闇影の軌跡   作: 黒兎

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うへぇ………もじすーおおい………






追記:FGOでセミ様はまだですか?






進化の深化の真価

 四面楚歌。

 四方を固められ、絶体絶命の意を示す言葉だ。

 普通、この状況に陥って、起死回生出来た輩はそうそう居ない。寧ろ、居なくて当然。

 その状況までに持っていくには、率いる者が如何に効率良く、そして、下につく者が率いる者に全幅の信頼を寄せる事が必須なのだから。

 そんな群衆が、追い詰めた敵を打ち損じるなんて万が一の確率でも有り得ないと言って差し支えない。

 強い。文句無しに断言出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ––––と、本来の四面楚歌の意味を説明してきた訳だが、仮に………そう、現実で有り得るとか有り得ないとかは省いて、考えてみて欲しい。

 

 もし––––その絶体絶命の状況を、たった一人で創り出されたとしたら? 一体、どうする?

 

 まず、そんな状況になるなんぞ、虚数の彼方並みに有り得ないのだが、世の中は広い。別に有り得ない話でも無い。

 仮に有り得たとすれば………答えは何も一つでは無い。

 だが、この思考をしている少年は違った。

 

 

 

 ––––なら、状況を創った張本人を斃せば良いんだろ?

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 

 

 互いの戦意を確かめ合った後、ゼダスは翔ぶが如く、疾駆する。

 加速を置いていく初速全速のゼダスのロケットスタートをシーナは初めて実を眼にし、その速度に舌を捲く。

 

「あん速度で翔ぶんかいな。対人戦––––こと奇襲やったら、随分厄介かも知れんなぁ」

「––––ッ‼︎」

 

 だが、シーナの言葉はゼダスにとっては脅威以外の何でも無い。

 ゼダスのゼロ加速トップスピードの剣術。《聖扉戦術》の通過点で見付けたこの技術は一言で言うと、通常速度を不可追の物へと昇華させる類の技だ。

 つまり、初見では絶対に動体視力が追い付く筈が無いのだ。が、シーナには見えている。だから、悠長に分析を口に出来る。

 それは本来あってはならない事だからこそ、脅威以外の何も感じない。

 だが、止まる必要は無い。これこそがゼダスの使える最高の剣術なのだからッ‼︎

 そして、仮に見えていたとしても、丸腰で何も構えていないシーナに対応の術は無い––––と思ったなら、それは大きな間違いだ。

 しかし、近付かなくては話にならないのも事実。何時も携帯しているアンチ・ゴスペルで魔術戦に持ち込もうものなら、確実に押し負けるからだ。すると、ゼダスが利となる距離は必然的に近距離となる訳だ。

 でも………それでも状況を覆す事が出来るからこその番外使徒(イレギュラーアンギス)

 当然の如く、対応する。

 眉間に奔るゼダスの鋭い刺突にシーナは素手で止めに掛かる。

 

「確かに速い。これなら、大抵の相手を速度で掻き回せるやろ。––––が、所詮はそこまでや。埒外の手練と殺り合うには、些か物足りんなぁ」

 

 先までの勢いは何処へ消えたのか、たった指先一つで刺突を減衰。最終的には完全に停止させた。

 そう––––これがシーナという相手の厄介な所だ。

 世界最高水準の魔術師で、常時反則級の解析魔法を展開。禁術クラスの魔術も息を切らさずに起動、運用出来るから、魔術師として評価されがちだが、それはあくまで力の一側面に過ぎない。

 こんな荒技を可能にする程に自分の身体を理解し切り、上手く力を使える。その延長線上に卓越した体術を得ている。

 結果、ゼダスの渾身の刺突の推進力の全てを指先一つで受け、力を霧散させる事を可能としているのだ。

 まず、魔術が群を抜いて得手だからというだけで、番外使徒に成れよう筈なぞ無い。

 

「ちっ………やっぱり無理か」

 

 攻勢が失敗したと悟るとゼダスは潔くバックステップ。一度、大きく距離を置く。

 その判断はこの場においては正しい。

 例え、失敗すると分かっていて出た攻撃だとしても、挫かれると無意識でもペースを崩されかねない。先頭の主導権はシーナに譲ったとしても、せめて心には軽傷の方が良い。

 そして、その事はシーナも理解していた。

 

「あんタイミングで退いたんは素直に褒めたるわ。実際、近距離でも遠距離でもウチの方が大幅に有利なんやし、自分のモチベーションを維持するには良え判断。仕切り直しには持って来いやなぁ」

 

 だから、この時間を有効活用する。

 シーナの手に集まった黒い氣。アレは可視化出来る程にまで掻き集められた彼女の魔力だ。

 魔力は畝り、形を成していく。

 そして、顕現するは鴉色の太刀。

 それを片手で斜に構えるシーナは、素人目から見ても、尋常じゃない。

 張り巡らされた闘志は歴戦の侍。魔術師が辿り着ける領域とは思えない。

 

「何、あれ………」

 

 驚愕の声音で呟くは、この戦いを端から見る事になったフィーのもの。

 この言葉はラウラにとっても言えた事だった。

 未だに一合も打つ姿を見ていないというのに、察せてしまうのだ。––––彼女の強さを。

 魔術師としての強さと剣士としての強さの比率が可笑しい。

 普通なら、何方かに傾くであろうものだが、シーナはその両方が達人級。

 まさに極限の至り。

 彼女が本気で魔術、剣術、体術を組み合わせて攻勢に出たら、成す術無く殺られる未来が容易に想像付く。

 その事実に圧倒されるフィーとラウラにシルフィードはボソッと呟いた。

 

