シルフィードの言動の感じが未だに定まり切らない………
ゼダスとシルフィードが邂逅して、約数日が経った。
一緒に行動する事となっても、普段の生活とは何ら変わらなかった。
朝起きて、剣振って、飯作って食って、剣振って、飯作って食って………最後に寝る。その生活は全くと言っていい程に崩れなかった。ただ––––
「なぁ………何でお前も俺と同じ行動を取ってんの?」
「《
………シルフィードは、想像以上に律儀だった。
執行者には、あらゆる自由が認められているというのに、わざわざゼダスについて来る。本当に謎だ。
「あ、そう………でも、キツくないか?俺自身、中々のオーバーペースで行動してるんだけど」
「………特に大変な訳では無い」
「嘘は感心しねぇぞ」
そう言って、ゼダスは前の武器。魔剣レーヴァティンの切っ先を地に付け、シルフィードの額にデコピンする。
それに同じく剣を振っていたシルフィードは、軽く仰け反った。
「一体、何を………」
「顔を見れば分かる。無理について来過ぎだよ」
ゼダスの言う通り、シルフィードは普段通り、整った顔立ちに見えるが、何処か疲れが見えていた。とは言え、そこまで濃い物ではなく、気付く方が大変だろう。
「だから、少し休め。別に俺から教えれる事は無いけど、休むのも修行なんじゃないのか?」
「………了解した」
こういう所は、聞き分けが良い。シルフィードは得物である金色の剣を鞘に収め、腰を下ろす。
今居る場所は、草原。緑に澄んでいて、日も良く当たり、ストレスは溜まり辛いこの場所は、ゼダスにとっては憩いの場であると同時に修行の地だった。
素振りをするには開けた場所が居るし、試し切りをするにも切る物が居る。その二つがここには揃っているのだ。
場所には周りに何も無い草原が有るし、切る物は生えている大木がある。全く困らない。故に、ここはお気に入りだったのだが、人を招いたのは初めてだった。人が居ると、寛ぎ辛いという点もあったのだろうが。
「それにしても、貴公の剣には流派は無いのか?」
休憩中のシルフィードから尋ねられた問い。それにゼダスは剣を持った手を止めずに答える。
「んー………無いな」
「何故なのだ?あった方が強いはずだろう?」
「記憶上で俺が初めて剣を持ったのは、三ヶ月前。つまり、結社に入った頃だ。そんな新参者に流派なんて物は無いよ」
「初めて剣を持ったのが、三ヶ月だと⁉︎それで、そんなに不釣り合いな大剣を使っているのか?」
そう言われ、魔剣に視線を移す。確かに不思議な話だ。
剣を持って三ヶ月。それで、極大の力を持つ神器級の剣を頂けたのだ。剣の心得がある訳でも無いのに。
まぁ、《盟主》に、
『一番強い武器を下さい』
と言ったのは確かだが。と言っても、魔剣レーヴァティンが最強なのかは知らない。だって、ここまで強い物を測る物差しを知らないのだから。
「うん。でも、ビックリする程に手に馴染むし、振れちまうんだよ」
「そうか………しかし、それで個人の流派技が無いのは大変では無いのか?」
「生憎、俺には前代の剣帝の戦技を会得中だし、特に苦労はしてない。が–––………」
剣を振る手を止め、切っ先を地に向け下ろす。
「
思い起こす強者の姿。
肩に優に届く金髪に、中世の騎士鎧。《鉄機隊》の崇拝する対象であり、絶対的な戦闘力の持ち主。
人なる形でありながら、人である事を止めた存在で、打ち勝とう物ならば、人を喰らう《修羅》になるしか無いと思われる武人。いや、武神。
結社《身喰らう蛇》が使徒第七柱。《鋼の聖女》ことアリアンロード。
今、ゼダスが超えるべき存在。超えなければならない存在。だが、それには力が足りない。知力も足らない。それに–––
「剣帝の戦技を知っている相手には効果を成さないってのが、一番の問題だよなぁ〜」
知られている技だけでは駄目なのだ。
秘匿した技に加え、幾重にも重ねた駆け引きで騙し勝ち、それであって、完全な勝利を収める事が出来るのだ。
それを元に考えれば、どう見てもアリアンロードに打ち勝つのは不可能。故に新たな技、流派が欲しいのは事実。出来れば、知られていない物なら尚良し。
しかし、今はそんな研究に割く余裕は無い。
いつ実るか分からない物より、確実性のある方を選ぶ。それが前代の剣帝の戦技をコピーする事だ。使える事が確定しているのだし、覚えて損は無いだろう。
「少し聞きたいのだが、何故貴公はそこまで勝利に飢えているのだ?別に勝つだけが全てでは無いだろう」
「一般的には、そうかもな。でも、俺には勝たなきゃ駄目な理由がある」
魔剣を鞘に収め、ゼダスは思い詰めた表情を浮かべる。それにシルフィードは、不味い事をしたか?と警戒するが、ゼダスは気にせずに話す。
「俺には過去が無い」
その事実に辿り至ったのは、初めて《盟主》に拝謁した時だ。
