闇影の軌跡   作: 黒兎

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最近、タグに『オリ主最強?』と付けておいて良かったと思う今日この頃。






戦闘者の意地

 

 

 

 

 虚空。色を表現する事が叶わない空間に一人立ち尽くす彼。

 まるでその虚空は彼の空いた心を揶揄している様にも思えた。

 

 

–––––君は恐ろしいんだね

 

 

 突如、響く少年の声。だが、それは立ち尽くす彼の物ではなく、その前に現れし、幼き少年の物だった。

 その少年は普段、彼の心に語りかける異風貌の少年とは違う風貌をしていた。彼とそっくりで………それであって幼い少年は、まるで幼き頃の彼を映し出している様だ。記憶の中には幼き頃の自分は一切無いと言うのに。

 

「………何が言いたい?」

 

 彼は苛立ちのまま尋ねるが、正直な所は答えなど理解していた。何故なら、この幼き少年自体は亡き記憶の奥にある己なのだから。

 

 

–––––失う事が。これ以上、自分を形成するもの全てを失う事が。

 

 

 図星だった。

 手を握る力を強める。そして、爪が手の平に刺さる。

 少し感じる痛み。この程度は全く痛くない………………何もかもを失う痛みに比べれば。

 

 

–––––君は臆病だ。失う事を怖れている。人から様々なものを奪っていったのに。

 

 

「………………………黙れよ」

 

 

–––––ボクが語る事を止めても、別の誰かが気付く。気付かせてくれる。

 

 

「分かってるよ………………これが現実逃避だってのは一番よく分かってるんだよッ‼︎」

 

 

 そこには子供の様に泣き叫ぶ彼が居た。

 記憶を失い、感情を失い………あらゆる物を失い、力だけを追い求めた彼でさえ、傷は負う。

 そんな当たり前の事にさえ、周りの人は気付かない。何故なら–––––彼は強過ぎた。人を護れるだけの………そして、人から怖れられるだけの力があったから。

 だが、これは彼が選んだ道である。それがどれだけ蔑まれる事になる茨の道だとしても。

 例え、傷だらけになろうとも構わない。命果てるその時まで………彼は失ったものを埋める為に強くなり続ける他無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、何でこんな所にまで来ちまったんだろうな」

 

 涙の乾いた眼で天を仰ぐゼダス。流れる雲を眺めていると、意識が掠れていくのを感じる。多分、一気に追想し過ぎたのだろう。思えば陽も沈み始めていた。夏とはいえ、一度陽が沈み始めると直ぐに夜を迎える。もう直ぐ、闇夜に包まれる。この調子では最悪野宿か………そう思うゼダスだが、次の瞬間、待ったが入る。

 突如近付く気配。数は単体では無く、複数。

 

「–––––案外、遅かったな」 

 

 寝転がる体勢を解かずにゼダスは呟く。

 ゼダスが寝転がっている丘の少し下にいる気配。ここ数ヶ月、殆どの時を過ごした気配を感じ間違えるはず無い。

 

「悪いな。居そうな所を手当たり次第に探ってたら、こんなに遅くなったよ」

「それにしても遅過ぎるだろうが。予想では、実習課題をこなしながらここに辿り着いたって所か?」

「まぁ、そんな所だよ」

 

 ゼダスに話し掛ける黒髪の刀剣士。リィン・シュバルツァー。

八葉一刀流の初伝持ちにして、特科クラスⅦ組の“重心”。その責任感故からか、こんな辺境の地まで別班のゼダスを訪ねてきたのだろう。

 その他のA班の面々もここに集結している様子だ………………だが、エリオットは居なかった。多分、今頃実家の方に居るのだろう。それを責める権利は無いし、責めるつもりも無い。

 

「–––––で、一体何をしに来た?実習には戻らないって、A班(そいつら)に言ったはずだが」

 

 威圧感を纏いし、その言動にここに集まった全員は不可視の重圧を浴びた。決して物理的な物では無いのだが、まるでゼダスの周りは別世界に隔離されているかの様に、頑なに立ち入らせる事を許さない。

