闇影の軌跡   作: 黒兎

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活動報告で更新速度の低下の旨を伝えましたが、短い時間で出来た一話を投稿。
おかげで至らぬ点が何時もより多いかも………






切っ掛けの刃

 

 

 

 

 

「それじゃあ、始めますわよ」

 

 時刻は朝。日が昇り始める少し前。

 場所は、《鉄機隊》の宿舎の前に広がる中庭。石畳が十字に交差し、交差点には巨大な噴水のオブジェがある。

 

「ああ、よろしく頼む」

「コッチも大丈夫だ」

 

 応える二つの声。

 何故、こうなったかは、昨晩へと遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは–––––––私と立ち合ってくれないか?」

 

 色々な御礼がてらに、出来る範囲で願いを叶えると言ったゼダスにシルフィードは、そう言ったのだ。

 別に出来ない相談では無い。寧ろ、戦えるのだから歓迎していた。が、理由は聞いておく必要がある。

 

「何故かは、聞いて良いかな?」

「貴公が、私の師なのは理解している。なら………どれだけ届くか試したいのが、弟子と言う者だろう」

 

 得意げに言うシルフィード。それを見て、ゼダスは思う。

 

 

–––シルフィードも大概の戦闘狂だ、と。

 

 

 何時も平然な表情を浮かべているが、その裏に隠れるはメラメラと燃え盛る闘争心。それはゼダスにとって、最高に昂ぶれる物だ。

 

「ま、そういう事なら良いぜ。受けて立つ………が、明日の朝にしてくれね?」

「………?一体、何故なのだ?」

「悪いな………もう眠いんだ………………」

 

 よくよく考えれば、ゼダスは疲弊し切っていると判断されても可笑しくないのだ。

 不安定な暮らしを続け、強くなる為に一日中剣を振り続ける。それを気が遠くなる月日、続けてきたのだ。疲弊してない方が可笑しい。その上、この宿舎であったトラブルを鑑みれば、当然の事。

 この状態で剣を手にしても、良き結果は出せないし、それではわざわざ頼んできたシルフィードに失礼だ。

 

「そういう事か。なら、しっかりと休むんだぞ」

「はいよ」

 

 短く返事し、ゼダスは割り振られた部屋へと向かった。

 

 

–––これじゃあ、どちらが師匠か分からなくなる………………

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 という一幕があったのが昨晩の事。

 そして、夜明け前に互いに目が覚め、試合をしようと思ったのだが、試合となれば立ち合い人が必要。そこにデュバリィに白羽の矢が立った訳だ。本当に苦労人である。

 

「………二人とも、眠くないんですの?」

 

 だいぶ不機嫌そうに言うデュバリィだが、ゼダスもシルフィードも取り合う素振りは一切見せない。

 互いに互いの瞳を覗き合う時間だけが流れる。ピリピリとした雰囲気の中、互いに得物である剣の柄頭に手を掛けたその瞬間、

 

「あの………流石に神器級の武器を振り回されると面倒なので、変えてもらって良いですかね?」

 

 突如、入った横槍に二人ともセリフを吐いたデュバリィに射抜く様な視線を送る。それにデュバリィは身動ぎし、背後から二振りの剣を取り出し、差し出す。

 見た所、普通の木剣。まさか、こんな鈍で戦えというのだろうか?

 

「一応、最高品質の白樫で作った木剣ですわ。切れはしませんが、当たれば十分に痛いですし、考えて使うのですよ」

「………ったく、本気で戦えないのかよ」

「同感です。本当に………興が削がれる所でしたよ」

 

 文句を言いながら、両者共に木剣を受け取る………この場合は引っ手繰るかもしれないが。

 ブンブンと素振りをしてみて思った事は、兎に角軽い。その一言に尽きる。普段振るっている魔剣レーヴァティンに比べて、異常なまでに軽い。比喩表現をするのなら、巨石と小石ぐらいの感じに感覚が違う。

 正直なところ、これは明らかに戦い辛い。だが、戦闘とは大抵そういう物だ。

 何時も自分の有利となる場面である訳が無い。寧ろ、不利な場面の方が多いかも知れない。

 しかし、そのバッドアドバンテージをも跳ね除ける者こそが、強者たる証なのだ。ならば、得物を変えられた位の些細な変化で動揺する訳には行かない。

 

「それじゃ、ルールを改めて確認しますわね」

 