指摘された際に、自分の心に空いた物に気付き、思い出そうと努力したが思い出せなかった。
人が人である以上、過去というのは、どの様な数奇な人生を歩んで来ようが存在するものだ。なのに、それが無い。そして–––それが無くても普通で居れている自分が居るのもまた事実。
「だから、何があっても取り戻す。何かがキッカケで戻るかもしれないしな」
「………」
「その為には、使える物は何でも使う。そして、今必要なのは、生きる力と拓く力だ」
ソッと、ゼダスは魔剣の柄に触れる。
「それを完全に使い切って、俺は失った物を取り戻す。まぁ、何が鍵かは全く分からないんだけどな」
ヘラッと笑いながら言うゼダスを見て、シルフィードはこう思う。
–––彼は無理をしている、と。
表面上では、そう言ってても、心の底から思っている物ではない。そう感じるのだ。
明確な根拠がある訳ではない。しかし、否定する事を彼女自身の心が許さない。ここで見て見ぬフリをしようものなら–––彼が完全に潰れる、かも知れない。それは避ける必要がある。
今の彼は師匠だ。成り行きでなった関係とは言え、弟子たる者が師匠を手放す訳には行かない。と、大言壮語を立てたは良いものの、彼の抱える重荷を背負う事は出来ない。何故なら、まだ彼の事を知らないのだ。
だから、話題転換がてらにシルフィードは質問する。
「そういえば、貴公は普段何をしているのだ?」
「普段って言われれば、剣を振る位しか無いかなぁ。言い換えれば、それぐらいしかやる事がない」
「なら、それ以外は何をしているのだ………と聞きたいが、少し疑問が生まれたから聞いていいか?」
「うん、別に構わないけど」
「貴公は………普段、何処で食住をしているのだ?もう夕暮れ時なのだが」
そう言われ、ゼダスは陽の方に目を向ける。
確かに陽が沈もうとしていた。やはり、剣を振っていると、時間が経つのが早く感じてしまう。ゼダスは質問の答えを至極当然かの様に吐く。
「何処でって言われれば、時と場合によるが、基本は野宿だぜ」
「野宿っ⁉︎それじゃあ、食はどうするのだ?」
「そこら辺で魔獣狩って、丸焼きじゃねぇの。普段はそうしてる」
とは言え、一般人の考えからは外れ過ぎた物だが。
その答えにシルフィードは頭を抱えたくなった。
剣の技量や、戦闘能力の応用においてはおそらく自分を超えているであろう人が、周りの事に無頓着。愚か、自分の事にさえ無頓着。
そんな体たらくで、よくもまぁ「記憶を取り戻す」と言ったものだ。その前に身体を悪くしてバッドエンドだろう。
「なっ⁉︎貴公…………そんな事で良いと思っているのかっ⁉︎」
「ぬわっ⁉︎いきなり叫んで、立ち上がるなよな。良いも何も俺の勝手だろうが。気にすんなよ」
「気にするわっ‼︎ちょっと、付いて来い‼︎」
何故かゼダスは、服の襟元を捕まえシルフィードに連行されて行った。
―――*―――*―――
「なぁ………ここ何処よ?」
目の前にあるのは大きな屋敷。価格換算すると面倒な位まで桁が付きそうな位に豪華だった。
「《鉄機隊》の宿舎だ。崇拝している《
シルフィードはゼダスを離し、説明する。
つまり、ここは《鉄機隊》専用の宿舎であると同時に力の巣窟であるという事だ。《鋼の聖女》も圧倒的な戦闘力の持ち主だが、戦乙女もそれに劣らずの性能の持ち主である。一執行者には値するという噂も聞いたりする位なのだから。
そう考えれば、修行には持って来いの場所かも知れない。まさか、シルフィードはゼダスの悩みを聞いて、ここへ導いてくれたのだろうか?それなら、ありがたい。と、淡い希望を抱いたのは少しだけだった。
「で、何故ここに?戦闘訓練ならウェルカムだぜ」
「貴公は師で私は子であろう。寧ろ、私に戦闘訓練を付けて欲しいものだ」
半眼で言われ、ゼダスは苦笑。
確かに師匠扱いされ始めてから、一度も稽古らしい立ち合いをして覚えが無い。まぁ、剣筋を見る限り、わざわざ教える事は無いだろう。
「ここで貴公には生活して貰う」
「………………………………………は?」
素っ頓狂な声を挙げ、ゼダスは首を傾げる。
「だから、ここで生活して貰うのだ」
「何で?意味無いよ、ヤダよ、死にたくないよ」
猛然と頭を横に振って否定するゼダス。
先ず、ここが《鉄機隊》の宿舎だとすれば、ゼダスは御門違いだ。別に《鉄機隊》に属している訳ではないのだから。
その上、さっきも述べた通り、ここは力の巣窟。そんな所で寝泊まりなど慣れてなければ、心安らぐ暇すら無い。
「貴公は少し、自分の姿を確認してみればどうだ?」
と言われ、ゼダスは自分の姿を改めて確認する。
見に纏うは黒基調のシャツに黒基調のコート、同じく黒基調のズボン。しかし、そのどれもがいつ洗濯したか覚えていない。
次に髪。元から黒い髪の毛は特に変わり無いかと思われたが、ゴワゴワする。確か、最後に風呂に入ったのは何時だろう?
