闇影の軌跡   作: 黒兎

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第五章
新たな始まり


 昔、神と魔物の争いがあった。

 その争いが齎した被害と言えば、今の世界の天災に等しい––––どころか、超えているだろう。

 しかし、そんな壮絶な争いの原因と言えば何か?

 それを完全に把握するには叶わないが、突き詰めれば、どの争いでさえ原因は等しく同じである。

 そう––––どういった過程を経ても、結局のところは些細な事から始まっているのだ。

 ならば、世界から争いを断つなら、些細な事を起こさないようにすれば良い………まぁ、そんな事が出来れば誰も苦労しないのだが。

 さて、今まで争いの本質について話してきた訳だが、最終的には争いは失くなりはしないという事に終着する。

 それは人という機構(システム)が、争いの絶えぬ様に作られているからだ。

 故に争いに終わりは無い。一つの争いが終わっても、また新たに争いが生まれるのだから。

 そして、それは誰しもが対象で、そして、一人当たりの争いの回数に制限は無い。

 この世界の理に襲われ、何時までも戦い続ける事を余儀無くされた少年がいた。

 強くなる為に、己の求めていた物を手にする為に。ただ強くなり続ける少年は遂に人外の力をも得た。

 そして、少年は過去にこう宣言している。

 

『俺は––––全てを救う“正義の味方”になる。“救済者”になる』

 

 ならば、止まる事は愚か、負ける事さえも許されない。負ける事で己の正義を否定されるのだから。

 それは––––約束を破ると同義。有ってはならない。

 例え相手が––––己と同じ剣を体現化した姫騎士でも。絶対的な魔術を用いる師匠でも。世界を救った無名の英雄でも。

 

 

 

 

 

 

 

––––負ける事は許されない

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝露も消えぬ空。朝陽は昇り始め、陽光が地平線の彼方から漏れ出る朝に一人の少年は眼を閉じ、胡座を掻いていた。

 手に持つは緋く染まった剣。血の独特な匂いが漂うが、朝の爽やかさがそれを打ち消している。

 

「そなた………随分早くから特訓しているのか?」

 

 少年に話し掛ける青髪の少女。携える瑠璃色の大剣は淡い暗闇の中でも映えて見える。

 

「そういうお前もこんな早くに出て来てるんじゃねぇかよ。人の事言えないな」

 

 少女の言葉に少年は眼を開けずに返答する。

 まぁ、特訓中に話し掛けたのは悪いと思っているし、まともな返答を期待していた訳では無いが、実際に受けると少し来るものがある。

 

「そうだな。私も強くならねばならんからな。Ⅶ組(みんな)の為にも––––ゼダス(そなた)の為にも」

「ったく………本当に外堀を埋められて来たな、最近」

 

 帝都での特別実習から、早二週間が経過していた。

 胡座を掻いている少年––––ゼダスが抱えていた秘密を全てバラした日から一週間、とも取れるのだが。

 ゼダスが色々な秘密を全て抱えていた最もな原因。それはⅦ組と疎遠になるかも知れない、という至って私情だらけの物だった。

 だが、思い返せば、結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》の《盟主(グランドマスター)》に命令されて、来た学院だ。渋々来た思い出があるのだが、何時から学院生活を心の底から楽しいと思えたのか。今となっては最大の疑問である。

 どう考えても、執行者時代のゼダスなら、私情を完全に断ち、託された任務を遂行するのも楽勝だったであろう。しかし、気付いた時には、Ⅶ組は己から完全に隔絶出来ない存在と化していた。

 別に情が移ったとか、緩い理由では無い。ここで切り離せば、地を這ってでもⅦ組(こいつら)は喰い付いて来る。そんな気がしてならなかったからだ。

 事実、ゼダス的にも言いたくなかった事を詳らかに暴露した後から、普通の状況が普通じゃなくなった。具体的に言うと––––ゼダスが一人で居る場面が極端に減った事だろう。

 登下校中、学院内に居る時は勿論、調理中、店に買い出しに行く時も、一番酷いのはトイレに行く時でさえも誰かが付いてくる。

 正直、面倒極まりない。殆どの時間をマトモに休めないのだから当然と言えば当然だが。

 

