闇影の軌跡   作: 黒兎

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ひっッッッッッッさしぶりの更新です。
執筆に割く時間が少ないって大変ですわ………

これからも精進致します





師弟

 朝日が昇り始めた位の時刻。

 未だに朝霧が視界を霞める暗い森の中、突如三人の影が現れた。

 まさに影から生える(・・・・・・)様に現れた三人。

 一人は漆黒の着物を着ている青年。

 もう一人は黒髪の美少女。ストレートに伸ばした黒髪は暗い朝でも艶を醸し出している。

 そして、最後の一人はおかっぱ頭の茶髪少女。見た感じでは、一番幼く見える。

 

「––––うし。第一結界は突破だな。良くやったぞ、ハル」

 

 青年はおかっぱ頭の茶髪少女–––––ハルと呼ばれた少女の頭に手を置き、ワシャワシャと撫でる。

 その行動にハルは、えへへとはにかんだ。

 

「私にはそれ位しか出来ないから………キョウ君やシホちゃんと違って、戦える訳じゃないし」

「そんな事無いわ」

 

 悲観的なハルの言葉に黒髪ストレートの美少女––––シホは即答で否定した。

 

「確かに私やキョウは前線で戦えるだけの特訓を積んでるわ。でも、所詮はそれだけ(・・・・)、よ。私たちだけじゃあ、ここまで来る事は出来なかったでしょう」

「そうだぜ、ハル。お前のお得意の“呪術”があるからこそ、ここまで侵入出来たんだ。居なかったら、絶対に迷ってのたれ死んだだろうなぁ」

 

 シホの意見に便乗するは青年。名をキョウと言う。

 

「––––にしても、厄介な話だよなぁ、今回の件って。何で俺ら三人だけで、化物の巣窟に殴り込みなんだよ。マジで有り得ねぇ」

「そうね。流石にもう少し、人員は欲しかったわ。相手が––––結社の執行者となると、ね」

「はい。それに加え、巷で実しやかに囁かれる《番外使徒(イレギュラーアンギス)》まで居るという情報ですし」

 

 ハルの発した絶望的な情報に三人は同時にハァっと溜息を吐く。

 ただでさえ、居るとされる執行者の三人も強敵揃い。

 一人目が、生まれ持った天武の才能と言える程に高速化された反射神経に、伸縮自在に多種多様に動き回る魔剣《咬龍刃》を使うとされる、執行者No.Ⅺの《餓狼》ヴァイス・オーガスト。

 二人目は、絶えず進化を続けるとされる使い手希少の新参剣術《聖扉戦術》に加え、近接殺しの《可変速式剣術(ギアチェンジクラフト)》を得手とする、元執行者No.Ⅳで《聖王》の異名持ちのシルフィード・アルトリア。

 そして、最後の執行者No.Ⅱ《天帝》のゼダス・アインフェイト。

 彼に関しては、二週間前にキョウが身を以て調べたが、感想としては–––––

 

『現段階なら、十分に勝ち目はある。が、奴の中に秘めている原石がデカ過ぎる。今、見えているのは、それの本の一部だ。あれを逆境時に開花すれば––––一瞬で勝てなくなると踏んでるぜ』

 

 この言葉はキョウが、シホとハルに情報収集の際に話した物だ。

 キョウだって、十分に強い。現に、帝国軍情報局の外部協力者のシノブ・エンラでさえも敵わないのだから。

 だが、ゼダス・アインフェイトという人物の潜在能力込みのステータスはキョウをも完全に凌駕する。

 加え、人智超越級の魔術師という情報の他無き、《番外使徒》たる《第零柱》シーナ・ゼロ・フリスティアが居る。他の二つ名でも分かれば、行動や攻撃手段を予想出来たかも知れないのに。本当に厄介な話だ。

 

「ま、その不安要素は追々考えましょう。今は残りの結界を壊す方が先決よ」

「シホの言う通りだな。奴らと死合いするにも、結界を壊さないと話になんねぇし。ハル、結界に綻びみたいな物は感じ取れるか?」

 

 キョウの言葉にハルは瞳を閉じ、両手の平を合わせた。

 