「また……厄介な物を出してきましたね」

 

 戦いの場の音で掻き消される位の声量。だが、二人にはしっかりと聞こえていた。

 

「あの武器について知っているのか?」

「ええ。私がシーナ卿に教えを請うた時に使われた武器です。圧縮した重力の魔力に形を持たせている物で、破壊力は絶大。その刀身が少しでも地肌を撫でれば、容赦無く抉り取り、対象に叩き付ければ、圧力で粉々に潰される。……正直、生身で喰らって良い物ではありません」

 

 「そして」とシルフィードは続ける。

 

「あの方が剣を持った。それはつまり、本気の証明。一切、手を抜くつもりが無いと言えます。それは師匠にとっては窮地の他に無い。キツいでしょうね、今回の戦闘は」

「で、でも………」

「分かっています。彼は信用に値する人です。きっと勝ちます」

 

 フィーの言葉を言い切る前にシルフィードはゼダスの勝利を断言。これは愛とか私情を省いても言える結果だった。

 

「が、厳しいのに変わりはありません」

 

 全てにおいて、先に行く相手。

 単純に真っ向から戦っては一分の希望も見出せない手練との相手。

 常識的には、勝てる訳が無い。寧ろ、負けて当然の話だ。

 だが、ゼダスという人物はその常識、当然を壊せる。

 例え、勝てぬと知っても。ひたすらに歩み、障害たる物を超えてきたのだから。

 今までもそうだった様に。これからもそうである様に。

 結局、やる事に変わりはない。

 その事を理解したシルフィードだからこそ––––

 

「(師匠がこの戦闘の間でどれだけ進化出来るか。それが勝負を大きく傾かせる要因になるはず。頑張って下さい、師匠–––––––ッ‼︎)」

 

 ––––内心でそう思ったのだった。

 そして、勝負は動き始めた。

 攻勢に出たのは先と同じくゼダス。先程、防がれた筈の方法––––無加速最高速のロケットスタートで、だ。

 

「アンタなぁ………少しは学びぃや」

 

 呆れ果ててシーナも口を出さずにはいられなかった。

 が、口で如何言おうが止まらない事をシーナは知っている。彼––––ゼダスは勝負事では妙に頑固だから。

 そして、その最奥に張り巡らせてある起死回生の筋書き(シナリオ)があるであろうから。

 だが、ゆめ忘れるな。シーナは番外使徒。

 例え、どんなに完成された筋書きがあろうとも、それをただの力だけで捻じ伏せる事なぞ造作も無いッ‼︎

 

「奔れ、八咫烏(ヤタガラス)

 

 短く唱えたシーナに鴉色の太刀––––八咫烏は呼応。黒い魔力は轟音を響かせ、暴風を纏う。

 

「覚悟決めぇや、ゼダス。呪うんなら、アンタの選択ミスを呪え。今、飛び込もうとしとんのは–––––死への片道切符やぞ」

 

 と言い、シーナは眼にも止まらぬ速度で一閃。突きから放たれる黒き旋風は宛ら、漆黒の竜が獲物を喰らうべく巨躯な顎門を開いている様。

 シーナの重力刀に風属性・広範囲破壊魔法、更に精錬された剣技が相成ったまさに天災。

 あの尋常ならざる破壊力にはゼダスも冷や汗を流さずには居られない。

 そう、シーナは気付いていたのだ。ゼダスの剣技の欠陥を。

 加速の全てを撤廃。初速という概念を全速力へと昇華させるゼダスの剣は確かに対人戦においては脅威。

 いきなり速度の速い物体を見せられても、動体視力が如何しても付いて行かずに行動を起こさせないからだ。

 一見、最強の剣にも見える、が–––––それは違う。欠陥は有ったのだ。間違い無く。

 攻勢に出ると同時に最高速に達するというのは利点だが、同時に欠点でもある。

 その剣技を使ってる間––––特に使用開始した瞬間は急な方向転換は勿論、制動する事は絶対に出来ないのだ。

 それは瞬時に最高速に達するが故の理屈。

 ならば、真っ向から避けれぬ程に広範囲の技を放てば良い。そうすれば、ゼダスは避けも防げもせずに、ただ蹂躙されるのだから。

 が、

 

「(そう手を打つのは想定内ッ‼︎ なら、コッチも––––)」

 

 ゼダスにとっても、この対応の対応だった。即座に対応の対抗策を講じる。

 刹那よりも短い間、ミストルティンは茨を延ばし、ゼダスの左手に絡み付き、棘を刺す。血が体内から剣へと伝い、純白の刀身を真紅に染め上げる。

 これでミストルティンの能力を使用出来る。このタイミングで使うのは、形状変化。そして、成した形は––––

 

「「「–––––はぁッ⁉︎」」」

 

 端から見ている三人は一斉に声を荒げる。それはゼダスが造形したミストルティンの形が原因だった。

 造り出したのは––––ゼダスの身体をすっぽりと覆い隠せる程に大きなタワーシールド。最早、攻撃武器では無い。

 黒い旋風を造ったタワーシールドで受け止め、勢いを微塵も落とさずに進み続ける。

 

「このまま………押し込むッ‼︎」

 

 襲い来る旋風。掛かる重圧。その全てがゼダスの進行を阻むが、気にせずに力で押し込む。

 全速力の推力を纏っているから、何とか対抗してくる力を押し込めている。

 

「(ほぅ………折り込み済みやったか、ウチの手は。まぁ、出来て当然、か。あん馬鹿に宿させた《天眼》が効果を成せば、次打つ手位は想定出来るやろし)」

 

