闇影の軌跡   作: 黒兎

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修行開始ッ‼︎

 薄暗闇に揺れる橙色の焔。

 その拙い灯りだけが室内を照らす中、相対する二人の男性。

 片や、漆黒の着物を纏いし青年。

 もう片や、無彩色の着物を纏った初老の男性。

 沈黙を保っていた二人だが、初老の男性の方が先に口を出す。

 

「貴様………何故、おめおめと帰って来た?」

 

 僅かな怒気––––と言うよりは殺意に近い氣を帯びた言葉に青年は持ち前の飄々とした雰囲気を貫き、返答する。

 

「何故って言われてもなぁ〜〜………俺の任務は《天帝》の監視だろ。別に直接戦えって訳じゃねぇんだし」

「その減らず口を叩けるだけの口があるなら、それ相応の成果を手に入れたのだろうな?」

 

 険悪と言わざるを得ない二人。

 この場に他の誰かが居れば、居心地の悪さで少しばかり胃を痛める気がする。

 

「まぁ、それなりには。………と言うか、報告書に纏めて提出しただろ」

「あんな物を報告書と言うな。何が『強そうだった』だ。そんなのは百も承知に決まっておろう」

「いや、あれは話に聞いてた以上だね。ただでさえ強いのに、まだまだ強さの頂に至っていない。ありゃ、化けモンだわ」

「ほう………その話、もう少し詳しく––––………」

「ヤだね。俺らは同じ傘の下にいても他人同士なんだよ。わざわざ教える義理はねぇ。つーか、俺はアンタら、『過激派』に『島流し』された身なんだぜ。こうやって、話に来てやった事についても褒めて欲しいんだが」

 

 そう言い残し、青年は暗闇の室から立ち去って行った。

 その行動に眉間に皺を寄せたのは初老の男性。

 畳の床を思いっ切り叩き、吼える。

 

 

「やる気の無いくせに勝手な『穏健派』の奴らめ………あいつらには一度、手厚く制裁する必要がある様だなッ‼︎」

 

 

 諜報員から伝えられたあの情報を駆使すれば––––さほど難しい話では無い。

 脳内で策を張り詰めている初老の男性は次の瞬間には高らかに笑いを浮かべていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういう事だ、師匠ッ⁉︎」

「だから、ここがジャポネシア自治国やって言うとるやろ」

 

 暗黒の森林の中、ゼダスは師匠たるシーナに物凄い勢いで迫る。

 それもそうだ。

 まさか、Ⅶ組の旅行先と同じならば、わざわざ休むって連絡する必要も無かった筈だ。

 しかも、シーナは知っていて伝えなかった様にも見える。

 これはゼダスの脳内裁判で即決有罪判決確定。

 が、刑を執行する前に二人に止められる。

 

「ゼダス、少しは落ち着け」

「ん。焦ったら、見失う物の方が多い」

「テメェらは勝手について来た上に馴染むんじゃねぇッ‼︎」

 

 二人とはラウラとフィー。

 ゼダスの言葉通り、勝手について来た上で本当に馴染んでる。正直、驚きだ。

 

「んな吼えんなや。弱く見えるぞ」

「そういう問題じゃないんですけどねッ‼︎」

 

 そろそろ喋り疲れ、肩で息をするゼダス。

 修行前から疲弊気味とは先が思いやられる。

 

「ま、別に行き先が同じとはいえ、こんな山奥まで来る訳無いやろ。此処は人里から大きく離れたウチ限定の住処に等しいんやし」

 

 シーナの言葉に反応したのはフィーだった。

 

「山奥+夜って事は、ゼダスを襲っても合法?」

「まぁ、見つからんかったら別に良えやろ。ウチはメシウマなら黙っといたるから、至りたいんなら適当に喰って構わんよ」

「何で師匠が回答を奪っているんだよッ‼︎ つーか、フィーッ‼︎ こんな場所で襲うとか縁起でも無いし、第一修行で来てるんだぞ! そんな所で体力使い果たしたら、物理的に殺されるわッ‼︎」

