前世の名を既に忘れ去りそうになるぐらいには、この世界に慣れ始めていた頃。私、クリス・ド・モットは5歳になっております。そして、今日は両親が見守る中、家庭教師アリシェール・ド・スフラマイエ先生に魔法の系統素養を調べて貰います。アリシェール先生はトリステインの魔法学園を卒業してより、トリステイン王立魔法研究所(アカデミー)に入り、かなり博識で優秀な方のようです。そして、美人さんです。
「それでは、クリス様。こちらの晶石をお手に」
そう言って、私に白く透明な石を渡す。その後、この石にそれぞれの属性のイメージをしながら魔力を込め、それによって発生する現象によって、各系統の素養を測るらしい。ただ、今回あまりよいとおもえない結果であったとしても、努力次第、研鑽を積む事によっては不適正だろうが、強力な魔法を唱える事が出来るとのこと。
「クリス様、まずはお父君とお母君の得意とされる水からイメージをしてみましょう。そして、魔力……精神をその石に集中させて下さい」
先月、コモン・マジックについて学んだ時に聞いた事を元にイメージ、それを魔力に伝播させる。『魔法とはイメージが大事であり、そのイメージを元に魔力を込めていくのです』、なるほど分かりやすい、そうクリスは思っていた。
水、それは大気中にも分子が構成材料として存在する。但し、この世界ではその考えはないようだが。とにかく、水を素直に頭に描く。温度によって変化する性質や水によって齎される恩恵や弊害。水を理解し、使役する者としての解析。それは、単なる水ではない。
「ぇ、え……おぅわ!」
と、考えながら魔力を込め続けていたら目の前に、巨大な水柱が天へと噴き出していた。それを、見ていたアリシェールとクリスの両親は驚きを隠せず、諸手を上げて喜んでいた。と、アリシェールが晶石をクリスから受け取り砕く。忽ちに、水柱が消えていく。
「クリス様は水系統の才能が大いにあるようですね。後々に、講釈をさせて頂きますが、続けて次の系統素養を測りましょう。土の素養を見てみましょう」
褒められ、顔が綻ぶが。そう、系統はこれだけではない。ただ、もう少し喜びを感じさせてくれても良いだろうに。
「土か、母上が得意とするもう一つの系統ですね」
そうです、とアリシェールが笑顔で頷く。クリスは足元に目を向ける、そこには大地がある。それはなくてはならない、人が生き物がその上で生活をしているからだ。そして、それは草木や花を育み、虫や動物がそれを食し、人もまたその恩恵を受ける。大地なくして、今の生命の発展はない。
思い浮かべるは、砂粒、石、岩、山岳。そして、この世界特有の魔法による動く岩人形(ゴーレム)。それは、戦う為のものだが錬金というものもある。土の系統は多彩である。でも、戦闘に使わないようなゴーレムがあっても良いかもしれないな?
「これは、珍しい。自動人形(アルヴィー)に形状が似ている小さくて可愛らしいゴーレムですね」
ゴーレムを素養試験で喚びだすのは、これまた才能がある事らしい。そして、精巧な人形のようなミニゴーレムを見て、自分以外の三人は感嘆していた。と、またアリシェールが石を砕き魔法を解除する。
その後、風と火も試したのだが水と土に比べると才能は平凡らしい。特に、火に関しては非才とのこと。自分としては、とにかく水と土の才能があると分かっただけで物凄く嬉しい。薬学研究や魔法の研究に関しては、火や風より水と土の方がしやすいだろうと前から思っていたからだ。これで、現代医学と魔法医学を掛け合わせた特効薬や治療薬、人を救うことが出来るだろう。前世と違って……。
「クリス様、カップが空いておられますが如何なさいますか?」
ソファに掛ける、私の横に立っていた白髪白髭の執事であるアルヴィン・クラウスが問いかけてくる。思案顔に疲れた表情でも出ていたのだろうか、まぁ喉は渇いてるし、もらう事としよう。この気遣いが執事たる所以なんだろうな。
そして、ハルケギニアの太陽も寝床へと入ろうとしているのか、空が朱色に染まり、もうすぐ夜の帳も落ちるだろう。
モット家の食堂では、父であるジュール・ド・モット。母であるロレーヌ・ド・モットと自分の三人が食事をしながら談笑していた。
「クリス、水と土に才があるのは母としてとても嬉しく思います。私の得意な系統の二つですから、ふふ」
母の二つ名は深土、水と土を得意としている。それが、息子である自分に受け継がれたようで、その喜びも一入なのだろう。父といえば。
「男性で水と土の才能があるメイジは、中々珍しい。片方であればそれなりに多くいるが、両方は少ない。故に、可愛い娘は多くよるだろうな、……羨ましけしからむ」
駄目な父であった。父の書斎から時折聞こえる女性の声には様々ある。幼そうな声から、妖艶な声。父は、この国で英雄ではないが色を好む男爵として名を広げていた。息子としては、困りものだった。そも、母は美人であり他に手を出す意味が見えない。そう、母に告げれば、そんな貴方がいるからもうあの人は放っておくとの事だった。いや、それはどうなのだろうか。
とかく、家族団欒と過ごす夕食はとても楽しかった。願わくは、この家族と共にずっと平穏無事に過ごせたら良いなと、クリスは色の違う二つの月を眺めながら思った。