 《天眼》というのは、ゼダスに先程、無理矢理開花させた左瞳の事だ。

 全てを見通し、全ての理を読み解く意を持つ言葉なのだから、ゼダスの手に入れた能力と酷似している故の名称。

 

「(やけど、まさかの強行突破と来るか。流石にウチも想定を超えられたわ)」

 

 弟子の発想は本当、意外なタイミングで度肝を抜いてくる。だが––––

 

「(想像を超えてくる程でも無いんやなぁ)」

 

 ––––別に対抗策が無い訳じゃあない。

 シーナは八咫烏を持ち上げ––––同時に黒い旋風も持ち上がる。魔力で生成されているから、当然の事。すると––––

 

「ぐッ………」

 

 徐々にゼダスの身体も旋風に導かれ、持ち上がり始める。

 奇抜さを狙い、それであって突破する点から見れば、ゼダスのタワーシールドをよる強行突破は文句無しの満点だ。が、それはあくまで突破に重きを置いて考えた場合。それを対処するのは容易である。

 

「(こうやって力が掛かる方向を上に向ける事で進行を止めるのか……流石に踏ん張れない)」

 

 ゼダスがそう思い至ると同時に踏ん張っていた脚の力は抜け、身体は塵芥の様に宙を舞う。

 だが、たかが宙に浮かされた程度でゼダスという奴は止まらない。

 襲い来る旋風を利用し、空中で体勢を整え、ミストルティンをタワーシールドから片手用直剣に形状変化。

 スッと切っ先を相対する最強(シーナ)に向け––––脚裏で体内の魔力を集約。一斉に解放し、空中という足場の悪さを感じさせない速度で瞬時に迫る。

 放つは剣技において最速で当てる事の出来る突き。

 《聖扉戦術》《複式》の型 舞風・神突。

 昨夜、シルフィード相手に《血濡れの覇王(ブラッティー・オーバーロード)》を用いて放った修羅超えの技。

 考えられない速度での成長を遂げ続けるゼダスは、技の感覚を覚え、《血濡れの覇王》に頼らずとも舞風・神突を使用出来る様になっていた。

 

「はぁああああッ‼︎」

 

 三度の攻勢。《聖扉戦術》を交えた最高力の攻撃。

 神速の領域に至るソレにシーナは黒い旋風を八咫烏に収束。地に足を付けたまま、背後に刀身を移す。

 居合術。

 俗にそう呼ばれる体勢を取ったシーナ。

 つまり、上から襲うゼダスに対して対抗策があるという事だろう。

 

「祓ぃ、《常月(トコヅキ)》ッ‼︎」

 

 ズバンッと轟く激音と共に放たれたシーナの抜刀撃。未だに攻撃を届かせるを距離的に叶わないゼダスには当たる筈もない死に太刀。

 が、それはシーナの放ったのが単純な抜刀撃だった場合の話。そんな訳無かろう。

 抜き放たれたと同時に飛翔する黒き三日月。それは確実にゼダスへと向かい、翔ぶ。

 空中で魔力解放し、止まる事が絶対に出来ないゼダスにとって、迫り来る黒き三日月は脅威他無い。

 

「(魔力で斬撃を飛翔させるだとッ⁉︎ 防げない訳は無いが、攻撃を中断する必要が出てくる………厄介な手だな)」

 

 迫る死の気配にゼダスは冷静に判断。状況打開に打って出る。

 放っていた神速の一突きを無理矢理、下方向に僅かに逸らす。

 それにより、飛翔する黒き三日月は皮一枚で回避。が、それ故、シーナに舞風・神突も当たらない。

 そう––––それで良い(・・・・・)

 ガチンッと音を立てて、石造の床にミストルティンが突き刺さり、衝撃が爆散し、反響。結果、ミストルティンが床から抜け、ゼダスは未だに僅か浮いている。

 しかも、構えている体勢は瞬時に組み立てた割には充分な効率性の袈裟斬りの構え。

 対し、シーナは八咫烏を抜き打ち、完全に技後の硬直を喰らっている。

 つまりは避けれず、決定打を叩き込める。最高の出来だ。

 

「決めるッ‼︎」

 

 放つ袈裟斬り。それには殺す覚悟さえも振り切っている剣士最高の斬撃。

 勝てる。文句無しに勝つッ‼︎

 

「甘いわぁッッッ‼︎」

 

 袈裟斬りがシーナを裂く寸前に吼える。

 すると、ゼダスの眼前に沸く赤き点。急に膨張し、熱量を帯びると––––炸裂。

 

「ぐあぁぁぁぁッ‼︎」

 

 至近距離で爆発に巻き込まれたゼダスはゴロゴロと地を転がり、回転が収まるとバタンと倒れた。

 プスプスと焦げ、全く微動だにしないゼダスにシーナはゼイゼイと息を切らしながらに言う。

 

「あんにゃろう………ほんに際どかったぞ、今んは」

 

 額に一筋の汗を浮かべている所から、本気で焦っていたのだと読み解ける。

 だが、今の瞬間に何があったのかを完全に理解しているのは地に倒れているゼダスと何とか競り勝ったシーナのみ。

 ゼダスの渾身の袈裟斬りが身を断つ寸前。刹那よりも短いであろう時間の間にシーナは即行で魔術を組んで、行使した。が、ただそれだけでは間に合っていなかった(・・・・・・・・・・)