「そなたにとってはこれ以上に無い有効打であろう」

 

 勝ち誇った様に言う青髪の少女––––ラウラ。

 

「確かにな。あんな状況じゃ、一人で無茶する事なんて出来たモンじゃねぇ」

「それなら良いが………でも、我らを頼っても良いのだぞ? わざわざ一人で抱え込まなくても––––………」

 

 ラウラの言葉にゼダスは眼を開き、頭を撫でる。

 その行動にラウラは顔を伏せた。

 

「(ありゃりゃ、勝手に撫でたのは不味かったか)」

 

 とゼダスは思ってしまうが、それこそが“鈍感”と呼ばれる所以だと気付かないのも鈍感らしい。何故なら、事実は違うから。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

 

 頭を撫でられたのだと思うと心臓がバクバク音を立て始める。

 段々と体温も上がっていき、朝露に濡れる朝の冷気すらも撥ね退けるだけの熱気に包まれた。

 そして、何よりの変化は表情。緩み過ぎて、とってもじゃないがゼダスに見せれる様なものでは無い。だから、顔を伏せたのだ。

 

「さてと、俺も特訓に戻ろうとするかね」

 

 そう言い、ゼダスは撫でる手を止め、立ち上がる。それにラウラは、

 

「ぁ––––………」

 

 何処と無く儚げな声を上げた。それに驚いたと言うか、疑問符を隠せないのは勿の論、ゼダスである。

 

「ん? どうかしたか?」

「えっ………いや、何でも無いッ‼︎」

 

 全力で何でも無いアピールをするラウラにゼダスは首を傾げたままだった。まぁ、鈍感だから。

 簡単に理由を説明するならば、ラウラはゼダスに撫でられ、恥ずかしい前に嬉しかったのだろう。

 全世界を隈無く探しても出会う事の無い程に愛した人に撫でられれば当然だ。その行為は、紛れも無く傍らに居る事を認められている証拠なのだから。

 とは言え、当の本人(ゼダス)はそう言った意味を含んだつもりは一切無いのだが、それをラウラに言うのは余りにも酷過ぎる。

 こんな幸せな時間が続けば良いと思った。少なくとも、この学院に居る間は(・・・・・・・・・)幸せに包まれていたかった。

 それはお互いの見解であり、ここには居ないフィーも例外では無い。

 何時かは離れ離れになる運命。何かの縁があれば、離れてもまた惹き合うかも知れないが、そう言った事は滅多に無い。

 ならば、この間だけでも幸せに浸っても良いだろう。

 

「今から特訓なのだろうッ⁉︎ なら、早く始めようッ‼︎」

「急かすなよ。ったく、少しは我慢を覚えろっての」

 

 ゼダスはラウラから少し距離を置いて、手に持った緋染まりの剣を斜に構える。

 一切、隙の無い構え。何処から牙を剥こうとも、その全てに対応出来ると無言で語っている様だった。

 それにラウラは大剣を中段に構える。全てに対応し切る構えを相手に一つの分野に特化し切った構えを使う必要性が皆無だと察したからの構え。

 普段の朝特訓なら、本気を込めるのが通例となっているが、今回ばかりは違っていた。

 ラウラは瞳の奥に戦意を燃やしていると言うのに、ゼダスは一切の戦意を宿していない。ただ隙は一切無い。

 まるで剣を持つ事が日常で、構える事に一切の躊躇いが無い様だ。

 剣戟の戦闘とは、生命を間近で感じられる。なのに、ここまで自然体で居られるのは、幾多の修羅場を潜り抜けてきた事の証明に他ならない。

 

「今から見せるのは––––剣技の最果てだ。文字通り、究極の一太刀をお前に見せてやる。しっかりと瞳に焼き付けろよ」

 

 そう言い、ゼダスは思いっ切り地を蹴る。

 瞬間、ゼダスの姿が消えた。一欠片の気配も残さずに。

 そして、ラウラの身体に襲ったのは鋭い感触。それが原因でラウラは意識を手放した––––

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

「––––––」

 