「そこまで焦る事では無かろう」

「何でラウラは平然としてられるんだッ⁉︎」

 

 三人の自然過ぎる口撃にゼダスは思う。

 

「(まさか––––これも修行なのか?)」

 

 そう思いたくなった。

 

「––––それより、早く修行に移ろうぜ」

 

 こうなったら、無理矢理話題を断ち切る。

 一度、修行に打ち込み始めれば、こんな口撃にも気にする必要も無くなるだろう。

 

「了解や。で、お二人さんも一緒に受けるか? 流石に強要はせぇへんし、ゼダスとは全くの別カリキュラムに成るやろうけど………」

「やらせて下さい」

「やる」

 

 迷いの無い即答。

 

「理由、聞かせてくれるか? んじゃあ、ラウラから」

「私は––––護られるだけの存在になりたくない。少なくとも、横に立って居られる存在になりたいのだ。理由としては十分であろう」

「で、フィーの方はどう言った訳や?」

「ゼダスと一緒に居たい。以上」

「簡潔で宜しい」

 

 二人の理由を聞いたシーナは満足そうに笑みを浮かべ、ゼダスの頭をワシャワシャ搔き回す。

 

「何すんだ⁉︎」

「いやさ。アンタ、良い嫁貰ったんやなぁと思っただけや。リア充め」

「………まぁ、否定は出来ない、な」

 

 バツが悪そうにゼダスは呟く。

 恋人が二人も居れば、そりゃあリア充だろう。

 

「それじゃあ、修行を開始しますか。チョイとついて来ぃ」

 

 ゼダスの頭から手を離したシーナは、指をスナップし、鳴らす。

 すると、淡い焔が眼の前に直線で並んだ。

 

「これは………」

「目印や。流石にこん闇の中で歩くんはキツいやろ」

 

 その焔が描いた道を一切の迷い無く歩き始めたシーナに三人は続く。

 

「(それにしても………)」

 

 ゼダスは辺りを見渡して、状況の“奇異”さに眉を顰める。

 余りにも––––静か過ぎる。

 夜の森林というのは普通、静かだ。だからこそ、僅かな音が非常に目立つ。

 それを頼りに夜行性の動物は狩りをしているのだろうが、全く近寄ってこないし、気配すらも感じない。

 しかし、思い直せば当然の事だ。何故なら––––

 

「(流石は師匠って事か)」

 

 –––転移した先がシーナが先んじて展開していた結界内なら、合点が行くからだ。

 流石、結社の最高格の魔術師、シーナ・ゼロ・フリスティアと言ったところだ。

 トリスタの街からジャポネシア自治国の人里離れた所までを先程の魔術、飛翔扉(シフティストゲート)は単なる転移魔術では無いのだろう。

 あくまで予測だが、飛翔扉は全世界を掌握し切る転移魔術では無い。そんな事が出来れば、それこそ全知全能の神クラスの大魔術師だ。

 あの魔術で転移出来る所には限界があるのだろう。多分、己が張っている結界にしか飛べない、とか。

 それならば、多少は複雑とは言え、簡略化の融通は利く。

 そして、現実では有り得ない焔が勝手に灯る現象にだって説明がつく。ここはシーナの結界内なのだから、やりたい放題だし。

 

「ああ、今回の特訓について、ウチは何も説明してなかったなぁ。んじゃあ、今からザックリと説明してやろう」

 

 歩いていた石畳が石段の階段へとなった頃、シーナはそう呟く。

 

「今回の特訓はゼダスが『強くなりたい』って言うたから叶えた、シーナ様特製の極限メニューや。ちなみに吐けるレベルで鬼畜や。特に近接特化のゼダスにとっては、な」

「それなら私もでは無いか? 特に私は魔法自体も碌には使えぬし、剣術特化だぞ」

「その点は大丈夫や。その鬼畜メニューはゼダスのみに適応やし。ラウラとフィーには完全別メニューで………まぁ、一人ぐらいの執行者は相手してもらうかと思うとる」

「おい、師匠………‼︎」

 

