闇影の軌跡   作: 黒兎

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《天帝》の過去 Ⅱ

「ったくッ‼︎ こんな化け物相手にッ………どうやって勝てるんだよッ⁉︎」

 

 円状の研究室を駆け回る………というよりは逃げ回るのはゼダス。そして、それを追い掛けて来るのは長刃(ロングエッジ)を備え付けた四足歩行の鋼鉄の傀儡。 

 鋼鉄の傀儡は持ち前の長刃で研究室の至る所を斬り潰すしていく。どう考えても火力が可笑しいレベルだ。

 しかし、それでも研究室は潰れ切るには至らず、半壊程度の損害で済んでいた。………まぁ、その所為で未だに扉は開きそうも無いのだが。

 と言うか、扉が開いても逃げれる気はしない。

 無我夢中で全力疾走して、ようやく逃れれている様なものなのだ。そんな時に他方に気を割くなど自滅に等しい。

 だが、このまま逃げ続けるのはジリ貧である。人と機械。体力の限界値には明確な差が存在するのだから。

 使える得物でも有れば話は違うのだろう。今のゼダスは丸腰同然。つまり、使える物は無い。

 

「(クソッタレッ‼︎ …………時間経過で完全に詰むぞ、これッ‼︎)」

 

 ゼダスは内心で歯噛みする。

 こうなったら、室内にある物で何とかするのがテンプレなのだが––––………

 

「(と言っても、室内はまず何も無い。そりゃそうか。最初から俺を使うつもりだったんだから、不安要素を排除するのは当然だよな)」

 

 そう、室内に使える物が何も無いのだから、利用すら出来ない。

 完全に殺しに来ているのが手に取る様に分かる。

 母親の言葉通りなら、欲しているのはゼダスの“欲望”だ。それがどんな種類でも構わないのだろう。当初は妹を殺す事で『蘇らせる』という願いを持たせ、《輝く環(オーリオール)》を取り込ませるつもりだったのだろうが、今は死の間際を見せる事によって『生きたい』と思わせるのが魂胆なのだろう。

 

「(そうさせる訳には行かない、よな)」

 

 実のところ、ゼダスは活路を見出せている。まぁ、死にに行く様なものだが。

 だが、これしか選ぶ戦法が無いのも確かだ。

 絶体絶命の状況において、死中に活を求めるのは可笑しい事だろうか?

 いや、間違っていない。これが正しい筈だ。

 

「試すだけ試してみるかッ‼︎」

 

 ゼダスは思いっ切り地を蹴る。鋼鉄の傀儡へと向けて。

 それを捉えた鋼鉄の傀儡は長刃を振るう。

 煌めく銀刃をスレッスレで避け、ゼダスは更に加速。

 もう一度振るわれた刃も死に物狂いで避ける。

 そして、着いたのは鋼鉄の傀儡の真正面。

 だが、止まらずに長刃は振るわれる。

 この時、ゼダスは思った。

 

 

––––やっぱり人間の方が思慮深い、と。

 

 

 ガチンッッッ‼︎

 鋼鉄同士が打つかった甲高い音。それが響いた後に鋼鉄の傀儡は音を立てて崩れた。

 

『へぇ………殆どの物を斬り伏せれる刃同士を打つけさせる事で自滅に誘導した、と。中々やるじゃない』

 

 感心した声で言う母親。今現在も高みの見物状態なのだろう。

 

『でも、傀儡はまだまだ有るわよ。捌き切れるかしらねぇ』

 

 言葉通り、複数体降って来る鋼鉄の傀儡。

 一個体相手にするだけでも大変だと言うのに複数体。

 やはり、詰みゲーなのに変わりは無い。

 そんな状況の中、ゼダスは崩壊した鋼鉄の傀儡から長刃が半ばで砕け散った鉄片を掴み上げる。重量はそこそこだが振り回す分には問題無い。

 

「………多分、無理だな、コレ」

 

 鉄片を真正面に構えるゼダスは思い付いた言葉をそのまま口にする。

 事実、攻略の糸口は見えていない。

 無闇に戦闘を続けても先に折れるのはゼダスだ。

 だからと言って、わざわざ挑まない訳には行かない。

 いつか鋼鉄の傀儡の徴兵も切れる筈だ。とは言え、《輝く環》の防衛機能の賜物なら限界は無いに等しいのだが。

 

「「「ガアァァァッッッッ‼︎」」」

 

 殆ど時間差(タイムラグ)無く吼え、襲い掛かる鋼鉄の傀儡達。

 速度は先程とは大して変わってはいないが、襲い掛かって来る物量差が激し過ぎる。視界の殆どを鋼鉄の傀儡達で占めているのだから。

 これでは手にした鉄片も意味を成さない。せめて、一対一なら使い道もあるのだが、一対多ならどうやって振り回しても死角が出来る。結果、そこを突かれて敗れるだろう。

 それを理解し、ゼダスは真正面から向き合う事はせず、兎に角走る。脱兎の如く、走る。

 