「………有りませんね。私の感知術を以ってしても、綻び一つも見受けられません。多分、表層の結界自体は御粗末な物だったんでしょう」

「確かにその線も考えれるわね。人祓いの術を張る為の物で、結界自体の強度は殆ど計算外だったのね」

「つまりは、ここまでは普通じゃ入れなくて、仮に侵入してきても絶対的な強度を以って、最深部への侵入を遮断、か。一枚でも難攻不落なのに、どうせ何枚も重ねてあるんだろう。そうだろ、ハル?」

「はい。運用されている総魔力量を織り込んで暗算すると、十枚は必ず降らないかと」

 

 ハルがそう告げるとシホとキョウは、

 

「はぁ………掛かる時間は分かりませんが、壊し始めますか」

「ああ。んじゃ、シホ。後ろでバックアップよろしく頼むぜ」

 

 と言い、得物を構える。

 シホが構えるは黒白の双剣。

 キョウが構えるは柄の両端に三日月状の鎌が付いた三節槍。

 そして、相対するは不可視の障壁。

 

「分かりました。全力で援護します」

 

 何処からともなく、ハルは呪符を取り出し、詠唱を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––チュンチュン。

 

 ふと、耳朶に響いた小鳥の囀り。

 それに誘われるが如く、ゼダスは微睡みから意識を引き戻す。

 障子から差し込むは朝日。開いた瞼を焼く。

 きっと、晴天なのだろう。絶対に気持ち良い位に澄み切っているに違いない。良い朝だ––––––というのに、身体は半端じゃない程に重い。しかも、身体だけならつゆ知らず、意識も同様で、覚醒し切るには至らない。

 

「(まぁ、予想は出来てたんだよなぁ……)」

 

 内心、そう結論付けると、ゼダスは身体に触れている異な温かさの元凶に視線を向ける。

 そこには、白い肢体を布団に沈め、優しく穏やかな表情のシルフィードが居た。

 そして、目線が合うと、シルフィードの碧眼は細められ、

 

「おはようございます、師匠–––––いえ、あなた(・・・)

「––––ッ」

 

 発せられた言葉にゼダスは身体の底から痺れが廻る。

 

「(本当に取り返しの付かないトコまでヤッちゃったんだ……どうやって、彼奴らに弁解しよう)」

 

 心の中では、この先の展開を読むのに必死だが、ゼダスはそんな事を言うシルフィードの頭に手を置き、

 

「うん、おはよう。昨日は––––というか、今日か。よく寝れた?」

「あー……正直なところ、微妙だ。気分的には十分な睡眠だったが、身体は所々痛いです」

「悪りぃな。一応、優しくしようと心掛けたつもりだったんだけど……」

「別に師匠が悪い訳じゃない。しかも、私にとって、この痛みは証だ」

「へ? それって、何の……」

「師匠が私を女性として見てくれた証だ。教授の関係では無く、純粋な関係になれた。これ程嬉しい事はそうそう無いです」

「シルフィード……」

 

 はにかんで言ったシルフィードにゼダスは耐え切れずに布団の中で掻き抱く。

 何でこうも可愛いのだろう。こんな娘を不幸にする訳にはいかない。勿論、ラウラやフィーにも当てはまる話だ。

 自分で蒔いた種だ。全て責任を持たねばならない。全員を幸せにしてあげないと……

 内なる心で思ったゼダスを前にシルフィードは––––眼を閉じ、ゼダスの顔を見上げる。

 まるで何かを求める様な行動にゼダスは、

 

「––––ったく、朝っぱらから御所望ですか」

 

 と呆れながら言い、嫋やかに唇を重ねる。互いの存在を確かめるだけの接吻は本の数秒だけだった。

 

「はぁ………」

「どうした? 溜息なんて吐いて」

「幸せ過ぎて溜息出てきました」

「そーかい。それなら良かったよ」

 

 ゼダスは身を起こす。

 もう少しは雑談に身を興じたかったが、今は修行で来た身だ。早く準備をして、損は無いに違いない。

 昨日の一幕が故、そのまま意識を落としていたゼダスにシルフィードは一糸すら纏っていないので、着衣から始めるべきなのだが、室内の匂いが流石に気になる。勘の鋭い奴なら、匂いのみで昨晩に何があったのかが分かってしまうだろう。