 若干、怒気を含んだゼダスの声にシーナは全身の毛を逆立てて、一気に距離を取る。

 

「おー怖い怖い………分かっとる分かっとる。死なん程度の奴にしといたるから」

 

 ゼダスが言わんとする事を完全部読み取り、先回りして言うシーナ。

 その判断は適切だったのか、ゼダスは怒りの刃を心の鞘にへと収めるので、他の全員は一安心。

 そして、ラウラとフィーは思う。

 

 

––––最近のゼダスはどうにも変わった、と。

 

 

 別に戦い方や言動が変わった訳では無い。

 言うなれば、普段の振る舞いが変化した、と言うべきか。

 何と言うか––––丁重に扱われている気がするのだ。

 ゼダスに想いを明かす前から、特にラウラとフィーは気付かれぬ様にやんわりと一緒の時間を過ごそうと尽力してきた。が、その度に鈍感故に感付くは愚か、全く意に介していなかった。

 しかし、最近は違う。

 スキンシップを求めれば、しっかりと応えるし、手を繋ぐ程度ならば、ゼダスからも行ってくる様になった。

 どう見ても進歩している………というか、鈍感さが妙に抜け始めている気がするのだ。とは言え、無意識の内に抜け始めているだけで、本人は全く自覚していないのだが。と言うよりも、鈍感という事自体を認識していないのだから当然だ。

 多分、今の言動もそれが発露した結果なのだろう。

 

 

『もし、ラウラとフィーを傷付けるんなら、師匠(シーナ)であろうと斬り伏せる』と。

 

 

 

「よし、着いたぞ」

 

 そう言うシーナ。

 長い階段の先にあったのはボロ小屋。しかも木造。

 少しでも引火しようものなら、ものの数分で灰と化すだろう。

 どう見ても修行場所としては不適格な趣にラウラとフィーは首を傾げるが、対称的にゼダスの表情は真剣そのもの。中々、張り詰めている。

 

「んじゃ、修行開始やけど………準備は良えな?」

「ああ、始めてくれ」

「それでは頼む」

「ん」

 

 三者三様の返答をし、シーナは頷き、ボロ小屋の今にも壊れそうな扉に手を掛け、押して行く。

 扉が開いていく度にギギッと怪奇音がする。

 そして––––世界は暗転した。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 一瞬だった。

 視界を暗黒に染まったかと思えば、直ぐに景色を再認識させ、色を取り戻させる。

 そんな当然の事にラウラとフィーは驚いた様子。

 別に現象に驚いた訳では無い。なら、何か?

 答えは視界の先に広がる景色だった。

 先程まで、ボロ小屋の眼の前に立っていた筈だ。なのに––––

 

「––––最初の修行場所は所謂、『よくある木造建築の道場』か」

 

 ゼダスの言葉通り、立っている場所が道場の中になったのだ。

 しかも、外から見たボロ小屋の大きさよりも内装が幾分か広い。

 どう考えても可笑しいその光景にラウラとフィーは頭を混乱させるが、この状況を作ったシーナがネタバラシをする。

 

「お二人さんがキョトンとしとるから答えぐらいは教えたるよ。これはウチの魔術、『仮初めの館(マジキュラシイ・アポロスト)』の能力や」

 

 この魔術の能力はゼダスもよく知っている。

 シーナが宿す魔力を大幅に使用し、組み上げる広範囲理干渉系の大魔術。

 全くの無空間から魔力で空間を作り上げる、といった単純かつ膨大な魔術だが、何よりも厄介なのが、他からの干渉の殆どが通じない、と言う一点に尽きる。

 並の魔術師では一切の感知が不能。達人クラスの魔術師でさえ、違和感を微量に感じる程度。

 そんな精密な隠蔽能力を有している上、この魔術には最硬の防御結界が常時展開。

 因みに随分前にゼダスが《輝く環(オーリオール)》を用いて、防御結界の破壊を試みたが無理だった。

 

