真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、本を預ける

 

話を終えた太公望と華琳は城壁から街を眺めていた。

 

 

「ねぇ、呂望……私に仕えなさい」

「うむ、断る」

 

 

華琳からの誘いを即座に断った太公望。

 

 

「 迷い無しね」

「ワシはやるべき事がある。それを捜すために今は旅をせねばならぬのだ」

 

 

そう語る太公望の目には迷いが無かった。

 

 

「そう……なら、それが終われば私に仕えてくれるのかしら?」

「さぁのう……その頃には既に何処かの国に仕えてるかもしれぬのう」

 

 

ニョホホっと笑うディフォルメ太公望。

 

 

「いいわ、敵となるならこれ以上の強敵はいないし、味方なら尚好ましいわ」

「お主から見ればどちらでも良いと言うことか。だがワシは面倒は好まぬ」

 

 

華琳の発言に太公望は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

「では、ワシや雛里はここいらで帰らせて貰うぞ。っと忘れておった」

 

 

太公望は帰ろうと華琳に背を向けたが何か思いだし、歩みを止める。

 

 

「これを荀彧に渡してやってくれぬか」

 

 

太公望が懐から取り出したのは一冊の本。

 

 

「何よコレ……『悪の戦争教本』?」

「コレはワシが書いた戦術書だ。軍師のあやつなら読めるであろうよ」

 

 

そう言い残すと太公望は今度こそ華琳の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

◇◆街の外◇◆

 

 

 

 

 

街の外で待ち合わせをしていた太公望と雛里は合流し、次の街を目指すと決めていた。

そして、その合流場所でもめ事が起きていた。

 

 

 

「お願いします!あの方に会わせて下さい!」

「あ、あわわわ……」

「ちょ、凪!落ち着きーや」

「凪ちゃん、熱心なのー」

 

 

太公望が目撃したのは先程の籠売りに詰め寄られ慌てる雛里と籠売りを宥めようとしている二人の少女だった。

 

 

 

 

 

 

◇◆城◇◆

 

 

 

 

「では華琳様、呂望は我が軍には……」

「ええ、入らないそうよ」

 

 

城の一室では華琳、春蘭、秋蘭、桂花が呂望について話をしていた。

 

 

「アレ程の才の持ち主が入れば心強かったのですが……」

「私もそう思ったけど、あの目を見る限り無理に引き留めても無駄になるわ」

 

 

秋蘭の言葉に同意する華琳。

 

 

「ふん、あんな奴……次に戦う時には私が勝つ!」

「期待しているわ」

 

 

打倒太公望に燃える春蘭に華琳は『また空振りに終わる気がする』と思いながらも期待すると告げた。

 

 

「………華琳様」

「何、桂花?」

 

 

そこで今までで静かに本を読んでいた桂花が華琳の名を呼ぶ。

 

 

「少し……よろしいでしょうか?」

「………わかったわ。春蘭、秋蘭、視察の報告書と呂望に付いて纏めた物を書いたら私の所に持ってきなさい」

 

 

華琳の言葉に春蘭と秋蘭は畏まりましたと部屋を退室していく。

 

 

「で、桂花。なんの話なの?」

「はい、この本についてです。華琳様はこの本をお読みになられましたか?」

 

 

桂花は読んでいた本を華琳に見せる。

それは先程、太公望から貰った『悪の戦争教本』であった。

 

 

「いえ、まだよ。呂望がアナタにと渡した本なのよ。私が読むとしたら桂花の後よ」

「そうですか……」

 

 

太公望が桂花の為にと預かった本なので華琳はまだ読んでいなかった。

 

 

「では華琳様………六韜をご存じですか?」

「知ってるわよ。かの太公望が書いた有名な戦術書でしょう?」

 

 

『六韜』(りくとう)は、中国の代表的な兵法書で太公望が周の文王・武王に兵学を指南する為に書いたとされている戦術書を示す

 

 

「華琳様……私は以前、写本でしたが六韜の一部を読んだことがあります。それから察するに……この本は六韜と同様………いえ、六韜の元になった本と推測されます」

 

 

桂花の言葉に華琳は目を見開いて声も出さずに驚愕していた。

 

 

「桂花」

「はっ」

 

 

真面目な雰囲気で名を呼ぶ華琳に桂花は片膝を付く。

 

 

「この事を他の誰にも話すことを禁ずるわ。それと、その本を読み終えたら私にも貸してちょうだい」

「御意!」

 

 

桂花は頭を上げずに返事を返す。

 

 

 

「ますます気に入ったわ呂望……アナタを絶対、私の物にしてみせる」

 

 

華琳は窓から空を見上げながら、そう呟いた


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