 だが、その“神域”と表現しても相違無い空間に立ち入ろうと足を踏み出す二人。ラウラ・S・アルゼイドとフィー・クラウゼル。互いの眼には決意が宿っており、生半可な覚悟を超越したかの如く、語っていた。

 その烈火を宿した双方の瞳にゼダスは気付かれない程度に微笑みを浮かべる。互いに吹っ切れてくれた………………などと言う平和的な笑みでは無く、強者に対する獰猛な笑み。今のラウラとフィー(ふたり)が相手なら、少しばかりは楽しめる。しかし、その気持ちを少し押し留め、話を聞いてやるとしよう。

 

「もうフィーとの縺れは解けたさ。そなたが頭を冷やさせてくれたからな」

 

 青髪の大剣士、ラウラ・S・アルゼイド。

青色の髪とは違い、琥珀色をした瞳は、真っ直ぐにゼダスを見据え、視線を微動だにしない。その瞳の奥に宿る焔はまるで決意の表れの様にも思えた。

果てしなく真っ直ぐに続く騎士道を歩むと同時に、道から外れし者を無下にするのでは無く、理解し、受け入れる。数時間前とは見間違えるまでに精神的に成長しているのは一体何故だろう?と思うが、追々聞くとしよう。

 

「ラウラに同意。ゼダスのおかげで解決した。だから、もう戻って来て」

 

 銀髪の双銃剣士、フィー・クラウゼル。

薄若葉色の瞳は、同じくゼダスを見詰めている。宿す決意の焔はラウラの物とは別種だが、小柄のその身から発せられる様な物を超えていた。

汚れ道であるはずの猟兵の流儀。ただ敵を効率良く屠り、確実性を追い求めるその道に有りし理は『力の渇望』。それの為にラウラの騎士道を無理矢理組み込んだ………いわゆる邪道に正道が混ざった、どっち付かずの半端者の道。だが、半端者という事はまだ伸び代があるという事。

今は敵わなくても、次には勝つ。

そんな決意を固めるフィーも先程と違い、確実に成長していた。

 

「肚を括ったか………良いだろう。お前らは線を超えたんだな」

 

 謎の言葉を紡ぐゼダスはヌッと起き上がり、腰に差したミストルティンを引き抜く。

茨が形成する物騒な柄頭から鍔の部分に対比的に、“壮麗”の二文字が合う純白の刀身は、すっかりと陽が落ち、昇り始めた月光を反射し、夜の闇の中、妖しく煌めいていた。

 ゼダスは背後に乱立する木々に注目し、無造作にミストルティンを振る。すると、半径20アージュ程度の円を描くかの如く、範囲内の木々は粉々に裂け散る。

そこにゼダスは入り、自作の円状戦闘場(コロシアム)の奥に胡座を掻いて座った。その行動を眺めていた面々は怪訝な表情を見せるが、ゼダスは気にせずに言葉を発する。

 

「ラウラとフィー。お前らは常人の枷を壊した。これで晴れて規格外の仲間入り………………だが、それはお前らが本当に求めたモノか?」

 

 規格外。その名の通り、人が人の限界に迫り、超えてしまう領域。

リィンの《鬼》や武人の終着点の《修羅》、一部の上位猟兵のみが使う事が出来る《戦場の叫び(ウォークライ)》も規格外に分類される物だ。

これを自己意志で受け入れ、手にする。それは即ち、人としての道を外れる危険性が生じるという事。そして、手遅れになれば、二度と“普通”に戻る事は出来ない。故に問う。

 

 

–––––––本当に良いのか?と。

 

 

 ラウラとフィーは互いに顔を見合わせ、手を繋ぐ。そして、輝く青き輝き。戦術リンクの共鳴現象だ。

 

「勿論だ。そなたの強さに憧れたのだ………何の不益も無しに同じ土俵に立てるとは思っていないよ」

「もう、守られ続けるのは嫌。せめて、背中を預けるに値するって認めてくれるまでには強くなりたい」

 

