小国の水聖杖-白百合の騎士-   作:姉妹の兄で弟

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大変遅くなっております。
楽しみにして頂いていた方、申し訳ございません。
プロローグはこの編で終りとなります。


望郷、白百合の想い

星が輝き、二つ並んだ月がやんわりと窓辺を照らしている。月は身を細めており、悲しそうに映る。それは、私とお母様の心を汲んでいるかのように。

 

「父様……私は一体、どうしたらいいのでしょうか」

 

ぽつり、独りごちる。夜空も泣いているのかしら、時折星がすっと流れていく。悲しければ涙を流せばいい、それは父様の言葉だった。けれど、母様が私以上に沈み、両の足で立てないほど辛いのだ。私までもが心を闇の中に置いては、この国は……国民はどうして生きていけるのだろうか。

 

「彼はどうしているのかしら」

 

幼い頃の優しく美しい記憶の中の甘い約束、その時分は美しく甘美な夢を未来に見ていた。彼は、幼いながらにも大人びた雰囲気を持っていた、そして今魔法薬学なる分野に置いて才覚を発揮しているらしい。その、品物の評価は王宮に届いている程だった。瞳を閉じて、思い浮かべるのは彼の頬を染めながらも柔和に微笑んでいた表情。思い起こせば、一番の幸福な時間だったのかもしれない。

 

「ルイズ……私の一番のお友達」

 

ふと、彼と親しくしており自分とも親しい女の子の事を思い出す。宮廷によく遊びに来たあの子とはお菓子やおもちゃの取り合いなどした。けれど、そこに不快な気持ちなど一切なかった。負の感情などなく、お互いが素の表情でいられたからだろう。稽古が嫌だった、周囲の目が嫌だった、縛られている感覚が嫌だった。けれど、あの子と遊んだ時間にそんな感情はなかった。歳を思い出せば、一年後には彼女も彼もトリステイン魔法学園への入学を果たす歳だ。二年生時の春の使い魔召喚の儀、お披露目会には王族が観覧する予定がある。遅くとも彼らにはその時会える。そして、それまではせめて私が一人でこの国を背負い、引っ張って行かなければならない。

 

「お母様が喪にふくすと決めた以上、私が国の民を導いていかないと」

 

今、トリステインは密かにではあるが戦火に見舞われている。然し、トリステインは軍事国家ではないし、王宮の兵も多くはない。内政が余り上手く回っていない今、他国に攻め込まれなどしたら傾き、すぐにでも崩壊するだろう。友好国家のアルビオンもきな臭い噂を耳にすることが多い。何よりも早く、国内を統制し目に見える戦火に備えなければならない。痛みを負うのは、今は私達王族だけでいい……守りたい、この国を。

 

「だから、涙は流さない……泣いてしまえば、溢れて止まずに雨となってしまうから」

 

もしも、痛みを乗り越えて強くなれるのなら。夢に見た美しい未来へと歩んで行けるのならば。どうか、今だけは三日月よ…私に勇気を与えて。あの人と再び、微笑みを交わし合う日々を掴めるように。

 

「この腕に抱きたい、時を越えてでも。……いつかの安らぎを得るために、今は私が立ちましょう、そうですアンリエッタ……私しかいないのです。今、緩やかに崩壊へと向かっているこの国を希望ある未来へと導いていくのは」

 

月の明かりが、頬を照らした。薄らと、一筋の雫がその光を反射したが一瞬の事だった。あどけない表情をする幼き少女はそこにいなくなっていた、雲が隠した数瞬の間に凛とした表情で毅然と空を見据えた乙女がいた。手に持つは、国の象徴である白百合の花の紋様が入った水晶の杖。そして、口にするは誓いの言霊。

 

「私、アンリエッタ・ド・トリステインは王座に着き、この国を安寧へと導きます。例え、自信が傷つき苦しもうとも……この杖とラグドリアン湖で契った約束に誓って、必ず」

 

翌日より、トリステイン王国に新たな王が誕生した。その容姿は華のように美しく、立ち振る舞いは可憐で国民に希望を与えたのだった。斯くして、白百合の姫と未来の騎士の物語は、始まりを迎えた。




プロローグ最後は"クレッセントの祈り"というアンリエッタのキャラクターソングに寄せております。興味がある方はぜひ聴いて見て下さい。
それでは、次回より本編です。
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