 思う事が声にならない。

 そんな不思議な感覚に苛まれながら、ラウラは意識を覚醒させる。

 流れ行く街中。何時もより、少し高い目線。一体何が……

 朦朧とする意識にある人は話し掛ける。

 

「ようやくお目覚めか。流石に最高の剣技に耐え切れなかったんだろうな」

「ななな、ゼダスっ⁉︎ 何でこんな事になっているのだっ⁉︎」

 

 状況を説明すると、ゼダスはたった今まで気絶中だったラウラを担いで運んでいたのだ。しかも、人目も憚らず、堂々と。

 

「俺の攻撃を喰らって、お前が気絶。そのまま眼を覚まさなかったから、今こうして運んでるんだよ」

「ま、待て。少し順を追って、質問させろ」

 

 状況が上手く呑み込めないラウラは質問を開始する。

 

「まず、ゼダスが放ったあの技は一体、何なのだ? まるで消えた様に見えたのだが………」

「うん、概ね間違ってない。と言っても、俺が行ったのは普通に接近して、一太刀浴びせただけなんだがな」

「なっ………⁉︎」

 

 ゼダスの明かした内容にラウラは驚愕の色を表す。

 意識が途絶える寸前で見えたのは、明らかに姿を眩ませたゼダスだけだった。そして、その次に意識を失った。

 そんな超常現象に等しい奇手を出されたのに、普通の剣士が行う一撃を見舞っただけだ、とゼダスは言う。

 どう見ても可笑しい。そんな当たり前の現象な筈が無い。

 冷静さを欠いているから、そう思ってしまうのだが、生粋の剣士であるラウラなら冷静ささえ取り戻せば理解出来る筈だ。

 とは言え、今の状況でネタバラシしないのは気が引ける。なので、アッサリとバラす事にした。

 

「驚くのは分かるが、確かに俺のは普通の剣撃だよ。速度という概念を除けば、の話だが」

「速度という概念?」

「ああ。俺の見せた一撃にはちょっとした仕込みがある」

 

 ゼダス曰く、あの剣撃には一切の加速を無くしたと言う。

 身体のあらゆる動きを開始した時には自身の出せる最速へと移行しているのだ。

 勿論、こんな芸当を凡人が行うのは不可能だ。

 何故なら、加速という行程を全て排除し、一瞬の間に最速へと昇華するとしたら、全身の筋肉の動きと脳からの命令を完全に同調させるしか無いのだから。

 

「だから、最速に見える(・・・・・・)訳だ。実際は普段より少し速いくらいしか変わってない」

「それは………人体の構造を応用したのか?」

「御名答」

 

 正解を言ったラウラにゼダスは上機嫌。

 人間と言うのは、急激な速度変化を眼にすると錯覚する傾向にある。

 例えば、時速100㎞の動体を見る場合、1秒ずつに1㎞加速する物と1秒で100㎞加速する物。最終的に同じ時速になるとしても、見え方としては大きな差が出来る。

 前者の方は、段々と眼が慣れる為、自身が見れる最大速度までは幾らでも眼が追い付ける。

 しかし、後者は違う。いきなり急速度に加速すると、眼が慣れる前に視界から消えるのだ。

 そう––––同じ速度だとしても。

 その後者をゼダスは自身の身でやってのけた。

 それはもう人の出来る領域から大きく外れている曲芸だ。

 

「とは言え、あの技は身体に掛かるダメージが凄いからなぁ。俺も二時間くらいは意識無くしてたね」

「そうか………で、何で私はゼダスに運ばれているのだ?」

「何でって、お前が眼を覚まさなかったからだろ。あのまま気絶してたら、遅刻確定だぜ」

「………は?」

 

 硬直するラウラは恐る恐る自分の服装を見直す。

 普段、特訓する時に着ている身軽な服装は跡形も無く、いつも通りの学院指定の制服を着用している。

 まぁ、別にそこは良い。だが、どうやって衣装を変えたのだ?

