色々と書いてたら、更新が………と焦っていた『 黒兎』です
筆を入れれば入れる程にこの修行編(?)の初期プロットが捻じ曲がっていくんだが………せかいのほうそくがみだれる
まぁ………大方は決まってますしね、きっと大丈夫だよ、多分(震声)
「(––––ったく………本当に面倒な相手だなぁ)」
大きな木々が乱立する森林部を凄まじい速度で駆けるキョウは内心、毒突く。
キョウも十分に走力はある。きっと、一緒に来ていたシホやハルよりは余裕にある。
が、それでも–––––
「––––待ちやがれぇぇぇぇえええぇぇぇッ‼︎」
––––背後から全速力で迫ってくる相手、ゼダス・アインフェイトを振り切るに叶わない。
木々が乱立しているからこそ、障害物や遮蔽物が多いから、逃げ切れるかと思ったが、誤算だった。
単純な走力なら、ゼダスの方が速い。
だが––––それでも、完全には追い付けていない。
それを紐解くにはキョウの動き方に理があった。
「へぇ、確かに速ぇな、ありゃあ。ここが遮蔽物無しの更地だったら、完全に捕まってるなぁ、こりゃ」
感嘆混じりの呆れ口調で呟くキョウは––––まるで霞の様に消える動きで逃げているのだ。
しかも、不規則に並び聳える木々が味方し、一時でも気を抜けば、確実に見失うだろう。
これは魔術や呪術の類では無く、純粋な体術の賜物。
そして、それはゼダスにも理解出来ており、真似しようと思えば真似出来る。………まぁ、普段から使っている技能で無いから、流石に練度は劣るだろうが。
「(相手の意識の隙間に入り込む事で、消えた様に錯覚させる体術………確か、東洋の古風流派の『抜き足』って言ったか。本当に厄介だなッ‼︎)」
激しく毒吐くはゼダス。
ゼダス本人は意識に隙間なんぞを作る事も見せるつもりも金輪際無いのだが、そういう物は否が応でも発生してしまう物。どれだけ注意しようが綻ぶに決まっている。
だが、それはほんの僅かな物で付け入るのは容易では無い。が、抜き足を用いれる所から、相手であるキョウは、そういった人の綻びを見付けるのに長けているのだろう。本当に厄介だ。
しかも、逃亡と追走を繰り広げる場所が森林部な所が、ゼダスにとってはまず不利だ。視線を外させるのに、ここまで適した環境はそうそう無い。
ならば–––––
「あぁ、面倒くさい。ちょっと……派手に行きますかッ‼︎」
–––––何かに思い至ったゼダスは鞘からミストルティンを抜刀。血を捧げ、即座に能力の封印を解く。
「形状変化––––大剣」
ズゥンと奇怪な音と共にミストルティンは形を変え––––紅蓮の大剣を創り出す。
後方下段に構え、振り被ったゼダスは、紅蓮の大剣を思いっ切り振り抜く。
すると、ゼダス本人の魔力が伝い––––真紅の刀身は拡張。憶測、十数アージュの刀身は––––キョウにとっては、迫り来る“鬼神”に同等。
流石に––––怖い。
「確かにアレなら、抜き足自体は攻略出来るだろうが………流石に無茶苦茶だなッ‼︎」
バキバキと木々を破砕していきながらに迫る所から、尋常ならざる火力を帯びているのは自明の理。
「ぬぅおりゃぁあああああぁぁぁぁッッッ‼︎」
太く紅い一線が横に迸るや否や、振り切られた木々は切れたり、砕けたりなど、見るも無惨な状態へと周囲を誘う。
まさしく焼野原。
辺り一帯の草花木を全て撥ね飛ばした為、殆ど遮蔽物が無くなった。
つまりはキョウが使ってくる抜き足も機能し辛い訳だ。
「これで逃げ切れないだろ。本当、手間かけさせやがって」
大剣から片手大の直剣に形状を変化させたゼダスは剣の切っ先を向ける。
発した言葉通り、キョウに逃げる道は無い。
頼みの綱の抜き足も遮蔽物無しでは、ゼダスに通用しないだろうし、単純な戦力を鑑みても、差は歴然。
だが––––やれる事はある筈だ。
「随分と荒々しい攻略法だなぁ。もうちっと穏やかな攻略法は無かったもんかね?」
「戯れるな、侵入者」
急に口調の変わったゼダス。完全に臨戦体勢に入った合図。
「ただ、俺はお前という存在を打ち返せば良いって言う命令だ。遠慮無く、叩き潰してから、結界の外に捨ててやるよ」
