闇影の軌跡   作: 黒兎

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すれ違い(?)

 

 

 

「さてと、どうしたモンかね」

 

 ほとんどの面子がまだベットの中と言える程の早朝。そんな時に起こされれば、迷惑極まり無いだろうが、食堂に集まる三つの影。

 

「うう、眠い………」

「何で君は非常識な時間に起こしに来るのだ」

 

 互いに愚痴を垂れるエリオットにマキアス。それに、

 

「仕方ねぇだろ。ユーシス&マキアス(お前ら)に比べれば、軽度とは言え、関係に亀裂が入ったまま実戦ってのは大変なんだよ。実感しただろうが」

 

 ゼダスは意を述べる。

 今日は特別実習日。そして、個人的には仲違いを現在進行形でしているラウラとフィーに仲直りして欲しい日でもある。とは言え、原因は己の生き様。それをどうにかしろと言うのは無理ゲー。

 だからと言って、何もしないという訳には行かないが、策がある訳ではない。なら、別観点からの意見を貰おうという事で、当日の朝っぱらに急遽、叩き起こしたという訳だ。

 

「で、何か考えは無いかね、諸君」

「何か雰囲気が変わってるよ………」

 

 寝ぼけ瞼を擦りながら、呆れ声で言うエリオット。

 確かに何時もと雰囲気が違う。口調だけじゃなく、文字通り雰囲気が。こうやって、ゼダスが助けを求めてくる場面というのは、そうそう無い。

 それ程にまで、連携出来ない事を危惧しているのだろうか?

 ラウラとフィー。ゼダスを抜けば、Ⅶ組最高ランクの戦闘能力の持ち主だ。それなのに連携出来ないのは痛い話だ。

 しかし、それ程にまで強いのなら、別の者と連携を組めば良い。その方が効率良く戦えるのだから。なのに助けを求める。まるで、他の何かを危惧しているような………

 

「何か共通の話題で話をさせてみるのは、どうだ?」

「共通の話題ねぇ………」

 

 マキアスの提案にゼダスは思考を奔らせる。

 あの二人の共通の話題といえば、何だろう?

 戦闘技術などを探るのは簡単だ。だが、そんな私事(プライベート)な事は一切と言って良いほどに知らない。強いて挙げるなら、ラウラは水泳好き(?)。だって、水泳部だし。フィーは園芸好き(?)。だって、園芸部だし。

 

………

 

………………

 

………………………

 

 いやいや、おい⁉︎

 どう見ても、共通どうこうの話じゃねぇ‼︎まず、知らねぇじゃねぇかよ‼︎

 

「無理だ。何故なら、二人とも知らないし」

 

 バラけた思考を無理矢理まとめて答える。

 

「こうなったら、飯で釣るか………」

「何でご飯なの?」

 

 ゼダスの強引な解決案にエリオットは首を傾げる。それを尻目に平然と答える。

 

「食を制す者は世界を制す。どの世界でも共通の認識だぜ、これ」

「しかし、今から用意して間に合うのかね?」

「んー、そこが問題だよなぁ〜。作るんなら全員分じゃねぇと………食材によるよなぁ」

 

 ゼダスは重い腰を上げ、食料庫の方に向かう。

 献立を考える際は食材も確認する。全くもって理に適った考え方だ。だが–––

 

「………………」

 

 見てはいけない物を見てしまった。丁寧に包まれた袋が山積み。これは–––

 

「シャロン………何でお前は仕事を無くしてくんだ………」

 

 全員分の弁当だ。まさか、ここまで仕事を終わらせているとは………恐るべし。

 

「完全に詰んだ」

 

 再び椅子に座ったゼダスは、天井を仰ぎながら言う。

 考えうる全ての手を尽くした。本当に詰んだ。

 

「さて、どうしたモンかね」

 

 そして、原点回帰してきた。もう少し、パッとした何かは無いか、と探るが、日が昇り始めた。どうやら思考に費やす時間は無い様だ。

 結局、得られたのは特に意味の無い情報ばかり。私事の話とか誰得だよ………

 正直、頭を抱えたくなるが、そうする訳には行かない。立ち止まってる暇など無いのだ。

 

「仕方無い………無策でも、頑張るか」

 

 最終的には、無策で突っ込む事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の実習先は帝都ヘイムダル。

 だいぶ前に詳しい事はまとめたが、一つ明らかにしておく事は、異常なまでに敷地が広い事だ。故に、今回は二班共に同じ場所での実習となる。と言っても、東西で分けるらしいが。

