何か違和感のある箇所がありましたら、ご報告いただけるとありがたいです。
「はや…処…」
「…から…出…と!」
真っ暗になった世界に、聞き覚えのあるような声が響く。私はどうしてしまったんだろう。何も分からないまま、意識は混濁の底へと呑みくだされていった。
「すまないな、祥鳳。」
「いえ…。響ちゃんが大破したのは私にも責任がありますから。」
秘書艦の仕事は思ったよりも大変だった。艦載機や空母の開発の為に働いたことは何度かあったが、秘書艦として務めるのは初めてで、きっと提督にも迷惑をかけているだろう。何も言わずに助けてくれた大淀さんに感謝しなければ。あの子はこんな仕事を毎日しているのか…。
「祥鳳、今日はここまでだ。休んでくれ。」
「提督…。」
ここまで、と言いつつも彼は眠れる様な顔はしていない。思い詰めた顔、自分の至らなさを感じている、とでも言える顔。彼に責任があるわけではないのに。単に運が悪かった、それだけの事なのに。だけど、それを言葉にしても良いことは何もない。それは分かる。そしてその事が祥鳳を最も悲しませた。
「提督も、ご無理をなさいませんよう。」
「今日はありがとう。おやすみ。」
…結局、この程度の事しか言えないんだ、私は。
病室に行くと、先客が二人。
電と…タオルケットに埋まっているのは暁か。
「司令官さん…。」
電が不安そうに声をかけてくるが、自分にも慰める余裕はない。
「暁ちゃんは、疲れたのか眠ってしまって…。取り敢えず毛布をかけておいたのですが…。」
少し覗いてみると眠りながら泣いている様だ。長女としての貫禄には欠ける暁だが、妹達を想う気持ちはきっと計り知れないほど大きいのだろう。
「電は…まだしばらくここにいるのか?」
「いえ…明石さんに、司令官さんが来たら代わってもらって休みなさい、と言われたのです…。司令官さん、響ちゃんのこと、お願いします…。」
「すまない…おやすみ、電。」
「司令官さんも、おやすみなさい。」
そう言って電は、暁を起こして出て行ってしまった。
透き通る様な銀髪の少女は、まだ目を覚まさない。
報告によると、最深部の一歩手前で戦闘になり、そこで重巡リ級の砲撃が直撃したとのことだ。彼女は駆逐艦、重巡の砲撃をまともに受ければ無事ではすまない、そんな事は分かっていた。ただ、彼女は遠征以外の戦闘ではこれまで殆ど損傷したことが無かった。それは提督である自分に、知らず知らずの内に慢心させていたのかもしれない。そう、彼女は、響は駆逐艦なんだ…。秘書艦としての責務、小さいとはいえ鎮守府の面子を背負う第一艦隊の旗艦。それらが彼女の負担になっていなかった筈はない。それなのに、それなのに自分は気づけず、彼女を大破させた。
「すまない…響…。」
「大丈夫だよ。私は。」
大分思いつめていたのだろう。司令官があんな顔をするのは珍しい。大方、今回私が大破した事にショックを受けて自分を責めているのだろう。…司令官が悪いわけがない。資源を回収していただけで損傷も疲労もない。彼処で戦闘に入るのは極自然、寧ろ入らないのはおかしいレベルだ。司令官は、戦闘に関しては殆ど指令は出せない。陣形を指示して、あとは私たち艦娘の判断で動く。
つまり、司令官が私が大破したことへの責任を感じる必要はない。悪いのは自分。索敵も完了、航空部隊によって制空権も確保できていた。山城さんの砲撃で敵空母は無力化されていた。残った駆逐艦や重巡は艦爆による攻撃と四人での艦砲射撃で始末すれば良い。状況としては完璧だったし、損耗も無かった。彼処で私が被弾しなければ、最深部の攻略も不可能ではなかったはずなのに。
どうして、当たってしまったんだ。
「取り敢えず、集中治療は終了、あとは風呂で大丈夫、と妖精さんたちが言っていた。治ったら今日は休んで。明日のヒトサンマルマルに執務室へ。それまでの秘書艦は別の者に頼むから。」
「私なら、大丈夫。仕事も朝からできるよ。」
「…残念だが、明日の午前は俺が鎮守府にいられないんだ。それに…ついさっきまで暁と電が此処に居たんだ。明日の午前はあの二人を安心させてやれ。帰ってきたら、話すこともあるからな。」
「…了解」
「じゃあ、早く休めよ。」
司令官は、そう言って去って行ってしまった。