「提督が鎮守府に着任しました。これより艦隊の指揮を執ります。」
十七時二五分
まぁいつもどおりと言える時間に、私、暁型二番艦、響は姉妹達との相部屋を出て執務室へ向かった。
まだ決して広いとは言えない鎮守府の廊下を歩けば、誰かしらに出会う。え…えんかうんと、と言うのだったか。司令官が話してくれた事があった。そんな事を考えていると、見知った艦娘、金剛型三番艦の榛名さんに「えんかうんと」。
「こんにちは、響さん。今から秘書艦のお仕事ですか?」
「そうだね。多分すぐに演習に出ることになると思うけど。」
今日の演習はまだ行われていない。全体を通して練度の低いこの鎮守府で最も効率が良いのは演習だろう。しかもウチの司令官は艦娘の損傷に臆病な迄に敏感な人だ。
「では、準備をしておくように皆さんに伝えておきますね。」
榛名さんの気遣いにお礼を言って執務室へと足を速めた。
「司令官、作戦命令を。」
「第一艦隊の演習を行う。編成はいつもの攻略勢…いや、駆逐と軽巡をメインに練度を高めたいか。旗艦は響、あとは…暁、北上、五十鈴、夕立、時雨、だな。」
「了解」
「相手ウチとは格違いだ。勝敗は気にせず、学べるところを学んで来い。」
「了解。じゃあ、行ってくるね。」
「おう、頑張れよ。」
演習後、補給を受けてもう一度執務室へ向かう。
本日の予定の演習は全て行った、編成は全て同じだったので自分も含めて大きく練度が向上しただろう。しかし、演習の後はどうにも気分が晴れない。凄まじい練度の艦娘達、自分達では手も足もでない。それはまだいい。悔しくない訳ではないが、それは努力や経験の差だ。これから精進していけば追いつく事が出来るものだ。自分が、駆逐艦としての響が恐れているのは、あそこまでの力を持った艦娘達ですら深海棲艦の前に沈んでいくということ。それだけ強大な敵を前に自分は仲間を護れるのだろうか…。
「響ー、響ー。…あれ、大丈夫?」
そんな物思いは聞きなれた姉の声に跳ね飛ばされた。
暁型一番艦、暁。自分よりほんの少し後に着任した姉。頼りになる、とは言い難いものの自分や電、そしてまだ此処にはいない雷にとっては掛け替えのない姉。
「響は、今から実戦に出るんでしょ!しっかり目を覚ましておかないと危ないわよ!そうだ、暁ののどあめあげるわ!これですっきり、一人前のレディーよ!」
のどあめでレディーになれるというのは果たしてどうなのか、とも思ったがありがたく貰っておいた。自分も、暁もその方が嬉しいと分かっていたから。
「響、演習お疲れ。出撃いけるか?」
「補給はしっかり受けたし、大丈夫だよ。編成は?」
「そうだな、赤城、祥鳳、榛名、山城、神通。旗艦は響。これでいこう。あ、南西諸島防衛線な。」
「了解、第一艦隊、出撃するよ。」
「無理するなよ。突破することよりも損害を減らすことを重視するんだぞ。」
「分かっているよ。心配性なんだから。」
「じゃあ、頼むぞ!」
出撃前に鳳翔さんが見送りをしてくれる。これは何時ものことだ。自分より前から着任している鳳翔さんは、祥鳳さんや赤城さんの着任もあって前ほど忙しくなくなり、出撃する艦隊の見送りを日課にしている。それでも空母、軽空母が3人しかいないこの鎮守府では赤城さんや祥鳳さんの入渠時には出撃するし、十分な戦力だ。今日の夕飯は肉じゃがらしい。頑張らないと。
出撃…何度も挑戦している海域だ。敵の編成も大体は把握している。初めて来て空母が出た時は焦ったけど。赤城さんと祥鳳さんもいる。簡単に制空権を取らせはしない編成の筈だ。でも…今回は中々会敵しないな、なんて思っていると、資源だった。大した量ではないけど、折角の資源なのに「不幸だわ…」は酷いよ…。そんなネガティヴで、まだいないお姉さんの扶桑さんを探し回っている山城さんだけど、司令官にとっては初めての戦艦だった。なので練度もかなり高く、主力中の主力といってもいいだろう。
もう暫く進んだがまた資源。この分だと奥までいけるかもしれないな。そう思った時、祥鳳さんの偵察機から入電。敵影、確認、と。