闇影の軌跡   作: 黒兎

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祝、五十話達成‼︎
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過去に至宝

 翌朝。

 日も登りきって無い様な時間帯に、部屋に響く控え目なノック音。それに敏感に反応し、ゼダスはベットから身体を起こす。

 昨日の疲労と出血を考えれば、安静程度の処方で済んだのは幸いだったが、やはり危機察知能力は衰えていない。

 

『どの様な状況下でも襲われる事を警戒しろ』

 

 戦場においての基本中の基本だ。これを怠れば、遠慮無く殺されてる。

 だが、考え直してみよう。ここは学院の寮だぞ。何を警戒する必要がある?

 そんな答えが分かれば教えて欲しいものだ。

 

「えーと………誰ですかね?」

 

 扉越しに訪問者に対して、訊ねる。悪戯の類いか?とも疑っていた。だって、朝だもん。超眠いもん。しかし、答えは普通に帰って来る。

 

「あの………ゼダスさんですか?」

「その声って………エリゼか。どうしたんだ、こんな朝っぱらに」

 

 睡眠妨害されて、若干気分悪いが、態度には出さずに受け答えする。

 

「ちょっとお話が………」

「あー、うん。なら、一階の食堂で待っててくれないか?服装を正してから向かうからさ」

 

 と断り、ゼダスは制服を着始めた。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ、エリゼ」

 

 しっかりと制服を着て、食堂に降りてきたゼダス。暑いという世間一般の考えに則り、真紅のブレザーは着てないが。

 食堂の机に置かれた二つのティーカップ。中には紅茶が入っていた。

 

「これって、まさか–––」

「いえ、私が作ったのでは無く、シャロンさんが作ったものです」

 

 シャロン………本当に仕事が早いというか、状況把握能力がオーバフローしてるというか………隠し事は出来ないね。

 

「で、当の本人は何処に?」

「紅茶を入れたら、いつの間にか消えてました」

 

………………本当に無駄に空気読むのが上手いですね………

 

「まぁ、別に良いか。紅茶は入れる予定だったけど、手間が省けたんだし」

 

 と、仕事してない事に正当性を立ててから、エリゼの対面にある椅子を一つ引き、座る。

 

「で、話って何?」

 

 紅茶を遠慮無く、口に含み、訊ねるゼダス。

 正直なところ、人気の無い早朝に呼び出される様な要件が思い付かないのだ。それは単純に気付いていないだけなのか、寝ボケているだけなのか………考えが散漫とした頭では一生理解出来ない話だ。

 

「………ゼダスさんは、兄様の力を知っているのですか?」

 

 エリゼから発せられた問いにゼダスの意識は少なからず覚醒した。

 少しは気を引き締めて答える必要があるだろう。

 

「似た様な力なら知ってる、と言っておこうかな」

「似た様な力?」

「そ、人智を超えし力。お前の兄ちゃんは凄い物を抱えてる訳だ。まぁ、昨日は鎮静化させたし、しばらくは大丈夫だと思うよ」

「そうですか………」

 

 安堵の息を吐くエリゼ。余程、心配だった様だ。

 

「コッチからも質問していいかな?」

「えっ、はい。答えれる範囲なら」

「お前の兄ちゃんのあの力………エリゼが初めて見たのは何時?」

 

 その質問を聞いた瞬間、エリゼは眼を伏せる。

 

 

–––不味い。触れちゃあいけない所まで踏み込んしまったか………

 

 

 ゼダスは、自分の選択ミスを悔やむ。

 

「えっとー、ゴメン。答え辛かったかな。忘れてくれて構わないよ」

「いえ、大丈夫です」

 

 痩せ我慢見え見えの口調を取り繕うエリゼに、ゼダスは、

 

 

–––やっぱり、血が繋がっていないとは言え、リィンの兄妹だなぁ

 

 

 と思った。

 

「私が兄様と義兄妹になって、数年経った頃の話です」

 

 中々の追走劇になりそうだが、聞いたのはゼダスだし、しっかりと聞くとしよう。

 

「ちょっとした事で喧嘩してしまい、私の故郷である温泉郷ユミルに隣接している雪山に逃げたんです」

 

 怒りで周りが見えなくなっていたとしても、愚か極まりない行為だ。

 下手すれば死ぬ。魔獣に襲われようが襲われまいが、冷気が確実に体力を削いでいくのだから。しかし、若い頃は感情の制御が効きにくい物なのだ。本当に感情と言う物は難儀である。

