる手紙。
どうやら、この手紙を突き付けてきた本人–––リィン–––の妹–––とはいえ、血は繋がっていないが–––から手紙が来たそうなのだ。
血が繋がっていないだのの理由で、すれ違っているみたいな事をノルド高原で言っていた様な気がするが、やっぱり本質は妹思いの良い兄なのだろう。
「ああ、そうなんだよ。久し振りに手紙が来てさぁ〜」
「あー良かったですね〜(棒)」
明らか面倒くさそうなゼダスの言い草。
それもそのはず。この話は朝っぱらからエンドレスループで聞かされているのだから。
ノロケかっ⁉︎と言いたくなるが、聞き届けてやるのが友の役目と割り切り、文句を言わず聞いてあげてるのだから、棒読みくらいは許して欲しいものだ。まぁ、心の中では『妹思いの良い兄』から『シスコン』にランクアップ(?)しているのだが。
「それでさ〜書いてある事が本当良くってさ〜」
訂正。『シスコン』なんて生温い物では無く、『超極度のシスコン』だった。
「あのさ………どれだけ、お前がその妹ちゃんの事を思ってるかは分かるんだが、そろそろ止めにしね?」
「まだまだ言い足りないんだがなぁ………」
台詞通り、言い足りなそうな感じを出していたが、無視無視。気にしてたら、キリが無い。
「ほら、さっさと行くぞ。遅刻しちまうよ、シスコン野郎」
「誰がシスコン野郎だっ⁉︎」
ま さか、あの言動の数々でシスコンって自覚してないのかよ………正直、引くぞおい。
―――*―――*―――
「えー、今日は上位属性についてなのですよ〜」
ホワホワした気の抜ける声はシア先生だ。
今日の今の時間の授業は『属性学』。別に『属性学』自体は嫌いでは無いが、学院内でしょっちゅう絡んでくるシア先生は苦手だ。正体が第零柱だと分かっている事も多分、嫌っている理由に含まれる。
コッチは何で学院に連れてこられたのか分からないと言うのに、馴れ馴れしくしてきやがって………正体とか元居た場所とかバレたらどうするんだって話だよ………。
「上位属性は基本的に目に見える形で働く事はありません〜」
教師らしい言葉を並べる事にゼダスは違和感を隠せないが、変な雰囲気を出しても厄介事になりかねん。真っ当な学生を演じる事が今出来る最良の手だろう。
「しかし、目に見えない形では働いているのですよ〜。エマさん、説明出来ますか?」
当てられた学年一の秀才であるエマは、ハッキリと答える。
「はい。上位属性は時、空、幻の三つから構成されています。そして、その三つは現象を作り出す属性では無く、世界を作る属性の為、目には見えていません」
「合格なのですよ〜。流石ですね〜。それじゃあ、フィーちゃん、時属性の特徴は?」
その問いかけに当てられたフィーは、机に伏して寝ているが–––
「起きるのですよ〜〜」
まともに授業を受けてない事への怒りか、シア先生は
とても寝惚けているとは思えない口調で、
「………時属性は文字通り、時を操作する。体感速度の変化も可能だし、スピード型の戦闘を行うには必須に近い」
「お見事ですのよ〜。教科書通りですね〜〜。まさか、覚えてたんですか?」
尋ねられた事にコクリと縦に頷くフィー。こういう所は本当に律儀だ。
「流れ的に次は空属性なのですよ〜。ゼダス君、説明どうぞ〜〜♪」
ゼダスを当てる時に限り、嬉しそうな声音。本当にタチの悪い人だ………
「空属性は基本、空間を司る属性だ。空間把握能力の向上とかには、使える属性とも言えるんじゃないですかね」
「うーん………花丸とは言い難いのですよ〜〜」
何故にゼダスだけ採点基準が厳しいのだ。フィーぐらいの情報は喋ったはずなんだけど………
「はぁ………空属性は空間を司る属性とは違う能力を秘めています」
「それは何でしょう〜?」
「絶大な効果を持つ治癒能力です」
「合格なのですよ〜〜。やっぱり、学年No.1は凄いです」
からかっているのか?って聞きたい気もしない事は無いが、口に出すだけ無駄だ。軽くあしらわれる。
ゼダスの言う通り、空属性には絶大な効果を持つ治癒能力が存在する。
詳しいロジックは分からないし、理解するつもりは無いが、効果の高さだけは実感している。少なくとも、回復魔法の定石である水属性よりも効果は高い。まぁ、デメリットとして、起動してから発動までの工程が長いのだが。