 まさか––––………

 

「いやいや、そんなまさかな」

 

 そんな事があってはならない。色々な意味であってはならない。

 

「何、呪詛みたいに呟いているんだよ。少し怖えぞ」

「そなた、少し聞かせろ。私の衣服をどうやって更衣させたのだ?」

 

 そう、どうやって更衣したのか。それが今、ラウラの脳内で駆け回る最大の疑問だ。

 もしも………あくまで、もしもの話だ。

 ゼダスがラウラを部屋まで運び、そのまま眼を覚まさないから、強行手段として意識が覚めぬままに手取り足取り更衣させられていたとしたら––––………

 

「〜〜〜〜〜〜〜ッ‼︎」

 

 考えれば考える程、頰が紅潮するのが抑えられない。

 それを見越したゼダスは慌てて言葉を繋げる。

 

「い、いや、勘違いするなよッ⁉︎ 俺は一切現場を拝んでないですし、更衣(それ)関係は委員長がやってくれたんだってッ‼︎」

 

 まるで付き合いたてのカップルの様にテンパる二人。もう至る所までは済ませたのだというのに、今更その程度で慌てるなど、どう考えても可笑しいのだが、まぁ男女交際自体が疎遠だった剣士二人だ。こうなるのも無理は無い。

 と言っても、ゼダスとラウラ(この二人)にフィーも加えた変則カップルでもあるのだから、この場にフィーが居れば間違いなく茶々入れてきたに違いない。

 

「本、当なのだろうな………」

「も、勿論。そんな事したら、俺もタダじゃすまん」

「………そういう事にしておいてやろう」

 

 なんやかんやで和平出来た(?)ので、ゼダスは意識を足元に集中させる。

 のんびりしている暇はあまり無い。遅刻すると面倒だし。

 別に怒られる分には良い。一人ではなく二人で怒られるのだから。

 だが、相手はⅦ組担任教官のサラだろう。

 絶対にゼダスとラウラの事を冷やかしに来る。それだけは避けたい。

 

「それじゃあ––––ちょいと飛ばしますよッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

「で、遅れてきた挙げ句、クラスメイトをお姫様抱っこで抱いて登校っと。何様よ、ゼダス(アンタ)

「仕方ないだろッ‼︎」

 

 サラの的確な指摘にゼダスは本気で抗議する。

 

「まさか………まさか、時計の針が5分遅れてるなんて重わねぇだろ、普通ッ‼︎」

 

 結果だけ言うと、ゼダスとラウラはギリギリ遅刻した。

 腕時計の短針が微妙にズレていて、時間配分を間違えたのが、一番の要因だろう。

 速く走る為にラウラの担ぎ方をお姫様抱っこにしたのも、この件に関しては祟らざるを得ない。何故なら、他のクラスメイトから色々な目線を浴びせられるから。

 遅刻した者に対する怪訝な視線はまだ良い。

 だが、ゼダスとラウラの光景にニヤニヤする視線や冷ややかな視線が物凄く痛い。

 特にフィーが発する「抜け駆けズルい」という意味を持つ視線が一番痛い。感覚的に質量を含んでいる様にも感じる。

 

「これは……流石に恥ずかしいな」

「本当だよ……」

 

 ゼダスとラウラ(当の本人)はそんな状況に僅かながら、たじろぐ。

 こう言った場面に対しての免疫力が無い故に、そういった反応を取らざるを得ない。

 

「ほら、入り口で惚けてないで、サッサと入って来なさいな。そこで軽く雷撃を纏った銃弾を眉間に撃つわよ」

「もうそれ冗談ってレベルじゃねぇ………」

 

 サラの言葉にゼダスは半ば諦め状態で席に向かう。勿論、ラウラは降ろして。

 ようやく落ち着いた雰囲気にサラは一度咳払いし、言葉を発する。

 

「どっかの誰かさん達の所為で話が途切れたけど、今日で学院の方も一区切りだわ。つまり、明日から少ないけれど、夏季休暇を設ける事になっている」

 

 夏季休暇。

 学生ならば、誰もが恋い焦がれる長期休暇の一つ。

 この士官学院でも設けているみたいで、その事実を聞かされたⅦ組は色々と浮き始めた。

 まぁ、特科クラスと称されるだけあり、他クラスとは比にならない程にカリキュラムが激しい。故に疲労が蓄積する。

 その疲労を抜くには持って来いの休暇だ。

 だが、疲労を抜くだけが休暇の在り方では無い。

 例えば––––

 