「そんな事が可能なのか………」

「ま、ウチじゃなきゃ出来ひんと思うよ。構造が分かっても、使用魔力量と維持魔力量が馬鹿にならん。並の魔術師なら、数秒で蒸発やろうし」

「因みにコレって、内装の変化とかって可能なの?」

「ああ、ヨユーや。ウチの魔力を書き換え直せば良いだけやしなぁ」

「おい、何時までそこで突っ立ってやがる」

 

 女子三人の談話に一刀を入れる聞き慣れぬ声。

 獰猛を体現した様な荒々しい声に続いて聞こえるのは、何かが割れる音。多分、硝子製の瓶だろうか。

 音源の方に全員が視線を向ける。

 そこに居たのは、道場と言う内装に不相応なソファーに深く腰掛ける青年だった。

 身長170リジュ程度のゼダスよりも少し高い身長を持ち、掛けているサングラス越しにでも分かる程に鋭い瞳。銅色の髪は獣の様に逆立っている。

 一体、何時から居たのか。

 見事と言わざるを得ない程の気配の遮断の技量。それだけで並の相手では無いのは分かる。

 

「最初の相手はお前か、ヴァイス」

「ったく、《第零柱》の野郎が『強ぇ奴と戦える』っつーから来てやったのに、お前が相手かよ………意外にも早く借りが返せそうだなぁ」

 

 鋭い視線で軽口を叩き会う二人だが、その光景にフィーは絶句していた。

 

「(何故、あいつが………)」

 

 そして、フラッシュバックする光景。

 臙脂色の衣装を見に纏い、戦場を駆ける『赤い悪魔』。

 放たれた銃弾の全てを叩き落とし、不意を突いた波状攻撃でさえも息をするかの様に当然に破壊し尽くす悪魔。

 絶望的な思い出を回想するフィーの思考を断ち切ったのは、紛れも無く悪魔からの一声だった。

 

「––––にしても、ソッチは久し振りの顔だなぁ、《西風の妖精(シルフィード)》」

「………ん。久し振り、《餓狼》」

 

 今にも震え出しそうだが、フィーは何とか抑え、応答する。

 認識があったかの様な会話にラウラは、

 

「フィー………奴と知り合いか?」

「うん。………でも、穏やかな仲じゃない。元々は殺しあった仲(・・・・・・)、だから」

 

 その言葉にラウラは警戒本能を全開にする。

 学生になる前のフィーは猟兵。そして、殺しあった仲。という事は––––

 

「んだよ。初めての顔も居るのかよ。じゃあ、自己紹介しない訳にはいかねぇか」

 

 青年はソファーから身体を持ち上げ、立ち上がる。

 棚引かせる臙脂色の上着は彼の荒々しさを際立たせていた。

 

「俺はヴァイス・オーガスト。結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》の執行者にして––––猟兵団《赤い星座》の部隊長だ」

「何で貴方が此処に? 猟兵の仕事はどうしたの?」

「何でって言われてもなぁ、《第零柱》の野郎が来いっつーから猟兵の仕事を休んで来てやったんだ」

 

 正直、面倒くさそうに言うヴァイス。

 だが、殆どの隙は存在しないという武人の領域に達している。

 

「だから––––俺を楽しませろよ、ゼダスッ‼︎」

 

 ヴァイスは道場に立て掛けられた真刀を一本掴み、ゼダスに向かって、放り投げる。

 危なげなく、忠実にキャッチするゼダスは言葉を発する。

 

「俺にコレで戦えってか?」

「テメェは特訓なんだろが。なら、少しぐらいのハンデは受け入れやがれ」

「別に文句を言うつもりは無い」

 

