GOD EATER 2 RB 〜荒ぶる神と人の意志〜 作:霧斗雨
ブラッドとシエルの苦悩。
「はてさて……参った、マジでどうしよう」
レイは1人、エレベーターの中で腕を組みながら考えていた。
シエルと打ち合わせをしないといけないので、どこに行ったのか探していると、職員にシエルは庭園に行った、と教えてもらったのである。
最近、どうも毎日庭園に行っているようで、職員は気に入ってもらえて何よりだと喜んでいた。
「このまま言っても喋ることがねえんだよなぁ……。なんかねぇかなぁ……」
うんうん悩んでいると、エレベーターが開いた。
「あら、こんにちは」
「へ?あ、ああ、どうも」
乗り込んできたのは、レアだった。
レイの反応を見て、クスクスと笑う。
「そういえば……ねえ、シエルの様子はどう?ブラッドに溶け込めているかしら?」
「……優秀な隊員ではありますよ」
どう返すか一瞬悩んだ挙句、出てきたのはこの一言だった。
その、溶け込めていないから今悩んでいるのである。
「ええ、それはわかっているんだけど」
レアが、少し考えるような仕草をして、ゆっくりと語り始めた。
「シエルは、もともとは裕福な軍閥の出身でね。両親が亡くなったのをきっかけに、ラケルに引き取られたの」
「……へぇ」
「「マグノリア=コンパス」で、シエルはとても過酷で、高度な軍事教育を施されていたようね……。極限のストレステストや、少しのミスで、懲罰房に入れられたりして……。しばらくして、彼女にあった時には、命令を忠実に実行する猟犬のような……そんな女の子になっていたの。その後、齢が近いことから、ジュリウスのボディーガードをずっと任されていたんだけど……守る、守られるの関係だったせいか2人は友達にはなれなかったみたいね」
ここまで聞いて、レアはレイの顔が嫌悪の表情を浮かべている事に気がついた。
「……正直な感想は言わないでおきましょう。なぜそれを俺に?」
さっきよりも数トーン低い声が響いた。
レアは、再びクスクスと笑う。
「フフ、シエルは貴方のこと、とても評価しているみたいよ?フライアに来てから、あの子……少しだけ肩の力が抜けたみたいね。貴方達、ブラッドの雰囲気がそうさせるのかしらね?ジュリウスも昔から比べると、ずっと接しやすくなったし……」
「……そうですか」
レイの顔に少しだけ驚きの表情が浮かんだ。
「シエルは、人との距離の取り方がとても不器用な子だけど、少しずつ変わろうとしているわ、良かったら仲良くしてあげてね」
「まぁ、チームメイトですからね。……なんとかしますよ」
レアが来た時よりも更に怪訝な顔をしながらレイは言った。
エレベーターが止まり、レアは笑顔でひらひらと手を振った。
「話に付き合ってくれて、ありがとう。またね」
「……ええ、また」
レアがいなくなった瞬間、レイは大きくため息をついた。
さっきの話を聞き、レイの中で「マグノリア=コンパス」の評価が一瞬で地に落ちた。
シエルに感じていた違和感は、ここに原因があったのだ。
エレベーターが再び止まり、レイは、ふう、ともう一度ため息をつくと、庭園に足を踏み入れる。
シエルは、ベンチに1人、俯いて座っていた。
「シエル」
「副隊長……」
レイの呼びかけに、シエルは少し顔を上げたが、すぐに俯いてしまった。
「……思ってること、言えよ」
「……これまでに習得してきた知識をもとに、最善の戦略を提案しているつもりです。それなのに……」
レイの位置からシエルの表情は読み取れなかったが、泣きそうな顔をしているような気がした。
どうしたらいいか、もうわからないといったような感じで。
「私が配属されて以降戦闘効率が落ち続けているんです。戦況に応じて臨機応変に対応すること……それが重要なのは……理解しているつもりです。しかし私は、いかなる不測な事態にも対処するために……上意下達を厳守するべきだと……」
後半、シエルの声は震えていた。
レイは、ポン、とシエルの方に手を置いた。
シエルが、顔を上げてレイの顔を見た。
「……ああ、間違っちゃいねえよ」
「……それだけでは足りない、ということですか?」
「あのな、お前が来るまで、俺達は好き勝手に戦っていたんだよ。難しい事考えないで、適当に。俺がそういうやつだから、余計なんだろうな……。俺にはうまく言えないが、お前も、もう1人で戦ってるわけじゃねぇぞ」
「もちろんです!だからこそ命令系統の構築が……」
シエルの曇った顔が、再び俯いて見えなくなる。
