闇影の軌跡   作: 黒兎

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侵入者迎撃作戦 第一陣

 日が昇り切った御昼時。

 深い森林の中、全速力で走る三人がいた。

 

「何故かは知らんが、結界が柔になった瞬間があって良かったなぁ」

「ええ、お陰で突破出来たわ。––––と言っても、柔になったとは言え、物理攻撃が殆ど通らなかったのは痛かったわね。今回の功労者は間違いなくハルでしょう」

「えへへ……こんな私でもお役に立てて良かったです。だから、キョウ君は私に譲って–––––」

「––––ダメに決まっているでしょうッ‼︎ キョウは私の許婚なのッ‼︎ 貴女も知ってるでしょう⁉︎」

「そ、そんなに怒鳴らなくても………。私だって………」

 

 一人の男を巡り、争う二人の女子。

 何か、似た様な場面を嫌ほど見てきた気がするが、この三人がシーナの語る侵入者。

 だが、この場面だけを切り取ると、どう見ても緊張感が足らない様に見受けられる。ここ––––敵の本丸なのに。

 

「あー、テメェらは少し緊張感持とうな、うん。つーか、この階段の先に––––目標(ターゲット)が居るのか?」

 

 男––––キョウは無理矢理に等しい位の話題転換をし、二人に振る。

 

「多分、そうなんでしょう。にしても、長いわね。昇るのだけでも苦行じゃない」

 

 片方の女––––シホは明らかな倦怠感を垣間見させ、言う。対し––––

 

「ええ、居ますね。呪術で感知したところ––––確実に居ます。というか………」

 

 小柄な方の女子––––ハルも何とか足らない走力で喰らいつこうと頑張りながら、言葉に詰まる。

 まるで口にするのを恐れる様な。先を言うと取り返しの付かない事になる様な………

 そのハルの様子を察したキョウは気遣いながらに声をかける。

 

「どうした? 何か不安な点でもあったのか?」

「………………非常に不味い展開なのですが………………………」

 

 そして、最後までその言葉が発せられる前に三人は思いっ切り靴底でブレーキ。全速力を無に帰した。

 何故、止まったのか。それは数百段先から濃密な殺気を感じたから。

 その殺気は平然と告げてくる。

 

 

 

 ––––その先は地獄だ。

 

 

 ––––よく考えた上で立ち入れ。

 

 

 

 と。

 

「………多分、もう直ぐ相手と邂逅します。敵影の数は二人。物凄い速度で––––翔んできます」

「「は⁉︎」」

 

 全く意味の分からない言葉に顔を見合わせる三人。

 だが、その一瞬の隙が命取りだった。

 

「「「ッ‼︎」」」

 

 ほぼ本能的な回避。形振り構わず飛び退いた三人は、先程までいた所に着弾し(・・・)、土煙を上げた正体を確かめるべく凝視する。

 ノソッと立ち上がる黒い影。

 まだ晴れない土煙の中、影は言葉を吐く。

 

 

「––––ったく、漸く休めるかと思ったのに………良い迷惑だぜ、本当」

 

 

 紛ごう事無き、男の声。それにキョウは––––

 

「(初っ端から、最大の貧乏クジかよ………)」

 

 ––––聞き覚えがあった。しかも、随分最近に。

 あの時は………帝都地下で一方的に聞いていただけだった。

 その前に他のツテを使い、個人情報を模索していた対象(ターゲット)

 そして、分かったのは、未来がまだまだ存在し、誰も達せれないであろう領域に踏み込める埒外の才能の塊だという事だけ。

 今回の作戦(ミッション)において、分かっていた中では最悪の相手。

 結社《身喰らう蛇(ウロボロス)》が執行者。No.Ⅱの《天帝》ゼダス・アインフェイト。

 本人が侵入者たる三人を斃すべく、ここに推参した訳だ。

 

「わざわざ、ここを訪ねてきたって事は、俺––––とか、もう直ぐ到着する奴の事も知ってるんだろ。だから、早く名乗れよ。それ位の猶予はくれてやる」

 

 傷だらけの身体で敵の渦中に飛び込んだゼダスは余裕綽々に言うと、三人は警戒度を最大まで引き上げる。

 一見、ゼダスが完全に不利だ。

 四方––––というよりは、三方を敵に固められているのだから。

 だが、一切の弱音は吐かない。

 何故なら、勝てるから。今のゼダスならば、執行者級の相手でも勝てる絶対的な自信があるから。

 