 多種多様の要因が絡み合った結果、何とか間に合ったが––––一番の要因はゼダスの《天眼》の使用練度が未だ低かった事にある。そのおかげで、《天眼》が読めた局面の先を《月夜見》でギリギリ視え、対処出来たのだ。

 その反撃が即興によるものだった為、火力に加減が効かずにゼダスを丸焼きにしてしまっている。

 

「ゼダスッ‼︎」

 

 最愛の人が焼身と化し、地に沈むというある種の衝撃光景にラウラもフィーも駆け出しそうになるが、白銀の籠手を嵌めたシルフィードが制動を掛ける。

 

「何をしに行くつもりですか?」

「何って、助けに行くに決まっているであろうッ‼︎ 早く救わないと危険過ぎるッ‼︎」

「ん。アレは不味い。《輝く環(オーリオール)》が稼働してないし、マトモな回復は見込めない筈」

「だが、《輝く環》が稼働してないという事は命に至る損傷じゃない事の証明となります」

 

 冷静過ぎるシルフィードの言葉にラウラとフィーは猛然と頭に来た。

 

「〜〜〜〜ッ‼︎ 何故なのだッ⁉︎」

「何でそんなに冷静なの? 仮にもゼダスの事が好きなんでしょ?」

「………貴女達の様な過保護には分かりませんよ、私の気持ちなんて」

 

 そう言うと一変。シルフィードの表情が苦に歪む。よく観察すると、白銀の籠手も思いっ切り握られていて、金属が擦れる音がする。

 そして、二人は気付いてしまった。シルフィードも一刻も早く彼の元へと向かいたいのだと。

 

「師匠の傷付く姿なんて見たくない………」

 

 何時でも前に立ち続ける存在であってほしいから。何よりも最愛の彼だから。

 こんな傷付くのは見るに耐えない。

 

「でも、師匠を愛し、横に並ぼうとするのなら、横槍を入れるのは禁忌に等しい」

 

 何故なら、彼は強さを求め、闘う事を止めないから。己が燃やす願いの為には止まれないから。

 

「だから、眼を逸らさずに見続ける。今の私に出来るのはそれ位の事です」

「「………」」

 

 シルフィードの言葉は重みを感じさせ、二人に乗し掛かる。

 そう、そこに二人とシルフィードとの愛の差があるのだと感じさせられた。

 確かにラウラとフィーはゼダスを愛している。

 そして、同じ様にシルフィードもゼダスを愛している。

 ならば、何処で差が出たか。多分、それは信頼の差。

 彼の絶対的な実力を、彼の戦術的思考を、その全てを信頼し切っているからこそ、シルフィードは自分の気持ちを押し留めてでも、ジッと待つ義務を果たす。

 比べ、二人は如何か?

 死んだ訳でも––––無くも無い事も無いかもしれないが、たかが爆撃で吹き飛ばされただけで狼狽するなんて情けないにも程がある。

 つまりはその差。

 理解が及び、差を実感する中、戦況が揺れ動き始めた。

 

「ぐっ………ゴフッ………」

 

 倒れていたゼダスは咳込みがてら血を吐き、意識を取り戻す。

 意識を取り戻すや否や、己の損傷具合に眼を向ける。

 

「(うわ………流石に無い位に傷ついてるなぁ)」

 

 至近距離の爆裂により、所々が火傷。加え、内臓も大半が機能を失っている。生きてる事自体が奇跡だった。

 《輝く環》を用いれば、再生は可能だろうが、今は無理。

 魔力運用がシーナに見られたら、その隙を絶対に見逃す訳が無い。

 しかも、昨晩から今朝に掛けて、殆どと言って良い程にゼダスは休息出来ていない。正直なところ、虎の子程度の魔力しか無い。再生なんて出来ないだろう。

 が、体力は尽きていない。まだ動く。動ける。

 得物であるミストルティンを杖とし、ゼダスは立ち上がる。

 

「………まだ立つ、か。さっきのは遠慮無しで爆破したんやけどなぁ」

「生憎、しぶといのが取り柄なモンだからな。しかも、俺の中でようやく勝機が視えたんだ。なら、膝を折る訳にはいかないだろ」

 

 大胆不敵な宣言を告げると共に口から垂れる血を拭い、平時と同じ様に武器を構える。

 字面通り、勝負を中断する気は無い様子に、この場の全員が怪訝な表情を浮かべる。

 どうして、一切手の出ない状況で痛ぶられたというのに、こんなに強気なのだ。何処に勝機を見出せたのか。

 理解の及ばない中、一人だけ反則染みた魔術持ちのシーナは《月夜見》で解読するが––––

 

「(あ? 何や、この思考は………)」

 

 ––––解き読める思考全てが、どう見てもこの状況では要らない物しかない。

 今頃、ジャポネシア自治国に到着したであろうⅦ組は旅行に楽しめているのだろうか? 寮の冷蔵庫で足らなくなった材料は? 修行が終わったら、どうしようか………

 絶ッッッッッッッッッッ対に戦闘時に不要な思考に尚更、シーナは意を解せない。

 

「それじゃあ、師匠………勝ちを取りに行くッ‼︎」

 

 正眼に構え、ゼダスは––––––歩き始めた。

 ゆっくり、ゆっくりと………先程までの速度を活かした戦法とは打って変わっての静かな攻勢。

 しかし、これはどう見ても愚策だ。

 ゼダスの無加速の剣術の最高の利点は、初速で敵の動体視力を超えて動ける点にある。それを駆使し、サッサと懐に潜り込むのが一番利点を生かした戦法である。

 ならば、この亀の様にのっそりとした攻勢はその利点を完全に摘む。故の愚策。

 そして、敢えて愚策を選ぶ様な馬鹿弟子(ゼダス)師匠(シーナ)は更に疑問符が浮かぶと同時に腹の底から怒りが込み上げてきた。

 