と、簡潔にまとめると、汚い。
「んー、少し汚いかな」
「少しばかりでは無い‼︎だいぶ汚いそ‼︎」
声を荒げて、重要な部分を強調するシルフィード。
「だから、少しここでまともな生活を送れ‼︎少なくとも、私の師であろう」
「えー、面倒クセェ」
「そこを面倒くさがるで無いっ‼︎」
これでは、どちらが師匠で、どちらが弟子かが分からない。そんな感じで、ゼダスは恐怖の館へと引っ張られていく。
―――*―――*―――
「ったく、面倒だなぁ」
ブツブツ文句を言いながら、脱衣するゼダス。デカ過ぎる館だからか、脱衣所も男女別々にある親切設計。
結局、脱げる物全てを脱ぎ、風呂へとGo。
モワモワと立つ湯気にビックリする。ここまでの湯気を立てようものならば、それ相応の水が必要な上、沸かす為に薪が大量に要る。というか、風呂自体も結構大きく、想像している大貴族の浴場位の広さは普通にあるだろう。
段々と《鋼の聖女》の持っている財力–––というか、この場合は結社の財力か–––のスケールの大きさを感じた瞬間。先ずは身体を洗うべきだろうと、ボディーソープを手に取る。が、その瞬間、
–––ガシャンッ‼︎
突如、開く背後のドアにビクッと身震い。ただでさえ、風呂場は音が響くというのに、少しは大人しく開ける気は無いのだろうか?
………
………………
………………………
–––って、え?
このタイミングで浴室に訪れる輩は誰だ?
ここは《鉄機隊》の宿舎。なら、少なからず同性な訳が無い。つまり–––最悪、面倒な感じに拗れて、殺されかねん。少なくとも、誰かを確認しなければ………
「えーと………誰っすかね?」
決して首を振り向かせぬ様にゼダスは鉄の意志で決めながら、問い掛ける。
これで戦乙女なら、まだしも–––いや、良くないが–––《鋼の聖女》だったら確実に殺される。
本人からも殺られる可能性はあるし、周りの戦乙女からは「崇拝している御方に恥辱を浴びせた罪」で裁かれかねん。戦乙女の三人?いや、四人を同時に相手は無理だし、絶対に避けたい事態だ。などと、ヤバいパターンしか想起してないゼダスだが、意外にも吉だったと言わざるを得ない。
「私だ」
どうやら、入ってきたのはシルフィード。ゼダスに「風呂に入れ」と言った張本人。
それで文句を言われる謂れはないだろうが、ここで振り向けばどうなるか分かったものではない。しっかりと制動する。
「何をしに来たんです?」
「貴公の事だし、入った様に見せて入っていない可能性もあったのでな」
「俺って、そこまで信頼無いのか………」
軽くショックを受けた。まさか、弟子にそんな事を言われるとは………
頭を抱えたくなるゼダスにシルフィードは確実に近付いてくる。風呂場の床に付いた水滴がピチャピチャと音を立てている。そして–––
「あの………本当に何をしに来たんです?」
素肌の背中に触れられ、ゼダスは若干、硬直気味。それもそのはず。背中に触れているのは、少なくとも美女の領域に居る奴なのだ。その上、ここは風呂場。つまり、全裸かバスタオル一枚。どちらにせよ危ない。
恋が分からないゼダスにとっても、少しばかり心臓の鼓動が早くなる。
「特には何も。確認しに来ただけだ」
「それなら、早く出てってくれませんかね。少なくとも、風呂の時くらいは落ち着きたいんですけど」
「別に落ち着けば良いだろう」
「この状況で落ち着けって言う方が無理ですよねっ‼︎」
ゼダスは堪らず叫ぶ。
時間が過ぎる度に感覚が鋭くなっていく気がする。というか、段々感触が増えているのは気の所為だろうか?色々と当たっては行けない物が–––………
「無理」
結局、耐えきれず、ゼダスは浴槽に身を投げ捨てた。
―――*―――*―――
「大丈夫か?」
シルフィードはパタパタと団扇を扇ぐ。その対象はゼダス。中々、無残な姿だった。