「ゼダス………」

 

 いつの間にか、席替えしていたが為、背後の席に座しているフィーがゼダスの背中を突いて、呼び掛ける。

 

「ん? どうかしたか?」

「折角の休みだし、二人でどっか行こ。真面目にデートした事無いし」

「なぁっ⁉︎ ふ、フィーッ⁉︎ それは流石に抜け駆けが過ぎるだろうッ‼︎」

「それを言うなら、ラウラはゼダスにお姫様抱っこされてた。それだって、立派な抜け駆け。これで公平(フェア)

「ぐぬぬ………ッ‼︎」

 

 激しい火花を散らすラウラとフィー。少し怖い。

 

「はぁ………一体どうしたモンか」

 

 その光景に呆れながら呟くゼダスに隣の席のエマが反応する。

 

「そのまま置いておけば大丈夫ですよ。きっと、多分」

「後ろに行くに連れ、段々と確証が持てなくなっているのは少々不安だが、それもそうだな」

「はい、フィーちゃんは少し前から変わってきましたし」

 

 フィーは入学当初から浮いた存在だった。

 殆ど自分の勘と知識のみで動き、周りと合わせる事をしない。その上、すばしっこいし、目を離すとすぐに安眠に着く。

 何処から如何見ても協調性なんて糞食らえの我道を突き進むフィーに入学当初から世話を焼く事となった人物が居た。

 それがⅦ組のクラス委員長にして、学年トップクラスの学力を保持しているエマ・ミルスティンだった。

 如何いった経緯でフィーに世話を焼くようになったのかは、本人に聞いてもいないのでゼダスも知り得ないが、フィーの変化を感じ取れる位には深い付き合いなのだろう。

 正直なところ、ゼダスから見たフィーはお世辞にも人懐っこいとは言い難い。

 物心ついた頃から猟兵として生きて来ただけあって、警戒心は人一倍強いし、根が人に対しての興味が薄いのだ。

 だから、フィーの些細な変化に気付ける位に付き合えているエマには素直に感嘆する。

 

「へぇ、気付けるモンなんだなぁ。ちなみにどんな部分が変わって見える?」

「えーと………まず雰囲気が変わりましたね」

「雰囲気、か」

「はい。入学したての頃から二回目の特別実習までは何処と無く、周囲と距離を置いてました。多分、自分の過去を悟られたくなかったからでしょうね」

「猟兵だったなんてバレれば、面倒な事になるのは仕方ないだろ」

「そして、その後から今回の帝都実習までの間は多少距離を詰め始めましたね。猟兵だった過去さえもⅦ組という存在が受け入れてくれたのが功を成したんでしょうけど」

「それでも、ある一定の奴(ラウラ)は素直に認めなかったけどな。ま、実習中にケリがついて良かったの一言だぜ」

「最後に今に至りますが、もう枷が外れた様に見えます」

「枷?」

 

 エマの言葉にゼダスは首を傾げる。それにエマは、

 

「はぁ………ゼダスさんって本当に鈍感なんですね」

「いや、俺はそんな事は思ってねぇですよ」

「客観的に見たら、です。フィーちゃん、明らかに前回の実習から行動に形振り構わなくなってますよ」

 

 そう言われ、ゼダスは記憶を奔らせる。

 確かにここ最近、フィーが色々な手を仕込んでくるのは気付いていた。

 例えば、飯を学院で食べようとすれば付いて来、休憩中も寄って来る。それは学院外でもそう。極め付けは風呂に––––………これ以上、思い出すのは止めよう。

 

「確かにそうだな」

「それだけゼダスさんを愛してるんでしょうね。剣士として、恋敵として認めた相手にもゼダスさんを絶対に独占させない。寧ろ、自分が独占したい。その意志がヒシヒシと感じますよ」

「そりゃあ、随分と愛されたモンだな」

 