「それじゃあ、最後に幻属性なのですよ〜。マキアス君、説明出来ますか?」
「幻属性は物事を認識する際に必要となります。それを逆手に取って、認識誤認などの作用を起こす事も可能です」
言い淀む様子を全く見せずに答えるマキアス。流石は秀才。
「完璧ですね〜」
やっぱり、思う。
–––
―――*―――*―――
授業を終え、放課後へと突入した学院。
ゼダスはサッサと荷物をまとめ始めた。
最近、寮の仕事をシャロンに任せっぱなしだ。彼女の技量を思えば、苦になると言う場面を想像する方が苦労するが、押し付けっぱなしは癪に触る。
こう言う通常の何も無い時にコツコツと借りを返しておかないと、割に合わないだろうし。
などなどの理由を付けて、早く帰りたいのだ。
別に部活に所属している訳では無いのだから、早く帰っても問題無いはずだ。
「ゼダス、もう帰るの?」
話しかけてくるは、エリオット。
「ああ、最近シャロンに仕事を任せっぱなしだからなぁ。サッサと帰って、手伝ってやりたいんだよ」
「へぇー。ゼダスって、色んな所で気が効くよね」
「そうか?俺の気分が収まらないから、行動を起こしてるだけなんだが………まぁ、周りの人の為になってるんなら、悪い気分じゃない」
「その調子でラウラとフィーの関係も何とかして欲しいよ〜」
「あの二人か………別に気にしなくていいだろ」
「何で?」
そりゃあ、今クラス内で若干の険悪ムードを漂わせる二人の事を『気にしなくていい』と言えば、そう尋ねるだろう。
だが、答えるだけの明確な根拠がある。
「あの二人は、互いに寄り添おうと努力はしている。なら–––あとは、時が解決してくれるだろ」
―――*―――*―――
トリスタの街中を歩くゼダス。
青く澄んだ空は、何処までも見る者を惹き込んでいく。そして、思うのだ。
–––今の時期って、夏か………
今更かよっ⁉︎と言われそうな気もする。
確かにⅦ組のメンバーも真紅のブレザーを着てなかった様な気がする。と言うか、今日はゼダスしか着てなかった気がする。滅茶苦茶、目立っていたのでは無いだろうか?
にしても、そこまで気付かない物だろうか?と読者の皆様は尋ねたくなったのだろう。それには、しっかりと答えがある。
ゼダスは情報を見抜き、選別する能力は並外れて高い。そのおかげで助かった事も、成功させれた作戦もある。
だが、その能力は基本的に自分に損になる状況の場合のみにしか働かないのだ。言い換えれば、自分に損にならない状況では、その能力は働かず–––寧ろ、普通の人より劣っている。つまり、周りの状況を読めない訳で、良い風に言えばマイペース。悪い風に言えば自己中心的と言える訳だ。
まぁ、この街で目立っても問題無いと割り切る事にした。
学院に続く道を抜け、公園を通り、寮に繋がる道に着こうとした時、駅前で何やらキョロキョロしている少女を発見する。多分、道に迷っているのだろう。
ゼダスは内心、どうする?と問う。多分、昔のゼダスなら見捨てていたかもしれないが、今のゼダスにとっては–––
–––助けてやるか。シャロンには悪いけど
と選択する事を選んだ。
「お嬢さん、道にでも迷いました?」
当たり障り無い定型文を吐く。その答えに少女は、
「………えーと、その………」
いきなり話しかけた事もあり、ゼダスの事を警戒していた。
ジロジロとこちらを見るが、別に構わない。見られても恥ずかしいものなんて無いのだし。
見られるという事は、見る事が出来るという事の裏返しという事で………まぁ、コッチも入れれるだけの外見情報を脳内に書き殴ってみた。
薄い紫色の髪–––多分、シャロンよりは若干濃い。
水晶の様に透き通った瞳。何か突っかかる。
雰囲気–––清楚に加え、凛とした感じ。
そして、服装。私服にしては堅すぎるし、多分何処かの制服だろう。少なくとも、ゼダスの知る学校の物では無い。
このまま観察を続けよう物なら、不審者扱いされかねないので、話を切り出そう。
「えーと、余計な御世話だったかな?」
「いえ………でも………」
うーん、話が進まない。どうした物か………
そして、ある仮説が立てられた。
まさか、この少女–––迷惑を掛けたくないのか?