全身が紅潮し–––簡単に言うと逆上せた訳だ。まぁ、膨大な空間を湯気一面に出来るほどのお湯なのだから、火傷寸前の温度である。そこに飛び込んだこと事態が正気の沙汰では無い。といっても、あの状況で冷静に判断しろというのも無理な話だが。
「うん、大丈夫じゃない」
最低限の服装は整え、ノビているゼダスは素直に答える。冗談を咬ます気力も無い。
「それじゃあ、料理が出来るまで倒れていろ。出来たら、呼びに来るから」
そう言い残し、シルフィードは去っていく。
「それにしても、情けない姿ですわね」
嫌味っぽい声が耳に届く。聞こえた方角に視線を動かすとそこには、長い茶髪を三つ編みで束ねる少女がいた。
「何だよ、デュバリィ」
彼女はデュバリィ。《鉄機隊》の筆頭隊士を務める奴。それだけあって、実力はあるのだが、何処か弄りやすい為、残念な子。
「まさか、逆上せるなんて………ダサすぎでしょう」
プルプルと笑いを堪えながら言うデュバリィにゼダスは、元気だったら殴ってやろう、と決意をする。だが、それを隠しきり、普通に受け答えする。
「まぁ、それはダサいわ。でも、一糸纏わぬ姿でシルフィードが入ってきたんだぞ。動揺しない方が無理だ」
「それはそうですね。彼女は普段、鎧を身に付けている為、気付かれにくいですが、スタイル良いですしね」
「本当だよ………あれがデュバリィなら、問題無かったのに」
「どういう事だっ⁉︎」
鬼気迫る勢いで声を荒げるデュバリィにゼダスはしてやったり、と内心喜ぶ。
「ここは《鉄機隊》の宿舎なんだよな」
「ええ、そうですわよ………って、いきなりなんですの?」
「いやさ、さっきシルフィードが『料理を作る』とか言ってただろ。って事は、《鉄機隊》も料理するんだなぁと思ってさ」
「そりゃ、人間ですし、食わなきゃやっていけないでしょう」
「まぁ、そうだよな。なら、何でデュバリィは手伝わない訳?」
忠誠を誓う《鉄機隊》なら、《鋼の聖女》の為に何でもしそうなものである。しかも、《鋼の聖女》好きランキング不動の一位を飾っているデュバリィが手伝わない。否が応でも気になるだろう。
「それは色々とありましてね………」
「何だよ?」
「いや、その………」
「ったく、歯切れが悪いなぁ。さっさと言っちまえよ」
「………………私は料理が壊滅的に出来ないのですのよ」
デュバリィの顔が見る見るうちに赤くなっていく。相当恥ずかしいのだろう。
「それって、どれ位?」
「《
それは《鉄機隊》とすれば、痛い話だろう。
ゼダスの知るアリアンロードは、些細な事で表情を歪める人では無い。それであっても、嫌な顔をしたのだから、中々の物なのだろう。
「なるほどなぁ〜〜………」
納得したゼダスは微笑みながら、言う。
「貴方、今凄く下衆い事を考えてませんか?」
「いや、別にこれを弱味に色々漬け込もうなんて考えてねぇですよ」
「それって絶対考えてますわよねっ⁉︎」
「お話が弾んでる最中、申し訳無いが、そろそろ飯が出来ますよ」
横槍を入れるはシルフィード。
ゼダスとしては、もう少しデュバリィを弄って楽しみたかったが、良い暇潰しになったから気にしないでおこう。
「了解」
短く答え、身体を起こす。頭が今もボーッとしているが、この程度は問題外だ。
何とか身体を動かし、食堂の方へと向かう。良い匂いがする………というか、この匂いは………
「なぁ、シルフィード。ちょいと聞きたいんだが」
「何だ?」
「何でお前が魔獣の丸焼きを全否定したのに、ここにあるのが鶏の丸焼きな訳?さして変わんないじゃん」
「………本当に馬鹿だな」
溜息を吐きながら、シルフィードは言葉を続ける。
「野の魔獣自体、何を含んでいるか分からないのに、加熱処理だけで食う訳には行かないだろう」
「大抵は加熱処理だけで良いんですけどね」
「その上、鶏の方が美味い」