 決意を表明し、円状戦闘場に足を踏み入れる二人。それに応える様にゼダスは胡座を崩し、立ち上がる。その行動一つだけで、場の雰囲気は豹変した。

 夜とはいえ、夏場と言う湿気の多いこの時期に、異常なまでに冷えた雰囲気。それに少しばかり立ち竦む二人だが、それではいけないと自分を律し、何とか踏み留まる。

 それにゼダスは微笑み、ミストルティンを握る力を増やす。そこから何を感じ取ったかは分からないが、分離したミストルティンの鍔の茨は、ゼダスが持ちし左腕に絡み付く。血の供給を得たミストルティンの純白の刀身は紅蓮の刀身に豹変。これで能力の使用が可能となった。

 

「リィン達………最後まで見届けてやれよ。これはラウラとフィー(ふたり)の闘いだ。手出しするんじゃねぇぞ」

 

 煌めくゼダスの紫の瞳は、戦意に満ちていた。まるで『邪魔する者は何であれ喰い切る』かの様な表情を浮かべるゼダスに誰もが口を挟む事を許されなかった。

 

「さぁ、見せてみろよ。お前らの覚悟の行く先をさぁッ‼︎」

 

 そのゼダスの咆哮が、戦いの狼煙を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先手を取ったのはフィー。この結果はゼダスが敢えて行動しなかった故の物だ。

疾駆するフィーは得物である双銃剣を振るい、一直線に突進してくる。それに対応するべく、ミストルティンの刺突を放つが、銃弾の如く前方突進がてらの螺旋回転を行い、華麗に去なす。

 だが、予定通り、とゼダスは腰から白銀のアンチ・ゴスペルを抜き撃つ。煌めくはエメラルドグリーンの光。即ち、風属性の導力魔法。高速戦闘では長ったらしい導力魔法は使えないので、単純な風塊発射。つまり、風属性の基本的な導力魔法、『エアストライク』を放つ。

 突如、発せられた風塊に小柄かつ軽いフィーはボロ雑巾の様に吹き飛ばされる。そして、フィーに対して意識を割いているゼダスに––––

 

「––––背中がガラ空きだぞッ‼︎」

 

–––––迫るラウラ。青い大剣はゼダスの背後から襲い来る。今からミストルティンを振り向きざまに放っても遅い。これは完全に詰み手だ………普通なら。

 

「–––––ラウラッ‼︎避けてッ⁉︎」

 

 吹き飛ばされたフィーは思いっ切り叫ぶ。それにほとんど本能的に反応し、ラウラは力の限りバックステップする。

 襲おうとしたラウラの元居た場所に有るのは紅蓮の刃。ミストルティンの物だろう。だが、ゼダスの持っているそれは最早、剣では無かった。

 紅蓮の刀身は短くなっており、それに反比例するかの如く、柄がとても長い。その形に加え、武器全体の色が紅蓮と化し、茨を絶えずゼダスの左腕に巻き付いている。それにラウラは、

 

「………刺突槍(スピア)だと………………」

 

 と驚愕の表情を見せる。その反応にゼダスはククと笑いながら、ネタバラシをする。

 

「ああ、刺突槍だぜ。ミストルティンは使用者の血を媒体に能力を解放できる。そんなぶっ壊れ能力(チートギミック)の一つが『形状変化』。使用者の意思を血に溶かし、武器に反映させる。中々便利だろ、これ」

 

 左手で器用にクルクルと刺突槍と化したミストルティンを回すゼダスは、右手に握ったアンチ・ゴスペルを腰に差し直す。そして––––––一気に地を蹴った。

 神速の如く、速度でラウラに迫るゼダスは、一気にミストルティンを突き出す。その刺突撃をラウラは考えるより早く、大剣で防御する。だが、刺突を得手とする刺突槍と本来防御に使わない大剣。どちらが有利かは言うまでも無かった。

 

「ほらほら、どうしたッ⁉︎防御がヌルいぜ‼︎」

「グッ………………」

 

 ゼダスの刺突を全力で防御するラウラの額には汗があった。それだけ本気を出しているのだろう。

 もう数瞬、この拮抗が続くかと思われたが、横槍は普通に入ってくる。

 ラウラは急にしゃがんだ。刺突の為に前方に力を入れていたゼダスにとっては、バランスを崩してしまいそうになる行動だったが、踏み留まると同時に、隙を突かれる可能性のあるラウラを蹴飛ばし、振り向く。

