クリス・ド・モットは豪華絢爛、煌びやかな会場の真ん中でワイングラスを手に持ちながら、様々な家名を背負う人、人、人に囲まれ、辟易としながら会話をしていた。今回ばかりは、自分が主役である為にこの扱いだが、他人の誕生日会など出ても端っこで食べ物と酒をひたすら煽ってやる。そう、クリスは心に決めたのだった。
「モット伯殿、御子息の八歳の御誕生日、誠におめでとう」
「こ、これはヴァリエール公爵様。我が愚息の為に足を運んでいただき、こちらこそ有り難き事にございます」
「よい、モット伯殿の子息が今宵の主役であり儂はただ祝いに来た、ただの客だ」
「しかし…ヴァリエール公爵様を無礼、無下には出来ますゆえ」
「ふむ、貴殿は普段の態度とは些か様子が違うの。いや、それともそちらが本当なのかね」
「何を思っておいでか存じ上げませんが、私は自他共に認める好色であり、真面目な人間なのですよ」
「つまりは両方が真実であると。それは、御夫人も御子息も困るであろうな、はっはっは」
「もう、愛想を尽かされておりますよ」
ヴァリエール公爵が笑い声を更に大きくし、ジュール・ド・モットは苦い顔をしていた。ヴァリエール家とモット家の子供はそれぞれ、囲まれるのが嫌だったり、疲れたりしたのか、テラスに腰をおろしていた。
「ねぇ、貴方が今日のメインである……」
「ルイズ、クリス・ド・モット殿よ」
桃色のブロンドを可憐に揺らしながら、一人は名前すら忘れていたか知らないらしいが声を掛けられたのは、勿論私か。二人とも端整な顔立ちをしている、然し見慣れたつもりではあったのが、髪が桃色だったりするのは中々違和感が拭えないものだが。
「如何にも。私がクリス・ド・モットでございます。ヴァリエール公爵様のご令嬢方」
名前を知らない故に、この言い方になってしまったのだが、やはりむっとしたのだろう。本当は、来場した時に名乗りを聞いているので知ってはいるのだが、本人から聞くほうが個人的には好きだ。我ながら、嫌な奴だとは思いつつ。
「その言い方は好きじゃないわ。……私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
胸を張りながらドヤ顔の様な顔でそう告げる。顔立ちの良い彼女がそうすると、とても素敵に見えた。
「もう、ルイズったら。私はカトレア・ボソシワーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します、宜しくお願いしますね、クリスさん」
そう、見たもの全てに安らぎを与えてくれるような笑顔でお願いされては断れまい、と何故か捻くれた事を考えていたが、口からは素直に此方こそ、と出た。
その後、ヴァリエール家の長女であるエレオノール嬢にも会うのだが、礼儀作法がなってないと多少怒られてしまったので、彼女の事を語るは割愛しようと思う。
パーティというのは、前世では経験した事がなく、今回が本当に初めてなのである。然し、ホテルで行われるようなパーティを予想していた身としては驚愕の一言に尽きるのかもしれない。規模が恐らくも確実に違う、人混み、人溜りなんてものではない、人が部屋に敷き詰められているようなもので、料理は見えないし、取れない。いや、料理を食べたいのに邪魔だ、と言っている訳ではないのだが、本当。
そして、料理を見てみれば普段、貴族の食卓に上るものよりさらに上物、見た事のないものばかりであった。母、ロレーヌが好きなハシバミ草のサラダは普通にあったが、いや普通ではなく大量にか。
豪華絢爛なパーティ会場ではあったが、貴族同士の会話は中々色が黒そうなものも、ちらほらとあった。私の魔法の素養を伺う者や、この国の政治を問う者。貴族同士の繋がりについて、熱弁を振るう者。何かしらの意図を感じざるを得ないものが多かった。
然し、パーティも終わってみれば、静かなものである。父はパーティの後、苦い表情をしていたが、その次の日に街で娘を掻っ攫い、ご満悦のようだった。ヴァリエール家の姉妹とは手紙でのやり取りをしている。ルイズとは同年代ゆえの話を、カトレアとは外の世界や物語のお話を。そして、エレオノールとは礼儀作法や言葉遣い、貴族としての嗜みの話をしている。カトレア曰く、それがエレオノールの優しさであり、愛情表現との事である。そして、カトレアは病か不明だが、なかなか外に出られないらしかった。
この世界に来て、最初の魔法薬学としての目標が出来た瞬間だった。魔法でも薬でも治らないという、その原因不明の病魔を治療し、完治させるという目標が。
カトレアがまだ、領地を貰ってない為にボソシワーヌとヴァリエールにしてあります。前者は変えなくても良いかは分かりませんです。