「はっ………随分と余裕らしいな」

 

 キョウは身に纏う漆黒の着物をはためかせ、ゼダスの眼前に立つ。

 

「まぁ、余裕だからな。俺の師匠はそれでも迎撃に四人寄越したが、別に要らないし」

「そうだ。別にあの二人は必要ないだろう。私達でカタを付けれる」

 

 ガッと石造りの階段を下ってきた金髪碧眼の騎士––––元執行者のNo.Ⅳ《聖王》シルフィード・アルトリア。

 たった一人が増えただけで、三人にとっては絶望的な状況となった。

 確かにゼダス単体ならば、どうにかなったかもしれない。周囲から一気に押し切れば、斃し切るまでは行かなくとも、動きを封じる事は出来ただろう。

 だが、シルフィードはそれを良しとはしない。良しとする筈がない。

 前門の虎、後門の狼。

 その言葉が寸分狂い無く適応される状況なのだ。万が一でも勝機は無いに等しい。

 

「まさか………ッ‼︎」

「––––読まれていた、という事ね」

「コッチには後出しジャンケン並にチート性能の奴が居るからな。読むのは遅れを取らないと思うぜ」

 

 ゼダスが語るのは勿論、シーナの事である。

 しかし、三人にその事を推し量る術は無い。

 でも、今どうすべきかは理解できている。

 ただ––––生き残る為に死力を尽くすのみだ。

 

「襲撃に迅速に対応されても問題は無いんだよなぁ。だってさ––––俺がアンタを斬り伏せればいいんだろ、《天帝》」

「ほら、知られてる。で、お前らは一体何な訳?」

 

 早く答えろよ、面倒くさくなって斬ってしまいそうだ。

 言外にそう言わんとするゼダスにキョウは肩を竦める。

 

「はぁ、若いモンは我慢ってのを知らねぇのか?」

「………見たところ、俺とお前じゃ、年齢は大して変わんないだろ」

「それもそうか」

 

 何時まで経っても、余裕の姿勢を崩さない男に疑問を覚えるのはゼダス。

 ゼダスの戦力眼を以って、確認した所、眼前に立つ男–––––と、二人の女子は確かに強い。シーナが「執行者級の相手」と称しただけはある。

 だが––––いや、だからこそ、分かるはずだ。この状況が万が一でも勝機が無い事に。

 そして、流れ的にはシルフィードが相手しそうな女子二人は十分過ぎる程に危機感を覚えているのは、遠目で見ても明らか。

 それでも、この眼の前の男だけは違う。絶望的な状況でも飄々としているのだから。

 その姿勢は––––まさに執行者時代のゼダスにそっくり。怖いくらいに。

 

「んじゃあ、名乗ってやる」

 

 そう言いながら、男は漆黒の着物から得物を取り出す。

 十手の様に二股の刃を持つ短刀と匕首。さしずめ、短刀二刀流が戦闘スタイルなのだろう。

 

古代遺物(アーティファクト)をこの世から欠片一つも残さずに駆逐し切る事を主な目的とした組織、《倶利伽羅ノ剣》が一人。玖霧野(クギリノ) (キョウ)。気軽にキョウって呼べば良いさ」

「今から斃す相手に気軽もクソも無いだろ………」

 

 若干、ゲンナリするゼダス。キョウと関わる時間が長くなる程に自分のテンポが掴み辛くなっていく。

 

「(天性の人格がそういう奴は少なからず居るけど………本当に厄介だ)」

「じゃ、始めるとしようぜ」

「そうだな………参る」

 

 短くゼダスが復唱すると、無加速神速の剣技が起動。

 瞬間で距離を詰め、石造りの階段という足場の悪い場所での戦闘が始まった。

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

「彼方の方は戦闘を開始した様ですね。………交渉で何とかしてみるって言ってたのに、師匠は………」

 

 迎撃に打って出る道中にゼダスが発した言葉と全く違う行動にシルフィードは苦笑。

 だが、それは分かっていた事だ。

 どれだけ穏便に事を済ませようとしても、眼前に強敵を置かれては我慢出来ない。何故なら、戦う事で己の力に還元するのだから。

 そういった所が酷く魅力的に感じるシルフィードは師匠の尻拭いがてらに問う。

 

「貴女方に一つ質問です。––––何故、此処を知り、攻め入れたのか。聞かせてもらえますね」

 