『おやおや、思いの外逃げ回れるのね』

「生まれつきの運動神経のおかげだろうなッ‼︎ それでもギリギリだけどねッ‼︎」

 

 ゼダスは––––天賦の才能とまでは言えないが––––そこそこの運動神経は有している。そして、それを利用すれば避ける分には問題無い。そう………避ける分には(・・・・・・)

 ただ避け続けても状況は好転しない。寧ろ、悪化する可能性の方が濃い。

 相手の鋼鉄の塊はまだまだ湧き続けるだろう。そうなれば、苦戦するのは言うまでも無くこちらだ。

 本当に物量で一気に押し切る作戦を取られでもすれば、確実に死ねる。

 この状況を第三者が見れば、確実にこう思うだろう。

 

 

––––何故、そこまで足掻き続けるのか? と。

 

 

 どの観点から見ても、ゼダスには一厘たりとも勝機が存在していない。

 でも、温順しく言う事を聞き、従順に付き従えば存命は可能な筈。自由は無くなるだろうが、これが最善策にして賢い選択だ。

 

「(そんな事………最初っから分かってるよッ‼︎)」

 

 その選択肢がある事も最初から導き出せていた。

 だが、同時に選択肢から最初に外れた候補でも有った。

 それは何故か?

 その問いに対する明確な答えは………今のゼダスは生憎持ち合わせていない。

 つまり、選択肢を捨てた理由を自分でも理解していないのだ。

 

「(ここでラクファ()の為って言えば、素晴らしい兄貴っぽく見えるんだろうなぁ〜〜………)」

 

 多分、妹の為では無い。そんな“綺麗”な理由では無い。

 なら、それは何か?

 先程と意味は同義の質問。

 その答えを無理矢理見つけ出すとしたら、それは貪欲なまでの自己欲なのだろう。

 貪欲な自己欲。それだって立派な“欲望”だ。

 しかし、母親はその“欲望”に気付いていない。それもそうだ。

 生まれた時から今に至るまで。ゼダスが己の心の奥底にひた隠しにして来たのだから。

 

「(だから、今の所は気付かれて無いはずだ………なら、幾らでもやり様は有る)」

 

 どれだけ考えても勝ち目は薄いを通り越して無い。

 だが、それは“勝利”に観点を置いた場合だ。

 今、重要な事は逃げる事。無事に逃げ帰り、母親に一矢報いる機会(チャンス)を伺う事だ。

 その為にこれから行う必要が有るのは、逃げ道の確保だ。これに関しては––––時間こそ掛かるだろうが––––方法はある。

 襲い掛かって来る鋼鉄の傀儡達を逃げ回りながら誘導し切り、放たれる攻撃を一点に集約させ、扉か壁を壊す。そして、そこを一気に駆けて逃げる。

 この方法を試すには、少なくとも母親に露見してはならない。予防策でも張られたら完全に詰むのだから。

 

「(まぁ、誘導なんて物はハナから期待してないけどな)」

 

 そう思う根拠は二つ有る。

 一つ目は、相手が《輝く環》の防衛機能による化け物だという事だ。

 先刻、母親は「《輝く環》は高度な人工知能」と言った。

 人工知能とは、人間の様に学習を行い、自己を高める物だ。ならば、ゼダスが今現在実行しようとしている作戦に気付いても可笑しい話では無い。

 二つ目は、己の総体力の残量。

 逃げ切るだけで全力を使わざるを得ない状況下で、意図して“誘導”なんて出来た物では無い。そんな事に思考を割こうものなら、走る脚が鈍り、追い付かれて斬り刻まれるのがオチだろう。それ程に余裕は無い。

 つまり、今のゼダスにとっては長引けば長引く程に追い詰められる状況において、長引かせなければ効果を発揮しない作戦を選んでいる訳だ。それは悪手に等しい。文字通り、自壊の道だ。

 

「(でも………これしか無いんだしなぁ)」

 

 ゼダスは全力疾走し、手にした鉄片で襲い掛かる鋼鉄の傀儡を時には避け、時には柔らかな防御で迎撃している。

 流石に《輝く環》の方も学習したのか、鋼鉄の傀儡の長刃での自壊は出来ない様な立ち回りを選んで来ていて、少し笑みを浮かべた。

 別に余裕が有る訳では無い。どちらかと言えば、切羽詰まっているの方が適している。

 しかし、それでも笑みが崩れない。意識して縛ろうにも、勝手に口角が上がる。

 多分、無意識の内にこの状況を楽しんでいるのだろう。全く以って可笑しい話だ。

 平穏だった日常を壊され、大切だった妹も失われ、何もかもを失ったのに笑いが止まらない。

 そして、今の今まで自分ですら気付かなかった自分の心境に驚愕する。

 まさか自分の中にこんなのが居るとは思っていなかった。そう––––

 

「(自分の事でも分からない事ってあるんだなぁ。まさか、戦闘を楽しんでいる俺が居るとは思わないったよ)」

 