「へぇ、ンなに簡単に行くモンかね?」
「あ?」
流石に余裕さ加減が鼻に付き、ゼダスはイラつき混じりに短く声を出す。
何故、ここまで余裕で居られるのか? イラつきをも超え、ある意味で畏怖する。
きっと、そこにキョウという人物の強さの根源があるのだろう。
しかし、推し量る術は無いし、推し量る必要も無い。
本気で斃しに掛かれば良い。慈悲など与えずに、屠る。全力で屠る。ただ、それだけだ。
その覚悟を瞳に宿すゼダスにキョウはフッと笑みを浮かべ、手にした短刀二本を構え直す。
「んじゃあ、逃げるのも飽きてきたし……マトモに戦ってみるか」
「言ってろ……そして、サッサと斃されろ」
「やれるもんならやってみな」
御丁寧に煽りも忘れずに送ってきて、逃走追走劇から始まる戦闘劇が幕を開ける––––––––––––––
―――*―――*―――
「はぁあああぁぁぁぁぁッッッ‼︎」
「ふッ‼︎」
異なる気迫を発し、殺し合いをするシホとシルフィード。
何方が有利かは––––言うまでも無かった。
「(強い–––––––強過ぎるッ‼︎)」
黒白の双刃を振るうシホはそう思わざるを得なかった。
単純に振るっている得物の数はシホの方が2倍。一刀流と二刀流なのだから当然だ。
普通に考えて、二刀流の利点である手数で押し切れば、一刀流なんぞ相手にも成らない。
が、そのアドバンテージを含めても、シホはシルフィードに届かない。
それ程にまで高い壁。まさに天をも穿つ絶壁。そんな化け物をどう超えろと?
勝てない。
そんな事は打ち合う前から分かっていたが、実感すると尚更に分かる。––––彼女は絶対的過ぎる。
元から持っていたであろう才能もさる事ながら、それを更なる高みへと昇華させる為の死に物狂いの努力は打ち合う度に理解出来てしまう。
天賦の才能に血の滲む努力。
その二つが介在する彼女はまさに“最強”。《聖王》の異名を冠するに相応しい。
「………確かに貴女は凄いです。師匠以外で私の剣に対応し切れるとは思いませんでした」
絶望的な思考に挿し込まれる声。それは眼前に立ち合っているシルフィードから発せられた、純粋嘗胆の言葉だ。事実、その言葉に一切の含みは無い。
「はっ………嫌味? 私は防戦一方よ。そうでもしなければ、対応出来ないんじゃ、ハナから戦闘とは呼べないわ」
シルフィードの言葉に心底、気分を害したシホは吐き棄てる様に言う。そして、その言葉にも裏が有る訳では無い。
事実、攻めあぐねている。一瞬でも、防御を緩めれば、それだけで勝負を決められる。
………そう、それは不味い。
何故ならば、最初から勝つ事など度外視だからだ。
実力差が余りにも離れていて、勝てないのならば、勝つ事を織り込むのは御門違い。
まず、今回の作戦にたった一人の勝利は要らない。最強の切り札であるハルを––––結界の中枢に届ければ勝ちだ。それで集団として、計画としての成功が確定する。
つまりは、シホはここでシルフィードという大き過ぎる不安因子を足留めするのが一番の役目。生き残り、止めていれば良い。………もっとも、その為に死力を尽くさねばならないのだが。
「ですが、この私の剣の力を去なす技能は素直に驚きです。まさか、
「だ・か・ら、それを嫌味って言うのよッ‼︎」
声を荒げると同時の攻撃だったが、それがシルフィードに通ずる訳も無く、至って平然に防がれた。
………もう薄々気付いてはいるが、この相手の裏を掻き、不意を突こうなどというのは、些か無理な話だ。
だからと言って、正面から戦っても勝ち目も無ければ、意味も無い。
「(本当に面倒な相手ね………隙が無さ過ぎる。崩すにしても、一切の綻びが無いんじゃあ、無理難題と同義よ)」
「その表情––––もう理解出来てはいるのですね」
「………何がよ」
「貴女方に勝ち目が無い事ですよ」
相手にまで露見している。………隠すつもりも無かったし、事実その通りだ。
だから、見栄を張るつもりは無い。
「––––ええ、勿論。勝つのは愚か、痛み分けに持ち込むもの不可能な気がするわね」
「ならば、即座に武器を捨て、投降しなさい。そうすれば、お互いに苦労せずに済みます」