「仲間のことを考え……戦況に応じて協力して戦うことが大事だと……そういうことですか?」
「……お前がそう思うなら、それでいいさ」
「……わかりました。……修正し、努力しようと思います」
シエルは、俯いたまま、とぼとぼと庭園を出て行った。
レイも頭をバリバリと掻きながら、庭園を後にする。
ロビーに戻ると、いきなりロミオの怒鳴り声が聞こえた。
「だからそれが自分勝手だって言ってんだよ!」
「……どうした」
少しうんざりしながらそっちを見る。
案の定、いつもの様にギルとロミオが言い合っているようだったが、どうも普段とは違う感じだった。
ギルがレイに気付き、そちらを見た。
「ああ、ちょうどいい……。俺は俺の好きなようにやらせてもらうとジュリウスに進言してきたところだ。シエルの「戦術」を否定しないが「戦闘術」、現場の空気ってのもあってな。アイツの戦術は俺には合いそうにない」
「シエルだってがんばってんじゃん!」
「しょせん机上の空論だろ。お前だってやりづらいって言ってたじゃねえか」
「……っ」
「……お前ら」
レイは、何を言っていいかわからなくなってしまった。
「ねぇねぇ。レ……副隊長はシエルちゃんとよく話しているよね?」
ナナが、レイに声をかけた。
「シエルちゃんともっと仲よくなるためにはどうすればいいと思う?」
「ナナ……」
レイは、ナナの顔を見て、もう一度ロミオとギルに目をやった。
各自が、それぞれの視点からだが、ちゃんとシエルのことを見ているのだ。
だからこその、不和。
「……だー、もう!辞めた辞めた!慣れない事しようとした俺が馬鹿だった!おいお前ら、ちょっと付き合え!ミッション行くぞ!」
ーーーー
あの後、レイはシエルを呼びに行き、蒼氷の渓谷に向かった。
神機を構えながら、レイは指示を出す。
「っし、今回の指揮は俺がとる。討伐対象はシユウが1体とザイゴートが7体。フランから近くに中型の反応があると報告が来ている。その乱入に備え、敵の数を減らすためにザイゴートの闘争を優先、あとは臨機応変に。つまりは適当ってやつだ」
「って、中型は誰が担当するとなかいの?」
「とりあえず今回はナシだ。ギルもそれでいいな?」
ギルが、黙って頷く。
「それから今回、シエルは後方でのサポートってことで」
「ほんと!?じゃあ銃はシエルちゃんにおまかせ……っ」
ナナが笑顔を浮かべ嬉しそうに言った。
しかし、すぐに顔が強ばる。
「じゃなくて私もがんばる!」
シエルを気にしての言葉だ。
「いえ、ナナ、今日は好きなように動いてください」
この言葉に、レイ以外の3人が顔を見合わせた。
「皆さんのいつもの戦い方を見たいと私から副隊長に進言したんです。ですから、ロミオもギルもそのようにお願いします」
そういうシエルの視線は、3人から外れていた。
レイの方を、これでいいのかと心配そうに見ているのである。
レイは、微笑みながら頷いてやった。
「さて、質問はもう無いな?今日も全員で帰るぞ。作戦開始だ」
ーーーー
「おっらぁ!」
空中を浮遊しながら突っ込んでくるザイゴートに、ロミオとギルがバレットを乱射する。
それを、離れた位置からシエルが射撃でサポートしながら様子を観察した。
ギルはベテランなだけあって、銃の扱いにもなれている。ロミオはというと及第点でなおかつ協調性に課題がある。
ナナは、ふよふよと飛ぶザイゴートに、ハンマーを当てようと必死だが、空振りをしてばかりだ。
レイも、銃ではなくショートブレードで応戦しているが、ライジングエッジを確実にザイゴートに当てて落としている。
着地と同時にギルの横にかけより、レイは指示を出す。
「ギル、悪いがロミオの背後を頼む!」
「あ?」
ギルがロミオの方を見ると、ザイゴートにバレットが当たらずに苦戦しているところだった。
「フワフワ飛びやがってー!」
ムキになって撃ち続けるが、さっぱり当たらない。
その間に、1匹ロミオの後ろに回り込み、ビームを繰り出そうとしたので、咄嗟にギルが、槍で突き落とした。
「……サンキュ」
「後ろガラ空きなんだよお前」
「うっさい!とっととそいつら片すぞ!」
「足引っ張るなよ」
「おまえがな!」
再び言い争いながらも、2人はうまく連携を取る。
ふと、シエルが2人から目を離しナナを見てみると、相変わらずハンマーを振り回していた。
こちらも、さっぱり当たらず、苦戦を強いられている。
やはり、ナナは銃の強化訓練がいりそうだった。
「ナナ!ブーストしとけ!落としてやる!」
「アイアイサー!」
