乱世の拳雄   作:GRU

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第二節

実を言うと、ジャージというものに袖を通したのは帰国してからが初めてであった。

台湾にいた頃は、大概が拳法着で過ごしていた為、見たこと自体はあったものの着る機会には恵まれなかった。

帰国後、空港に降りた時点でどうも周囲から奇異の視線を感じてはいたが、いざ街へと出てみるとそれも納得できた。

特段派手ではない、寧ろ黒を基調とした地味な拳法着であったが、大陸所縁であるシルエットは明らかに周囲から浮いていた。

元々服装には無頓着なところがあり、髪型も手入れの手間がかからないからと坊主で通してきた。

生来の無精が祟って、顎には髭が幾らか伸びており、それがもみあげまで繋がっている。

加えて、年齢を言えば9割方は驚かれる程度には老け気味で、且つ曲がり角で出会い頭に顔を合わせた相手が思わず飛び退く程度には強面である。

 

そして、極めつけは眼帯である。

これで高校生だと言っても信じてくれる者は皆無であろう。

それどころか、堅気であるかすら怪しいレベルである。

 

流石にこれは不味い。

そう思った圏がまず目をつけたのが、制服と共に購入した駒王学園指定のジャージであった。

これならば、少なくともここ駒王町においては珍しくもなく、服装で注目を集めることはそうあるまい。

また、高校指定のジャージを身につけていれば、多少老けていようが高校生として認識されるであろう。

 

いかにも名案と思い、早速自宅にて着用してみたところ、これがなかなか良い。

ゆったりとした着心地と、伸縮性の高さからくる動き易さに一瞬で虜になってしまった。

以来、外出の際はほぼ常にジャージを着て歩いている。

 

さて、今日も今日とて、ジャージ姿でスーパーで買い物を済ませて来た帰りであるのだが。

目の前の光景をどう判断するべきか。

 

どうやら闘争の最中であるらしいことは分かる。

勝敗が一方に傾きつつあることも。

他人の勝負に介入するというのは趣味ではないのだが、そうも言っていられないようだ。

 

一方の手には剣が握られており、もう一方の背中には傷がある。

刃物を持った者による不意打ちの類いであろうことは想像に難くない。

それだけでも、尋常の勝負ではないということが理解できる。

 

加えて、双方から漂う妙な気配。

どうもただの人間では無さそうである。

警察を呼んでどうにかなるとは思えない。

ここで己が為すべきは何か。

 

「逃げて下さい!」

 

膝をついている――駒王学園の制服を着ている青年が叫ぶとほぼ同時。

もう一方――剣をもった青年がこちらへと斬りかかって来た。

明確な殺意に満ちた剣筋であり、その標的が自分であることは疑うべくもない。

 

成程。

単純に信じる訳にもいくまいが、どうやら当面の敵は分かった。

それでなくても、天下の往来で刃物を振り回す様な危険人物を放っておく訳にもいかない。

まだ分からない事も多い、と言うよりも分からない事だらけではあるが、宜しい。

 

取り敢えず、この男を黙らせよう。

 

幸い、スーパーの袋の中身は野菜等がメインで、割れものを心配する必要はない。

それを地面に置きつつ、攻撃に備えて構えを取る。

最近は型稽古しか出来ていなかったし、久し振りの実戦も悪くはないだろう。

 

ふと孟徳の言を思い出す。

確かに、この地には自身の運命を揺り動かそうとする力がある様だ。

唐突に訪れた非日常との遭遇。

恐らくここが今後の人生における分水嶺であり、同時に己が武の試金石ともなる。

些か思うところが無いでも無いが、それも今は良い。

 

思索に耽るのは、この場を治めてからだ。

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