 互いに木剣を構えたのを確認し、デュバリィは試合のルール説明を開始する。

 

「戦闘形式は一本先取」

 

 明確な勝利条件の提示。

 

「武器である木剣を離した場合は反則負け。まぁ、剣士の試合なのですから当然ですわね」

 

 放たれる失格条件。デュバリィの言う通り、今回の場合ならではの物だ。本来は、こんな物は無い。

 

「審判である私が止めるまでは、試合を続けても構わないですわ。でも、停止の合図があれば止まって下さい」

「了解」

「分かった」

 

 目線を逸らさずに、ルールに肯定の意を示す二人。その光景にデュバリィは真剣な面持ちで、

 

「それでは試合開始の合図を執り行います。二人とも、剣を構えて」

 

 その言葉にゼダスもシルフィードも木剣を握る力を増やす。

 緊迫が沈黙へと変わり、緊張故か滴る一筋の汗が落ちた瞬間、開始の合図が耳に届く。

 

 

「–––開始ッ‼︎」

 

 

 互いに地を全力で蹴り、一気に間合いを詰める。

 放たれる双方の剣。最早、木剣で殺り合ってる様には見えない気迫だった。キンキンッなどと軽い金属音では無く、ガンガンッと言う重い打撃音のみが響く。

 ゼダスが放つのは無系統の剣技。特に型もなく、技も無い。それに比べ、シルフィードはと言うと–––

 

「(何だよ、こいつの剣技。一撃一撃が馬鹿みたいに重てぇぞ………)」

 

 不思議な剣技を使っている様に見えた。少なくとも、打ち合えば分かる程にその剣技は異質だった。

 己の身に迫るまで、ゼダスはシルフィードの剣筋を観察した。そして、導き出した答えが「速さに特化した剣技」だった。

 その答えに逆らう事無く、シルフィードの放つ剣は速く鋭い。だが、一つ誤算が生じたのだ。それが、一撃当たりの威力。一撃貰うだけで、腕が痺れる。しかも、木剣を両手持ちじゃなければ、防ぎ切れない代物。

 これだけなら剣の性能(スペック)かも知れないと思うかも知れないが、よく観察すると剣技の方が異質だと言うのに気付ける。

 その異質さと言うのが、先ほども言った剣筋に秘められていた。

 迫るまでは神速の速さを誇り、当たる寸前という点で若干速度が落ちる。手加減しているのか?と思いたいが、試合を申し出た本人であるシルフィードが手加減をする必要性が無い。本気で掛かってくるはずなのだ。

 つまり、そうしなければシルフィードの剣技は成立しないという事だ。その妙な間隙のお陰で、何とか凌ぎきれてるとも言える。

 

「フッ………‼︎」

「ぬ………ここで止めるか」

 

 木剣による剣戟の応酬をゼダスは何とか抑え込み、鍔迫り合いへと移行する。木と木が擦れているとは思えない音に耳を押さえたくなるが、そんな事をしようものなら、確実に斬られる。

 

「一つ………聞いていいかな」

「………戦闘中に質問なんて、失礼だとは思わないのか?」

「いや、別に。戦闘中に敵から情報を引き出すのも事を有利に進める為には必要だぜ」

 

 単純な筋力の押し合いではなく、精密な剣の操作が必要となるこの状況で、ゼダスは笑いながら、問いを投げかける。

 

「お前は俺に『流派は得てないのか?』って、聞いたよな。それじゃあ、お前はどうなんだ?あの異質な剣………あれがお前の剣術か?」

「わざわざ相手に己の剣を話すか?」

「まぁ、別に話さなくても構わないよ。寧ろ、常識的な判断で良かった。でも………目星は付いてるよ」

「ほう………それでは聞かせてもらおうか」

「お前は話さないのに、俺に話せってか。正直、理不尽だなぁ………まぁ、あくまで推理だ。外れても何ら可笑しく無い」

 

 ゼダスは表情を変えずに雄弁に推理を語る。

 

「お前の剣の異質さ………それを形成しているのは、常人では不可能に近いまでの剣筋の切り替え速度の賜物だろ?」

「………何故、そう思う?」

「理由と言われれば、お前の剣が軌跡を辿る間と俺に打ち込もうとする間に僅かながら剣速が変わっていた事かな」

「しかし、それだけなら、戦いに未練を割り切れていないだけかも知れないが」

「それは無い。特にお前みたいな奴には、な。その上、一撃を木剣で止めた時の威力は、目で測った予測威力を軽く凌駕していた。故にお前の剣は–––何らかの方法で剣戟に関する情報を書き換える事が出来るんだろ。違うか?」