 心の底から戦いを楽しんでいる自分が居たのだ。俗に戦闘狂(バトルジャンキー)

 だが、意外にもそんな自分を嫌悪する事は無かった。と言うか、歓迎している様にも思える。まるで、この自分を曝け出す事が今の自分にとって、最重要で最優先事項だと言う風に。

 しかし、それはあくまで主観から見たら、の話だ。その観点を少しズラすと––––

 

『(ゼダス………とうとう精神にガタが来たのね。『壊れ』始めたわ)』

 

 ゼダスと鋼鉄の傀儡達が居る円状の研究室を別室の画面(モニター)で観察するゼダスの母親は、そう思わざるを得なかった。

 この非道な現状を作り、我が息子に突き付ける作戦を立案したのは紛れも無く彼女なのだが、流石にここまで来るとは思ってなかった。

 普通、人間と言うのは精神が正常じゃなくなると何処かに異常な部分が発生する。それを自分の意志のみだけで制御し切るのは間違い無く不可能だ。そんな荒技を可能とする確率を持つ者は例外無く人を辞めた人種。つまりは“修羅”に成りし者達。

 その事実はゼダスも理解はしているだろう。その上でゼダスは異常を受け入れた。そう判断するしか無い。先程まではウロチョロ逃げ回っていたゼダスの行動が急に変わったのだから。

 ゼダスは鋼鉄の傀儡達に突貫し始めたのだ。

 この状況を見れば、誰もが自暴自棄だ、と思える程に無謀な挑戦。無惨に斬り刻まれるのが目に見える。

 しかし、ゼダスは別に見えている。だから、突貫した。

 と言っても、決して論理的(ロジカリティ)でも無ければ、合理的(ラショナリティ)な理由が有る訳では無い。

 強いて言葉にするなら、隠れていたゼダスの野生的とも取れる鋭利な勘。それがゼダスの脳内に、こう語り掛けていた。

 

 

––––眼前の障害を叩き潰せ、と。

 

 

「––––シッ‼︎」

 

 短く氣を溜め、刃状の鉄片を思いっ切り放つゼダス。その速度は決して速いとは言えないし、火力も並程度。

 そんな陳腐な抜刀など鋼鉄の傀儡の前には無意味も同然。

 そう思い至り、画面越しに母親は呆れの意思を交えた嘆息を漏らす。が、その次の光景に目を疑った。

 攻撃を喰らった鋼鉄の傀儡が––––突如、瓦解を始めたのだ。

 有り得ない。そんな筈は無い。

 別室の机に母親は荒々しく拳を叩き付ける。

 何故だ。何で斃せれている。

 研究者としての矜持か意地。その何方か––––いや、両方が母親の思考を加速させ、無数の可能性を検証する。

 そして、導き出された結論に卑しい笑みを浮かべざるを得なかった。

 この仮説が正しいのなら、もう計画の完成は眼の前どころか終わっている事となる。まさか––––

 

『(––––まさか、ゼダスは《輝く環》の力を吸収していると言うのッ⁉︎)』

 

 それなら願い叶ったりだが、ここまで壮絶な物だとは思ってもいなかった。

 明らかに動きが変わって来ている。人の領域から、少しずつ食み出し始めている。段々と疾くなって行き、火力も馬鹿にならない程となっている。

 その事実に行き着いてからは早かった。

 約一分程度。その僅かな間隙にゼダスは全ての鋼鉄の傀儡を斃し切った。

 ゼダスは動体が本人を除き、無くなった研究室に立ち尽くす。そして、無意識に失っていた冷静さが漸く戻って来て、己の愚かさを察した。

 

「(………し、まった………………)」

 

 確かに眼の前の障害を全て叩き伏せた。おかげで助かった。

 だが、その結果を作り出す為、《輝く環》に願ってしまった。

 

 

––––生きたい、と。

––––勝ちたい、と。

 

 

 それが起因とし、間接的にだが、《輝く環》と繋がってしまった。結果、身体中に異形の力が流れ込んで来た。それを駆使して鋼鉄の傀儡達を殲滅し尽くした。

 しかし、それは母親が望んでいた筋書き(シナリオ)通りだ。即ち、完全に打つ手を間違えた訳だ。

 

「最悪だ………」

 

 戦っていた時とは反転し、一切の力が入らなくなり、ゼダスは腕をダランと垂らす。

 もう戻れない。異形の力が一度流れ込んだ以上、後戻りする事が許されない。

 

『………実験、成功ね』

 

 戦闘開始時の調子(テンション)は何処へ行ったのか。信じられない様なモノを見た様な口調で母親は言う。

 

『貴方は––––ゼダスはどうしたい? 今なら貴方は全てを決めれるだけの権利はある。それだけの力を手に入れたのだから』

 

 己の死手に不甲斐なさを感じていたゼダスに問い掛ける母親。

 しかし、ゼダスはそれに答えずに俯く。

 決して考えていない訳では無い。その逆。力を持ったが故の思考が働き始めた。

 

