真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、泥酔拳を披露する

 

 

 

 

「華琳様の命だ!死ねぇ!!」

「ぬおおおおおっ!?」

 

 

大剣を構えた春蘭は迷わず太公望に斬り掛かり、太公望は間一髪、大剣を避ける。

 

 

「危ないではないか、たわけ!」

「華琳様の命だ大人しく斬られろ!」

「『殺せ』とは言ってなかろうが!」

 

 

口論をしながら斬り掛かる春蘭に反論しながら大剣を避け続ける太公望。

 

 

「華琳様……」

「何、秋蘭?」

 

 

太公望と春蘭のやり取りを見ていた華琳に話し掛ける秋蘭。

華琳は視線を逸らさずに太公望達を見ていた。

 

 

 

「何故、姉者を仕掛けさせたのですか?呂望は象棋で桂花に勝ったのですよ?武と文では……」

「答えは単純よ。呂望の器を見る為よ」

 

 

 

華琳が太公望へ向ける眼差しは真剣そのものだった。

 

 

「先程、泥棒を捕まえた時の手並み。そして桂花に象棋で勝つ腕前……今も春蘭の剣を完璧に避けてるわ」

 

 

華琳の言葉に秋蘭も桂花も顔を見上げ、二人の攻防を見る。

太公望は情けない声を上げながらも器用にも迫る大剣を避けていた。

太公望の体を見る限り、一太刀も当たっていないのは明らかだ。

 

 

「最初はただの興味本位だったわ。でも桂花との勝負で見せた軍師としての才、そして春蘭の剣を見切れる武……彼の……呂望の器の底が見えないわ」

 

 

華琳の言葉に秋蘭も桂花も漸く気づいた。

自分達の主がは普段とは違った行動をしたのも、この為なのだと。

 

 

「ねえ、鳳士元」

「は……はい」

 

 

華琳は太公望を心配するあまり、涙を目の端に溜めて震える雛里に話し掛ける。

因みに震える雛里を見て『可愛いじゃない』と自身の唇を舐めたのは華琳本人しか知らないことである。

 

 

「貴女が師叔と呼ぶ者を危険に晒している事は謝るわ………でも聞かせてくれないかしら。呂望は何者なの?」

「あ……え……っと……」

 

 

華琳の問い掛けに雛里は返答に困る。

 

 

「桂花を凌ぐ軍略、春蘭の剣を見切れる武。あれ程の才の持ち主が今まで無名だったと言う方が不思議だわ」

「あ……うー……」

 

 

 

華琳の重ねる言葉にどう答えるべきか雛里は頭を捻るが答えが出ない。

 

『彼はある使命を帯びてこの世界へ来た太公望様です』等と言えるはずもなく雛里は慌てるばかりだ。

 

 

「ええい、ちょろちょろと逃げおって!マトモに勝負が出来んのか!?」

「たわけ、素手相手に大剣を振りかざす奴に戦いなど挑めるか。そもそもワシはこの勝負を受けた気なぞないわ」

「ぐぬっ」

 

 

春蘭は太公望を腑抜けと叫ぶが太公望の反論に言葉を詰まらせる。

 

 

「ならば……」

 

 

春蘭は大剣を地面に刺すと指をポキポキと鳴らす。

 

 

「これで互いに素手だ。これならば文句は有るまい?」

「そうではなく、ワシは戦う気は無いと言っておろうが-!」

 

 

若干キレ気味の太公望だが春蘭が迫ってきた為に再び始まる鬼ごっこ。

 

 

「それでも避け続けるのね」

「しかも一撃の反撃もしてませんね」

 

 

鬼ごっこを見ながら呟く華琳と秋蘭。

しかし事態は動き出す。

 

 

「此処までしつこいとはのう」

「貴様が勝負せぬから終わらんのだ!」

 

 

呆れ気味の太公望にやる気満々の春蘭。

 

 

「仕方ない、ならば終わらせるとするか」

 

 

このままでは終わらないと判断した太公望は懐から有る物を取り出す。

 

 

「なんだソレは?」

「フフフッ……これぞワシ秘伝のアイテム『仙桃』だ」

 

 

バーンと効果音が出そうだが見た目は普通の桃に『仙』と書いただけに見える。

 

 

「ソレが何だと言うのだ?」

「判らぬなら教えてやろう……この仙桃を食うのだ!」

 

 

モリモリと仙桃を食べる太公望。

その光景に全員が呆気に取られる、しかし太公望には直ぐに変化が訪れる。

 

 

 

「うぃ~……ヒック……」

「………酔ってる?」

 

 

太公望の様子から酔っぱらいになったと見た華琳。

しかし変わった桃を食べただけで酔っぱらうとはどうした事だろうか?

 

 

「仙桃には酒と同じ成分が入っておるのだ。故に食べただけで酔えるのだ」

「それがなんだ!」

 

 

フラフラと左右に揺れながら説明する太公望に春蘭は襲い掛かる。

 

 

「よっ、はっ、ほっ」

「な、当たらない!?」

 

 

先程とは違い余裕を持って避ける太公望。

 

 

「ホイッと」

「がぐっ!?」

 

 

太公望は拳を繰り出す春蘭をスルリと躱すと擦れ違い様に裏拳を肩に当てる。

 

 

「ほれ、足下がお留守だ」

「なっ!?」

 

 

パシッと春蘭の足を祓う太公望。

更に太公望は倒れた春蘭の上に飛び、肘鉄を腹部に叩き込む。

そして春蘭から距離を取ると器用にゴロ寝しながらジャリッとその場に回転する。

 

 

 

「す、凄いです師叔……」

「嘘でしょ……馬鹿だけど春蘭はこの国の最強の武人なのよ……」

 

 

太公望の意外な強さに驚く雛里に、魏の大剣が素手とは言えど一方的に劣勢に立たされている事に驚愕する桂花。

 

 

「き、貴様……卑怯だぞ。面妖な事をしおって……」

「泥酔拳は立派な技。お主が弱いだけであろう」

 

 

痛む腹部を押さえながら太公望を指差す春蘭。

しかし太公望から一蹴されてしまう。

 

 

「其処までよ、春蘭」

「か、華琳様!?」

 

 

再び太公望に挑もうとした春蘭だが華琳に止められる。

 

 

「カカカッワシの実力を図るために部下を嗾けて止めるか」

「気付いていたの?やっぱり只者じゃ無いわね」

 

 

仙桃をモシャモシャと食べる太公望は意地の悪い笑みを浮かべながら華琳に問い掛け、華琳は太公望が自身の力量を測ろうとしていた目論見を悟られている事に驚愕するのだった

 

 

 


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