 

「でも、雪山というのは怖いもので、少し時が経過するだけで道が分からなくなります」

 

 雪が降っていれば、足跡を掻き消すのだから当然と言える。だが、実際に実感すると恐怖以外何も感じないだろう。

 

「勿論、低体温症の兆候も出始めました。そんな時に魔獣が現れたのです」

 

 文字通り、絶体絶命。助かる可能性など、皆無に等しい。

 

「正直なところ、死を覚悟しました。ですが、兄様は助けに来てくれました」

 

 その時の情景を複雑な表情で思い返すエリゼ。

 

「雪山に来れば死ぬ可能性だってあったのに、喧嘩別れした私を助けに来てくれました。しかし、当時はまだ未熟な子供。魔獣に敵う通りはありません」

 

 段々と声調が落ちていく。この辺りがエリゼにとって苦しい過去なのだろう。

 だが、苦しい過去というのは邪魔に見えて、素晴らしい物なのだ。その苦しみの原因となった失敗を後々に予防、応用できるのだから。

 そういう点ではゼダスは完璧に劣っていると言えるだろう。

 過去の記憶は皆無。二年分の記憶しか無い。思い返せる最初のまともな記憶は、暗闇の空間で結社《身喰らう蛇》の長、《盟主(グランドマスター)》を拝謁した時だ。

 今思えば、何であんな記憶が最初に覚えているのだろう?

 確かに記憶に穴が空いたのは理解出来てる。現に、心にポッカリと穴が空いているのだから。

 

 

––––記憶が無いから、感情も無い。

 

 

 最近のゼダスが立てた仮説だ。

 感情は上辺で取り繕う事が出来る。だが、心の底では、ほとんど何も感じないのだ。

 唯一、強者と戦っている時のみは心が満たされる感覚を覚えるのだが。しかし、そんな物を感情と呼ぶかは定かでは無い。

 

「ですが、兄様は魔獣に勝ってしまいました。あの獣の様な力を使って………それに加え、兄様は傷を負いました」

「傷………ねぇ」

「胸部にある傷跡。アレは私を庇った時の物なのです」

 

 リィンの胸に傷があるのは知っていた。

 実際に目にした訳では無いが、軍事水練の際の話を伝え聞いていたのだ。

 

 

–––その傷が何らかの力を呼び起こしたって考えるべきか?

 

 

 力の根源。それを思い描くゼダス。しかし、考えれば考える程、謎な話だ。

 大怪我の傷跡一つで《七の至宝(セプト=テリオン)》の封印を貫通する力を得る。

 その仮説は何処と無く、守護騎士の聖痕(スティグマ)に近い物を感じる。だが、聖痕では無いだろう。もし、聖痕なら七耀教会が全力を賭して、守護騎士に仕立て上げただろう。

 なら、一体アレは何だ?

 

「そういう事か………うん、ありがとな。そんな辛い過去を思い出させて悪かったな」

「いえ、話せば少し楽になりました。それにしても–––………」

 

 エリゼはゼダスの姿をジロジロと見てくる。

 昨日の駅前で見られた時とは違う視線。不審者を見る様な物から、値踏みする様な–––

 

「–––何か引っかかると思いましたが、兄様に似てるのですね」

「俺がリィンと?何処が」

「何と言うか………妙に気遣い出来る所とか、でしょうか?」

 

 紅茶を喉に通しながら、エリゼは微笑む。

 年相応の笑みで、可愛いとさえ思えた。が、ここで意味深な台詞でも吐こう物なら、リィンに何を言われるか分からない。何てったって、超重度のシスコンなのだから。

 

「ふーん………言っとくが、俺はそんなに気遣い出来る人間じゃ無いぞ」

「雰囲気ですよ、雰囲気」

「それはそれで傷付くな………」

 

 呆れなら言うゼダス。そう言えば–––

 

「よくよく考えれば、エリゼは何時帰るんだ?私服じゃないって事は、何処かの制服だろ、それ」

「えーと、帰るのは始発で帰るつもりです。あと、コレは帝都にある聖アストライア女学院の制服です」

「聖アストライア女学院………それって、超お嬢様学院じゃないのか?」

「自分で認めるのは何か可笑しい気がしますが、そうですよ」

 