「(確かに何でも出来る。全てを選定するだけの力は手に入れた)」

 

 間接的に繋がっている《輝く環》を直接体内に取り込めば、この空中都市ぐらいどうとでも出来る気がする。それは先程の《輝く環》の余波が招いた結果が指し示している。

 

「(だが、俺は一体何がしたい………)」

 

 妹が殺された事に怒り、母親の思惑を砕こうと真正面から打つかり、その中で己の根底に存在する“自分”を垣間見た。その自分が願った事を《輝く環》は叶え、結局、母親の思惑に嵌った。何処から如何見ても滑稽極まりない話だ。

 だが、過程は如何であれ、力は手に入れた。なら、如何使う?

 母親曰く、ゼダスは壊れている。何も求めずに生きて、無欲を貫き通して来たのだから。

 母親曰く、《輝く環》をこのまま空中都市の動力源として運用すると、崩壊する。

 母親曰く、《七の至宝(セプト=テリオン)》は人には過ぎた神からの贈り物(ギフト)

 ならば、如何すべきか。それは––––一つしか無い。

 

「なぁ、母様………いや、イリス・アインフェイト」

 

 ゼダスは自分の母親をフルネームで呼ぶ。それに不愉快そうな声でイリスは応える。

 

『私をフルネームで呼ぶとは良いご身分ね』

「俺の持っている力を考えれば良い身分だけどな。………それで、アンタは空中都市を封印する為にこの実験を立案したんだな?」

『まぁ、そうね。もう大半の住民は地に還った。だから、今のこの都市には私達二人しかいない。この絶好な状況でこの空中都市を封印出来ればベストよ』

「なら––––俺は受け入れる。サッサと封印してくれ」

『………–––––は?』

 

 さっきとは大違いの言葉に意外にも素っ頓狂な声をイリスは上げる。

 

『如何いうつもりか………聞かせてもらえるかしら?』

「俺には––––もう何も無い。愛した妹も信じていた親も、生まれた理由も、普通に過ごす価値も。その上に己の本性を見た。ただ力を欲し、まるで狂戦士(バーサーカー)の様な自分(オレ)に自分でも反吐を吐きそうになった。でも、そんな無価値で人生を終わらせるのはちょっと癪だ。だから、最後に俺は自分で思い付いた罪滅ぼしをする」

 

 罪滅ぼし。それは一体、誰に対しての物か。

 妹、母親、この空中都市に住まう者達、それとも………自分。

 その言葉の真意、重みをイリスは計り知れない。しかし、計り知れないのは言った張本人(ゼダス)も同じだった。

 

「俺は––––全てを救う“正義の味方”になる。“救済者”になる。だから………その為に俺はアンタの実験に応じるよ。それで少なくとも周りを救えるんだろうしな」

 

 ゼダスの瞳は一切、迷いは無かった。イリスが見てきた中で一番、澄んだ瞳をしていた。

 

『………貴方は本当に私の予想を超えて来るわね。まさか、実験に了承した上に己の願いを生み出すとわ』

「何だよ、悪いか?」

『いや、別に。しかし、これで貴方の顔を見れなくなるのは悲しいわ』

「アンタが作った筋書き(シナリオ)だろうが。よくも心にも無い事を言うな」

『私が行程を一つ踏むだけで異次元への封印は完了するわ。だから、私も言う事は全て言っておくわよ。私は貴方が好きよ』

「………–––––は?」

 

 先程、イリスが上げたのと同じ様な素っ頓狂な声をゼダスは上げる。

 

「それは………家族愛って奴か?」

『いえ、違うわ。純粋な“愛”よ。よくある恋愛感情と完全に同義の、ね』

「それって色々危なくないか?」

 

 血の通った者通しの純粋な“愛”って………それはマズいだろ。色んな意味で。

 

『だから、来世で会えるのを楽しみにしてるわ。それじゃあね』

 

 イリスのその言葉が耳朶に響いた次の瞬間、空中都市は大きく揺れた。多分、封印行程が完全に済み、もう自動(オート)化し始めたのだろう。そして、イリスももう脱出した筈。

 

 

「これで………独り、か」

 

 

 その後、ゼダスは悠久の時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「––––––––ぁ………」

 

 急に意識を現実に引き戻され、ゼダスは声を漏らす。

 まるで長い旅を経た後にも思えた。

 場所は月下の病室。周りにはⅦ組のメンバーにシャロンが居た。

 

『これがゼダス君の記憶の全てだ。どうだい、気分は?』

 

 全員が無言を貫く中、《輝く環》は傍でそう言う。

 それに答えようとするゼダスだが、突如異変が起きた。

 ポロポロ………

 何かが滴り落ちる音。それはゼダスからした。

 

「嘘………だろうが………………」

 

 自分でも疑いたくなる。まさか、泣いているなど。

 