「こんのぉ………舐めとるんかいなぁッ‼︎」

 

 激情に駆られ、シーナは八咫烏を振るい、その行為に呼応し、周囲に無数の氷槍が顕現。

 シーナの身体に迸る激光から、運用されている魔力量が尋常では無いのは一目瞭然。完全に殺しに来ている。

 が、その行動に対象(ターゲット)たるゼダスは––––

 

「(余計な雑念で《月夜見》を掻い潜れたのは今ので分かったッ‼︎ 一気に仕留めに掛かる)」

 

 ––––とほくそ笑み、剣を振り被る。といっても、未だに剣の間合いとは言えないのに。

 降り注ぐ氷槍の雨。

 それを紫眼と《天眼》で見据えるゼダスは––––己の思考から、考える事を全て捨てた。

 すると、視界から色は消え、《天眼》がただ流れをボンヤリと教えてくる。

 擬似的なゾーン状態。それを意図して踏み込むのは、人では不可能な領域。

 しかし、この男にとって“不可能”と呼べる物は“可能”に成り得る物だと信じている。それを信じれなければ、奇蹟の具現を体現している《輝く環》を取り込むのは無理なのだから。

 

「(–––––––––ッ⁉︎ 思考が消えた………あんにゃろう、あの思考は偽モン(フェイク)か)」

 

 だが、何も問題無いと言わんばかりに氷槍を降り注ぐのを止めない。

 剣一本で防げる氷槍の数なぞ高が知れている。例え、先程の様にタワーシールドを作ろうが、全力の氷槍の前には意味を成さない。貫かれてTHE ENDである。

 嗚呼、それが必然。それが真実––––

 

「(––––やが、目論見通りいかないんがアンタや。どう返してくる?)」

 

 そのシーナの心の声が聞こえた訳では無いが、ゼダスは氷槍を前に反抗を開始した。迫る氷槍をミストルティンで弾き始めたのだ。

 弾く度にガキンッ、ガキンッと激音を響かせる事から、膨大な攻撃力同士がぶつかり合っているのが分かる。

 が、その光景は本来は有り得ないのだ。

 何故なら、氷槍が持つ攻撃力は、本来のゼダスの全力を優に越しているのだから。弾き返すとなると、必要となる力は更に要る。

 いつも通りなら、もう彼の腕が粉々に潰れていても可笑しくは無い。

 だが、対応出来ている矛盾にシーナはカラクリを読み取れた。

 

「(自分でゾーンに入って、歩む速度も遅めて、己の全てを剣に一極集中やとッ。確かにそれなら、普段以上に力は出せる理屈や………)」

 

 だからと言って、攻撃を止める訳にはいかない。

 例え、どれだけ力を集中し切っても、所詮は剣技でしかない。

 ならば、一度で防げる総数は決まっている。

 いつも全力で振り切らねば、弾けないのだから、一振りで防げるのは氷槍一本限り。

 仮に弾いた氷槍で別の氷槍を落とす算段だとしても限度があるし、効率が良くない。発射される氷槍の回転率とは割に合わない。

 

「(やから、氷槍の有りったけを飛ばして串刺しや。絶対に防げる訳無い)」

 

 今から全速力を出しても遅い。降り注ぐ氷槍は最早、全方位を固めており、避ける場所さえも存在しないのだから。

 そう––––これで詰み。

 しかし、当の本人(ゼダス)だけは違う見解だった。

 色の無い視界に周りで降り注がんとする氷槍集に加え、シーナの動きの流れを《天眼》で見据える中、彼は思う。

 

「(この極限状態(ゾーン)………自意識で入れたのは奇跡だが、凄まじいな)」

 

 分かる。手に取る様に分かる。

 氷槍一本一本が届く時間、持ち得る火力、弾くのに必要な火力。

 シーナが考えているであろう策、現在思案した事。

 その全てが理解出来る。明らかに数秒前とは段違いの鮮明さで。

 それがどういう事か。彼だけが分かっている。

 

「(この一瞬が《天眼》を進化させているんだ––––––––ッ‼︎)」

 

 その現象による進化が全てを教えてくれる。

 勝てる。ようやく届けると《天眼》を通し、本能が告げる。

 ならば、それに従おう。全身全霊を賭して、だ。

 

「(いざ、参るッ‼︎)」

 

 本能が吼えると、同時にゼダスが纏う集中力は更に磨きが掛かり、達人の纏う気迫へと姿を変える。

 それに相対するシーナと傍観する三人は––––

 

「ッ‼︎」

 

 ––––息を呑まざるを得なかった。

 だが、止まる訳にはいかない。止まってはならない。

 放つは無数無双の氷槍。

 

「刺し穿てッ‼︎ 《氷神鋭華》ッ‼︎」

 

 周囲全方位から注ぐ氷槍にゼダスは–––––一切、反応を見せず、真っ向から受けた。

 彼の身体ごと地面を穿ち、破砕による粉塵が視界を奪う中、ラウラとフィー、シルフィードは血相を青ざめ、シーナは手応えを感じていた。

 確かに穿った。これで外した筈が無い。

 だからこそ、シーナも血相を青ざめさせる。

 何故………何故、無数の氷槍の中、ゼダスは平然としているのだッ⁉︎

 

「師匠、本当にアンタは凄いよ。これだけの魔力を運用しても、全く息切れしてない。保有魔力量なら世界一かもな」

 