 聖アストライア女学院。

 帝都ヘイムダルにある貴族子女のみが入学可能の由緒正しき女学院である。

 大聖堂のあるサンクト地区って、所にあって、通常の学院じゃ考えられない程に厳戒な警備体制を敷かれている事で有名だ。

 しかし、確か今年度からは、別の観点で有名になっていた様な気がする。思い違いじゃなきゃ、確か–––

 

「あのさ、アルフィンって、そこの生徒だっけ?」

「姫様をご存知で⁉︎」

 

 驚きを隠せないエリゼ。

 エレボニア帝国の現皇帝であるユーゲント三世とプリシラ王妃の間に生まれた双子の姉。それが今の話の主題となっている、アルフィン・ライゼ・アルノールだ。

 幼きながらもの美貌故に『帝国の至宝』などと大層な二つ名を持っている。まぁ、そんな二つ名が付くだけあって、帝国臣民からの指示は絶大な物なのだが。

 そして、ゼダスは苦笑しながら答える。

 

「うん。面会した事も数回は」

「何故でしょう。ゼダスさんの正体って、もしかして凄いのでは、と思ってしました」

 

 ゼダスの答えに嘘は無い。

 確かに会った事もあるし、話をした事もある。まぁ、その全てはゼダスとしては大変な状況下だったので、気が気で無かったりしてにだが。

 

「アルフィンは元気か?」

「姫様は元気ですよ。寧ろ、元気過ぎて心配なくらいです」

「そうか………なら、良かった」

 

 その時、エリゼは息を呑んだ。

 あの飄々とした雰囲気を絶やさなかったゼダスが、心の底から安堵した様に見えたのだ。その変貌具合にエリゼ自身もドキッとしたが、それよりも思う事があった。

 

 

–––まさか、ゼダスさん………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エリゼを見送った後、Ⅶ組には再び日常が戻ってきた………とゼダスは思いたかった。が、そうは行かない様だ。

 

「何でこうなってるんだよ⁉︎」

 

 呼び出された職員室。向かったゼダスの目の前にあるのは大量の書類。そして、一番上に置かれた手紙に書かれていたのは–––

 

『拝啓 親愛なるゼダス(笑)へ

 普段の貴方様の頑張りに敬意を表して、コレを贈ろうと思います

 明日の早朝までに全部に目を通し、問題無ければハンコよろ

                           完全無欠の最強教官シアより』

 

 うん、一回殴ろう。もう師匠とかどうでもいい。兎に角殴ろう。気が済むまで殴ろう。

心に恨みの誓いを宿したゼダス。

 どうせ、シーナは昼間から何処かで酒を煽っているのだ。彼奴から見れば、この世の何処も『近場』の一言で済ませれるのだから。

 だからと言って、生徒に仕事を押し付けるのは、どういう了見だ。サラ教官みたいに面倒で授業を放り出す方が良心的に見える。

 

「見た所、全部機材搬入の書類か………簡単な物だけど、多過ぎだろ」

 

 こうなったら、意地でも連れ戻す………と行きたいのだが、それは叶わない。居る場所によっては時間がかかり過ぎて、もう翌々日に控えている特別実習に響きかねない。

 《輝く環(オーリオール)》は空間を司る空属性の至宝。コレを用いれば、簡単に空間飛翔(シフト)出来るのだが、それにも問題がある。

 使用する代償とか、消費する体力とかが問題なのでは無い。それよりもシーナの魔力操作が厄介な問題なのだ。

 シーナは自由奔放な性格の為、基本的にはブラついている。その為、まともな居住地は無いと思われがちなのだが、一つだけあるのだ。そして、その一つに入られると完全に手が出せない。

 何故なら、場所が割り出せないのだ。

 その居住地はシーナの魔力で作られた、いわば仮初めの館。それに最高ランクの幻属性魔法で認識誤認を起こされれば、空間を翔けて探す術が意味を成さない。

 しかも、魔力で作られるとなると、移動も簡単。何せ、魔力を分解すれば良いのだから。建てる時は、再構築でOKだし。

 それを追うよりも、普通に仕事を受け入れた方が体力的にも精神的にも楽なのだ。

 

「………クソ………面倒だけど、やってやるか」

 

 自分の不甲斐なさを改めて実感したゼダスは、書類の山と相対する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、次回からは実習です。今までで一番長い前振りでしたねww
つーか、最後のシーナの話。アレは完璧に尺稼ぎ用の短編です。
ゼダスは何時もシーナにこき使われてますよオーラが出ると良いかなぁと思って。まぁ、全く意味を成さない短編ではないのだけは確かですよ〜

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