真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、曹操と出会う

 

 

 

陳留の街に着いた太公望と雛里。

馬を預け、街を散策していた。

 

 

「幽州啄郡とは違って活気があるのう」

「曹操様が治める地ですから賑わいもありますし、商人達からの評判も良い街です」

 

 

街を眺めながら散策を続ける太公望と雛里。

そんな中、太公望の目にある物が止まる。

 

 

 

「姉ちゃん、この籠ひとつおくれや」

「…まいど」

 

 

籠が一つ売れた事に安心する凪。

しかし、売れ行きは良くはないらしく少し暗い表情になってしまう。

 

 

「いけない、いけない……それでも籠を売らないと」

 

 

凪は頭を振り、パシンと手で両頬を張って気持ちを切り替える。

 

 

「竹籠いかがですかー! 丈夫で長持ちする籠ー!」

 

 

凪は恥ずかしいと思いながらも大きな声を出して客引きをする。

しかし道行く人達は凪の籠を見ずに通り過ぎていく。

 

 

「籠いかがですかー……ん?」

 

 

客引きをしていると、道を歩いている一組に男女に凪の目が止まった。

ここら辺では見ない服装の青年にトンガリ帽子を被った小柄な少女。

 

 

「兄妹……かな?」

 

 

凪は思ったことをポツリと零す。

見た目は仲の良い兄妹の様にも見える二人組。

 

 

「ちょっと見せてもらうぞ」

「はい、いらっしゃいませ」

 

 

凪は思考に沈んでいたが客が来たために意識を戻す。

客は女性で服は青で統一されおり、髑髏の肩当をしている。

女性はカゴを手に取って見ていた。

 

 

「…………………………」

 

 

かなり真剣に見ている。

 

 

「…………良いものだな。このカゴは」

「…どれも入魂の逸品です」

「……そうか」

「はい」

「…………………………」

 

 

短い会話に長い沈黙。

籠を売っている場なのに妙な緊張感が流れていた。

 

 

 

「ワシも籠を見ても良いか?」

「え、あ、はい。どうぞ」

 

 

凪が頭を上げれば先程の青年と少女。

太公望と雛里が籠を見ていた。

 

 

「籠を買うんですか師叔?」

「うむ、中々の一品に見えるからのぅ」

「恐縮です」

 

 

先程の女性や太公望に褒められ、嬉しそうな気持ちになる凪。

 

 

その時だった。

 

 

 

「泥棒-!」

「「「っ!?」」」

 

 

 

街中に響く悲鳴にその場に居た者が反応する。

悲鳴の聞こえた方角から鞄の様な物を抱えた男が女性に追われている。

男の方が女性からひったくりをした様だ。

 

 

 

「泥棒だと……」

「ふ、私の前で運が無い奴だ」

 

 

凪は拳に気を込めて握り、女性は弓矢を構える。

 

 

「待て待て、お主達の獲物で直接狙ったのでは周囲に被害が出る」

 

 

そこで太公望が待ったを掛けた。

 

 

「しかし、このままでは逃がしてしまいます!」

「安心するがよい。お主、矢であの屋根を狙えるか?」

 

 

太公望に反論しようとする凪に対し太公望は落ち着いた様子で女性に話しかける。

 

 

「ああ、狙えるが……屋根を狙ってどうなるんだ?」

「撃ってみれば分かる」

 

 

ニョホホと何故か縫いぐるみのような姿で笑う太公望。

雛里は目の錯覚かと目をパチパチと瞬きを繰り返していた。

 

 

「訳が分からんが……ふっ!」

 

 

 

女性は太公望の発言やディフォルメされた姿を問いただそうとしたが一先ず、泥棒を捕まえるために矢を射る。

矢は泥棒を追い越し、太公望が指定した屋根に当たる。

 

 

「へっ……驚かせっやがー!?」

 

 

すると屋根の上から木の板が流れ落ちて泥棒に直撃した。

 

 

「なんと……」

「凄い……」

 

 

弓を射った女性は結果に驚き、凪は感嘆の声を上げた。

 

 

「師叔、どうして屋根を狙ったんですか?」

「先程、見たときに屋根の木板が外れかけておったからの。利用させてもらったわ」

 

 

雛里の問いにニョホホと笑う太公望。

 

 

 

太公望は街中を見る中で気になった所を覚えていた。

そして泥棒が逃げた方角を見て即座に対処を組み立てたのだった。

 

 

「中々の手並みね。見事だわ」

「そのようですね華琳様」

 

 

泥棒が連行されていくのを見ながら太公望に話し掛けたのは金髪で髪をツインテールにしている少女と長い黒髪に赤い服を纏う女性だった。

 

 

「華琳様、姉者!」

 

 

その二人にすぐに気付いたのは矢を射った女性だった。

華琳と呼ばれた少女こそ、この街を治める曹操である。

 

 

「街に視察に来て面白い物が見れたわね。アナタ、名は?」

「自分から名を名乗れぬ奴に名乗る気は無いのぅ」

 

 

華琳と呼ばれた少女が太公望に名を聞くが太公望はそれを一蹴した。

 

 

「貴様、華琳様になんて口の利き方だ!」

「止めなさい春蘭」

 

 

太公望に食って掛かろうとした春蘭と呼ばれた女性は華琳の一声で動きを止めるが春蘭が構えた大剣は太公望の鼻先で止まっていた。

 

 

「こんな剣を突きつけられては適わぬのぅ、名乗るとするか」

 

 

太公望は鼻先に突き付けられた大剣を指先で逸らすと名乗ると宣言した。

 

 

「ワシの名は秘湯混浴刑事エバラと言う」

 

 

何故か真面目な表情で告げる太公望。

 

 

「そうか。秘湯混浴刑事エバラです華琳様!」

「そんな訳ないでしょ……」

 

 

何故か太公望の偽名を信じた春蘭は嬉々と華琳に告げるが華琳は呆れた様子で溜息を吐く

太公望は爆笑しており、雛里と凪は笑いを堪えてプルプルと震えていた。


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