 飛来する無数の弾丸。

 フィーの双銃剣から放たれる銃弾だろう。その全てをミストルティンを振るい、そして体術を絡めて避けて落とす。

 

「奇襲は不可能、か………正直、いけるかと思った」

「戦術リンクによる意思疎通があっても、俺を欺くんなら、本気で潰しに来い………突き極めれば殺しに来いよ。じゃなきゃ、俺に一矢報いる事は出来ないしな」

 

 刺突槍から両刃剣に戻ったミストルティンを左手で弄ぶゼダス。ミストルティンは中々の上機嫌の様で、ゼダスの意識に語り掛ける。

 

 

『汝、楽しんでおるな』

 

 

「そりゃ、楽しみたくなるさ。ようやく限界に達した二人と戦えるんだぜ………………本気で楽しむ一択だろうがッ‼︎」

 

 ミストルティンの意識の声に対して、ゼダスは現実で吼える。それに観戦していたマキアスとリィンは、

 

「何なのだ、アレは………」

「もう“武に精通した者”と言うには度が過ぎるな」

「と言いつつも君は眼を輝かせているな」

「えっ………そうか?」

 

 首を傾げるリィンは、マキアスから見て、ゼダス達と“同類”と思わざるを得なかったとか………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、経つ事、約三十分。戦闘は未だに続いていた。

 ラウラとフィーの戦術リンクによる連携攻撃や騎士道と猟兵の流儀を駆使しての猛攻を、ゼダスはミストルティンの『形状変化』を巧みに使用し、対応し切る。通常状態の両刃剣で戦う事もあれば、刺突槍、円月輪(チャクラム)、極めれば刀身を散弾代わりに分裂させ、雨の様に飛ばした事もしばしば。

 そんな応酬が続く中、ゼダスは首を傾げたくなった。

 

「(こいつら………………どれだけ耐えるんだ?)」

 

 そう………どれだけ攻撃を喰らい、どれだけ攻撃の芽を紡がれようとも全く折れないのだ。

身体中には大量の傷。最早、見るに堪えない。だが、決して折れぬその姿は、一周回って綺麗にも思えた。

 

「なぁ………もうそろそろ終わりにしないか?」

 

 ミストルティンの切っ先を地に刺し、身体の重心を預けるゼダス。その表情は、戦闘前の『勝利の渇望』を越えて、『消耗の苦行』を浮かべていた。それもそのはず。戦闘が始まって、一度たりともミストルティンの能力を解除していない………つまり、常時血を捧げ続けたのだ。疲労が溜まっていない方がおかしい。

 だが、この戦闘は未だ終わらないのは知っている。何故なら、彼女らの瞳には勝利への焔が尽きていない。寧ろ、さっきよりも多く燃え盛っている。

 

「まだ………終われぬさ」

「同意。ゼダスを………絶対に取り戻す」

 

 満身創痍の身体だが、漲る力は尽きる事を知らない様な雰囲気を纏っている。それにゼダスは、

 

「どこでそんな“真っ直ぐさ”を学んだんだか………」

「そんなの察して欲しい」

「本当だ。そなたに追い付こうとすれば、こんな所で折れる訳にはいかんのだ」

 

 得物を握り直すラウラとフィー。

 

 

–––––仕掛けて来るな………

 

 

 執行者としての勘というべきか、ゼダスはそう察してしまう。

両刃剣の状態のミストルティンを眼前に構え、気を張り詰める。それを見たラウラとフィーは、

 

「フィー、いけそうか?」

「多分、いける。でも………一撃を加えれる保証は無い」

「それでも良い。何とかして、一矢報いるしか無いのだから」

「ん………なら、やるだけやる」

 

 決意を固め、フィーは持てる全てを込め、一気に疾駆する。一度目を離せば、二度と追う事を許さない速度でゼダスの周りを駆けるフィー。二つ名通り、《西風の妖精(シルフィード)》の形相を醸し出していた。

 

「ゼダス、挑ませて––––––私の持てる全力で‼︎」

 

 速過ぎる速度で駆け回るフィーは残像さえも生んだ。本体に加え、残像に全方位を固められたゼダス。そして–––––双銃剣を構え、複数のフィーは一気に襲い掛かった。

 