『やっぱり荷が重いのか………』

 

 《輝く環》の言葉は間違っていない。

 全てを捨て、手に入れた力が原因で記憶を失くしていたのに、それを取り返すべく全てを捨てた。廻り廻った結果にゼダスは嘆きたくなる。

 結局、記憶を取り戻しても得る物は無く、背負う物が多くなっただけだ。

 傷は癒えるどころか、深く刻まれた。心に空いた穴は更に酷くなった。

 そんな状況で誰もが声を掛けれないでいたが、動く影が二つあった。ラウラとフィーだ。

 二人はゼダスへと歩みより、そして––––思いっきり殴った。

 ドゴンッッ‼︎

 鈍い音が病室に響くが、誰も声を上げなかった。二人を除いて。

 

「何、泣いているのだ………」

「ん。そんなゼダス、見たくない」

 

 残念そうな声音にゼダスは冷水を浴びせられた様な雰囲気に苛まれる。

 

「………分かってるよ」

「何。聞こえない」

「お前らがこんな俺を見たくないって事は嫌でも分かってるんだよッッ‼︎」

 

 泣き吼えるゼダス。一度、口にすると止まらない。

 

「俺だって人なんだよッ‼︎ トラウマになる事もあるし、悲しむ事だってある。それでも真実から眼を背けなかったんだぞッ‼︎ ああ、《輝く環》の語った記憶は間違い無く俺の物だよ。俺ならそう言う選択をしても、何ら可笑しくない」

 

 ゼダスは立ち上がり、二人の胸倉を片手ずつで掴み上げる。

 

「でも、お前らが愛したゼダス・アインフェイトはもっと強いって? こんな程度で動じる奴じゃないって? そんなのはお前らが押し付けた勝手な妄想だろうがッ⁉︎」

 

 言葉は止まらず、次々と出て来る。

 

「弱者なら眼を背けても良いだろうが、俺には力がある。だから、俺は全てから眼を背けられないんだよッ‼︎ そして、俺はそれに逃げずに真正面から受け止めたんだぞ。弱者なお前らと違って、俺には背負えるだけの力はあるッ‼︎」

「馬鹿言うなッッッ‼︎‼︎」

 

 ゼダスの声音よりも強い声音で異議を申し立てるのはラウラ。

 

「そなたがⅦ組(我ら)より強い? 何の冗談だ、それは。我らよりも最も弱いのは紛れも無く、ゼダス。そなただ」

「何の冗談だ、はコッチの台詞だよ。それはどういう根拠に基づいての判断だ?」

 

 フィーを掴んだ手を離し、ゼダスは両手でラウラを掴み上げる。

 決して、愛している者同士で行って良い様な行動では無い。だが、幼き性質が故、こうしてでも無ければ思いを伝えられない。特に、戦闘に身を置く者は。

 

「確かに剣術、立ち回り方………それらの総合的な戦闘力なら一線を画しているだろう。だが、所詮はそこまで。そなたには精神の耐久力が無さ過ぎる」

 

 ラウラは力技でゼダスの手を引き剥がし、手を掴む。互いに大剣を使っていたからか、掛かる握力の量は計り知れないが、ゼダスとラウラにとっては痛みを感じなかった。

 

「だから………弱いって言うのか?」

「ああ、そうだ。そなたは間違い無く、我らと対等な地に立っている。それに変わりは無い」

「………理解した。理解したけど………こっから俺はどうしたら良いんだよッ‼︎ もう戦う理由が無くなった。そして、心身共に傷付いた。俺は死に物狂いで戦い続けたんだッ‼︎」

「なら––––休めば良い」

 

 ムギュッとゼダスの後ろから感じた不思議な感触。その原因を視覚に映すべく、ゼダスはラウラを掴み上げる手を放し、後ろを向く。

 そこに居たのは、抱き付いているフィーだった。

 

「ゼダスも私もみんなも同じ位置に立っている。誰が強くて、優れてるとか無い。だから、少しぐらい休んでも問題無い。まず、ゼダスなら少しぐらいの差が開いても直ぐに埋めるでしょ?」

「––––ぁ」

「と言うか、戦う理由が無くなったって、ちょっと心外。私達の為(・・・・)、じゃダメ?」

 

 ––––そう、これが聞きたかった。

 ゼダスが心の底から願った望み。それを《輝く環》は叶えずに傍観していても、この結果は訪れた。

 果たして、それは偶然か。それとも必然か。

 未だに涙が止まらない。だが、先程の涙とは意味合いが違う。

 

「(………ようやく………………必要とされた)」

 

 今まで、他人から認められずに過ごしてきた。結社でも執行者としての信用は築けていても、ゼダス・アインフェイト個人の信用は築けていない。

 だがらこそ、嬉しいのだ。こうやって認められ、必要とされるのは。

 

「くそっ……何で止まらねぇんだよッ」

 

 理由は分かっているのに、素直に口に出来ない。してしまうと情け無く見える。

 そう言った(パートナー)を支えるのは、(パートナー)の役目である。

 