 殺意にも似た気迫を纏い、尋ねるその姿は異名通り、“王”の風格。断る事を断り、絶対的な正義の体現者。

 それにシホとハルは恐怖を覚え、膝が笑い始める。

 しかし、それでもシホは何とか取り乱さずに、

 

「………そう言われて、答えるとも?」

 

 細やかな抵抗。

 その行動にハルは「それどう見ても愚策ですよねッ⁉︎」といった風にあわわわと慌てている。

 

「何か、勘違いをしてませんか?」

「勘違い? 一体、何の事かしら?」

「この私が直々に問うているのです。––––貴女方に拒否権があるとでも?」

「「ッ‼︎」」

 

 シルフィードの言葉にシホとハルは全身の産毛が逆立つ様な錯覚を得る。同時に先程のキョウの情報に文句を付けたくなった。

 何が最強の敵はゼダス、だ。どう見ても違うだろう。

 

 

 ––––眼前に立つ“王”こそが最強に違いない

 

 

 少なくとも、相対する二人にとっては必定の事実。あんな傷だらけの黒騎士なんて、比べるに値しない。

 だが、それでも挑まねばならないのだ。

 背後はキョウが足留めしてくれている。

 ならば、二人掛かりでもあの“王”を打ち倒し、援護に回る必要がある。

 それが思い付く限りで最高の策だ––––––––––––––––––––––––が、そんな物が通じる相手ならば、ハナから苦労しない。

 最早、侵入者に対する対策は済んでいると考えて相違無いだろう。

 後ろには、《天帝》ゼダス・アインフェイト。

 前には、《聖王》シルフィード・アルトリア。

 退くも進むも許されないであろう状況に加え、確かにゼダスは言った。

 

 

 ––––師匠(・・)は迎撃に四人(・・)寄越した、と。

 

 

 事前情報では、確かに四人がリストアップされていた。《天帝》に《聖王》に《餓狼》と番外使徒(イレギュラーアンギス)。………まぁ、一人は居るかも定かでは無いのだが。

 しかし、それでは一人、数が多い。迎撃に寄越した四人+師匠=五人なのだから。

 つまりは情報違いが少なからず発生しているという事で、仮にこの鬼門を突破しても、奥には更に不明の三人が待ち構えていると言う事。

 確かにここで《天帝》と《聖王》を討てれば、目下の最大級の危険は消える。

 が、間違いなく、それは死力を賭しての特攻をして、漸くスタートラインに立つ戦術。最初から捨てていた作戦だ。

 ならば––––、とシホはシルフィードの威光から眼を逸らす様に見る。ゼダスと死闘を繰り広げているキョウ–––––と、今から共闘するであろうハルを。

 生憎、この場面––––というか、指令を成功させるには、ハルの呪術は必要不可欠。

 ならば、最高の策を取る前に今出来る最善を選ぶ。

 

「––––ハルッ‼︎」

「は、はいッ‼︎」

「この埒外の化け物の相手は私とキョウで十分よ。だから––––貴女だけでも早く行きなさいッ‼︎」

「わ、分かりましたッ‼︎」

 

 シホの気迫に押され、ハルは全速力で駆け始める。が、勿論、シルフィードは良しとしない。

 止めようとする行動にシホは黒白の双刃で斬りかかる事で中断を止むを得なくさせた。

 黄金の長剣で黒白の双刃を受け止めたシルフィードは苛立ちと賞賛の混じった声で––––

 

「ほう………勝ち目の無い戦いに自暴自棄で身を投じずに、可能性が僅かにでもある方に賭けた、と。良い策です。が––––私の手を煩わせるな、下郎」

 

 ––––段々と口調が変化していくのと同速で纏う氣の色が変化し始める。

 本来、氣という物は眼に見えない。所謂、不可視の物だ。

 しかし、達人クラスの手練が相手となると本能的に、感覚的に“視え”てしまう。

 それを裏付けるかの様にシホには視えていた。

 神々しい“王”の威光が如くの気が、濃密な死を体現した“暴君”の漆黒の氣に。

 そして、一層濃く感じる。

 

 

 

 ––––そこに居るのは全てを敷く“王”であり、人では届かない“竜”なのだと

 

 

 ––––そして、一歩でも立ち入れば、そこは竜の顎門なのだと

 

 

 

 全身から血の気が引いていくが、退く訳にはいかない。

 自分の身体を捧げる相手だって、今は力の限りを尽くして己が使命に真っ当しているのだから。

 

