真・恋姫†演義~舞い降りる賢君~   作:残月

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太公望、炎の男爵となる

 

 

 

 

◇◆建業◇◆

 

 

時間は少々戻り、太公望と別れた雛里と凪は太公望に言い付けられた買い物と宿探しをしていた。

しかし妙な空気と無言の時間だけが過ぎていくばかりだった。

 

 

(ど、どうしよう!?楽進さんと仲良くしないといけないのに、さっきの態度から急に変えると怪しいし……あわわっ!)

 

 

雛里は冷静になった頭で考えパニックになっていた。確かに太公望との二人きりの旅は終わったが太公望と旅を続ける事自体は続く。その仲間となった凪に邪険な態度を取ってしまった事と太公望に膨れっ面を見せてしまった事の二つが雛里の脳裏に何度も再生され、頭は冷えたが冷静な思考は戻っていなかった。

 

 

(うう……なんて話題を振れば良いんだ?お師匠様の旅に着いてく事になったのに士元さんの機嫌を損ねてしまった……思えば士元さんは先にお師匠様の旅に同行してたんだから私は邪魔をしてしまったのか!?)

 

 

対する凪も人付き合いの下手さから雛里になんと声を掛ければ良いかを悩み、私は二人の旅の邪魔をしてしまったのかと思考が別の方向にシフトしていた。

しかし、このままではいけないと意を決して二人は声を掛けようとする。

 

 

「「あ、あの……」」

 

 

二人同時に同じタイミングで声を掛けたため再び気まずくなる。しかし凪は慌てる雛里に頭を下げた。

 

 

「すいませんでした。私、お師匠様の弟子になれた事に浮かれて士元さんの気持ちを考えてませんでした」

「あわわっ!?頭を上げて下さい!私も……私も……子供みたいに拗ねちゃって……」

 

 

必死に頭を下げる凪に涙目になりながら弁明する雛里。

そして頭を上げると二人は同時にクスリと笑ってしまう。

 

 

「なんだか……謝ってばかりですね」

「本当ですね」

 

 

雛里と凪の間にあった気まずい雰囲気は多少は緩和されていた。そして仲を深めるためにと話をしようとした雛里と凪の耳に悲鳴が届く。

 

 

「ご、強盗だー!?」

 

 

悲鳴を聞いた凪は迷わず駆け出し、雛里は慌てながらも後を追った。

 

 

 

 

 

一方の太公望は建業に戻ってきていた。雪蓮と共に。

釣りをして考え事をと思っていたが雪蓮に絡まれ、考え事をする状態では無いと思い釣りを中断して街に戻る羽目になったのだ。

 

 

「もー望ちゃんったら」

「お主、馴れ馴れしいのう」

 

 

雪蓮は雪蓮で素っ気ない太公望に業を煮やしていた。太公望からしてみれば会ったばかりで真名を預けるわ、昔からの友人のように接する雪蓮に戸惑っていたのだが雪蓮は何処吹く風である。

 

 

「ぶーぶー、私は望ちゃんの事、もっと知りたいのにー」

「子供か、お主は」

 

 

不満を口にする雪蓮に太公望は子供の相手をしている気分になっていた。

 

 

「もう、『お主』じゃなくて真名で呼んでよ」

「会って数分で託された真名を呼べと?」

 

 

無茶苦茶な奴だと思った、その時だった。

 

 

 

「ご、強盗だー!?」

 

 

街中から悲鳴が聞こえた。

 

 

「どの街でも当たり前の様に野盗が現れるのう……ってオイッ!?」

 

 

太公望の呟き掻き消される様に雪蓮は悲鳴が聞こえた方へ走り出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

悲鳴が聞こえた場所に着いた太公望と雪蓮だが現場は騒然としていた。

逃げらず街の兵士に囲まれている野盗二人が老夫婦に剣を突き付けていたのだ。街の兵士も人質が居る以上迂闊な行動が出来ず、緊張状態が続いていたのだ。

 

 

「アイツ等……私の街で良い度胸じゃない……」

 

 

太公望がその声に振り向くと雪蓮が自身の刀を引き抜き、今にも野盗に斬り掛かりに行きそうな雰囲気だった。

 

 

「やめよ。今、出て行けば老夫婦に被害が及ぶかもしれぬ」

「此処は私の国よ。其処で勝手な真似をする奴等はどうなるか教えてやらなきゃならないわ」

 

 

太公望の制止を無視してギラリと野盗を睨む雪蓮。

その時だった。

 

 

「師叔、師叔……」

「ぬ?おおっ雛里か」

 

 

太公望の袖を引き、雛里が小声で太公望を呼ぶ。人混みに紛れて太公望にコッソリと近付いた様だ。

 

 

「楽進さんも近くに潜んでます。後は野盗の気を引ければ……」

「其処まで準備万端であったか。よくやった雛里」

「あ、あわ……」

 

 

雛里の言葉に太公望は満足したのか笑みを浮かべ、雛里の頭を撫で、雛里は嬉しそうにしながら頬を染めた。

 

 

「何、悪巧み?」

「うむ、被害を出さずに奴等を捕らえるのだ」

 

 

話に興味がいったのか雪蓮が会話に加わろうとする。太公望はケケケッと、あくどい笑みを浮かべると打神鞭を取り出し人混みの中から先頭に出た。

 

 

「な、なんだテメェは!?」

「ふ……ワシもここ暫く大人しくしておったからからのぅ……この打神鞭も活躍を望んでおる」

 

 

野盗は現れた太公望を警戒するが太公望は打神鞭を構えるとクワッと表情を変えた。

 

 

「轟け天!沸き上がれマグマ!炎の男爵、呂望参る!!」

 

 

太公望はワーハッハッハッと高らかに笑いながら野盗へと走り出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「師叔が壊れちゃいました……」

 

 

呆然とした雛里の呟きは街の人達の声に掻き消されたとか。


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