 確か帝都は、帝国では珍しく平民階級の人が多いと聞く。そりゃ、帝国政府のお膝元だから当然とも言える。

 それに加え、大陸最古の都市と言われているんだよなぁ〜。歴史を遡る事、1,000年以上前の暗黒時代初頭からだったそうだ。と、何故一貫性の無い帝都情報を連ねているかと言うと、現状から目を背けたくなったからである。

 

「………なぁ、何でこんな状況なんでせう?」

 

 謎に古語の使い回しが入ったゼダスの問い。

 帝都行きの列車に各班ごとに分かれて乗った。うん、ここは理解できる。座席一ブロックを一班で分ける。うん、ここも理解できる。というか、普段通り。だが–––

 

「ひゅ〜、ゼダスモテモテだね」

「やめろ、エリオット」

 

 冷やかすかの様に言うエリオットにゼダスは頭を左右に振り、完全に否定する。

 ゼダスは冷やかされるのを嫌う。だが、この様な状況では冷やかされても仕方無いと自然に割り切れてしまう。その状況とは–––

 

「………」

「………」

 

 仲違いしているラウラとフィーの間に座らされている事だ。

 結局、策と言える策が思い付かなかったが、一応処方箋代わりに誰かが列車内だけでも壁になれば良いんじゃね?と思ったのは、ゼダス。

 でも、誰も好き好んで、仲違いの間に放り込まれたく無い。その為、公平に期したジャンケンを行って、誰が人柱になるかを選別したのだが、カッコ悪くゼダスが負けた。

 何で、こうも面倒な役回りが到来しまくるんだ?と、再び頭を抱えたくなるが、生憎出来ない。

 何故なら、窓側からはフィーが右腕に抱きついて来て、通路側からはラウラがちょこんと左腕の制服の袖を掴まれているからだ。おかげで一切、手を動かせない。

 しかも、対席ではエリオットが冷やかしてくるし、マキアスは呑気に読書してやがる………こいつら、覚えてろよ………………

 

「(にしても、何でラウラとフィー(この二人)は俺に引っ付いてくるんだ?)」

 

 エリオットとマキアスへの憎悪から、ラウラとフィーの行動の意図へと思考が切り替わっていた。

 フィーはまだ分からんでも無い。ゼダスに抱き付いていると『なんか落ち着く』らしい言葉を言っていたし。とは言え、年頃の少女の行動としては、どうかと思うが。

 だが、疑問に思うのはラウラの方だ。コッチは動機が分からん。抱き付かれる訳でも無く、だからと言って袖を離す訳でも無い。別に払うつもりも無いが、本当に理由が分からない。何を考えてるんだ、こいつ………

 

「(本当、女の考える事は分からないなぁ)」

 

 最後は脳内で、そういう判決を下していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘイムダル駅に着いたⅦ組御一行。ゼダスは列車内での窮屈さを忘れるべく、身体をググッと伸ばす。

 実習するのに駅で止まっていても仕方無いので、兎に角出ようと足を運ぼうとするが、凛とした声に無意識に制動が掛かる。

 

「–––時間通りですね」

 

 その声の主に全員が視線を向けるが、ゼダスを抜いた全員が驚いた。

 

「あ、クレア。久し振りだな」

 

 ゼダスは普通に手を振る。それにクレアはニコッと微笑んだ。何故か、複数の敵対視線が突き刺さった様な気がするが、気にしないでおこう。

 あと、何故Ⅶ組メンバーはクレアが居て、驚いているんだろう?鉄道憲兵隊の本拠地とも言える帝都なのだし、当然の結果とも言えるのに。

 

「えっと………確かクレア大尉でしたよね?」

 

 確認を込めて尋ねるリィン。

 

「ええ、三ヶ月ぶりでしょうか。初めての方も居るようですし、初めましてとも言っておきましょう。鉄道憲兵隊所属、クレア・リーヴェルト大尉です」

 

 こういうタイミングでも、社交辞令を忘れないクレアさん………マジパネェっす。

 確かに面を合わせた事の無いメンバーも居たんだった。こんな美人さんが迎えて来たら、そりゃ驚くか。そんな事を脳裏に奔らせるゼダス。それを断ち切ったのは、別班のアリサの質問だった。

 

「あの、もしかして………貴方が今回の特別実習の課題などを………?」

 

 当然とも言える質問にクレアは笑みを絶やさずに答えた。

 