 一応、隠蔽………というか、そんな後ろめたい理由では無く、単純に換気目的でゼダスは障子の一つを開けると––––そこには偶々、部屋の前にある廊下を歩いていたラウラとフィーが居た。

 

「………」

「………」

「………」

 

 

 ––––パシャン………

 

 

 三人の間に流れた気不味い沈黙にゼダスは迅速に障子を閉じる。そして、冷や汗が背中にびっしりと掻き始めた。

 

「(不味い………不味い不味い不味い不味い不味いッ‼︎)」

 

 きっと、今の状況は二人にしっかりと見られたに違いない。

 あの二人から見たら、心の底から信頼し、愛している恋人が裸で障子を開けたのが、色んな意味で衝撃的だっただろうが、多分、その視界の端に居たであろうシルフィードも見られただろう。それも一糸纏わぬ姿で。

 もう、それだけであの二人は何があったのかが察せてしまうだろう。何故なら、殆ど同じ事を行ってきたのだから。

 

「………なぁ、ゼダス」

「ひぃッ‼︎」

 

 障子越しに聞こえたラウラの声にゼダスは短く悲鳴を挙げる。

 声音で察せてしまう。––––完全にガチギレ状態じゃないですかッ⁉︎

 

「うん、ゼダス………ちょっと、O☆HA☆NA☆SHIしよ」

「(コッチもかーーーーーッッッ‼︎)」

「ちょっと、待ってもらえますか」

 

 もう逃げ道の全てを閉じられ、軽く絶望していたゼダスはシルフィードの言葉に僅かな希望を感じる。

 まさか、何か策があるのか? 何とか振り切れるのか?

 そんな淡い希望を抱く………が、勿論、そんな美味い話は無い。

 

「私の夫に話す前に妻である私に断りを入れるのが筋でしょう。少なくとも、服くらいは着させてください」

「お前は油を注ぐんじゃねぇーーーーーッ‼︎」

 

 ………嗚呼、神よ。何故、こうも女難の相なんですか、ゼダス(オレ)は………

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカカ‼︎ 朝っぱらから御苦労やったなぁ、ゼダス」

 

 いつの間にか出現していた食卓の間に座しているシーナはゲッソリと間に現界したゼダスにそう言葉を掛ける。

 

「本当に大変だったよ。真面目に寝れてねぇし」

「で、ウチも別界から事細かに見させて貰うたけど、昨晩から搾取され過ぎやで、アンタ」

「仕方ねぇだろ。こいつらが俺を渡さないとか躍起になって、手出してきたんだから」

 

 さっきの修羅場を思い返せば思い返す程にゼダスの疲労の色は濃くなる一方。

 何があったかというと………まぁ、色々あったのだ。要点だけを摘んで説明すると––––

 あの後、衣服をしっかりと着たゼダスとシルフィードは昨晩の事を包み隠さず全て話した。

 何がどうなって、何をし、何をされたのか。その全てを。

 聞いたラウラとフィーは終始、不機嫌だったが、愛する彼が軽々しくそんな事をする筈がない。つまりは、責任を取る前提なのは分かっている。

 だから、折衷案として––––

 

『なら、もう一回愛する誓いとして抱き直せ』

 

 –––と提示され、渋々と承諾。因みに拒否れば、半殺しにした後、帝国軍の戦車の後ろにでも結びつけて、引き廻してから殺すつもりだったらしい。マジで恐ろしい。

 で、そこからは済し崩し的に乱交状態で………文字通り、精も根も尽き果てた訳だ。

 

「ま、関係が正せたのは良かったやんけ。後々にズルズル引き摺るんは漢らしくないしなぁ」

「俺、この特訓が終わったら、皇室に文書送るんだ………絶対に一夫多妻制を認めさせる。じゃなきゃ、俺は常時浮気に不倫状態だ。マトモに健康で居られる気がしない」

「そうしてくれると私も有難いのだがな。まぁ、それでも一番は私だがな」

「そんな事無い。何時でも私はゼダスの一番。そう信じてる」

「二人共、戯言はそれ位にして下さい。師匠は私しか眼中に無いのですから」

「お前ら、仲直りしたんじゃねぇのかよッ‼︎」

 

