真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、旅に出る

 

 

 

城を出た太公望は町中を歩いていた。

 

 

「雛里も無事に友人の下へ送り届けたし、ワシは旅を続けるとするかのぅ」

 

 

太公望はググッと体を伸ばすと欠伸をする。

 

 

 

そして城の方に振り返る。

 

 

「ワシとした事が……偉そうに説教してしまったのぅ」

 

 

太公望は先程、劉備に向けた言葉を思い出す。

それは自分自身と既に亡くなった友にも言えることだった為に自傷物だ。

 

 

「やれやれ、ワシも焼きが回ったか?」

 

 

頭をがりがりと掻きながら太公望は町を行く。

この町に離れる為に。

町の外れまで来た太公望は振り返ると町を眺める。

 

 

「良い町であったな。最初に来た町が此処で良かったわい」

「おや、もう行かれるのか?」

 

 

 

太公望は満足気に町から出ようとしたが呼び止められる。

 

 

 

「趙子龍、お主何故に此処に?」

「連れない方ですな。お見送りもさせて頂けぬとは」

 

 

クスクスと笑いながら太公望を呼び止めたのは趙子龍だった。

 

 

 

「雛里からも呂望殿を引き留めて欲しいと頼まれましてな。まったく罪なお方だ」

「雛里が?って、お主雛里の真名を?」

「はい、真名を授けさせていただきました。私の真名も雛里に預けてあります」

 

 

太公望の疑問にサラリと答える趙子龍。

 

 

「それに……私個人としても呂望殿に興味がありましてな」

「ワシにか?」

 

 

趙子龍は太公望を見る。

品定めをするかの様に。

 

 

「先程、劉備殿に話した語り、見事な物でした。あれで心を動かされぬ王などいませぬ。白蓮殿も劉備殿も感銘しておりましたぞ」

「ワシは思ったことを口にしたまで。大したことはしておらぬ」

 

 

趙子龍の試すような問い掛けに口を3にして明後日の方を見る太公望。

人を小馬鹿にした様な態度だが趙子龍は、やはり面白い方だと笑うと片膝を着いた。

 

 

「我が真名は『星』貴殿に預かって頂きたい」

「まだ会って間もない者に真名を預けても良いのか?」

 

 

太公望の問い掛けに趙子龍はニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

「私はこれでも見る目が有るつもりです。真名を授けるに値する人物かは直ぐに分かりました」

「やれやれ、買い被りじゃと思うのだがのう」

 

 

趙子龍の心底楽しそうに告げる言葉は太公望を僅かながらに呆れさせる。

 

 

「そんな事ありませんよ、師叔。星さんも師叔の仁成を見た上で真名を預けたいんだと思います」

「雛里?」

 

 

そんな中、太公望と趙子龍の前に現れたのは馬を連れた雛里だった。

 

 

「お願いします師叔!これからも私を旅に連れて行って下さい!」

 

 

噛まずに叫ぶ雛里に太公望は驚いた。

 

 

 

「雛里、友人と共に劉備に仕えるのではなかったのか?」

 

 

雛里が連れている馬の鞍には荷が積まれており、旅仕度は完璧な状態である。

 

 

「確かに当初は劉備さんに仕えるつもりでした……でも、師叔と過ごした数日で私は考えが改まってしまいました」

 

 

雛里は俯き、震える。

 

 

「師叔は人を民をみていました。しっかりと前を見て周囲に何があるのかを……私はそれを見て今までの自分の視野の狭さを知りました。私はまだまだ師叔の下で色々な事を学びたいんです!」

 

 

雛里は俯いていた顔を上げ真っ直ぐに太公望を見上げた。

 

 

 

「実はですな呂望殿。呂望殿が城から去った後、雛里が、呂望殿に着いて行きたいと言われたのだ。朱里は反対したが桃香様が良いと言われてな。路銀だけでは無く馬や旅に必要な道具まで揃えた始末なのですよ」

「そうか劉備が……」

 

 

趙子龍の説明に何処か納得した様子の太公望。

 

 

「雛里よ。ワシは旅の中で雛里にも話せない事や不可解な行動を取るやも知れぬ、それでもワシと共に来るか?」

「はい、師叔の旅の供をさせてください」

 

 

弱々しい瞳では無く決意を決めた雛里の瞳に太公望はハァと溜息を零す。

 

 

「ならば共に行くか雛里」

「はい、師叔!」

 

 

太公望の言葉に雛里は思わず太公望に抱き付く。

 

 

「おや、旅の前に女を落としてしまうとは罪なお方だ」

「あわわっ!?」

 

 

先程からやり取りの全てを見ていた趙子龍は太公望をからかい、雛里は顔を真っ赤にしながら素早く離れた。

 

 

「すまぬ、話の途中であったな」

「かまいませぬ。友の旅立ちならば私の話は後でも良かったのですが真名を預けさせて頂いてる最中でしたな」

「あわわっ!しゅ、しゅみましぇん!?」

 

 

先程までの雰囲気は何処へやら。

趙子龍はニヤニヤと笑い、雛里は噛みまくりながら謝罪をする。

 

 

 

「うむ。少々遠回りとなったがお主の真名を預からせて貰うぞ『星』」

「はい、確かに」

 

 

太公望の言葉に満足気に肯く趙子龍改め星。

 

 

「では、星よ。ワシも真名をお主に預けたいのだがワシの真名は事情があって今は教えられぬのだ」

「…………ふむ」

 

 

太公望の言葉を聞いた星は思案顔になる。

しかし即座にそれは笑みに変わる。

 

 

「本当に退屈をさせぬ方だ。これ以上旅の遅れを出す訳には行かぬ故、見送るが……」

 

 

星は言葉を句切ると笑みを浮かべる。

 

 

「いつかは私も呂望殿の旅の供をしたいものだ。その時には貴殿の事をもっと聞かせて貰いたいな。真名のことを含めて」

 

 

そう言って星は城へ戻っていく。

 

 

「師叔……良かったんですか?」

「うむ、『今は』真名を明かさぬだけよ」

 

 

雛里の問い掛けに太公望は笑みで返す。

 

 

「行くぞ雛里。ワシが次に目指すは陳留だ」

「はい、師叔!」

 

 

太公望から差し出された手を握る雛里。

 

次に二人が目指すの町の名は『陳留』

 

後の魏を建国する曹操が治める町である。


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