「その通りよ………でもね、譲れない物ってのが私達にも有るのよ」
確かに弱者が強者に刃向かうのは愚策だ。何故ならば、勝てない故の被害を産むから。
だが、弱者には弱者なりに譲れぬ信念がある。
「だから、私は投降するつもりは無いわ。だって、信念を譲りたくないもの。分かる?」
「––––ああ、分かっていました。命懸けで向かってくる相手に『投降せよ』などという甘言が通じるとは思ってなかったですし」
「なら、何で聞いたのよ。無駄だって分かっていた口振りじゃない?」
答えが明白だったのならば、シルフィードの問いは無意味に等しい。
しかし、そこには明確な意図が存在していた。
「私は別に戦闘が好きという訳ではありません。寧ろ、平和主義者です」
「アレだけ無慈悲に殺そうとしてきた奴の言う言葉ですかね、ソレ」
「まぁ、降り掛かる火の粉は払い退けるのが常識ですしね––––と、話が逸れました。本題に戻しましょう」
シルフィードは戦闘中だというのにも関わらず、一度咳払い。区切ってから、話し始める。
「私には––––叶えたい夢があります。それも………愛し、愛してくれた彼を裏切る様な夢が」
「––––ッ‼︎」
発せられたのは………ただの言葉だ。
別に内容に驚いた訳では無く––––そこに込められた真意が眼に驚いた。
そう、その真意は恋い焦がれた少女が持つはずも無い–––––“王”の意志。
私情の一切を挟まず、ただ冷徹に支えてくれている者のみを救おうとする盲目の王さながら。
そして、シホは思う。
「(この女………一体、どんな夢を見てるのよッ‼︎)」
まだ、具体的な内容を聞いてはいない。
しかし、シルフィードには、常人が想像する事も許されていない光景を眼にしている様に思えるのだ。
まるで、大人になれば“不可能”だと理解に及び、一考する事も無い様な幼稚で、稚拙で、理想的な願い。
だが、叶う事がもしも“可能”ならば––––––––とシルフィードは思う。
「––––私は全てを背負う世界の“王”になる。善も、悪も、正義も、全てを内包した王になる。そうすれば––––もう、彼が進もうとしている“
「貴女の願いは………世界平和だ、って言うの?」
「半分は合ってますが、半分は外れてますね。確かに、平和になれば“正義の味方”の需要は無くなるでしょうし、良いのですが………それは無理です。だから––––––私が世界の全てをそのままそっくりに従えてしまえば良いのです。そうすれば………彼が斃すのは数多の罪では無く、私になる。そして、私の人生は完成する」
「なっ………貴女、自分が何言ってるのか分かってるのッ⁉︎」
悲鳴に近い声を漏らすシホ。これは当然の反応だ。
何故ならば、愛する者の為に己の願望、人生を捧げ、その上に生命すらも賭け値に含んでいるのだから。
そこまで行くと、“狂気”の化身だと疑いたくなるレベルだ。
しかし、シルフィードは嘘を発していない様に見える。
これで本当ならば、彼女は正気で無いと断定出来、嘘だとするならば、彼女の嘘を看破するのは不可能という事になる。
何方にせよ、面倒なのに変わりは無い。
「ええ、それは勿論。私が真に求めるのは、愛する彼の幸せです。そして、それを彼に注いであげれるのならば、
「………そんなの……間違ってるわ」
シルフィードの言葉に俯きがちに肩を震わせるシホ。
彼女は知っていた。自己犠牲の愛は、もう片方に責任を押し付けるのと同義だという事に。
本当に彼という存在を愛しているのならば、彼の願いを信じ、寄り添うのが筋だ。
だが、その願いを否定し、『彼の為だ』と語り、偽りの願望世界を押し付ける。
それは––––愛では無い。少なくとも、純粋な愛では無い。
そんなの………認めてはならない。絶対に。
「貴女の思い描くのは、ただの妄想よッ‼︎」
………思えば………………出会って、そこまで経ってない相手の夢に、何故こんなにも本気に否定をぶつけているのだろう。
そう思うシホだが、言える事はある。
例え、他人だとしても––––この女の願いを壊さねばならない。
別に彼女を救うつもりは無いのだが––––