 乱雑に刺さる氷槍の隙間を縫う様に立つゼダスは何も可笑しくない様に言い切る。

 

「でも、今の俺に勝ってるのはその点位だ。剣術、体術、戦力眼––––その全てを俺は極限状態で進化させた。もう遅れを取らない」

「んな、見え見えなハッタリをかます何ぞ余裕やなぁ」

「ハッタリじゃないさ。まぁ、もっとも、アンタの《月夜見》じゃあ、そう見えるかも知れない(・・・・・・・・・・・)がな」

「………どゆう事や?」

 

 ゼダスの意を解せないシーナは訊ねる。

 

「そのまんまの意味だよ。アンタの《月夜見》は万物の情報を詳らかに開示する能力の魔術だ。………確かに強力無比だ。それは認める」

 

 強さを肯定し、ゼダスは《天眼》と化している瞳を押さえる。

 

「そして、この《天眼》も方向性は違えど、同じ様な能力だ。つまり、同じ系統の魔術で戦うんなら、単純な性能差で勝敗を決せれる」

「何を………まさかッ⁉︎」

「あの一瞬で、本来なら緩やかに進むべきだった道を歩み終えた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そう––––未だ、開花し切れていないアンタの《月夜見》を追い越して、な。なら、俺は勝てる」

 

 《天眼》と《月夜見》。

 能力の適応範囲が違うだけで双方、情報解析系統の魔術と分類される。

 解析した決定的な情報を使用者に啓示する。

 そう、それは対象の能力を解析者が勝手に限界決めし、読み解いているのだ。

 《月夜見》が《天眼》を追い越していれば、どれだけ流れを読んでも、絶対的な情報の前には意味を成さない。その読んだ流れをも解析されるのだから。

 しかし、《天眼》が《月夜見》を追い越せば、どれだけ深く情報を視られても、その先を行く流れを読める。情報の先を読める。つまりは《月夜見》を殺せる。

 『情報解析魔術』と良い風に分類されているが、実際の所、この二つの魔術はその側面を宿した『因果系統魔術』とも言えるのだ。

 ならば、単純な性能差で勝敗が決まるのも頷ける。

 異なる因果同士がぶつかり合うのだから、より高位の因果が勝つのは自明の理。

 そして、ゼダスは極限の一瞬で進化を終えた。《天眼》を高めれるだけ高めた。

 ここまで来て、負ける筈が無い。

 

「だから、最後に告げておく。––––退けよ、師匠。もうアンタに勝ち目は無い」

 

 ミストルティンをシーナに向け、言い切る。

 その声音には絶対的な自信が秘められており、冗談を言っている様には見えない。

 だからこそ、シーナは苛立ちを覚える。

 今まで苦行を強いられてきたのは、彼女も同じなのだから。

 確かに魔術に関する才能は生まれながら持っていた。が、それを追い越し切る位の努力と鍛錬を続けて来た。

 何度も失敗し、幾度も膝を折り掛けた。だが、その全てを否定し、完全に止まる事は無かった。

 最強である為に。最高の魔術師である為に。

 ずっと立ち上がり続けて来た。

 そんな荒業を続けて、早数十年経つ。なのに、それを眼前の馬鹿弟子は一瞬の進化で超えたと申す。

 

「………ざけるんな」

 

 許されるか? 否、許されよう筈も無い。

 

「巫山戯んなッ‼︎」

 

 昂ぶった感情任せに着物の袖を荒々しく振るう。

 

「何で………何でアンタみたいな未熟者が、ウチよりも先へと行くッ⁉︎ ウチはずっと強さを求めた。なのに、何故ッ⁉︎」

「そんな事知るかよ」

 

 シーナの魂の咆哮にゼダスは特に一考せずに一刀両断。

 そして、続ける。

 

「師匠は十分強いって言っただろ。だけど、俺がその先へと踏み込めただけで、別に可笑しい事じゃない。と言うか、師匠こそ何勘違いしているんだ?」

「勘違い、やと………」

「ああ、そうだ。アンタは強いが––––最強では無い。俺も師匠もまだ道の途中だ。もっと先まで行ける筈だ」

 

 柔和な笑みと共に発せられるゼダスの言葉。そこに裏が無いのは解析せずとも理解出来た。

 

「だから、アンタよりも強くなったとしても、俺の師匠で居てくれよ。シルフィードとの師弟関係も似た様なモンだしさ」

 

 ヘラッと言い切られ、シーナは一度短く息を吐く。

 

「(あんだけ恋人居って、こんな言葉吐くんかいな………ほんにいけずやわ)」

 

 と思い、唇を三日月状に歪める。

 そうだ、何を勘違いしていた?

 確かに(シーナ)は強い。例外に漏れず、達人の領域に住まう者として。

 が、頂点に至った訳では無い。お得意で、極めたと思っていた魔術でさえも理に至り切れていないのだ。剣術や体術など言うまでも無い。

 なのに、驕っていた。自分は最強なのだと驕っていた。

 ………全く以って、馬鹿な話だ。

 アレだけ弟子(ゼダス)を『馬鹿弟子』と称してきたのに、この為体。師匠としては情けないにも程がある。

 

「………そか。切磋琢磨してこその“師弟”か。確かにウチも未熟やったし、偉そうにアンタに教えれる立場でも無かったんやなぁ」

 

 まるで自分の行動に誤りがあった様に言うシーナは「やけど、」と付け足す。

 

「今は勝負の最中や。決着付けようや、ゼダス」

「そうだな」

「《月夜見》解除」

 