「ふふ、全く素直では無いな」

「ん。でも、ゼダスらしいからOK」

 

 前後から抱き付かれ、その中でゼダスは一生分泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな、みっともない姿を見せて」

 

 流石に泣き止み––––まぁ、泣き跡の残滓は未だに残っているが、ゼダスは一度謝罪する。

 

『まぁ、これで君の願いは叶った訳だ。良かったね』

「それじゃあ、一つ。新しい願いを加えさせろ」

『ん? 一体、何かな?』

「俺は前々から不思議だった。何で《輝く環》が人格を持って喋れるかを」

 

 それは当然の話だ。

 道具が喋る訳が無い。何故なら、道具だから。

 そんな理由に成っていない理由でも人々は理解出来る程に常識化している意見に異を唱える様な現象だ。

 だが、これが成り立つ理由に関してはおおよその予測は付いている。

 

「その訳は、俺が願ったから。悠久の時の中、暇を持て余した俺が対話役として、《輝く環》に願い、お前が出来た。違うか?」

『………うん。その通りだよ』

 

 答える《輝く環》の声音は無性に落ちて聞こえる。

 何か、まだ抱えている。何かを言っていない。

 それを承知でゼダスは願いを口にする。

 

「なら、もう願いは叶ってる。暇じゃなくなっているんだし。だから、お願い事と称して一個質問だ。お願い事だから話は逸らすなよ。願いを叶えたお前は一体、どういう扱いに成るんだ?」

『それは………』

 

 言い淀む《輝く環》。その様子から、重大な事を抱えているのを察するに難くない。

 だが、聞く必要がある。故に––––

 

「早く言え。俺は真正面から受け止めてやるから」

『………廃物扱いに成る』

「廃物?」

『うん。文字通り、廃った物だよ』

 

 それは即ち––––

 

『もうボクは要らない存在に成ったんだよ』

 

 ヘラッと笑いながら言うが、その表情は何処と無く固く、影が差して見えた。

 

「冗談、じゃないんだな」

『うん、勿論。冗談言うなら、もう少し洒落の利いた奴にするよ』

「だろうな」

『ボクは君の暇潰しの為に生まれた存在だ。だから、君がこの世に現界してから、ボクの役目は終わったに等しい。だけど、ボクは今の今まで、こうして眼の前に居てられる。何故だろうね?』

「それはお前が俺の記憶を保持していたからだろ。そして、記憶を欲している俺の願いがお前を引き留めたんだと今解釈した」

『………まぁ、そーいう事。本当にボクは用済みの存在。だから、多分もう直ぐ消滅するだろうね』

「そうか………」

 

 《輝く環》の告白に淡々と答えるゼダス。それに違和感を覚えるは周りから眺めているⅦ組+シャロン。

 ゼダスにとって、この《輝く環》の顕現体というのは、ゼダスの願望の塊であり、過去と現実を繋ぎ止めた重要な奴のはずだ。それが本当は人では無くても、少しは思う所が有って然るべきだと思うのに、まるで知っていたかの様に言うのだ。

 事実、知っていたとしても、永遠に等しい時間を共に過ごした仲間だ。少しは思う所が有ってもいいはず。

 だから、ゼダスの反応に違和感を感じざるを得なかったのだ。

 

「あの………ゼダスは悲しくないの?」

 

 この状況でのエリオットの質問。無神経とも取れるが、当の本人(ゼダス)は意に介さず答える。

 

「何で?」

「えっ––––いや、だって、今までずっと一緒に歩んできたんでしょ? なら––––………」

「ああ、そういう事か。何で俺はこんなにも落ち着いていられるかが気になっているのか」

 

 言われてみればそうだなぁ、とゼダスは思い、答えを口にする。

 

「多分、こいつが消える事は一切無いし。人格が消えようが《輝く環》は《輝く環》だ。それさえ分かっていれば、別にどうした事も無い」

 

 非情とも取れるその言葉に全員が嫌悪感を露わにする。

 しかし、それはゼダスの真意を誰も見抜けていない事の証明に他ならない。

 

「だから、人格が消える前にこの口で願い事を言わせろ。“お前はどうしたい?”」

『それは………どういう意味かな?』

「文字通りだ。お前が消える––––いや、俺の中に還る前にどうしたいか聞いとこうと思ってな」

「「「⁉︎」」」

 

 ゼダスの口から発せられた言葉に一同絶句。それを見兼ねた《輝く環》は乾いた笑みを浮かべ、呆れながらにこう呟く。

 

『答えてあげても良いけど、その前にみんなに説明しなよ。みんなが置いてけぼりじゃん』

「えっ………まさか今の話聞いてて理解してないとか無いよなぁ………」

 

 その言葉に一同は頭を縦に降る。それを見たゼダスは頭を抱えるというテンプレ小芝居があった後、ゼダスは解説を始めた。

 