 背後で論争勃発しかけのラウラ、フィー、シルフィードにゼダスは堪らず叫ぶ。

 まず、ラウラとフィーだけでも、バランスを取るのに難儀していたのに、そこにシルフィードも乱入したのだ。最早、混沌(カオス)。容易に釣り合わせれる訳が無いのだ。

 

「こーゆーやりとりをもー少し見ときたいけど、早う特訓に移りたいんや。飯食う準備せぇ」

 

 パチンと指を鳴らし、シーナが言うと、眼の前の卓には豪勢な飯の数々が瞬時に発生した。美味そうな匂いに四人は––––特にシルフィードは眼を輝かせる。

 即座に席に着き、飯を食い始めるラウラ、フィー、シルフィード。だが、ゼダスだけはすんでの所で止まった。

 

「どした? 食わんと活力湧かんぞ」

「………師匠、一つ聞かせてくれ」

「ん? なんや?」

「この空間内で修行するって言ったよな」

「ああ、そーやったな。それが?」

「という事は、必然的にこの間も修行に成る訳だ。ここで俺が飯を普通に食う事は––––正しい事か?」

 

 ゼダスの問いにシーナは、

 

「(あー………深読みし過ぎなんやけどなぁ〜。流石に飯の間に無粋なモンを交える気は無かったんやけど………ま、面白そうやし、乗ったるか)」

 

 と思い至り、口を開く。

 

「………よう分かったな。これは次の特訓に通じてたりする訳や」

 

 正直、この言葉は出鱈目だ。が、この修行の計画(プラン)を組み立てているのはシーナ自身。幾らでも変更が効く。

 ならば、このルート用にちょっとっと組み替えて上げよう。途中を全て省く(・・・・・・・)、という形に。

 

「次の特訓、ですか?」

 

 ゼダスとシーナの師弟会話に、食物を口一杯にモグモグしながら、シルフィードは割り込んでくる。

 

「そや。次のメニューは––––ウチとの戦闘、や」

「「「「––––ッ‼︎」」」」

 

 シーナの一言に全員が止まり、眼を見開く。

 どう見ても、そのメニューは最後に来るであろう物のはずだ。

 世界広しと言えど、彼女程の魔術使いは居ないに等しい。

 つまりは世界最高峰の魔術師との手合い。ほぼ純正な剣士なゼダスにとっては、最悪と言って良い程の相手。しかも、戦闘スタイルの優劣を除いて考えても、実力差は歴然。

 妥当な線で行けば、幾つもの死線を超えた先に相見える筈の《魔神》。

 どう見ても、今のゼダスが受ける様な“試練”では無い。

 

「随分と唐突な話、だな………」

 

 声音に僅かな戦慄を含ませるゼダスに見守る三人は産毛を逆立たせる様な気持ちに襲われる。

 何時もは飄々としている彼が、眼に見えて明らかな程に“怯え”ているのだから。

 

「でも、アンタはもうウチと同じ土俵に立てる。そんな気がしてならん。………昨夜の二連戦。アンタはアレから何を学んだ?」

「んー………急に言われてもなぁ。強いて挙げるなら––––戦況の見極めの重要さ、かな」

 

 昨夜の二連戦。その両方は、ゼダスが傷だらけになるという辛勝の結果だ。

 万の奇蹟を具現化する《輝く環(オーリオール)》を頼り切ったという、修行あるまじき戦法。

 両方とも共通して言える事は、己の状況精査能力が足らなかったという事だ。

 もし、ヴァイス戦でもっと良い手が有れば、先に行ったラウラやフィーが危険な目に遭っているともっと早く危惧出来ていれば。

 もし、シルフィード戦でもっと正確に力量を計れていたならば、心の底を理解してやれれば。

 きっと、結果は違っていた。

 

「そうや。アンタは素の戦闘能力もまだまだ先があるが、それよりも見極める眼が付いてきとらん。んなんじゃあ、マトモにウチとの勝負にならん。やから、ちぃと力を授けたる」

 