「………フッ。そこまで見抜かれていたとはな。私の剣は《可変速式剣技(ギアチェンジクラフト)》と呼ばれる物だ。原理は………説明は面倒だ。今は–––貴公を斬るッ‼︎」

 

 急にかかる力にゼダスの木剣を握る手が跳ね上げられる。

 ゼダスは体勢を崩し、そこにシルフィードは全速力の剣速で木剣を振るう。ゼダスが身にまといし黒衣越しに一撃を当てる。が–––突如、姿が消える。当たったゼダスの身はまるで霧のように跡形も無く消えていた。それにシルフィードは、

 

「(分け身か………ッ⁉︎)」

 

 本能的に読み解き、毒吐く。そして、当の本人(ゼダス)は–––

 

「背後がガラ空きだぜッ‼︎」

 

 背後に近付き、木剣を振るう。今度こそ、戦いに幕が降ろされるかと思ったが、そうはいかなかった。

 

 

–––ガキンッ‼︎

 

 

 多分、《可変速式剣技》の賜物だろう。殆ど反応出来ないはずの死角からの一撃を完全に止める。

 

「貴公………中々小癪な手を………」

「勝負には小癪もクソもねぇよッ‼︎」

 

 互いの鋭き視線が交錯し、戦意を増加させていく。血が滾るとは正にこの事。最早、この二人は騎士(ナイト)では無く、狂戦士(バーサーカー)だ。

 《可変速式剣技》に追い付こうと、頭に詰まった知力全てを使い尽くし、脳細胞が最高潮に活性化している中、はち切れん位の痛みに表情を歪ませたくなるが、耐える。これこそ、剣対剣の戦闘の熱さだ。

 

「ほらほら、お前の全力はこんなモンかッ⁉︎」

 

 正直、ギリギリの綱渡りを強いられているのに、煽る。馬鹿にしか見えないが、シルフィードの全力を感じてみたいのも事実。最悪は負けても良いから、全力を受ける事にする。

 

「そんな訳–––あるかッ‼︎」

 

 強引に木剣を振るい、ゼダスを大きく後退させる。ゼダスの背後には、中庭中央部にある噴水のオブジェがある。これでは、引くにも引けない。

 

「そこまでして、全力を喰らいたいか?」

「勿論だ。お前の臨界点を見せてみろよ」

 

 追い詰められているはずのゼダスは不敵な笑みを浮かべ、煽り続ける。だが、シルフィードは煽りには応じなかった。が、

 

「なら、良いだろう。その身で味わうと良い」

 

 全力を一撃に込める事に変わりは無いらしい。

 シルフィードの周りには、黄金の光が流れている。二つ名通り《聖王》の如き風格を醸し出していた。その光の全てが、木剣に収束する。確実に喰らえば死ぬ。問答無用で死ぬ。

 

「我が《鋼の聖女()》より授かりし、聖光をその身で味わえッ‼︎」

「ちょ、ちょちょちょっと待ちなさいなっ⁉︎そんな火力放ったら、私が危ないですわよっ‼︎」

 

 審判であるデュバリィが横でギャアギャア言っているが、戦闘中の二人–––主にシルフィードは聞く耳を持たない。ゼダスには聞こえてはいたが、無視する方向だった為、無視。

 それにしても、《鉄機隊》の筆頭隊士ともあろう奴がここまで慌てる。相当の火力の技なのだろう。これは肚を括らなければならない。

 

「来い、シルフィードッ‼︎」

「遠慮無く、放たせてもらうッ‼︎」

 

 力強く踏み込み、シルフィードは光を宿した木剣を振る。放たれし光線は、神の威光と揶揄しても問題無く、確実にゼダスに迫る。

 周りの石畳を蒸発させていく事が確認出来たという事は………まぁ、人間が生身で受けて良い物ではないという事だ。

 

「………ったく、洒落になんねぇな………………ちょっと本気で打つかるか」

 

 決意を固めたゼダスは木剣を振り翳す。

 黄金の光と対照的にゼダスは白き氣を纏う。剣へと収束したそれをゼダスは、

 

「一か八かだが………受け取れッ‼︎」

 