何故か、そう思ってしまった。何か突っかかるのだ。透き通った瞳に凛とした雰囲気。どっかで見た事ある様な………
「ゼダス・アインフェイト」
「えっ………」
「俺の名前。流石に名前も知らない人は不審だろ?」
「貴方が………兄様の手紙に書かれていた………」
ゼダスから見れば、この少女の事は何一つ知らない。が、どうやら、少女から見れば、ゼダスの事を伝え聞いた事があるらしい。
しかも、兄様?えー誰だ?
「あっ、申し遅れました。私はエリゼ。エリゼ・シュバルツァーです」
ペコリとお辞儀する少女–––曰くエリゼ。
家名がシュバルツァーって事は、リィンの家族か………と言うか、今朝妹の話をしてたなぁ〜………血が繋がっていないんだっけか。
「えーと………何て呼べば良い?」
「別に名前の呼ばれ方に拘りはございません」
「んじゃ、エリゼお嬢?」
「兄様の級友たる方に、そんな謙った呼ばれ方をされる訳にはいきません」
「拘りないんじゃないのかよ………まぁ、エリゼって呼び捨てで良いか?」
「ええ、大丈夫です」
「それじゃあ、エリゼは何をしに
駅を出た直後にキョロキョロするなんて行動を取るのは、その土地に慣れていない証拠でも有り、誰か又は何かを探している場合によく見られる。多分、その類なのだろうが、推測をどれだけ重ねようが、所詮は推測。事実には劣るのだ。
「あの………兄様に会いに」
「ふーん。って事は、リィンを探してんのか?」
「はい。ですが、初見の地で全く場所の把握が出来ないもので………」
「で、あれだけ挙動不審だったと」
「面目無いです………」
まぁ、助け舟を出してあげようじゃないか。別に減る物じゃないし。
「連れてってやろうか?リィンなら、まだ学院に居るだろうし」
「よろしくお願いします」
またもやお辞儀され、ゼダスは、礼儀正しい子だなぁと思った。
―――*―――*―――
ゼダスから見れば、さっき通った道を。
エリゼから見たら、異郷の地の道を。
それぞれにペースを合わせながら、歩く。
年齢差もある上、性別差も合わさり、一歩辺りの歩幅が思いの外、違う。
だから、ゼダスはペースを落としているのだが–––エリゼはペースを上げて付いて来る。
何となく分かってきたのだが、エリゼはリィンと同じで他人に迷惑を掛ける事に引け目を感じているのでは無いのだろうか?
駅前で迷っていても誰にも聞かずにしていた行動が、それを顕著に物語っている。
そういう点は血が繋がっていなくても、兄妹だと納得してしまう。
「そう言えば、何でエリゼはリィンに会いたいんだ?あいつの事だし、エリゼの事をほっとく様な気がしないんだけどなぁ………」
「実のところは、その逆です。兄様は私に会いに来てくれないのです」
その後に話された言葉を掻い摘んで要約すると、どれだけ上辺っつらで取り繕おうが、血の繋がっていない事を引け目に持っているという事だった。
どういう経緯で、リィンが養子になったかは知らないが、そこから義兄妹間の亀裂が生まれ、それが悪化した上、リィンは学生という環境の変化を言い訳に妹であるエリゼに会おうとしてないのだろう。
ただ、それでは食い違う点がある。なら–––
–––何で、あそこまで
と言う点だ。
だって、そうだろう。
血が繋がっていない事を引け目に持っているのなら、ゼダスの心内で『超極度のシスコン』なんて格付けされる程に語れるはずが無いのだ。
ゼダスは推測に推測を重ね、無意識の内に頭をワシャワシャと掻き毟っていると、学院の校門に近付いた事に気付く。
「ほら、エリゼ。ここがお前の兄ちゃんたるリィンがいるトールズ士官学院–––って、本人居るじゃん。行ってこいよ」
学院側からこちらに向かって歩いてくるリィンを発見。
ゼダスはエリゼの背中をポンと叩き、一歩進む事を勧める。
その行動にエリゼは軽い会釈をし、義兄であるリィンへと足を進めた。
まぁ、タイトル詐欺な気もしなくもない一話でした。
切る場面もだいぶ微妙ですしね………
はい、ここから私事です。
多分、四月までは更新速度が低下すると思います。リアルの方が忙しいんでね………まぁ、完全には止まらない様にしますので、これからもよろしくお願いしますm(__)m