「さっきも言った通り、この《輝く環》の人格ってのは俺の願望が反映されて生み出された奴だ。その為、俺の願いを読み取った時に同時に俺の人格を模倣した訳だ」

 

 元々、意志の無い“物”が意志を持つ“者”になるには、何処からかの参考体(サンプル)が必要となる。ならば、願った本人から摘出すれば良い。

 

「そして、《輝く環》には、あらゆる奇蹟を引き起こす能力が存在する。だが、奇蹟ってのは全てを叶える物であって、生み出す物では無い」

 

 どの奇蹟にも言える事だが、願うという行程が無ければ、叶う道理は無い。

 奇蹟という物は結局は結果である。結果である以上、何らかの行動を踏む必要がある。言い換えれば、何らかの材料が必要となる。

 

「人格を零から創り出す事はまず不可能だ。人と言う物自体、偶然の産物に過ぎないんだし、それをポンポンと量産されると気味が悪いし。でも、《輝く環》は願われた願望は何が何でも叶える必要がある。そういった性質の物だから」

 

 ペラペラと自論を展開するその姿はさしずめ研究者。先程、脳裏に刷り込まれたゼダスの記憶に出てきた母親とそっくりにも思える。

 

「俺の願いを叶える為に《輝く環》が取った方法が、俺の人格を異常が無いギリギリで削り、吸収する事だった」

 

 それなら、ゼダス本人は普通とは言い難いが、過ごす事が出来、《輝く環》も無理無く願いを叶えられる。つまりはWin–Winの関係になる。

 だが、この憶測が当たっていたのなら、《輝く環》の人格が消滅したら、その材料と化したゼダスの人格の一部はどうなるか?

 普通は釣られて、一緒に消滅するだろう。だが、普通じゃないのが《七の至宝》であり、その一角を占めるのが《輝く環》だ。

 多分、削られていた人格は戻って来る。

 そう仮定した上で––––

 

「––––という訳だから、こいつ自身が消えても俺の元に戻って来る。確かに話したり、意思疎通したりは出来ないけど––––死にはしない。俺と一体化するんだからな」

『ま、そーいう事だね』

「だから、俺が悲しむ理由が無い。でも、こいつはどうかは知らねぇけどな」

 

 ゼダスは《輝く環》の顕現体の頭をワシャワシャと撫でる。

 それに《輝く環》は言葉で返す。

 

『んーと……まぁ、ボクとしてはゼダス君と話せなくなるのは少し惜しいんだけどね。でも、これも運命(フェイト)だ。《輝く環(ボク)》でも逆らえない』

 

 諦め口調なその言葉に一層空気は重みを増す。

 

「何か重たいなぁ」

『そうだねぇ。随分前から予想してた事だから今更なんだけどね』

 

 が、当の本人達はその限りでは無かった。

 Ⅶ組達の反応が心底意外だったに違いない。

 

「で、お前はどうしたい?」

『んー……急に言われてもなぁ……と言うか、それを望んで叶えるのも《輝く環(ボク)》じゃない。それって君に言う意味無いじゃん』

「別にお前に叶えてもらうなんて一つも言ってないだろ。あくまで『お前はどうしたい?』って聞いたのが、俺の今の願いなんだから」

『うっ………そこまで正面から対抗されると否定し辛い………』

「良いから早くしろ。お前も時間無いんだろ」

 

 その言葉は正鵠を射ていた。

 《輝く環》の顕現体の姿は薄っすらと霞み始めていて、残された時間が如何に短いかを物語っている。しかし、そんな中でも、

 

『って言われても、焦るだけだよ〜〜。じっくり考えれないじゃん』

 

 と言った内容よりは落ち着いた様子で居た。

 その姿にゼダスは無意識でフッと笑みを零す。そして、何故笑みを零したかは理解出来なかった。

 普通、こう言った場面は哀愁に暮れるのが定石(テンプレ)。なのに、出て来た感情は「やっぱり変わらないな」という笑み。

 どうしても交わる事の無い感情にゼダスは首を傾げる。

 解答を導き出す為に脳内を探ると––––ああ、納得した。そう、《輝く環(こいつ)》は––––

 

「(()––––ラクファに似てるんだ)」

 

 刷り込まれた己の記憶の中に出て来たゼダスの妹(ラクファ)

 一端を垣間見ただけでも、天真爛漫さは感じられ、明るさを振る舞っていた姿に似て見える。

 だから、微笑んでしまう。

 記憶に無いとは言え––––懐かしい温かみを感じさせるから。

 そう思ってしまうと、若干手放すのは惜しい風に思う。が、《輝く環》の顕現体との決別という選択を今更曲げる訳には行かない。

 互いの為––––とか言う綺麗事を言うつもりは無い。それは偽善に過ぎない。ゼダスが母親(イリス)に宣言した“正義の味方”が穢れてしまう。

 

『あ、そうだ。思い付いたよ』

 

 ポンと手を叩き、《輝く環》はゼダスにどうしたいかを言った。

 

『ボク、願っていたい』

「願う?」

『うん。君が世界を救う英雄(ヒーロー)になる事を』

 

 そのザックリとした願いに側で見ていた連中は驚きと困惑の表情を浮かべていた。

 驚きは英雄になると言う壮大さ故に。

 困惑はそれを叶える大変さ故に。

 だが、ゼダスは承知したかの如く頷き、二つ返事で返す。

 

「りょーかい。でも、大変な話だなぁ、それ」

『いやいや、そんな事無いよ〜〜。君は強いし、充分過ぎるほどに英雄の気質はある。後はそれを自覚して、磨けば直ぐだと思うよ』

「はは、笑えない冗談だ」

 

 英雄になる?