「シルフィードダンスッ‼︎」

 

 《西風の妖精》の奥の手。必殺戦技と書いて、Sクラフトと呼ばれるそれにゼダスは–––––

 

「形状変化。太刀へ」

 

 短く唱え、ミストルティンを変化させる。

紅蓮の太刀。烈火の赤とは違い、血の様な赤黒さを連想させる刀身は、まるで妖刀の如きだった。それで居合の構えを取る。

 無数に多方向で襲い来るフィー。それに全力で応える。

 

 

「《聖扉戦術》《複式》の型–––––」

 

 

 刹那を言うには短過ぎる間隙。

 双銃剣に滅多斬りされる寸前で、ゼダスは全速力でミストルティンを抜き放つ。

 

 

「–––––淡雪(アワユキ)(ミヤビ)

 

 

 描かれる真紅の軌跡は暗黒の夜空に艶やかに舞い、四方八方に鎌鼬を放つ。放たれた鎌鼬によって、フィーが生んだ残像の全てを–––––そして、本体をも無慈悲に斬り刻んだ。

 鮮血が夜空を塗り、状況の異常さを引き立てる。正直なところ、こういう結末になる前に止めるべきだった。リィンとマキアスはそう思わざるを得なかった。だが、今からでも応急処置をすれば遅く無いと思い、近付くが––––––

 

 

「––––お前らッ‼︎手出し無用だって言っただろうがッ‼︎」

 

 

 ゼダスの吼えた声が無理矢理制動させる。まるで精神を直接縛られたかの様な感覚に襲われ、男子勢は動きを止める。

 だが、このゼダスの行動は後に反省点となる。何故なら、戦闘中というのに別の方に意識を向けてしまったのだから。

 

 

「ここで決めるッ‼︎アルゼイド流、奥義–––––洸刃乱舞ッ‼︎」

 

 こちらも全力で必殺戦技(Sクラフト)を撃ち込んでくるラウラ。先程、蹴っ飛ばされた痛みを諸共せずに全力を賭けて来るその姿勢は、普段のゼダスなら呼吸する程、当然に対応出来ただろう。

だが、血の奉仕による体力損傷に、《聖扉戦術》の一撃でフィーの必殺戦技の相殺。それに加え、男子勢への咆哮。

意識を別方向に向け過ぎた。故に反応が一瞬、遅れる。

 放たれる二撃の洸刃撃。その片方を一気に加速し、しゃがんで避け、もう片方の一撃をミストルティンの刀身で防ぐ。だが、太刀と大剣。先程の刺突槍と大剣の時とは違い、不利なのはゼダスだった。

抑え切れない火力にゼダスの防御も崩れる。何とか踏み留まろうと脚に力を加えるが、それで隙が出来るのは自明の理。そこを突くかの如く、ラウラは最終撃の薙ぎ払いをお見舞いする。

 ラウラは、当たった、と確信した。それを裏付ける様な感触も有る。

 

 

–––––何とか届いた………………

 

 

 満身創痍でラウラは天を仰ぐ。完全な勝利。その余韻に浸ろう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「合格点、だな」

 

 

 背後で響く声にラウラは勢い良く振り向く。

そこに居たのは、倒したはずのゼダス。そして––––突き付けられる両刃剣のミストルティン。

 

「な、んだと………」

 

 驚きを隠せないラウラは振り向かずに尋ねる。動けばミストルティンの刃が刺さるのは理解しているが故、振り向けない。背筋に冷や汗が溜まるが、答えを聞く必要がある。

 

「分け身。俺の………先代が使ってた技だ。己の魔力を流し込み、完全な模倣体を作り出す………正直、看破する術は倒すしか無いしなぁ〜〜。気付かないのも仕方ねぇよ」

「本当にそなたは強いのだな」

「凄い今更の反応だよな、それ。まぁ、これで俺の勝ちって訳だ。にしても、ここまで粘るとはな。嬉しい意味で誤算だぜ」

 

 笑いながらに言うゼダスにラウラも吊られて笑う。ああ、笑うしかない。何故なら––––––

 

 

