真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、釣りをする

 

気まずい空気のまま呉の建業に到着した太公望一行。

太公望は建業に到着すると同時に凪と雛里にある使命を言い渡す。

 

 

「私と楽進さんで買い物……ですか?」

「うむ、そして街を見て後ほどワシに報告してくれ」

 

 

太公望が凪と雛里に言い渡したのは買い物と街の市場を見ることだった。これは太公望なりに二人が早く仲良くなれるようにと気を遣った為である。

 

 

「お師匠様は如何するのですか?」

「ワシはワシで、やる事がある」

 

 

太公望を『お師匠様』と呼ぶ凪。凪が旅に加わった際にそう呼ぶと決めていた事であり、太公望は其処でまた武吉のことを思い出すのだった。

 

 

こうして太公望と凪&雛里は別行動をする事になる。

凪と雛里は街へ、太公望は街の外へと歩みを進めるのだった。

 

 

「やれやれ、年頃の娘は扱いが難しいのう」

 

 

そう愚痴を零す太公望、その姿は年頃の孫との関係に困る祖父そのものである。

文句を言いながらも街の外へ出た太公望は目的地が決まっていたのかスタスタと迷い無く歩き続ける。

そして人目が着かない場所まで移動した太公望はフワリと体を宙に浮かせると目視できる距離にある森へと飛んで行った。

 

「おお、やはり有ったか」

 

 

太公望は目的の物を見つけるとニヤリと笑みを浮かべ、地に降り立つ。

 

「やはり・・・見知らぬ土地であろうと何だろうと、まずやるべきことに変わりはないのう」

 

太公望は笑みを浮かべ言いながら、打神鞭を取り出すと先端に糸を着け、その先には針を備える。

川辺の岩に腰を落ち着けると、打神鞭をヒュンと鳴らしながら川へと糸を垂らす。

「ようやく……一息つけるのう」

 

 

太公望はサラサラと流れる川の音やざわつく森の音を聞きながら瞳を閉じた。

太公望は無類の釣り好きであると同時に自身の心を落ち着けたい時や考え事をしたいときも、よく釣りをしていた。

 

 

「この世界に来てから……本当に色々と思い出すのう……」

 

 

周りの景色は太公望がある王と出会った場所を思い出させていた。

 

 

 

『釣れますかな?』

『見てろよ太公望!俺の方がデカい魚を釣ってやる!』

 

 

太公望と共に新たな国を作ろうとした王と父の意思を引き継ぎ殷を滅ぼし国を勝利に導いた王を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

此処で少々時間を巻き戻し、とある女性の話をしよう。

 

 

 

「退屈ぅ……」

 

彼女は部屋にある机に、だらけた様子で顔を押し付けている。

彼女の目の前にあるのは、山のような書簡。自由を愛する彼女からしてみれば自由を奪う憎い輩だ。

 

 

「私にはこういう仕事向いてないのよねぇ……」

 

 

彼女は、その山のような書簡から目をそらし、ゆっくりと立ち上がると部屋の窓を開け放った。

窓の外に広がるのは雲ひとつない、気持ちの良い晴れ渡った空。

 

 

「うん……決めた」

彼女はそんな空を見つめ、あることを決めた。

「……ゴメンね」

 

彼女は書簡に一声掛ける。謝るのは書簡にではなく、この部屋に来る彼女が終わらせた書簡を取りに来る幼馴染みの女性にだろう。

後が怖い気もするが彼女は『ま、いっか』とその事を頭の中から消し去る。

 

 

「なーんか今日は外に行く方が良い事が起きそうな気がするのよねぇ。気分転換、気分転換!」

 

 

こうして彼女は机の上に積み上げられた書簡をほっぽり出し、その開け放たれた窓から外へと飛び出していった。

 

 

自慢の桃色の髪を、風に揺らしながら街の近くにある森へと向かうのだった。


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