「そこは同意だ。少なくとも、ゲテ物よりマシ」
「そして、ここなら野菜が摂れる」
「………………絶対、それが狙いだろう」
不衛生がどうのこうので、ここに連行されたのだ。野菜を食わされるのは、最初から分かっていた。
「それじゃあ、飯にしますよ」
ようやく筆頭隊士らしい感じに仕切るデュバリィ。それにゼダスは妙齢の赤髪長身の美女に話を振る。
「えーと、確か《剛毅》のアイネスだっけ?」
「ああ、そうだが………どうした?ゼダス・アインフェイト」
「んな、堅苦しい呼び方は止めろよ。ゼダスで良い。でさ………《鋼の聖女》は居なくて飯にしていいのか?」
「そういう事か。確かに部外者にとっては不思議に思えるだろう」
妙に部外者という点を強調された気がするが無視無視。
「《
「ふーん、そういうモンかね」
上っ面だけを覆った生温い返事で返す。
しかし、本当に残念だ。
アリアンロードはここまで忠誠を誓ってくれる仲間が居る。そして、それに応えるかの如く、互いが互いに影響し合い、良き結果を残し続ける。
これが結社最高の実動部隊《鉄機隊》だ。
だが、そんな中でもデュバリィみたいに大事に想ってくれている奴がいるというのに、こういう場面で出て来ない。
別に、彼女の多忙さを否定する訳では無い。彼女のカリスマ性を考慮すれば、当然とも言える。だが–––
「(………《
眼前で、ワイワイと和気藹々に飯を突く《鉄機隊》の面々を見て、そう思わずには居れなかった。
部外者であるゼダスには、絶対に辿り付かない答えだと分かっていても、考えてしまう。そうさせるまで、《鉄機隊》の面々は綺麗な表情を浮かべていたのだ。
だが、ゼダスは一つ見落としていた事があった。
–––人の想う感情………心に“答え”は要らない、という事に………………
―――*―――*―――
「悪いな、手伝いを任せて」
「別に構わねぇよ。美味い飯は頂けたんだし」
同じ流しに立つゼダスとシルフィード。現在、食器洗い中。
料理製作の際は手伝いを出来てなかったし、ここで手伝おうという紳士心に従って、行動を起こしたのだが、結局こうなった。
「それにしても、お前らって料理出来たんだな」
「意外か?」
「………正直、微妙かなぁ。まぁ、あそこまで高いレベルだとは思わなかったよ」
笑みを浮かべながら、答えるゼダスにシルフィードはジッと見詰めている。それにゼダスは身じろぐ。流石に、見られ続けるのは良い気分では無い。
「あのさ………何か付いてる?」
「………ああ、すまない。貴公の笑みは綺麗だな」
「………一つ質問して良いかな?」
「何だ?」
「お前って、よく人に好かれないか?」
「うーん………言われば、そうかもしれない」
やっぱりか………と、ゼダスは思う。あんなセリフを平然と言えるのだから、そりゃ好かれるだろう。そういう感情に疎いゼダスでさえ、少しドキッとしてしまった。とはいえ、恋まで繋がったとは思わない。
やはり、ゼダスの心にある空白は異常だ。まともに恋、恋慕感情を認識出来ないのだから。
そして、これは明らかに記憶を失った事だけが原因では無い。他にも何かを抱えている気がする。あくまで勘だが。何の根拠も無いが。
「まぁ、さっきの話は忘れてくれや」
「何故か腑に落ちないな………」
「にしても………今日はありがとな」
若干、照れながら言うゼダス。それを見たシルフィードは微笑みながら、仕事に打ち込む。
「久し振りにまともな生活らしき物を送れた気がするよ」
「そうか………なら、良かった」
「そこでさ………少し御礼をしたいんだが。何か願いは有るか?叶えれる範囲内では叶えるつもりだよ」
その言葉にシルフィードは、何かを考え、一字一句を丁寧に言う。
「それでは–––––––私と立ち合ってくれないか?」
その願いにゼダスは微笑みで答えた。
次は戦闘回。剣のみの剣による剣の為の一回になる予定。