 唱えると《月夜見》は解除。シーナの視界は一般的な物へと戻る。

 

「何のつもりだ?」

「今のアンタには無意味なんよ。なら、展開する必要は無いからなぁ。そして––––」

 

 八咫烏に一層濃い魔力が収束。正直、洒落になってない。

 

「––––こうした方がウチに勝ち目がある。ただそれだけや」

 

 きっと、今の魔力収束で、元から冗談じゃ済まない火力の八咫烏は文字通り“天災”の域に達しただろう。

 つまり、この土壇場でシーナはゼダスの舞台である剣術で戦おうと言うのだ。自らの最大の利点である魔術戦を捨ててまで。

 

「(………いや、違うな)」

 

 多分、シーナは単純な剣術だけでは戦ってこない。勝ち目が無いから。

 ならば、順当に考えて、魔術混じりの魔法剣だろう。それはそれで厄介だ。

 と言っても、ゼダスには《天眼》がある。打つであろう手は全て見据えれるが––––

 

「コッチも同じく、《天眼》解除」

 

 ––––ここは公平に解くとしよう。

 片方の変色していた金眼は普段通りの紫眼に戻る。

 

「なんや、手ぇ抜く気か?」

「違うよ。まず《天眼》は《月夜見》対策に無理矢理進化させたんだ。《月夜見》を解かれた今、わざわざ起動させとく意味が無い。ついでに––––」

 

 言葉の途中でゼダスの眼に異変が起きる。

 ドロッとした紅い液体––––血が流れてきたのだ。

 

「––––瞬間で一気に進化させたから、洒落にならない位の負荷が掛かってたんだ。正直、限界だ」

 

 《天眼》で《月夜見》を超えようと限界に挑み、壁を突破したのだ。尋常じゃない程の負荷が掛かって当然。

 本来、人体に情報解析付随の因果系統の魔術を掛けるのは自壊行動に等しいのだ。

 元々は決められた因果に沿って生きる定めの生命に他から達観しなければ成立しない魔術を掛ける。それぞ禁忌。

 それが例え短時間でも大きな負荷が掛かり、最悪は障害が残る危険性がある。

 だが、シーナはそんな魔術を精密に操作し、数十年掛けっぱなしで生きてきたのだ。まだ先があるとは言え、“未熟者”としては凄過ぎるだろう。

 改めて思い、ゼダスは服の袖で血を拭う。

 

「三回目だ、師匠」

「そやな、やろうか。掛かって来ぃ、ゼダス。不肖の師匠が相手になったる」

「そうか………俺の全力の一刀を以って、アンタを撃ち破るッ‼︎」

 

 瞬時に構えたゼダスは今までのどの速度よりも速い速度で翔ける。それはまさに矢が放たれるかの如く。

 対するシーナも全力で地を砕き蹴り、一気に走ってくる。

 奇しくも放とうとしているのは、互いに刺突。剣技において、最速の出を誇るからこそ、王道。

 距離を詰め、交錯は一瞬。黒騎士の紅剣と金狐の黒刀の切っ先同士が交わった瞬間、物凄い勢いで黒騎士は刎ね飛ばされた。

 それぞ、シーナの重力刀《八咫烏》の影響。爆ぜ狂う重力にゼダスは抗えずに吹き飛ばされたのだ。

 だが、ゼダスもその程度で丸くなる玉では無い。

 

「(無茶苦茶な流れの重力でも、何とか身体を変な方向に捻じ曲げられなくて良かった………これで、一気に攻め立てるッ‼︎)」

 

 宙に浮いたゼダスは足場の無い舞台で無理矢理に体勢変更。まさに大気を蹴る要領で再び迫る。

 普通の体術では不可能な行動だが、起こした本人は雷電を纏っていた。

 聖扉戦術 《複式》の型 雷光・那由多。

 己の筋肉に命令を伝える微弱な電気を自意識で爆発させ、一定時間内に飛躍的なステータスアップを行う技で、無理にでも物理法則を超えたのだ。

 素の最高速に重力加速度を増し増しにしたゼダスは上からシーナを襲う。

 

「はぁあああああぁぁぁぁッ‼︎」

 

 振り切られる神速の斬撃は落雷が如し。

 だが、《月夜見》に頼らずとも、シーナは埒外の世界の化け物。素の動体視力でゼダスの最速の斬撃を視て取れ––––反撃に移る。

 

「––––喰らえるかいなぁああああぁぁぁぁッ‼︎」

 

 刺突撃を放ち終わった体勢から、シーナは即座に組み替え、上から迫るゼダスに対抗するべく、斬り上げの構えを示す。

 雷光・那由多を用いて、物理法則を捻じ曲げ、空中を足場とした曲芸をやってのけたゼダスだが––––いや、そんな曲芸を成し得たからこそ、シーナの斬り上げを避ける術は無い。

 普段よりも速い速度で動いているのだから、体勢を変更するのは勿論、些細な軌道修正を行うに叶わない。

 そして、再び八咫烏に触れれば、間違いなくゼダスの身体は荒れ狂う重力の前に粉々に潰されるのだろう。

 完全な詰み状況。

 だが、ゼダスはそれをも超えてくるのだッ‼︎

 

「(これも織り込み済み。––––––だからこそ、仕込んだ甲斐があるッ‼︎)」

 

 ブンッ‼︎

 シーナの渾身の斬り上げが空気を割く音が炸裂する。

 が––––ゼダスの身体は血飛沫一滴も噴かせずに霧散して消失した。

 