「いえ、今日は場所を提供するだけです。正式な方は………あ、いらっしゃいましたね」

 

 クレアは振り向きながら言うと、知的な男性の声が耳を打つ。

 

「–––やあ、丁度良かった」

 

 そこに居たのは緑髪に眼鏡を掛けた男性。何処となく、マキアスに似た何かを感じるが–––

 

「と、父さん⁉︎」

 

 と思ったら、マキアスの父上でした。

 記憶が正しければ、名前をカール・レーグニッツと言って、現帝都知事の地位に居る人物。革新派の有力人物でも有り、中々の有名人だったはず。どうやら有名人という点は相違無いようだ。大半のメンバーが唖然としているのだから。

 

「一応は自己紹介をしておこうかな。–––マキアスの父、カール・レーグニッツだ。帝都庁の長官にして、ヘイムダル知事を務めている。よろしく頼むよ、Ⅶ組の諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自己紹介された後に連れてこられたのは、ヘイムダル駅の一角にある鉄道憲兵隊の詰所。その中にあるフリーディングルームでⅦ組は今回の特別実習の説明を受けた。

 今回の特別実習の課題はレーグニッツ知事が選んだ物らしい。何せ、帝都は年々人口を増やしてきて、今日に至れば約八十万人を超える人口になっている。人の数が増せば、比例する様に問題の数も増える。そんな感じで帝都庁に集まった仕事の少しを今回はこなせば良いらしい。

 帝都が実習するには広過ぎるという点の配慮もキッチリとあり、ヘイムダル駅から皇城バルフレイム宮まで一直線に延びている帝都中央を走るヴァンクール通りを境に東西で分けるそうだ。どうやら、ゼダスが与するA班は東側担当らしい。

 宿泊先も各班ごとに分かれており、課題が書かれた用紙に住所が記されていた。まぁ、迷っても帝都内ではARCUSの通信機能が使えるらしいし、迷って路頭に迷う事はまず無いだろう。と、最悪のパターンを回避出来た上で疑問に思った事–––ゼダスにとっては答えるに造作も無い事だが–––が生じる。それは–––

 

「待ってくれ‼︎」

「何だ、マキアス」

 

 特別実習の説明を完全に終え、立ち上がろうとしていたレーグニッツ知事を引き止めるマキアスの声。

 

「何で父さん自身が説明に来たんだ?夏至祭の準備中の忙しい時期に………何処からどう見ても可笑しい」

 

 至極真っ当な疑問だ。

 世界最高規模の都市の知事が、わざわざ学生の行事に説明に来る時間があるとは考え辛い。普通に説明するだけなら、他の帝都庁の職員に任せれば良いのだし、最悪はクレアに任せれば良い。その上、革新派の有力人物だ。その様な地位にある人が私情で時間を割く–––というか、割けるはずが無いのだ。この事柄から導き出される答えは–––

 

「そう言えば、説明がまだだったようだ………トールズ士官学院の三人の常任理事の一人を務めさせてもらっている」

 

–––高位の学院関係者。

 それに全員が多かれ少なかれ驚いているが、ゼダスは納得したかの様に頷き、ある事に気が付く。

 

 

–––本当、ルーファスにラインフォルトの代表さんに、帝都知事。何でこうもⅦ組関係者だけが常任理事なんだろうな………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り、二班に分かれたⅦ組。それぞれに決められた宿の住所に向かおうと、帝都の足である導力トラムを使って動いてる頃だろう。と客観的に述べているが、ゼダスも絶賛移動中。まぁ、道案内に関しては土地勘有りのエリオットとマキアスに任せている。どうやら、指定された住所の近くにエリオットの実家があるらしく、普通に辿り着けそうだ。

 

「………ゼダス、何読んでるの?」

 

 フィーが上を向きながら問い掛けてくる。その問われたゼダスは、トラム内のポールに背を預け、紙切れを凝視していた。

 

「読んでるっつー大層な物じゃないんだけどな〜」

 

 と笑いながら答え、紙切れをスッとポケットに収める。その行動にフィーは訝しむ。

 何処からどう見ても、はぐらかされたのだ。それはつまり、信用し切られていないという事だ。訝しみたくなるのも仕方無い。

 だが、そんなフィーの気持ちの変化に気付くはずもなく、ゼダスは紙切れの内容に思考を奪われていた。あの紙切れの差出人はクレアだ。内容は、

 