 ゼダスは真刀を中段に構え、真っ直ぐとヴァイスを見据える。

 紫の瞳がヴァイスの顔を映すのが感じられると、ヴァイスは犬歯を剥き出しに笑みを浮かべ、己の得物を取り出す。

 手にしているのは二振りの長刀。無骨で飾り気の無い剣だが、どう見ても普通の武器には見えない。

 言うなら、《星杯騎士団(グラールリッター)》の奴らが得意とする法剣(テンプルソード)に形状は類似していると言えるだろう。

 ヴァイスの武器に関してはゼダスもよく知っている。そして、こいつの一番の強さも知っている。

 だからこそ、断言出来る。

 

 

––––この戦闘は苦しい物になるだろう、と。

 

 

「それじゃあ、始めようぜ。《天帝》ッ‼︎」

「ああ、挑ませて貰うぞ。《餓狼》ッ‼︎」

 

 この言葉を機に、二人の戦闘狂によるゼダスの修行、第一関門との対決が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アッチの方は良い感じになって来たし、ウチらも行くとしますか」

 

 シーナはゼダスとヴァイスの様子を見詰め、そう言い、歩き始める。

 その行動にラウラとフィーはどうして良いか分からなくなった。

 ついて行くべきなのか、このまま戦闘を見るか。

 特にその選択に焦りを覚えているのはフィーだった。何故なら––––

 

「(《餓狼》は近接特化のゼダスと相性が悪過ぎる。だって、あいつは––––)」

 

「ラウラにフィー。アンタらも修行に参加する意思を表明してんやから、ついて来いや」

 

 立ち止まっていたラウラとフィーにコッチに来る様に促すシーナ。

 それに一切の否定権は無い様に思え、二人は成すがままについて行った。

 ゼダスとヴァイスが相対する道場から伸びる廊下。そこを三人は歩く。

 全員が言葉を発さずに歩くが、その沈黙を壊したのはシーナだ。

 

「あー、別にそんなにシンミリすんなや。どーせ、ゼダスの事だ。死にはせんよ。奴は悪運はアホみたいに強いから」

 

 気遣いのつもりであろう言葉だが、今のフィーには無性に癇に障った。

 

「何で………そんな事が言えるの? あいつは………《餓狼》は近接戦闘においては最強の性能のはず。ゼダスでも流石に––––」

「本気で愛しとるんなら、信じろや」

 

 本気で心配してるであろうフィーの言葉をシーナは最後まで聞き届ける事無く、一刀の元に下す。

 そして、続きを繋げる。

 

「んな、実体験とか理屈とかで戦闘を語る時点でアンタは二流や。どれだけ相性が悪かろうと、現実的に不可能でも、ひたすら前を向けば、一矢は報いれる。ゼダスはそうやって強さを得てきた」

 

 そう、今でも思い出す。

 ゼダスがシーナに弟子入りし、ひたすらに叩きのめされていた苦行の日々を。

 時には、遠距離魔術で全身を焼かれ。

 時には、近距離戦闘で打ちのめされる。

 何時、心が折れても可笑しくなかった。

 でも、諦めなかった。

 どれだけ膝を屈しても、再び立ち上がり、挑んで来る。

 その心意気は人の範疇を超えているとも言える。

 そして、それが実を結び、シーナに一撃を与えられた時、聞いてみたのだ。

 

『何でアンタはそこまで頑張るんや? 別にここまで頑張らんでも何とかなるもんやで』と。

 

 そうすれば、こう返答してきた。

 

『なら、師匠は弱くありたいのか?』と。

 

 勿論、そんな訳が無い。

 自分でも数奇な人生を歩んできた自信もあるし、その上で《第零柱》の冠も頂いた訳だ。

 その身で弱くあって良い訳が無い。

 そう伝えると、

 

『同じだよ。俺も強くありたい。記憶を取り戻すのが俺の唯一の願いだが、その次に俺は誰にも負けたくない。少なくとも、負け越す事だけは絶対に嫌だ』

 