 シーナがそう言うと、座っていたゼダスを手招きする。それにゼダスは応じ、近付いた後、強制的に地面に座らされた。

 そんなゼダスの頭をシーナは淡い光を宿した右手でポンッと叩いた。すると––––急にゼダスの身体が光り始めた。

 黄金の輝きは、何処から如何見ても《輝く環》の物。

 それはゼダスの左眼に集まり、一度輝きが爆散した。

 吹き荒れる閃光に全員が思いっ切り眼を閉じるが、それでも容赦無く網膜を焼く。

 数秒間、マトモに色を認識出来なかったが、何とか世界に色彩が戻ってくると––––ゼダスの左瞳の色が変色していた。

 妖しく人を惑わす紫眼は、《輝く環》の輝きと同色の金色になっていた。

 

「ぐっ、がぁ………ッ‼︎」

 

 その変化が起きてから、ゼダスは己の身体を掻き抱き、地面を苦し気にのたうち回る。

 それにラウラは怒りの沸点に達し、この状況の根源たるシーナに掴み掛かろうとするが、シルフィードが肩を掴み、止める。

 

「何故、止めるのだッ⁉︎」

「今、シーナ卿を締め上げても意味が有りません。しかも、師匠はこの程度の苦しみなら、耐えれるって知っています」

 

 シルフィードの信じ切った態度にラウラも止まらざるを得ない。

 そんな中、唯一フィーはゼダスの元へと向かい、身体を労わっていた。

 

「ゼダス、だいじょぶ?」

「ぐぁっ………あ、あぁ……大丈夫だ……。…………師匠、これは一体何なんだ?」

「アンタの中の《輝く環》をちょいと弄っただけや。左眼との同調率を引き上げる。言葉にすると簡単なモンやで」

 

 ゼダスの問いに答えるシーナは、付随して解説する。

 

「そうする事で、アンタはウチの眼に常時稼働している魔術《月夜見》に似た能力を得れるんや」

 

 《月夜見》と言えば、シーナの代名詞とも言える程に強力な魔術だ。

 見た対象の全ての情報––––基本的なステータスから、深層心理までを解析出来る対人戦闘において、最凶の性能を誇る。

 しかし、ゼダスに付いたソレは、僅かばかりニュアンスが違うらしい、とシーナは語る。

 

「ウチのは一対一で本領を発揮する術式や。が、アンタのは何方かと言うと、対多数で有用なんや」

 

 シーナが言うには、ゼダスの金眼は『瞬時に全てを見切り、後の流れを読み切る』という物だそうだ。

 確かに違う。この能力はゼダスみたいな剣士よりも、冷静沈着な軍師みたいな奴が持つべき物だ。正直、持て余す気がしてならない。

 

「………聞けば聞く程、俺にそぐわない能力だな」

「今までのアンタやったら、そうかも知れんけど、そんな事無ぇよ。今のアンタには背負う物がある」

 

 仲間たちからの信頼。

 全てを賭けても愛してくれる恋人。

 そして––––今まで斃してきた人たちの願い。

 心が軋んでいた頃のゼダスなら、何も感じなかっただろうが、記憶が戻り、失った物が嵌った今なら、少なからず想う所はある。

 

「今、する話か、それ?」

「良いから黙って聞いとれ。––––そういった人間こそ、自分を視れずに自分に喰われる。だからこそ、全てを見通し、流れを読める能力が居るんや。ついでに、この修行でアンタが学ぶんは、強さじゃない」

「––––は?」

「アンタが学ぶべきなんは『頼る』って事や。今のアンタは確かに周りを信じ、頼ろうとはしとる。が、足らん。それはウチに頼みに来た時から分っとった」

 

 と言われ、ゼダスはその時の情景を思い起こす。

 確か、あの時は––––シーナの元まで赴き、土下座して頼み込んだんだ。

 

『俺は全てを護る力が欲しい………ッ‼︎』

 

 と言い添えて。

 

「あん時、アンタは一人で頼みに来た。その時点で『頼り』切れてない」

「いや、あの時は是が非でも強くならなきゃ––––ッ⁉︎」

 

 言葉を言い切る前に飛んできた拳にゼダスは焦らずに右手で受け止める。

 金眼が無意識下で警告してくれたから、止めれたが、無かったら確実に脳天ブチ抜かれていただろう。

 