 

「ゼダス、チェックメイト」

 

 

 

 ゼダスの背後に突き付けられているのは銃剣。そして、耳に届いた声は斬られたはずのフィーの物だ。

 

「ほう………フィー。お前も小賢しい手を覚えたなぁ。使われた瞬間は気付かなかったよ」

「じゃ、何故避けなかったし」

「ふ………男として女に華を持たせた結果って奴?」

「らしくない」

 

 口先を尖らせるフィー。そこまではぐらかされたのがカンに触るのだろうか?だが………と回想を加える。

 何故、ゼダスの背後をフィーは取れたか。方法としては、ゼダスの真似事だった。

最強の切り札である必殺戦技、シルフィードダンスを叩き込むあの瞬間、大量の残像が出現する。高速移動で残像自体に質量を付加し、一気に敵を肉薄にするという原理の元に成り立つ技なのだから、当然とも言えるだろう。そんな当たり前の行動の中にフィーはある“細工”を施した。

“分け身”。剣帝の得手とする戦技。これをシルフィードダンスの中に組み込んだのだ。しかも、一体のみに。

そうする事で、全ての残像を掻き消した淡雪・雅を放った時に感じる感覚に違和感が生じる。残像とは原理の違う分け身を斬ったのだから。

だが、ミストルティンの使用過多により、疲労の蓄積限界を超え掛けていたゼダスは、その違和感を意味の無い情報と無意識の内に割り切ってしまった。本当に不覚である。

 そして、気付いたのは、ほんのついさっき。ラウラにミストルティンを突き付けた頃辺りだ。もうその時には打つ手なしで、詰み手だった故に抵抗を止めた。つまり–––––

 

 

「–––––俺の負け、か。本当に嬉しい誤算だよ」

 

 

 –––––ゼダスの負け。化け物クラス相手に一矢報いる事さえも越えた瞬間だった。ラウラとフィーは互いに顔を見合わせ、微笑む。

 

「これで覚悟は示せたな」

「ん。これで帰って来て貰える」

「完全に負け、だよな………分かったよ、実習には戻る。それで良いか?」

 

 その言葉に一同は縦に首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つっかれた〜〜〜」

 

 今宵の宿である遊撃士協会帝国支部に戻って、最初にゼダスが吐いた言葉。無人の部屋には、その声しか響かなかった。

マキアスは何か用があると言って消え、ラウラとフィーは「汗だらけだから、ちょっと風呂借りて来る」と言ってエリオット宅に上がり込んで行ったのだから、一人なのは当然である。

 それにしても、よくラウラとフィー(あの二人)が少し見ない内に仲直りしたものだ。何か転機でもあったのだろう。と言っても、あの戦闘狂(バトルジャンキー)達だ。どうせ、本気で打つかり合って、互いに気持ちを確かめたのだろう。

 だが、それが解決出来た理由にはならない。何らかの共通点が無ければ、互いに互いを許せる訳が無い。なら、共通点は何だ?

 と、考えがまとまる前にゼダスの意識に靄が掛かる。溜まった疲れが、今になって襲って来たのだ。本当に参ったモンだよ。

 

「………寝るか」

 

 受け付け一階にあるソファーに怠そうに寝転がるゼダス。残り体力的に、二階にある寝室まで届きそうに無かった事も起因してかの行動だった。

 一度、眼を閉じれば、朝を迎えるまで意識を覚醒させる事は無いだろう。

 だが、ゼダスは知る事が無かった。この夜が、色んな意味で忘れられなくなるという事に……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、超今更ですが、実習一日目が終わりました………あれ、終わったか?と言うか、四章の話数の多さが、流石に笑えなくなって来てます。まだ、実習二日分くらい残ってるんだぜ、これ。
次話は多分、少し遅れます。だって………ちょっと………某イベントの方を書かねばならんので。
首を長くして、お待ち下さいな。それでは〜〜〜。


そう言えば、今日はバレンタインデーですが、読者の皆様は何か良い事有りました?私は何も御座いませんよww

追記:この次話である『実習二日目 』を読む前にRー18版の一話を読まれておく事をお勧めします。中々、混乱してしまう恐れがあるので………
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