 剣撃の旋風として真正面に撃ち出す。

 前代執行者No.Ⅱ《剣帝》の得としていた戦技(クラフト)。あらゆる魔力を断ち切るその技の名は『零ストーム』。未だにゼダス自身の成功率としては五分あるかどうかだが、この様子では成功した様だ。

 黄金の閃光と白銀の烈嵐は互いに拮抗し合い甚大な被害を生んでいく。

 

「グッ………‼︎」

「負け、れるか………ッ‼︎」

 

 力の発生源を握りしゼダスとシルフィード。歯を食い縛り、相手の力を押し返そうと力を緩めない。

 

「ギャアァァァアァァァ‼︎目が………目がぁーー‼︎」

 

 実は一番危ない位置に立っている事に今更ながら気付くデュバリィ。二つの閃光が交じりし点から発生する眩い光。殆ど力の差は無い。故にこの拮抗はもう暫く続くかと思ったが、決着は突如として訪れる。

 

 

「–––––そこまでです」

 

 

 凛と響く声。そして、互いの閃光を二分する力の暴風。

 ゼダスとシルフィードは、横槍を入れし者が居る方向を睨み付ける。それもその筈。互いに互いを熱くしていたのだ。シルフィードから見て、どうだったかは分からない。だが、ゼダスにとっては、自分に足らない“何か”を持った奴との戦いだったのだ。それを途中で打ち切られたのだ。不完全燃焼でやり切れない気持ちが胸に痞える。

 

「何のつもりだ………アリアンロード––––––––––––––––ッ⁉︎」

 

 やり切れない気持ちをゼダスは口にし、吼える。

 そこに居たのは、白銀の甲冑を見に纏し、肩に掛かるまでの長さの金髪を持つ麗人だった。その凄まじい美貌の裏に隠されし、絶対強者の風格は見る者全てを屈伏させ、まともに立つ事さえ許されない。

 人が人たる範疇を超えた存在。それこそが横槍を入れし張本人。結社《身喰らう蛇》の第七使徒《鋼の聖女》アリアンロード。

 シルフィードも数瞬のみ、睨みつけるが、不敬を感じ、直ぐに表情を正す。

 

「マ、《鋼の聖女(マスター)》ッ‼︎良かったぁ〜〜、死なずに済みましたわ〜〜〜」

 

 若干、涙ぐむデュバリィ。

 勝負で全く周りを見れていなかったシルフィードは苦笑を零すが、ゼダスは苛つき度MAXの状態だった。

 手に持った得物を白樫の木剣から煉獄の大剣、魔剣レーヴァティンに持ち替え、斬りかかろうとするが、またもや邪魔が入る。

 

「何してやがるんですの」

 

 アリアンロード目掛けて一直線のゼダスに割り込むはデュバリィ。

 腰から放たれる厚身の騎士剣がゼダスを襲う。だが、本能的に回避し、再度迫ろうと地を蹴ろうとするが–––

 

「勝手に避けるんじゃねぇですよ」

 

 冷静に言い、デュバリィはゼダスの腹部目掛けて、騎士用の鋼鉄のブーツを放つ。剣を回避した反動が消しきれて入れず、避けるに叶わなかった。

 

「グハッ………」

 

 身に深く刺さる。出血はしてないだろうが、相当痛い。

 意識すら刈り取ろうとする異常な痛み。普通なら、先ほどまで涙ぐんでいた奴の蹴りとは思えない。だが、このデュバリィに限っては何ら変わりない事だった。

 デュバリィは確かに弄られ体質の《鉄機隊》筆頭隊士(笑)である。しかし、その汚名を返上するかの如く、本来の実力を発揮する時が–––数個の条件を満たす事で、有るのだ。

 その一つが、今回の様に自分が崇拝するアリアンロードへの、眼の前での反抗などを見た場合だ。この場合は、全力で妨害して来る。これは行き過ぎた主従愛故の物。

 

「何時も思うのだが、流石に筆頭の《鋼の聖女(マスター)》愛は行き過ぎでは無いですか?」

 

 呆れた様にボヤくシルフィード。

 そして、その行き過ぎた主従愛の持ち主たるデュバリィは、未だにゼダスを踏み付けている。この場面だけを見れば、奇特な性癖持ちの面々にしか見えないが、正直なところ、鋼鉄のブーツで踏まれてるのだから、ゼダスは激痛を味わっているだろう。

 その光景を顳顬を押さえながら、眺めるシルフィードにアリアンロードは近付く。

 

「彼–––どうでしたか?」

 