「んな、驕りは要らんのや。あ? 『全てを護る力が欲しい』? 一人で、か? 久しぶりに滑稽過ぎて、頭に来たから遠慮無くブチ撒けたる」

 

 一度、シーナは息を吸い、一気に文句を垂れる。

 

「アンタはそこら辺の一般人と変わらんよ。ただ運良く、至宝を取り込んだだけの、な。んな程度の分際で特別扱いがるんじゃねぇぞ、餓鬼。そんな一端な事を言うつもりなら、ウチくらい打ち倒せや。それすら出来んようなら、大人しく恋人共に護られてろ。少なくとも、アンタよりもずっっっっっっっと強い」

「………………黙って聞いてれば、好き勝手に言いやがって………ッ‼︎」

 

 遂にブチ切れたゼダスはシーナを掴み上げるが、当の本人は一切避けない。

 

「師匠が言う通り、俺は弱いよ。だから、強くなりたいんだろうがッ‼︎ 運が良かろうが悪かろうが至宝を得たのは俺なんだッ‼︎ それだから、俺はこの力を奮う。使える物を使って、何が悪いって言うんだッ⁉︎」

 

 一触即発。完全にその状態な現状に遠くから見ていた三人は沈黙を貫かざるを得なかった。

 二人の言い分を一概に何方が正しいとは決め付けられない。何故なら、何方も一応信念の元に筋を通しているから。

 シーナの生き様がどうかは知らないは、言動的にはゼダスの様な––––人智を超えた力を自意識の他で内包しているのが気に食わないのだろう。加え、使いこなせていないのが、それに拍車を掛けている様に見える。

 対し、ゼダスは利用出来る物は何が何でも使う人間だ。その上、自分の弱さを知り、改善する為に全てを己の物へと取り込む様な奴。シーナの様な絶対的な強さを持つ相手は––––崇拝する物では無く、妬む物に違いない。

 根底を明かせば、反りの合わない師弟。

 きっと、こうやってぶつかり合う事で強さを磨いて来たのだろう。

 

「悪い、とは言っとらん。が、世界は勝者こそ正義。アンタが最強に成らんと、それは永遠に認められんよ」

「なら、勝つ。全て斃す。––––手始めにアンタからだ、師匠ッ‼︎」

 

 とうとう堪え切れなくなったゼダスは傍らに置いていた鞘からミストルティンを引き抜き、切っ先を向ける。

 完全に戦闘モードだ。

 

「良えで。相手になったる」

 

 再度、指を鳴らすと空間が摩り替わる。

 食卓から変わった世界は––––

 

「何なのだ、これは………」

 

 ラウラが驚愕の表情で見ている世界はさしずめ、世界の終わる寸前。神話の《神々の黄昏(ラグナロク)》と揶揄しても差し支えない。

 

「ウチが持つ禁術中の禁術の一つ、空間を編み変え、全てを消し去る次元式の空間破壊魔術、通称《破獄》」

「––––って、説明って事はこの空間で居られる時間はそう長くないのか」

 

 さっきの激昂を感じさせない位に落ち着いた声音のゼダス。戦闘モードでキッチリと割り切ったのだろう。

 

「そや。だから、遠慮は要らん。初っ端から全力で挑んで来い。今回はウチも全開で行く」

 

 同じく割り切ったシーナの宣言にゼダスはミストルティンを正眼に構え––––

 

 

「そうか………それは有難い。そろそろイライラしてたんだ。勝たせて貰うぞ、師匠ッ‼︎」

 

 

 ––––思いっ切りに地を蹴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





如何でしたでしょうか? 最後ら辺はほぼノンストップで書いたので、誤字脱字ありそうなんですよね………

はい、ここで先行告知。
もう直ぐ、この作品もお気に入り件数が200件に達します。
折角だし、何か企画でも………と思い至った訳で、特別話でも書こうかと思ったけど、時間的に没。
で、思い付いたのが––––オリキャラ人気総選挙ですッ‼︎ 何か面白そうじゃんww
詳しい事は………まぁ、追々発表致します。

これからもこの作品共々よろしくお願いいたしますm(__)m

追記:活動報告にオリキャラ人気総選挙の概要説明を上げさせて頂きました。興味が御有りの方は投票頂けると幸いです。結果発表用に番外編も書きますし
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