「何時までも上から目線で言うのはどうかと思うわね。その澄まし顔なんて、直ぐに剥いでやるんだからッ‼︎」

「萎縮––––しても、そこまで啖呵を切れるのは褒めましょう。が、言葉に責任は持ちなさい。––––さぁ、始めましょう」

「言われなくてもッ‼︎」

 

 ここに《聖王》シルフィード・アルトリアVSシホ––––本名を(オボロ) 志星(シホ)と呼ばれる少女の壮絶な––––が始まった。

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

 走る。

 

 走る。走る。

 

 走る。走る。走る。

 

 ただひたすらに走り続ける。

 

 背後は見ない。見てはならない。

 

 見たら、助けに行きたくなるから。

 

 ………と言っても、助けに行ける程に強い訳では無いが。

 

 

「はぁ、はぁ………階段長過ぎです」

 

 

 走り過ぎて、足裏から刺す様な痛みが来る。

 普段から、こんなに走る事は無いからだろう。身体が悲鳴を挙げている。

 でも、止まれない。止まって––––キョウとシホ(二人)の想いを切るのは絶対に駄目だから。

 この作戦の完全成功は間違いなく、(ハル)に掛かっていると言っても過言では無い。

 ならば––––止まれないのだ。

 

 

 

 

 

 ––––と思っていた矢先、感じた気配に脚を止める。

 

 

 先程の二人に比べれば、微弱過ぎる気配。

 だが、しっかりと感じるし、相手側も隠すつもりも無いのだろう。

 

「………ん。多分、あいつ、だよね?」

「そうだな、フィー。人外馬力の二人(ゼダスとシルフィード)が、残りの二人を相手取っているのだろう。………というか、ゼダスはもうちょっと速度を落としても良かった様な気がするな」

「ちょー同意。序でにシルフィードも追随していったのが無性に腹立つ。どうする、ラウラ? もし、ゼダスとシルフィードが戦わずにイチャイチャしてたら」

「そうなったら、今度こそ本気で制裁を加える。フィーも力を貸してくれるな?」

「ん。利害が一致してる」

 

 階段を駆け降りてきたのは青髪の大剣少女と銀髪の双銃剣少女。

 人数としては二人。人数的に単独のハルは苦戦を強いられる筈だが––––

 

「(見たところ………執行者レベルの手練では無い? なら、私の呪術で押し切れる)」

 

 ––––さして、戦力差を感じない。寧ろ、二人がかりでも押し通れる自信がある。

 二人の死角で、己の武装である呪符をスッと取り出し、気付かれぬ様に構えると、ハルは口を開く。

 

「貴女達は誰ですか? 私としても、事は穏便に済ませたいので、早急に道を開いて頂けると有難いのですが………」

「そう言われて、『はい、どうぞ』って通すと思う?」

「その上、名乗れというからには、自分から名乗るのが筋だろう」

 

 提示した案は瞬時に一刀両断され、もう手は一つしか無い。

 実力行使で突破する。

 それも背後で時間を稼いでくれている二人の為にも、迅速に。

 

「良いでしょう。私はハル。本名を鬼柊院(キシュウイン) (ハル)と言います。貴女達は?」

「私はラウラ・S・アルゼイド。ただの一学院生さ」

「フィー・クラウゼル。所属は右に同じ」

 

 名乗った。交わす言葉はもう一つも無い。

 ならば、どう状況が動くかは必然。

 

「それでは––––参りますッ‼︎」

「かかって来いッ‼︎」

「何が何でもここは死守するッ‼︎」

 

 

 

 

 ––––この三人の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、ようやく修行も終わり(?)、延長戦たる侵入者迎撃作戦が開始されましたッ‼︎
修行編で色々と齎してくれますよ、この先は。


まだ、設定集には入れないので、仮メモ程度に新キャライメージ発表を。

設定自体は『鉄切鋏』様から頂いた物なのですが、どういった外見かは言及されていなかったので、脳内で組み立てた結果、

シホ→天童 木更(ブラック・ブレット)
ハル→諸星 小梅(落第騎士の英雄譚)

これがしっくり来ました‼︎(多分、イメージは違う)


序でに報告。多分、次話の投稿は遅れます。
現実では考査前ですし、この作品のオリキャラ人気総選挙の統計を取って、結果発表の小話を書かなきゃなりませんし。
投票はまだ45分位は受付中ですよ。6月いっぱいなので。

これからも『闇影の軌跡』共々よろしくお願いいたしますm(__)m
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