「––––勝って、その願いを滅殺する。貴女という存在を縛る呪縛を斬り払うッ‼︎」
「ふっ………随分と親切な敵も居たものですね。まぁ、良いでしょう。手始めに––––貴女から潰して、王になります。叛逆の民を更生するのも私の役目ですから」
死力を賭してでも、足留め––––などと弱音を吐かずに、全力で勝ちに行く。
虚数の彼方に等しい確率とはいえ––––
–––––やらねばならないのだから。
―――*―――*―――
シルフィードの壮大な願望を壊すべく、シホが全力で挑みかかる数分前。
シーナの居城に続く階段を護り抜くべく、ラウラとフィーは全身全霊を以って、侵入者––––ハルという少女を相手していた。
呪符を用いての奇術の数々。その利点をふんだんに取り入れた完成された立ち回り。
それらが合わさっているハルは、外見年齢からは想像も付かない様に実戦慣れしていて、正直なところ、ラウラもフィーも単独では手に負えない程に強い。
しかし、それでも何とか喰らい付けていた。
原因は––––特科クラスⅦ組のみの特権とも言える戦術リンク。
戦闘の高速の流れによる思考を共有出来る最大の利点が故に、何とか行き繋げているのだ。
「くっ………中々強いな」
「ん。強いというよりかは、厄介。奇妙な術が邪魔くさ過ぎ」
フィーの言葉はよく分かる話だ。
ハルの呪術は、単純に炎や氷、雷撃などを放つだけでは無く、ゼダスの
両者ともに近距離アタッカーなラウラとフィーにとっては、相手取るに厄介な魔術師––––いや、呪術師タイプ。
先に行ったゼダスとシルフィードの為にも––––いや、シルフィードの為では無いが、ここは勝たねばならない。
だが、勝たねばならないのはハルも同じだ。
「(この二人さえ突破すれば………私たちは勝てる。だからこそ、負けられないッ‼︎)」
作戦の概要は頭の中に登録済みだ。故に、作戦の完成の末の姿まで見えている。
だから、ここは何が何でも押し通る。
そうして––––属する組織、《倶利伽羅ノ剣》の中での《穏健派》の地位を少しでも上げねばならないのだから。
何時までも、虐げられる訳にはいかない。
「––––勝つッ‼︎ 何が何でも勝つッ‼︎」
決意を露わに、迫る二人を駆逐しようとするハル。そして、迎え討とうとする二人。
互いの全力が交錯するその寸前––––––ソレは現れた。
「「「––––ッ‼︎」」」
驚きの余り、三人の動きは思いっ切り制動。急に現れた極大級の反応のする階段上部を見た。
そこにいたのは、天狐が如き、美貌を纏った女性だ。
結社《身喰らう蛇》の番外使徒にして、《第零柱》シーナ・ゼロ・フリスティア本人だ。
迎撃という命令を下しておきながら、何故前線に出てきたのかがラウラとフィーには理解出来なかったが、表情からは察せれる。多分––––滅茶苦茶に焦っている。
「アンタかッ⁉︎ 侵入者ってんは⁉︎」
急に叫ばれ、殆ど抗えずにハルは答える。
「一体、何なんですかッ、貴女はッ‼︎」
その反応も致し方無い。シーナの存在は本来、門外不出なのだから。
だが、纏う実力の氣から分かる。
彼女もまた––––埒外の化け物なのだと。
しかも、今のハルが相対してならない位の相手なのは、嫌でも理解出来た。
「シーナっていう使徒や……というか、それどころじゃないんやッ‼︎ アンタら、侵入者なんやな⁉︎ なら––––アレは何やッ⁉︎」
ビシッとシーナが指差す方向。そこにあるのは無色透明の結界––––の外近くにいる“異形”。蟲……蜈蚣や蝿の様な化物が密集している。
しかも、その大きさは––––小さくても5アージュ。最大でも25アージュ位は目測で有り得るだろう。
現実ではあり得ないサイズの化け物にラウラとフィー、ハルは唖然––––いや、ハルだけは、ただ単に表情に絶望を浮かべた。
何故ならば、あの異形の正体を知っているから。そして––––
「––––そういう事、だったんですね………」
––––合点がいった。
そう、最初から、この作戦は––––
「(私たち、《穏健派》を捨て駒にした掃討作戦………つまりは最初っから、勝ち目を見込んでいなかった訳)」