「な………ッ‼︎」

 

 人技じゃあり得ない現象にシーナは驚きの余り、眼を見開く。

 何がどうなったのか。全く理解出来ない中、ゼダスは––––

 

「これで決めるッ‼︎」

 

 ––––ワンテンポ遅れて、宙より襲来した。

 これこそがゼダスの仕組んだ最大の手。

 聖扉戦術 《複式》の型 叢雲・霞桜華。

 速度差を思いっ切り付ける事で、残像を投影する技。

 それをゼダスは空中で用い、シーナの意識を欺いたのだ。

 そして、ミストルティンの紅い刀身はシーナの着物ごと、袈裟を斬り裂いた–––––––––––––が、これも全く同じ様に霧散する。

 

「確かにアンタは凄いわ………体術だけで残像を作り出す。普通なら、成し得る事は出来ん境地や。ウチでも辿り着けとらん。充分に合格点やろ」

 

 斬り裂かれた端っこは文字通り、霧と化したシーナの身体はまるで時間を巻き戻すかの様に繋がり、完全に元通りとなる。

 

「やが、それは体術のみ、で考えた話や。魔術を絡めたら、ウチも出来る」

 

 己の肉体を水属性系統の魔術で水蒸気化し、物理的な攻撃を完全無効する。

 そう語られたシーナの魔術の名は《水泡乱廻》。

 

「ま、生態系的には危険極まりないから、乱用はしたく無いんやがな。でも、これで王手(チェックメイト)や」

 

 全力を振り切ったゼダスには即座に反応出来ないからこそ、シーナは慢心せずに八咫烏を打ち込む。

 対応する暇も、抵抗する刻も無く–––––盛大に血を噴かした。

 

 

 

 

 

 そう–––––––––––––––シーナの身体から。

 

 

 

 

 

 

「ゴフッ………」

 

 ザックリと腹部を斬り裂かれたシーナは痛みよりも驚きが上回っていて、身体の痛みは何も感じない。

 

「な、なんや………今のは」

 

 シーナの動体視力を以ってしても、視るに叶わなかった。

 ただ、結果だけを掻い摘んでみると–––––尋常じゃない速度でゼダスが剣を振り抜いた事だけは分かった。

 

「聖扉戦術 《複式》の型 淡雪・燕返」

 

 返しの刃に全力を使い切る追撃及び反撃用の剣技。

 たった今、ゼダスが見出した極地の剣術だ。

 

「さっきの状況なら、俺は負けていたさ。だが、運良く雷光・那由多でステータスアップしていたからこそ、この技を成功させられた」

 

 神速にして必中の斬撃。

 それを成功させるには普段の能力では不可能。まぁ、これからも進化していけば、普通に使える様にはなるのだろうが。

 

「––––で、どうだ? 俺の勝ち、で良いのかな?」

「––––ああ、そうやなぁ。今回はウチの負け、や………」

 

 シーナの敗北宣言と共に、戦いの場だった世界の終焉は消え去り、先程までいた食卓へと景色は戻る。

 と言っても、傷が癒えている訳でもないが。

 

「凄かった………」

「ああ、アレが………達人同士の戦いなのか………」

 

 一緒に戻されたフィーとラウラは感慨深くに呟く。

 そして、シルフィードは––––ホッと息を吐いた。

 

「良かった………本当に良かった」

「–––––––いや、それはどうやろうなぁ?」

 

 独り言を汲み取ったシーナは己に高位治癒を施し、立ち上がる。

 不穏な響きの言葉に引っかかるのはシルフィード。

 

「それは……どういう事だ?」

「ゼダス。アンタは気付いとるやろ?」

 

 急に話を振られたゼダスは明後日の方向をジッと見詰めていた。

 

「誰かが………このシーナの牙城に侵入してきた、のか?」

「ご明察。バッサリ斬られた時に結界が緩んでなぁ。ちょっと浸入許してもうたがな。しかも、其奴らは全員が執行者に匹敵する連中や」

「「⁉︎」」

 

 シーナの言葉にラウラとフィーは驚きを隠せない。

 執行者と言えば、ゼダスやシルフィード、昨晩のヴァイスが座する位だ。

 つまりは達人域の化け物達。それが浸入してきたとなると––––

 

「–––––危険、だよね」

「ま、そーいう事になるわな。やから、迎撃に打って出る」

 

 先行きを話すとゼダスとシルフィードは執行者時代の気迫を纏う。完全に戦闘モードだ。

 

「ゼダスとシルフィは一気に攻勢に出て、対応してやってくれ。そして、ラウラとフィーは––––ウチの近くで大人しくして欲しかったが、そういう訳にも行かんか?」

「勿論だ。ゼダスだけに戦わせるものか」

「ん。私も強い。足手纏いには成らない………と思う」

 

 決意を示す二人にゼダスは顳顬を抓る。

 分かっていたのだ。

 ここまで言うと引かない事に。

 そして、断れない事に。

 

「………分かった、分かったよッ‼︎ 連れていけば良いんだろうがッ‼︎ でも、一つ言っとくぞ。危険だと判断したら、早急に退け。良いな?」

 

 ゼダスの了承と注意を聞き届けたラウラとフィーは無言で頷く。

 

「んじゃあ、頼むで。ウチは治癒し終わったら、結界張り直す。終わったら助太刀に行ったるから、せめて耐えろや」

「了解。それじゃあ––––」

 

 ゼダスは戦線について来る三人の顔を見渡した後、高らかに宣言する。

 

 

 

 

「––––不届き者をぶっ叩きに行きますかぁッ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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