 ゼダスの持つ力はどれだけ取り繕っても裏社会の物。そんな物で英雄になれると言うならば、この世にはもっと適正値が高い奴はゴロゴロ居る。

 例えば、《鉄機隊》の直属の上司である《鋼の聖女》アリアンロードなんて適任だろう。

 戦闘能力が勿論の事高いし、あれだけの力を持つ戦乙女を束れる以上、統率力、カリスマ性はピカイチ。

 それを顧みた上でゼダスは、

 

「無理………とは言わないが、無理に等しいだろう。単なる実力に関しても俺より上の奴は居るし、カリスマ性においても同じだ。そんな連中を押し分けて、英雄になれる訳が無い」

『あはは………君って時々、意味を履き間違えるよね』

「………何がだ?」

『英雄ってのは誰よりも統率力があって、誰よりも強い人じゃない。絶望的な状況下において、諦めず、挫けず、勝とうとする姿勢の持ち主。世論がどうかは知らないけど––––ボクはそう思う』

 

 その言葉はゼダスの心に深く刺さった。

 別に傷付いた訳では無い。と言うか、記憶を取り戻し、綻びが僅かになった心が完全に戻った。そういう表現が一番正しい様に思えたのだ。

 

「何だよ、お節介か」

『えへへ、気付いた?』

「ああ。俺がそう言って欲しい。無意識で願った事を叶えたのかよ」

 

 そう言ってくれれば、まだ戦い続けられる。

 例え、満身創痍と成ろうとも。敗走に身を委ねても。

 その言葉が心にあるだけで再び立ち上がるだけの理由になる。

 

「………ああ、分かった。俺はお前が描く英雄になる。裏社会の力を手にし、表社会で猛威を奮う“正義の味方”に、な。大言壮語だって言われるかも知れないけど、今の俺は一人じゃない。倒れても、支え、立ち上がらせてくれるⅦ組(みんな)が居る。だから、絶対に叶えてやるよ」

『うん、良かった。ボクも––––それが聞きたかった』

 

 最後に満面の笑みを浮かべ、《輝く環》の顕現体は黄金の光へと姿を変え、ゼダスの体内へと還った。そして––––異変が起きた。

 肩に描かれていた無数の金線の色素が薄くなって行き、遂には消える。まるで《輝く環》が消滅したかの様に思えたが、それは違っていた。 

 服越しでも分かるくらいにゼダスの全身に金線が浮き出た。とは言え、直ぐに消えたが。

 その不思議な光景にシャロンは気遣いを兼ねてか声を掛ける。

 

「その………ゼダス様。何か異変が起きた様ですが………」

「ああ、大分感覚が変わった」

 

 今まで、ゼダスの肩と《輝く環》が物理的に繋がっていた。それが今までの普通で、己の意志で《輝く環》を取り込む、と決めた時からだった。

 だが、今の変化を経て、その繋がり方に変化が起きた。

 あくまで感覚的にだが––––身体自身と完全に繋がっ(リンクし)た。

 今までは唱えたりしなければ力を思う様に使えなかったのに対し、今なら殆ど本能と感覚のままに力を使える気がする。

 文字通り、人から外れた力にまた身を投じた訳だ。でも、

 

「(前の俺なら––––“修羅”に堕ちてた。でも、今なら––––)」

 

 記憶を知り、新たな目標を得て––––何よりも頼れる仲間が居るなら。

 そう簡単に道を踏み外せる筈が無い。どれだけ踏み外しても、全員が死力を尽くして引き上げてくれるのだから。

 

「(ならば、するべき事はなんだ?)」

 

 ならば、ゼダスがする事。そんなのは口にする必要性を感じない。

 ただ願いのままに進む。己の––––そして、みんなの願いのを背負って。

 ひたすら前に進む。それがゼダスのすべき事だ。

 決定事項を確認し、ゼダスはⅦ組の元へと振り向き、先程の《輝く環》に負けない程の笑みを浮かべ、こう言った。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、帰ろうぜ。トリスタ(みんなの家)にっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





今回で四章が終了です。いやぁ、長かった。
投稿したら、活動報告も更新するので、そちらもお読み頂けると有難いです。
四章の個人的総括に加え、次章の事も少しばかりは綴りましたので。


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