 短く尋ねられ、真意を探ろうと考えが駆け巡るが、崇拝する御方に不敬を働く訳には行かない。シルフィードは思った事を素直に答えとして放つ。

 

「正直、剣の腕前では本気さえ出せれば、押し切れる自信はあります。ですが………実戦では確実に負けるでしょうね」

「ほう………何故ですか?」

「私は元《鉄機隊》副筆頭隊士です。そして、それに恥じない剣才を持っていると自負してます」

 

 そう言い切れるだけの剣の腕前は少なくとも、持っていると思っているシルフィード。事実、同じ剣士のデュバリィ相手にも遅れを取るどころか、超える事さえ余裕で出来るだけの実力を持っている。だが–––

 

「ですが、彼………ゼダスが持つのは単純な剣才のみではありません。持てる手を如何に効率良く使い、相手を欺く。そして、生まれた隙を突く技術を持っています」

 

 その技術は《鉄機隊》が掲げる騎士道には完全に相反する物だ。しかし、これを無くして戦場に出ようものなら、確実に何時かボロを出すだろう。故にシルフィードに足らない点。

 

「それを学ぶという点に於いては、ゼダスは本当に良い師です。《鋼の聖女(マスター)》とは違う意味で、追いかけ甲斐のある背中です」

「そうですか………なら、良かったです」

 

 納得のいく回答を示せたのか、アリアンロードのホッとした表情にシルフィードもホッとする。

 今の言葉に嘘、偽りは一切無い。確かにゼダスから学ぶべき戦闘のノウハウは存在しているのだから。だが、同時に迷ってしまう。

 それが一体、自分にとって正しい道なのか?わざわざ辿ってきた騎士道を捨ててまで通るべき道なのか?その答えを今のシルフィードには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は何時まで踏んでるんだよッ⁉︎色々と誤解を招くだろうがッ⁉︎」

「知りませんわ‼︎私の《鋼の聖女(マスター)》に働いた不敬を鑑みれば、当然の報いですわよッ‼︎」

 

 ゲシゲシと踏まれ続けるゼダス。普段通りの体力が残っていたら、何とか反撃の糸口を見出せていたかも知れないが、少なくとも今は無理。未だに会得最中の発動確率が五割の『零ストーム』を本番で成功させたのだ。もう満身創痍。身体を僅かに動かす事さえままならない。

 

 

–––それにしても………

 

 

 ゼダスは今の現状から目を反らすべく考えを奔らせる。

 先ほどまで対峙していた相手、シルフィード。彼女が持っていた物は明らかにゼダスには無い物だった。

 圧倒的とも言える剣技の才。相対する者全てを斃し切れる剣才。それはゼダスの強さに欠如している物だ。

 どれだけ小細工を組み込み、ブラフを張り、奇策に奇策を重ねても、圧倒的な力の前には無力。故にゼダスが欲する圧倒的な力。

 それは文字通り強者たるアリアンロードから学ぶべき事だと思っていた。が、今回の一戦で改めて認識し直す必要がある。そう、これでは–––

 

 

 

 

––––あの《鋼の聖女(バケモノクラス)》相手にする前に《聖王(手の届くかも知れない位)》の奴を超えないと駄目じゃないか

 

 

 

 

 

 そう悔しそうに歯嚙みしたくなるが、今回学べた事も確かにある。

 独自性のある流派の技は初見に限っては不意を突ける最大の手段だという事だ。

 多分、シルフィードは剣を事前に知っていれば、予想・回避は簡単に出来ただろう。だが、知らなかった為、予想は出来なかった。かろうじて出来た回避も殆ど本能的な物。これでは確実に避けれたとは言えない。だからと言って、今から始めれる事は何だ?

 嗚呼、始めれる事なんて山ほどある。だが、確実に強くなるのなら、時間の経過を惜しんでは居られない。故に–––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

––––ゼダス()専用の流派を拓く。

 

 

 

 

 

 

 それがゼダスが思い付いた最善の策だ。

 どれだけの時間を費やすかは計り知れた物じゃない。それが一週間なのか、一ヶ月なのか、はたまた一年なのか。更に超え、数十年掛かるかは分からない。しかし、ここでこの答えを選ばない未来がゼダスには見えていない。そして、独自の流派を拓き………次はシルフィードを超える。

 そう心に誓うゼダス。

 

 

 

 

–––––これが《聖扉戦術》の発端となった一戦だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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