 ゼダスが今まで歩いて来た道の過酷さはフィーが通って来た道とは比較するに値しない。

 今は亡き《輝く環(オーリオール)》の人格が教えてくれた過去から現在に至るまで、ゼダスは脚を止めずに強くなり続ける他無かった。

 その為に人を手に掛けたり、自分よりも圧倒的に強い相手にだって挑み、死の瀬戸際を彷徨ったのだって一度や二度では無い。

 そして、人しての気持ちも欠如し、ただ結社の執行者として淡々と仕事をこなしていた為、“冷酷”やら“無慈悲”だと称されたのも数え切れない程にある。

 しかし、そんな奴(ゼダス)でも好きになってくれた奴がいる。しかも、明確には四人。

 一人目は言わずもがな、ラウラ・S・アルゼイド。ゼダスの強く在ろうとする姿勢に憧れたのだと言う。

 二人目も言うまでも無く、フィー・クラウゼル。強さの裏の弱さを支えたいと思った感情が恋となったと言う。

 三人目は結社時代からの付き合いのシャロン・クルーガー。彼女もゼダスの強さに魅せられたらしい。

 そして、四人目結社の元執行者、シルフィード・アルトリア。今は「好きだ」と言ってくれた時の人格では無いにしろ、あの告白に裏が無いのは何と無く理解している。

 正直、恵まれ過ぎている。

 今までの生きて来た時間の全てを力の為に捧げて来た奴とは思えない程に。

 だから、恵まれたなりの責務を果たす必要がある。

 それこそ––––全員を幸せにする位の事をしなければ、割に合わない。とは言え、色々な要因が絡み合う以上、“今”のシルフィードは好きにはなれないのだが。

 

「はいはい、四方山話はそこまで。少し話を聞きなさい」

 

 サラは手を叩き、注意喚起。それに全員が押し黙る。

 

「ラウラにフィー。どうやら、ゼダスとどっちがデートするかを揉めてる様ね」

 

 その言葉にラウラとフィーは同時に頷く。本当に仲が良い。

 因みにゼダス×ラウラ×フィーの変則カップルについてはサラにはお伝え済。その時に「若いモンは良いねぇ………」と小声で呟いていたが、三人ともスルーしたが。

 

「フッフッフッ………運が良かったな、二人とも」

 

 謎に喋り方が変わったサラに全員が嫌な予感を察した。

 それは今までの経験からか。それとも、単なる勘か。

 しかし、意外にもそれは外れる。

 

「何とこんな所にクラス分の旅行券がッ‼︎」

「………」

 

 その沈黙が誰の物で、何を意味するかは分からない。が、段々と頭が理解し始め––––

 

「「「ハァッーーーーーッ⁉︎」」」

 

 ––––全員が声を上げる。

 

「な、何でそんな物がッ⁉︎」

 

 リィンは全員が思いし事を代弁する。それにサラは、

 

「いやぁ、前日教官達で飲みに行ったのよ。その時に誰が最後まで意識を保ってられるかで賭けをしたら、勝っちゃって。それで貰った」

 

 アハハと笑いながら言うサラ。

 つまりはクラス全員分の旅行券は飲みでの賭けによって手に入れた物。まぁ、現に勝って貰ったのなら、問題無いか。

 

「ま、行き先はもう決まってるけど、良いでしょ。これなら全員で休めるし、持って来いじゃない?」

「因みに場所って………」

「ジャポネシア自治国よ」

 

 エリオットの質問にサラは即答。その回答に付け加え–––––

 

「日程は明日から二泊三日よ」

 

 丁寧に説明してくれた。

 それにゼダスは何かやるせない表情を浮かべるが他のクラスメイトは嬉々とした表情を見せている。

 ラウラとフィーはゼダスと二人っきりでは無いにしろ、普段じゃ見られない様な姿が見れるのでは無いか、とやる気十分。

 そんな気分の盛り上がった光景にゼダスは溜息を吐きながら、言葉を発する。

 

 

 

 

「––––俺、それ行けないわ」

 

 そう、まさかの休業宣言。

 それにどんな意味が含まれるかは分からずに––––……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今話から新章スタートデス‼︎
段々とゼダスの雰囲気を変えねばならないと思うと少しばかり大変な気もしますが精進します〜
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