『明後日から開かれる夏至祭には皇族の方々も参加されます。それに及び、テロリストの襲撃も予想されますので、最悪の事態はゼダスさんのお手を煩わせるかも知れません』

 

 という物だ。

 クレアにはミストルティンの時の借りもあるし、助けを乞われれば断る理由も無い。

 それにしてもテロリスト………どうも数ヶ月前にシーナから頂いた情報が絡んでいる様な気がしてならない。確か、シーナ曰く『帝国に動乱を起こそうとしている集団』。それなら、今回の夏至祭は最高の舞台だ。なんてったって、帝国最大規模の行事に皇族参加。これ程に目立てる事柄を探す方が大変な気がする。

 だが、この情報をクレアに漏らす訳には行かない。

 結社にいる事を知っている数少ない表社会の人間とは言え、不確定な情報が齎す混沌さに巻き込むのは気が引けるからだ。漏らすにしても、確定性が持ててからだ。

 

「ゼダス、そろそろ降りるよ」

 

 エリオットに話しかけられ、ゼダスは無意識から意識に移行させる。

 降りた場所は、アルト通りと名付けられた地区だ。少しばかりレトロな感じが残っていて、河川も通っている。正直、好きな雰囲気。

 そんな感じに勝手に格付けしているとエリオットが、

 

「えっと………ここが僕の実家なんだけど、寄っていく?」

 

 と二階建ての建物の前で止まる。それにゼダスは、

 

「別に寄ってっても良いけど、俺は先に宿に荷物を置いてきていいか?その後、合流する」

「うん、分かった」

「それじゃあ、ラウラ。ちょいと手を貸せや」

 

 そう言って、ゼダスは荷物の一部を放る。危なげなくキャッチするラウラは、疑問符を浮かべながら、

 

「これは何だ?」

「だから荷物。ちょっと手伝えよ。この中で一番力が有りそうだし」

「………分かった」

 

 字面だけ見れば渋々了承した様に見えるが、実際の声調は嬉しそうにも取れた。そして、地図を片手に宿へと向かおうとするが、待ったが掛かる。

 無言でゼダスの袖を引くフィー。ゼダスはその行動を見詰める。

 互いの間に無言が流れる。が、その拮抗を破ったのはゼダスだった。

 

「………何?」

「………………嫌」

「何?よく聞こえない」

「………ゼダスは何でラウラばっかりを頼るの?」

 

 何故か涙ぐみながら見つめられるゼダス。若干、焦っているが、フィーの中に宿る本質を理解しているゼダスは溜息を吐きながら、

 

「………分かったよ。フィー、お前も付いて来いよ」

 

 その言葉にフィーは頷く。それにラウラは若干、機嫌を損ねた様に見えたが気にしない。ゼダスは同じ様に荷物を放る。

 

「付いて来るんなら、お前も手伝え」

「………めんどい」

 

 付いてきたそうにしてめんどいとは………本当に厄介な性格してるよ、とゼダスは思った。

 結局、マキアスにはエリオットについて行ってもらった。エリオットとしても一人で行くよりは幾分かマシだろう。

 河川沿いに道を歩く。どうやら、この先に宿は有るらしいが、見た所変わった建物は見られない。まさか、普通の民家に泊まるのだろうか?住民とのコミュニケーション能力を強化するのには、持って来いの物だろうし。

 だが、そうは問屋が卸さないのが、世の常。指定された住所に辿り着き、ゼダスは頭を抱えたくなった。

 

「よりにもよって、ココかよ………」

 

 そこにあったのは、少し大きめの一戸建て。どう考えてもホテルのような宿泊施設には見えない。

 だが–––今は看板が無いとは言え–––情報としては知っている。この建物は–––遊撃士協会の帝都支部。ちょっと前にあった《鉄血宰相》による遊撃士協会帝国支部襲撃事件で使われなくなったとは言え、宿にするとはどういう了見だ。

 

「そう言えば、遊撃士って今も帝国で活動出来るのか?」

「ふむ、私の故郷のレグラムでは今も遊撃士協会の支部が活躍しているぞ」

「ふーん、まだ活躍する場があるんだなぁ〜………サッサと入ろうぜ」

 

 特別実習の封筒に入っていた鍵を差し込む。

 ゼダスとフィーは互いの身の上、頭を抱えたくなるが気丈を振る舞い、宿に入って行った(勿論、ラウラも)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






やっぱり、キリどころが掴みにくいっすね………




というか、後書きに書く事がそんなに無いって状態は珍しい気がするよww

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