 と答えた。

 子供っぽかった。

 ただ負けたくないから、強くなる。

 だが、そんな稚拙な理由でも芯はあった。そして、それを証明しようと進ぜた。

 その結果が《天帝》。

 天を統べる帝。ならば、負けられない。

 

「一番の願いを自力で叶えたゼダスの次の願いは負けない事や。そして、あいつは英雄にもなるっと言ったそうだな。ならば、奴は負けん。覚悟を決めたゼダスの底力はウチがよう知っとる」

 

 異論は認めん。

 そう言わんとするシーナの背後にあるのは、確固たる信頼。それも凄い固い絆だ。

 その事実にラウラとフィーは若干、ムッとする。

 確かにゼダスが死なないかは不安ではあるが、恋人でも無いシーナが誰よりもゼダスの勝利を信用している事に。

 

「………そうだな。フィー、私たちも今やれる事をやろう。そして、勝利をゼダスに見せつけてやるのだ」

「ん。もう疑う必要は無い。ゼダスは勝つ。絶対に。だから、私たちも勝利を掴む。じゃなきゃ、ゼダスの横に立つ資格は無い」

「何や、良え顔出来るんやんけ。なら、もう大丈夫やな」

 

 フッと笑みを浮かべるシーナは、廊下の最果てにあった扉に手を掛ける。

 

「この先にアンタらが戦う相手が居る。ゼダスの前やったから、詳しくは言わんかったけど、覚悟してきいや。相手は––––ウチが知る限り、一番ゼダスの心に近付けた奴やから」

「「ッ⁉︎」」

 

 シーナの発した言葉に二人は直ぐに意味を呑み込めなかった。

 あのゼダスの心に一番近付けた相手。

 誰の事かは察せないが、本能が警鐘を鳴らす。

 

 

––––この先には今までで最悪の敵が待っている、と。

 

 

「ま、精々気を付けぇ。ゼダスを愛する気持ちだけは絶対に失うなや。それを失えば––––彼女は一気に喰い尽くすで。彼に捨てられた悲劇の姫やからなぁ」

 

 最後にそう言い、シーナは扉を開き––––二人は転移させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは荒野だった。

 空は紅く染まり、太陽も何時も以上に紅蓮と化している。

 吹き荒む風は乾いており、ラウラとフィーの肌を撫で––––そして、怖気が奔った。

 風に含まれた微弱な殺気。それがある方向からまるで湧き水の如く振りまかれているのだから。

 

「何なのだ、これは………」

 

 眼に見える程にまで濃密化された殺気の根源。

 そこに鎮座するのは、金髪の麗人だった。

 ジッと紅い太陽を見詰め、儚げな表情を浮かべているが、口元は何気に無く笑っている………様に見える。

 どうも不気味に見えるが––––何故だ。眼を離せない。

 まるで同じ“想い”を抱えている様に見えてならない。

 

 

「ようやく来た––––と思えば、別人でしたか。多少、残念ですが、これも一興。少しぐらいはお相手致しましょう」

 

 

 金髪の麗人は正座を解き、立ち上がる。

 蒼いドレスに純白の甲冑が良く映えていて、碧眼が二人を見据えていた。

 そして、黄金の剣を引き抜き、地に突き刺す。

 

「早く武器を持ちなさい。私がここに居る訳は彼に会う為なのですから」

「彼ってまさか–––………」

「ええ。勿論、最愛の彼、ですよ。行きますよ、恵まれた者達」

 

 麗人の表情は決死の物に変わり、最後の狼煙を上げる。

 

 

 

 

「我が名はシルフィード・アルトリア。最愛のゼダスに捨てられた––––悲しみの騎士です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




FGOでジャンヌオルタを追いかけ回したら、石が殆ど無くなった上、礼装ばっかでほぼ爆死の『 黒兎』です。
今話は………まぁ、最初の方から決めていた筋書きなので、ようやくここまで来たんだなぁと実感してましたww

次回は想いと想いが交錯する戦闘回の予定。拙い文才の限界点に挑みます。
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