レイはナナの横を駆け抜け、ザイゴートの攻撃よりも早く飛びかかると、一撃で斬り落とした。
「やれ!」
「おりゃあ!」
そこにナナのブーストハンマーが炸裂する。
ぐしゃりとザイゴートが潰れ、動かなくなった。
「よっしゃ、ナイス」
「ありがと!どんどんいこー!」
「ナナ、せめてもちっと当ててくれ」
そう雑談をしながらも、レイはシエルの方をちらりと見た。
シエルは、銃を構えたままこちらをじっと見ており、何か思うところがあるようだった。
シユウの侵入をフランが告げ、レイを筆頭に全員が飛びかかる。
各々が、自分の好きなやり方で、好きなように。
それでも、あっという間に撃破してしまった。
『アラガミ、沈黙しました。本日の任務は終了です』
ーーーー
帰投した後、レイはシエルに庭園に呼び出された。
さっきの戦いで、思うところがあったのだろう。
できるだけ早く赴くと、シエルが既に待っていた。
「……副隊長、お忙しい中、お呼び立てしてすみません。ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるんです」
「いいぜ。どうだった」
レイがニヤリと笑うと、シエルはゆっくりと喋り始める。
「ブラッドは皆、正直私が考えていた以上の高い汎用性と戦闘能力を、兼ね備えた部隊です。更に驚いたのは、決して戦術理解度が高いわけでもなく規律正しく連係しているわけでもない点です」
「うん」
「私の理解度をはるかに超えて、ブラッドというチームは高度に有機的に機能している、それはおそらく……副隊長……きっと、貴方が皆を繋いでいるからなんです」
「うん……んん?」
なにか思いがけないことを言われたような気がした。
そんなこと、やっているつもりは微塵もないのだが。
「私は戸惑っています……正直、今まで蓄積してきた物を全て否定されている気分です。あ、誤解しないでください!嫌な気持ちではないんです……それどころか……何というか……ええと、どう説明すればいいのか……ううん……少々お待ちください……」
シエルがうんうん唸りながら何かを必死に考えているのを、レイは初めて見た。
その間、何も言わずに黙って待っててやる。
言いたいことが決まったのか、シエルがすっと顔を上げた。
「折り入って……お願いがあります」
「気持ちの説明は諦めたのな……。うん、何だ?」
「私と、友達になってください!」
思いがけぬ言葉に、レイは暫く呆然とした。
何を言われているのか飲み込むのに、少し時間を要した。
「……あの、どうでしょう?」
頭を下げたまま、シエルがレイの顔色を伺った。
「えーと……」
「そうですよね……すみません、昔から訓練ばかりで、あまり、こういうことに慣れていなくて……」
レイがどう答えようか悩んでいると、シエルがしょんぼりとした表情を浮かべた。
なんとなく、悪いことをしているような気分になる。
「……いいぜ、友達になろう」
レイは、苦笑しながら言った。
パッとシエルの顔が目に見えて明るくなる。
「ありがとう……ございます………憧れていたんです……仲間とか……信頼とか……命令じゃない……皆を思いやる関係性を……」
「そっか」
「あ……もう一つ……不躾なお願いがあるんですけど……」
「何?」
「あなたを呼ぶとき……「君」って呼んでいいですか……?」
「……ん?」
何故だか少し頬を赤く染めながら言われ、レイは再び呆然とした。
そんなレイを見て、シエルがすっと目を逸らす。
「あ、すみません……いきなり「君」って、呼ぶのは……いくら何でも、早すぎますよね……」
「早いのか!?いや、別に構いやしねぇよ。好きにしな」
再び、パッとシエルの顔が明るくなる。
とても、嬉しそうだった。
「ありがとう……君が……私にとっての、初めての……友達です……本当に……ありがとう……」
本当に、嬉しそうに言った。
レイは、微笑みながらシエルを見つめる。
シエルにとって、これを言い出すのがどれだけ勇気のいることだったのだろうか。
レイにはわからなかったが、シエルにとって、これは大きな1歩となったようだった。
「少しだけ、皆と仲良くなる……自信がついた気がします」
シエルさん頑張りました。
主人公と無事友達になれてよかったね!
いきなり、友達になってくれと言われた主人公はとても驚いていましたけども。
私だって驚きますけども。
その後、君って呼ばれ続けるんだぜ?
びっくりするでしょ。
私だってびっくりだよ。
そんな9話でした。
感想、お待ちしています。