ここで、意味不明に成りがちなので補足を挟む。
シーナの居城を襲った三人は属する組織、《倶利伽羅ノ剣》には大きく分けて、二つの勢力が存在するのだ。
一つは三人が属している《穏健派》。
そして、二つ目が《穏健派》に対する《過激派》だ。
元々、この二つは分かれる事なく、一つの勢力として動いていたのだが––––先代頭領、
何方の勢力も、超常物質たる
《穏健派》が破壊に及ぶ理由は、世界の安定化を望むという純粋な先代の方針に沿われている。
が、《過激派》の方は––––世界征服などという馬鹿げた願いの為に、障害と成り得る古代遺物を壊そうという。
一つの組織という傘の下に、相反する二つの方針理念。それが巻き起こすのは、紛れも無い派閥抗争。
………まぁ、そんな当たり前の事実に対しても、《穏健派》の方は、その名の通り、やんわりとやり過ごしてきた。大きな騒ぎにならず、悪戯に被害を増やさない様に。
そして、両者のギスギスしていた雰囲気が若干、緩みかけていた時での、結社襲撃作戦の今回。《過激派》は最初から、決めていたのだ。
––––裏社会で大幅な覇権を握る結社と、自分らの理念に反する《穏健派》を同時に潰してしまおう、と。
と言っても、結社の規模は洒落にならない位のサイズ。少し位、痛手を負わせれれば御の字だろう。
だが、《穏健派》にとっては少しばかり違う。
まず、《倶利伽羅ノ剣》の構成員の絶対数は多いとは言い難いのだ。その上、《穏健派》自体の勢力の人数も、《過激派》に比べれば少し劣る。
そんな少数精鋭っぽい形の図になる奴らを嗾けるのに最適なのが、その中でも“強い”と称される奴を潰してしまう事だ。
そうすれば、《穏健派》にとっては大打撃。そこに《過激派》が付け入れば––––粗方は吸収出来る、という算段だろう。
そして、《穏健派》の中核とも言える実力者であるキョウ、シホ、ハルを闇に葬る為の死神が、あの異形。
だからこそ、合点がいったし、あの異形を操る奴も大方想像付く。
本当……憎たらしい奴らだ。わざわざ––––
「(刻印蟲––––破滅の因果を刻まれた蟲を用いてくるなんて……確かにアレならば、結界は有っても無い様なものですし……しかも、厄介なのが––––)」
––––キョウとシホだ。
あの二人は執行者を相手取る為に階段下部––––つまりは結界近くで戦っている。
執行者相手に消耗していない筈がないので、あの蟲たちに轢き殺される可能性も十二分にある。
完全に––––詰んでいた。前門の虎、後門の狼とは、まさしくこういう事なのだろう。
––––と絶望的な状況を精査する中、段上のシーナは叫びがてらに、話しかけて来た。
「アンタら––––あん気持ち悪い蟲らとは無縁……どころか敵、やねんな? サラッと絶望しとるし。––––なら、良えわ。ちぃと耳を傾けぇ」
「––––交渉、という事ですか?」
「まぁ、そう思うてくれて構わん。で、肝心な内容は––––和平や」
「………それはつまり、結社と《倶利伽羅ノ剣》が手を結ぶという事ですか?」
「あー………厳密に言えば違う。一時的な休戦と取ってくれて構わんよ。あん蟲はウチらに取っても、アンタらに取っても害でしか無いんやし………良え話やと思わんか?」
突然の休戦協定の申し込み。これにハルは一考する。
普通に考えれば、ここは了承するだろう。前門の虎さえいなくなれば、あの蟲だけに集中して、相手出来るのだから。
しかし、裏を返せば、それは《倶利伽羅ノ剣》を裏切る事になるのでは無いかとも思う。
例え、違う勢力とはいえ、一つの組織に変わりは無い。
なのに、対象である所と一時的とは言っても共闘関係を結ぶのは、ある意味で叛逆と同義。だから、即決出来ない。加え––––理由が分からない。
「………何故、貴方たちは休戦協定などを結ぼうと? 結社の本気となれば、私たち諸共にあの異形を片付けれる筈でしょう。なのに何故?」
「んな、分かりきった事聞くなや」
ハルの当たり前の疑問にシーナはヘラッと笑みを浮かべて、至極当然の様に答えた。
「––––そっちの方が面白そうやから。それじゃあ………ダメか?」